前章(5-2章)では、丹沢山地(山塊)がフィリピン海プレートに乗ってきて日本列島へと衝突したという、プレートテクトニクスに基づいた歴史を説明しました。
この章では、丹沢山地の具体的な地質を、主なピークや登山道沿いに説明したいと思います。
なお参照したのは、産総研「シームレス地質図v2」の地質説明です。
※ 見出しの写真は、ヤマレコ内の「山の説明」の写真を引用させてもらいました。
神奈川県 平塚市から望む、大山と、その奥の丹沢山地の写真です。
この章では、丹沢山地の具体的な地質を、主なピークや登山道沿いに説明したいと思います。
なお参照したのは、産総研「シームレス地質図v2」の地質説明です。
※ 見出しの写真は、ヤマレコ内の「山の説明」の写真を引用させてもらいました。
神奈川県 平塚市から望む、大山と、その奥の丹沢山地の写真です。
(1)丹沢山地の南北縦走路(丹沢主脈)に沿った地質概要
丹沢山地には四方八方から登山道がありますが、最高峰 蛭が岳(1673m)を通る南北の縦走路は一般に「丹沢主脈」と呼ばれているようです(文献1)。
私も歩いたことのあるこのルート沿いの地質概要を、ここで説明します。
丹沢主脈の入り口は、丹沢山地南西部に位置する大倉登山口です。ここから塔ノ岳(1491m)までは大倉尾根の急登が続きます。岩場などはなく、多くの登山者の踏み付けによる影響で登山道が荒れたため、現在では木の階段が延々と続く状態だと思います。
ここは、産総研「シームレス地質図v2」によると、中新世の玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)でできています。溶岩ではなく破砕岩(細かく砕けた岩屑が堆積した地層)なので、崩れやすいのかも知れません(私見です)。
山小屋のある塔の岳からさらに進むと、丹沢山(1567m)、最高峰 蛭が岳(1673m)と縦走路は続きますが、地質的には相変わらず玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)で出来ています。ただし岩場があるわけでもなく、なだらかな尾根筋です。
蛭が岳からは北へと稜線を下ることになりますが、途中から地質が変わり、安山岩質の火山性破砕岩に変わります。しかし、緩やかな下りで目立った岩場もないため、地質の変化には気づきにくいと思います。さらに下ると焼山(1060m)を通り、最後は道志川の谷に降り着きます。この下りもほとんどが安山岩質の火山性破砕岩ですが、緩やかな下りでもあり、岩場もないので、地質的、地形学的な特徴はありません。
なお、これらの玄武岩質火山岩類(破砕岩)、安山岩質火山岩類(破砕岩)は、ともに丹沢山塊が南の海で火山活動をしていた、約17Ma(約1700万年前)〜約6Ma(約600万年前)に噴出した海底火山噴出物になります。
私も歩いたことのあるこのルート沿いの地質概要を、ここで説明します。
丹沢主脈の入り口は、丹沢山地南西部に位置する大倉登山口です。ここから塔ノ岳(1491m)までは大倉尾根の急登が続きます。岩場などはなく、多くの登山者の踏み付けによる影響で登山道が荒れたため、現在では木の階段が延々と続く状態だと思います。
ここは、産総研「シームレス地質図v2」によると、中新世の玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)でできています。溶岩ではなく破砕岩(細かく砕けた岩屑が堆積した地層)なので、崩れやすいのかも知れません(私見です)。
山小屋のある塔の岳からさらに進むと、丹沢山(1567m)、最高峰 蛭が岳(1673m)と縦走路は続きますが、地質的には相変わらず玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)で出来ています。ただし岩場があるわけでもなく、なだらかな尾根筋です。
蛭が岳からは北へと稜線を下ることになりますが、途中から地質が変わり、安山岩質の火山性破砕岩に変わります。しかし、緩やかな下りで目立った岩場もないため、地質の変化には気づきにくいと思います。さらに下ると焼山(1060m)を通り、最後は道志川の谷に降り着きます。この下りもほとんどが安山岩質の火山性破砕岩ですが、緩やかな下りでもあり、岩場もないので、地質的、地形学的な特徴はありません。
なお、これらの玄武岩質火山岩類(破砕岩)、安山岩質火山岩類(破砕岩)は、ともに丹沢山塊が南の海で火山活動をしていた、約17Ma(約1700万年前)〜約6Ma(約600万年前)に噴出した海底火山噴出物になります。
(2)丹沢山地の東西縦走路(丹沢主稜)に沿った地質概要
丹沢山地の東西方向の縦走路は、一般的には「丹沢主稜」と呼ぶようです(文献1)。
ここでは最高峰 蛭が岳(1673m)から西へ向かい、檜洞丸(ひのきぼらまる;1551m)、大室山(おおむろやま;1588m)、加入道山(かにゅうどうやま;1418m)、菰釣山(こもつるしやま;1379m)を通り、道志川沿いの山伏峠に至るルートの地質について説明します。
蛭が岳は前述のとおり、玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)で出来ていますが、檜洞丸との間の稜線は、一部、閃緑岩(せんりょくがん)という深成岩の領域があります。ただし、歩いていて気付くようなものかどうかは、私は歩いたことが無いので解りません。
さらに西に進むと、檜洞山山頂付近から西、ずっと玄武岩質/安山岩質の火山岩類(主に破砕岩)が続き、次のピーク、加入道山に至ります。
このピークの先は地質が大きく変わり、まずは高圧変成岩の一種、結晶片岩の地帯があります。その先は深成岩体であるトーナル岩(トーナライト)の地帯となります(注1)。畔が丸山(あぜがまるやま;1292m)付近は、トーナライトの地帯になります。その先も基本的にはト―ナライト地帯ですが、菰釣山(こもつりやま)(1379m)付近の稜線は、トーナライトの上に降り積もった、富士山から来た火山灰層が部分的に堆積しています。道志川の谷沿いの山伏峠やその近辺の山中湖付近も、もう富士山の支配領域で、火山灰が地表に降り積もった地質になります。
前節(5-2章)でも説明しましたが、玄武岩質、安山岩質の火山岩類(破砕岩)は、丹沢地塊が海底火山として活動していた時期(約17Ma〜約6Ma)の噴出物です。
一方で深成岩であるトーナライトは、それらの火山の地下にあったマグマ溜りのマグマが地中で冷却して岩石となったのち、丹沢地塊の隆起、浸食により地表に出てきたものであり、ある意味、丹沢地塊の根っこの部分が地表に現れている、とも言えます。
注1)深成岩体の部分は、上記本文では簡略化のため「トーナライト(トーナル岩)」と書きましたが、産総研 「シームレス地質図v2」によると、正確には「花崗閃緑岩/トーナル岩」と記載されています。
いずれにしろ、花崗岩に類似した深成岩であり、化学分析でもしない限り、判別が難しいレベルの微妙な差だと思います。
ここでは最高峰 蛭が岳(1673m)から西へ向かい、檜洞丸(ひのきぼらまる;1551m)、大室山(おおむろやま;1588m)、加入道山(かにゅうどうやま;1418m)、菰釣山(こもつるしやま;1379m)を通り、道志川沿いの山伏峠に至るルートの地質について説明します。
蛭が岳は前述のとおり、玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)で出来ていますが、檜洞丸との間の稜線は、一部、閃緑岩(せんりょくがん)という深成岩の領域があります。ただし、歩いていて気付くようなものかどうかは、私は歩いたことが無いので解りません。
さらに西に進むと、檜洞山山頂付近から西、ずっと玄武岩質/安山岩質の火山岩類(主に破砕岩)が続き、次のピーク、加入道山に至ります。
このピークの先は地質が大きく変わり、まずは高圧変成岩の一種、結晶片岩の地帯があります。その先は深成岩体であるトーナル岩(トーナライト)の地帯となります(注1)。畔が丸山(あぜがまるやま;1292m)付近は、トーナライトの地帯になります。その先も基本的にはト―ナライト地帯ですが、菰釣山(こもつりやま)(1379m)付近の稜線は、トーナライトの上に降り積もった、富士山から来た火山灰層が部分的に堆積しています。道志川の谷沿いの山伏峠やその近辺の山中湖付近も、もう富士山の支配領域で、火山灰が地表に降り積もった地質になります。
前節(5-2章)でも説明しましたが、玄武岩質、安山岩質の火山岩類(破砕岩)は、丹沢地塊が海底火山として活動していた時期(約17Ma〜約6Ma)の噴出物です。
一方で深成岩であるトーナライトは、それらの火山の地下にあったマグマ溜りのマグマが地中で冷却して岩石となったのち、丹沢地塊の隆起、浸食により地表に出てきたものであり、ある意味、丹沢地塊の根っこの部分が地表に現れている、とも言えます。
注1)深成岩体の部分は、上記本文では簡略化のため「トーナライト(トーナル岩)」と書きましたが、産総研 「シームレス地質図v2」によると、正確には「花崗閃緑岩/トーナル岩」と記載されています。
いずれにしろ、花崗岩に類似した深成岩であり、化学分析でもしない限り、判別が難しいレベルの微妙な差だと思います。
(3)丹沢山地南西部の地質
丹沢山地の南西部、丹沢湖付近の上流部は、沢登りの初級〜中級ルートが多いようで、ヤマレコ内でも多数の登攀記録がアップされています。
この節では、このあたりの地質について説明します。
丹沢湖にそそぐ川で最大級の玄倉川(くろくらがわ)は、標高約500m付近までは、高圧変成岩の一種、苦鉄質結晶片岩(注2)が分布しています。
そのさらに上流部、おそらく本格的に沢登りする場所は、前節でも述べた深成岩であるトーナライトの分布域です。トーナライトは前にも述べたように同じ深成岩である花崗岩の親戚筋にあたるので、適度にフリクションがあり、沢登りには適した地質なのかも知れません。
なお玄倉川のいくつかの支流は、稜線近くなると、トーナライト領域から、玄武岩質火砕岩類の地質に変化します。
注2)産総研 「シームレス地質図v2」での岩質記載は、「苦鉄質片岩/緑色片岩相」となっていますが、玄武岩質の火山岩を源岩とした、緑色片岩だと思われます。
この節では、このあたりの地質について説明します。
丹沢湖にそそぐ川で最大級の玄倉川(くろくらがわ)は、標高約500m付近までは、高圧変成岩の一種、苦鉄質結晶片岩(注2)が分布しています。
そのさらに上流部、おそらく本格的に沢登りする場所は、前節でも述べた深成岩であるトーナライトの分布域です。トーナライトは前にも述べたように同じ深成岩である花崗岩の親戚筋にあたるので、適度にフリクションがあり、沢登りには適した地質なのかも知れません。
なお玄倉川のいくつかの支流は、稜線近くなると、トーナライト領域から、玄武岩質火砕岩類の地質に変化します。
注2)産総研 「シームレス地質図v2」での岩質記載は、「苦鉄質片岩/緑色片岩相」となっていますが、玄武岩質の火山岩を源岩とした、緑色片岩だと思われます。
(4)大山(おおやま)の地質
大山(おおやま;1252m)は、丹沢山地主要部の南東方向に位置し、標高はそれほど高くはありませんが、端正な三角形の形をしており、麓や新幹線の車窓からも良くわかる山です。
またこの山の周辺では、雨の神が宿る山として知られ、大山阿夫利(おおやまあふり)神社は、雨ごいの神様でもあります。また相模湾で漁をする漁師の人たちの目印にもなっていたと聞きます。
この山の地質は、山頂部や阿夫利神社(ロープウエー上の駅付近)では、玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)で出来ています。ただし山頂の西側斜面は安山岩質火山岩類、山頂の東側斜面はデイサイト・流紋岩質の火山岩類と、同じ火山岩類でも種類が少し違うようなので、よくよく見ると岩の色の違いで、地質の違いが分かるかも知れません。
私は一度、大山に登っていますが、あまり岩場がなくて、なだらかな山だった記憶があります。
(参考 火山岩の色について; 白っぽい <− 流紋岩―デイサイト―安山岩―玄武岩 −> 黒っぽい)
またこの山の周辺では、雨の神が宿る山として知られ、大山阿夫利(おおやまあふり)神社は、雨ごいの神様でもあります。また相模湾で漁をする漁師の人たちの目印にもなっていたと聞きます。
この山の地質は、山頂部や阿夫利神社(ロープウエー上の駅付近)では、玄武岩質火山岩類(主に破砕岩)で出来ています。ただし山頂の西側斜面は安山岩質火山岩類、山頂の東側斜面はデイサイト・流紋岩質の火山岩類と、同じ火山岩類でも種類が少し違うようなので、よくよく見ると岩の色の違いで、地質の違いが分かるかも知れません。
私は一度、大山に登っていますが、あまり岩場がなくて、なだらかな山だった記憶があります。
(参考 火山岩の色について; 白っぽい <− 流紋岩―デイサイト―安山岩―玄武岩 −> 黒っぽい)
(参考文献)
文献1)
「山と高原地図 No.28 丹沢」の解説冊子、 昭文社 刊 (1998版)
文献2)西本 著
「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊 (2020)
「山と高原地図 No.28 丹沢」の解説冊子、 昭文社 刊 (1998版)
文献2)西本 著
「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊 (2020)
このリンク先の、5−1章の文末には、第5部「関東西部の山々の地質」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第5部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2020年11月24日
△改訂1;文章見直し、5−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月4日
△改訂1;文章見直し、5−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月4日
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bergheilさん、こんばんわ。今回も詳細な解説で圧倒されました。
地質図で加入道山に向かう沢がありますが、おそらく白石沢と思います。この沢に白石の滝があり、登山道に白石の滝の説明板があります。説明文をそのまま記述します。
[この沢は、大理石の滝とも呼ばれ、この沢の流域が大理石の産地であったことを物語っています。また、この付近はいろいろな変成鉱物が生じていることでも知られています。]
説明文にも変成作用を受けたことが記されています。
白石沢を更に登りますと、地質でピンクからうす紫色に変わるあたりに20mほどの岩場があったと思います。来春に行ってみます。白石沢は2回しか通過していませんし、地学に興味を持つ前でしたので特別注意していませんでしたが、涸れ沢に大きな岩石がゴロゴロしている部分があって、面白いと思いました。
fujikitaさん、いつもコメントありがとうございます。
コメントをもらうと、励みになります。
丹沢山地の地質は、東丹沢より西丹沢ほうが変化があって面白いですね。
コメントに述べられている白石沢付近を地質図で再確認してみました。
(以下の〇〇色は「シームレス地質図v2」での表示色です)
白石沢は林道終点(最奥のキャンプ場)あたりからしばらくはトーナル岩ゾーン(朱色)ですが、その先、傾斜が急になる標高850m付近から岩相がころころかわり、まずはハンレイ岩ゾーン(ピンク色)が距離約200m、その先、標高900mあたりで登山道が沢筋から離れるあたりから結晶片岩ゾーン(紫色)、標高1000m付近からは火山岩であるデイサイト・流紋岩ゾーンが稜線(白石峠)まで、さらに稜線を加入道山に行くとこの山頂付近は玄武岩ゾーン(緑色)と、変化に富んでいますね。
さらに、「シームレス地質図v2」では表記されていませんが、丹沢層群(玄武岩、安山岩質の水中破砕岩でできた地層)のうち、トーナル岩体に近い部分は、トーナル岩体の元となったマグマの熱によって熱変成を受け、ホルンフェルス化(鉱物結晶が大きい熱変成岩)している、と文献には書いてありました。
コメントにある大理石のゾーンは、「シームレス地質図v2」には記載されてませんが、大理石は石灰岩がマグマの熱で熱変成した岩で、その元の石灰岩は、丹沢地塊が海底火山集合体だったころ、海底火山の頂上部にできたサンゴ礁由来と考えれば、大理石があっておかしくはないですね。
「白石」沢という名前からしても、白い大理石の岩が多い沢という意味で名付けられたのかもしれませんね。
いずれにしろ白石沢を含めた西丹沢は、深成岩(トーナル岩、斑レイ岩)、火山岩(デイサイト、流紋岩、玄武岩)、変成岩(結晶片岩、ホルンフェルス)と、変化に富んだ面白い場所のようですね。
もし白石沢を登られたら、ヤマレコにぜひレポート挙げて下さい。私も興味あります。
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