少し年を重ねてからのお話。
あれは、暑い夏の大平宿の脇を流れる黒川。
当時は、フライフィッシングに没頭し、同人誌FFJ(フライフィッシング・ジャーナル)に寄稿したり、それなりに楽しんでいた頃だった。
真夏なので、ネオプレーンのソックスに、ゲーター、ウェーディングシューズの軽装でアプローチすることが、夏を楽しんでいるという実感があるが、そのときは、なぜか、エントラント制のストッキングチェストハイにウェーディングシューズで入渓。
フライのチョイスは、ドライフライタイプの、テレストリアルフライ(陸生昆虫)で、尺イワナを狙うこと。
当日は、平日ということもあり、大平宿の上下流には、私以外に釣り人はおらず。ここぞというポイントからは、小ぶりのイワナが飛び出して、それなりに楽しむことができた。
黒川はもともと花崗岩の岩が多く、見た目以上に、川の中のウェーディングはしずらく、砂利のくぼみと思っていたところが、岩がえぐれていたところだったり、岩も角がとれて意外と滑りやすい川床が続いている。
ある時、滑りやすくなった岩の上で、急流に流されるように、スローモーションの映画を見ているかのごとく、転び、仰向けになって下流に流されることとなってしまった。
川は、滝があったりゴルジュがあったりする渓相ではないため、深みにはまることはないだろうと油断していたこともあるのだが、所々、5mぐらいの堰堤で仕切られており、そこで流されることは致命傷を負うことなると、我に振り返り、もがきながら岸にたどり着こうとしていた。しかしながら、脇まであるウェーダーでは、容赦なく脇から水が流れ込み、ひざ下の深さでも、水でパンパンになったウェーダーでは、起き上がることすら容易ではなかった。
そんなこんなで、岸にたどり着き、岸辺の笹薮を掴みながら、何とか岸に立ち上がることができたのであった。
私は、下流の車を止めたところまで移動し、ウェーディングシューズだけで釣りを再開しようと身支度を整えるために、まずは、川沿いの林道で、ひざ下までウェーダーを下し、水を抜くこととした。
水を抜いて、川沿いの林道を500メートルほど下ると、何か黒い塊が、私の目の前25メートルほどのところを、山側の針葉樹林から川の岸辺のクマザサの林に入っていくのであった。このあたりのクマザサは、背丈ほどあり、山側と川の岸辺を埋めているように茂っていた。
なんだろう。大きさは1メール近かった。そうだ熊だ。
やつは、クマザサを揺らしながら川を渡るのかと思い、そこを注視するが、最初の揺れから次の動きがない。
私の車はその場所よりさらに200メートルほど下流なため、どうして通らずにはおられず、次にとった行動は、考えもなしに、足元のこぶし大の石を、そのクマザサに投げ入れることを、何度も夢中にしていた。
どの程度投げ入れたたか、笹の揺れがないことを確認し、できるだけ早くその場所を横切ることができた。
車についてからは、カセットテープの音楽を大音量で鳴らしながら、着替えをし、さらに上流で釣りを再開したのであった。
帰宅後、石を投げ入れたことを釣友に話すと、無謀なことをしたものだと怒られてしまった。
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