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・丹沢の鍋割山と雨山峠の間に「茅ノ木棚沢ノ頭」と「鉄砲沢ノ頭」と呼ばれている2つのピークがあるが、どちらがどちらなのか。
・ヤマレコの地図では東(1108m)が「茅ノ木棚沢ノ頭」で西(1050m)が「鉄砲沢ノ頭」、YAMAPの地図ではその逆。
・実際に歩くと西のピークに「茅ノ木棚沢ノ頭」の道標があるが、これは違うという説もあるようだ。
・そもそも鉄砲沢は鍋割山に突き上げているので、「鉄砲沢ノ頭」とは「鍋割山」のことになってしまうではないかという気もする。
このうち「茅ノ木棚沢ノ頭」はどのピークのことなのか、という点は私も関心を持ってきたところなので、この機会に私なりに手元の資料を確認してみることにしました。
まず、丹沢愛好家の中にファンも多い『東丹沢登山詳細図』(吉備人出版)を見ると、西は「無名沢ノ頭」で東が「茅ノ木棚沢ノ頭」。「鉄砲沢ノ頭」は登場しません。この地図の作成に当たっては丹念な考証がされたものと思いますが、それは道標を立てる人にしても同じだろうと思うので、これだけに依拠せず古い登山ガイドを見てみると、1959年の『丹沢の山と谷』(山と溪谷社)ではやはり西が「無名沢ノ頭」で東が「茅ノ木棚沢ノ頭」で、「鉄砲沢ノ頭」が登場しない点も同じ。ただし、鉄砲沢をカヤノキダナ沢と認識している点が気になります。
もうひとつ1940年の『日本山岳案内』を引っ張り出してみたところ、本文中に「鍋割山から西へ山稜を伝うと鍋割峠を経てカヤノキダナ沢ノ頭(1150m)、名無ノ沢ノ頭(1100m)を越えて雨山峠へ至る」という趣旨の記述があり、標高は現在とは異なるもののピークの順番からすればこれも前二者と同じだろうと思われます。ところが、この記述がある「鍋割山・雨山・檜岳」の項に付された概念図を見るとカヤノキダナ沢ノ頭があると書かれていた位置に鉄砲沢ノ頭が書かれていて混乱が見られます。しかもよくよく見ると、鉄砲沢の位置にある沢筋につけられている沢名は上掲の『丹沢の山と谷』と同様に「カヤノキ棚」。もしや、茅ノ木棚沢と鉄砲沢とは同じ沢の異名だったのか?そうであれば1108mピークが「茅ノ木棚沢ノ頭」であるとともに「鉄砲沢ノ頭」でもあることも納得なのですが……とここまで書いて、そういえば林班図でも鉄砲沢のところに「萱ノ木棚ノ沢」と書いてあったことを思い出しました。
https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/attach/pdf/R20700_keikaku_zumen-91.pdf
ここでは結論めいたものを出そうとするのではなく、上記のような資料が存在することの提示にとどめておきたいと思います。どなたか、追加情報をお持ちの方がおられたらご教示ください。
私が抱いたものと同様の疑問がイガイガさんのブログ「イガイガの丹沢放浪記」の2007年05月10日の記事に書かれているのを見つけました。
https://igaiga-50arashi.seesaa.net/article/200705article_2.html
両ピークおよびその向こう側(玄倉川側)の沢の名前は時代によって違いがあったようです。しかし、それは自然な移り変わりではなく、複数の資料の間に短期間に現れた相違だったため、混乱を引き起こす結果となりました。
> この山稜のピークや沢の名称が錯綜していて非常に困惑している。
> どうも1040m峰に立つ一本の道標が立てられたことにより混迷がはじまったようだ。
イガイガさんは、1040m峰(私の日記に書いた、西側の1050mピーク)に道標が立てられたことで混迷が始まったと言及しています。私が誰かから聞いた「西側のピークに『茅ノ木棚沢ノ頭』の道標があるが、位置が間違っている。別のピークが本当の『茅ノ木棚沢ノ頭』だ。」というのは間違いではないのかもしれません。
juqchoさんの「茅ノ木棚沢と鉄砲沢とは同じ沢の異名だったのか」という可能性は考えたこともありませんでした。ちなみに、kamogさん著「丹沢の谷200ルート」には茅ノ木棚沢と鉄砲沢は別の沢として載っています。
イガイガさんのブログの資料によると、「鉄砲沢」という名称は昭和52年に登場したようです。また、平成元年の「奥野幸道丹沢資料コレクション」には「カヤノキダナ沢(鉄砲沢)」という表記があるようです。となると、昭和52年頃にどういうわけかあの辺りの沢を「鉄砲沢」と呼ぶ人が現れ(大雨による鉄砲水が発生して誰かが「鉄砲沢」と呼ぶようになった?)、それが「無名沢」のことなのか「カヤノキダナ沢」のことなのか、奥野幸道さんを含む当時の人々もよくわからないまま定着してしまい、今に至るのかもしれません。
2021年に私の日記に書いたことですが、臼ヶ岳南尾根(朝日向尾根)にある「水晶平」のことを山仲間と勝手に「ブナ平」と呼んでおりまして、その呼称がいつの間にか地図に乗るようになっていました。私が山行記録に書いた「ブナ平」がきっかけになったのかどうかわかりませんが、「鉄砲沢」の呼称も誰かが考えて仲間内で使っているうちに定着してしまったのかもしれませんね。
水晶平に「ブナ平」という名前が付いた?
https://www.yamareco.com/modules/diary/3521-detail-258113
実は私の方でも「丹沢の谷200ルート」のことにあとで気がつき、これも含めた検討を自分のブログにアップしていました。
https://memo.juqcho.jp/茅木/
このブログに書いたように鉄砲沢という名前自体は戦争中から登場しますし、このピーク周辺に突き上げる沢は北面では今で言うところの鉄砲沢だけですから、歴史的に見ると鉄砲沢=茅ノ木棚沢だった可能性は低くはないのではないかなと思います。
ただ、いずれにせよ山や沢の名前は変遷するものなので、自分のブログやレコでこういう揺らぎのある名称を用いるときは「○○に準拠した」と典拠を書く必要がありそうですね。
ちなみに水晶平=ブナ平には、今年の春にでも行ってみようかと思っています。ブナの新緑が見られたらいいのですけど。
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