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更新日:2022年01月04日 訪問者数:1824
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第5部 関東西部の山々 5−10章 秩父盆地周辺の山々
ベルクハイル
秩父盆地付近の地質図
(秩父盆地内:中央の変形四角形部分)
・薄い緑色;砂岩/泥岩互層(中新世、堆積層)
・薄いベージュ;礫岩(中新世、堆積層)

(秩父盆地の南側)
・薄いグレー;メランジュ相(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・オレンジ色;チャート岩体(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・ブルー;石灰岩体(秩父帯、ジュラ紀付加体)

(秩父盆地の東側、東北側)
・薄いブルー、ブルー;泥質片岩(三波川結晶片岩類)
・緑色;変質玄武岩(みかぶ緑色岩類、白亜紀形成)

(秩父盆地の西側、南西側)
・薄いグレー;メランジュ相(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・オレンジ色;チャート岩体(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・ベージュ(帯状ゾーン);礫岩(山中地溝帯堆積物、白亜紀)
・くすんだ黄色;砂泥互層(秩父帯、ジュラ紀付加体)

※産総研 「シームレス地質図v2」をもとに筆者加筆
武甲山とその周辺の地質図
・中央部の赤▲印が武甲山の山頂

・ブルー;石灰岩体(ペルム紀ートリアス紀に形成、ジュラ紀に付加、秩父帯、ジュラ紀付加体)
(赤く半円にした部分が石灰岩採掘場所)

・緑色;玄武岩(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・下部のオレンジ色;チャート(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・グレー;メランジュ相(秩父帯、ジュラ紀付加体)

※産総研 「シームレス地質図v2」をもとに筆者加筆
両神山付近の地質図
中央部の赤▲が両神山の山頂

・オレンジ色;チャート(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・グレー;メランジュ相(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・朱色(左下あたり);花崗閃緑岩、トーナライト(中新世に貫入)
・ベージュ色(右上の帯状ゾーン);礫岩(山中地溝帯、白亜紀)

※産総研 「シームレス地質図v2」をもとに筆者加筆
長瀞渓谷付近の地質図
・中央に南北にくねくねした青色の線が、荒川の流れ

・薄いブルー;泥質片岩(三波川結晶片岩類)
・濃いめのブルー;泥質片岩(三波川結晶片岩類、変成度高め)
・濃い緑色(右手の大きいゾーン);変成玄武岩(みかぶ緑色岩類)
・薄目の緑色(中央部付近に点在している部分);苦鉄質片岩(三波川結晶片岩類)
・紫色;蛇紋岩(マントル由来の超苦鉄質岩)
(以上が「三波川帯」の地質群)


・図の左手のオレンジ色;チャート(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・図の左手のグレー;メランジュ相(秩父帯、ジュラ紀付加体)
・図の左手のベージュ;礫岩(中新世)


・中央部を区切るその左右の赤い線;三波川帯と秩父帯との境界部

※産総研 「シームレス地質図v2」をもとに筆者加筆
秩父盆地から望む武甲山
正面に石灰岩採掘場が見える。

(ヤマレコ内の山のデータ集より借用しました)
両神山の山頂稜線部
チャートでできた岩場が多いことが解る

(筆者撮影)
小鹿野町から遠望する両神山
手前のベージュ色の建物の上に見える壁状の山が、両神山、
周囲の山々より一回り高くそびえているのが良く解る

(筆者撮影)
(はじめに)
 この章では、埼玉県西部にある、秩父盆地と、その周辺にある山々の地質を説明します。
1)秩父盆地について
 秩父盆地は、関東山地の東北部にあって、東西、南北とも約10kmの、変形ぎみの四角形をした盆地です。池袋から西武電車で行くと、徐々に山の中を行くようになり、正丸峠のトンネルを超えると急に開けた秩父盆地に至ります。またJR寄居駅から荒川沿いに走る秩父鉄道沿いも、途中は渓谷状となっていて、その後、盆地内にでます。

 この秩父盆地は単なる盆地ではなく、沈降運動によって形成された構造性盆地と呼ばれるタイプの盆地です。

 (文献1)によると、秩父盆地は南側の縁と東側の縁に古い断層があって、半地溝(ハーフグラーベン)型の地下構造を持っており、盆地内は主に新第三紀 中新世中期(約15Ma前後)頃の堆積層で形成されています。その堆積層は最大で層厚約3000mにも及びます。

 堆積層の研究によると、中新世中期の秩父盆地は、秩父帯の岩石でできている基盤が沈降しつつ、周辺からの土砂流入で堆積層が形成されて、沈降と堆積の速度がほぼ釣り合っていたため、浅い海の状態が継続したと考えられています。
 その後、沈降速度が増して深海になった時期もあったと推定されています。

 なお「地質図」の活断層レイヤーで確認すると、秩父盆地と周辺の山々との間の断層状地形は、現在は活断層ではないようです。

  ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
2)武甲山
 武甲山は秩父盆地の南部にそびえる標高1304mの山で、古くから知られている秩父を代表する名山です。
 しかし、その北側は石灰岩の採掘場となっており、傷だらけの痛々しい姿を見せています。 
 関西/東海の境にある伊吹山も武甲山と似ていて、かなりの部分が石灰岩でできている一方で、その西側は石灰岩の採掘場となっている、傷だらけの百名山です。

 さて、武甲山の地質を、産総研「シームレス地質図v2」にて確認すると、山体の全部が石灰岩でできているのではなく、北側半分が石灰岩体、南側半分は、玄武岩質の火山岩で出来ています。さらに南側は広く、チャート層のゾーンとなっています。

 武甲山を含む一帯は、「秩父帯」と呼ばれるジュラ紀の付加体性地質で構成されています。上記の石灰岩体、玄武岩体、チャート岩体はいずれも海洋プレート起源の岩体ですが、すべて秩父帯の構成要素であり、ジュラ紀に存在した海洋プレート沈み込み帯において、海洋プレート側から陸側に付加体としてくっついたものです。

 このうち、石灰岩体と玄武岩体はまとめて一つの大きな海底火山だったと推定されます。玄武岩体が海底火山の本体であり、その上部にサンゴ礁などを元とする石灰岩層が堆積して、現在の石灰岩体となっています(文献2)、(文献3)、(文献4)。
 (文献2)にはそのメカニズムが解りやすく図示されています。

 (文献2)によると、武甲山の石灰岩ができた時代は、付加したジュラ紀よりももっと古く、トリアス紀(三畳紀ともいう、2.5〜2.0億年前)にできたと考えらています。
3)両神山
 両神山は、秩父盆地のさらに西の奥にそびえる、標高1723mの山で、日本百名山の一つでもあります。標高は2000mに届いていませんが、稜線部は岩がちのギザギザした特徴的な稜線をもち、秩父盆地周辺の小鹿野町辺りや、はるか上越新幹線の車窓からも、視界が良い日には、その特徴的な姿が良く目立ちます。

 さて、産総研「シームレス地質図v2」にて両神山の地質を確認すると、両神山の麓部分は、「秩父帯」のメランジュ相でできていますが、両神山の山体はすべて、チャート岩体で構成されています。
 (文献6)によると、メランジュ相の部分とチャート岩体の部分は、ほぼ水平な断層(スラスト)で切られているようです(両神山スラスト)。

 「地質図」上では、両神山の東側から延びるこのチャート岩体は両神山を越えて西へと長く延び、長野県との県境あたりまで、約30kmもの大きな岩体を作っています。一方(文献6)では、両神山岩体と、長野県との県境の岩体の2つに分けた地質図が掲載されています。

 さてチャートという岩石は、海洋中の放散虫という動物プランクトンの、シリカ(SiO2)でできた殻が海底に積もってできた、生物由来の岩石です(文献5)。生物由来の岩石という意味では、サンゴ礁由来の石灰岩とも親戚のようなものです。
 チャートの特徴は、水晶と同じく、シリカ(SiO2)が主成分なので、非常に硬く、かつ浸食に強いことが特徴です(文献5)

 両神山のあのギザギザした頂上山稜は、浸食に強いチャート岩体の特徴をよく表していると思います。

 なお、このチャート岩体は、前節で述べた武甲山と同じく、「秩父帯」に属するものです。
この両神山チャート岩体の層厚は500m以上、形成時期は放散虫化石の分析によると、ペルム紀(約3.0-2.5億年前)〜トリアス紀(約2.5-2.0億年前)〜ジュラ紀前期と推定されています(文献6)。
4)長瀞渓谷付近の地質
 山ではありませんが、秩父盆地を流れる荒川の流域、秩父盆地からの出口に、観光名所として有名な長瀞渓谷(ながとろけいこく)があります。NHKの番組「ブラタモリ」でも紹介されていたと思います。
 
 この節では、長瀞渓谷付近の地質について説明します。

 この第5部「関東西部の山々の地質」で紹介した山々は、甲府盆地付近の山々を除けば、ほとんどが白亜紀の付加体である「四万十帯」と、ジュラ紀の付加体である「秩父帯」で出来ていました。

 一方、秩父盆地の北側、東側および北東方向に流れる荒川流域の長瀞渓谷付近は、結晶片岩という高圧型変成岩でできています。これらの変成岩は、はるか四国地方に広く分布する「三波川帯」と呼ばれる変成岩帯の東方延長になります。
 なお余談ですが、「三波川帯」の名前の由来となった三波川(さんばがわ)とは、群馬県、神流川(かんながわ)の支流の名前です。

 さて、産総研「シームレス地質図v2」にて長瀞渓谷付近の地質を確認すると、この一帯はは、結晶片岩の一種「泥質片岩」(泥岩が源岩で、地下深い高圧下で変成したもの、黒っぽい色)や、「苦鉄質片岩」(主に玄武岩が源岩で、地下深い高圧下で変成したもの、緑っぽい色、「緑色片岩」とも呼ぶ)が分布しています。
 源岩はおそらく秩父帯(ジュラ紀付加体)の岩石類で、高圧化(=地下深く)で変成作用を受けたのは、白亜紀(だいたい80-60Ma)と推定されています(文献7)。

 結晶片岩は割と硬い岩石なので(文献8)、荒川が秩父盆地からでる流路で結晶片岩帯にぶち当たって、硬い結晶片岩層を削りながら流れを作ったために、渓谷状となっているものです。

 文献9)では長瀞渓谷全般について、詳しい説明がありますので、ご興味のある方はご覧ください。
 また文献8)では、関東山地に分布する三波川結晶片岩の変成年代や構造について専門的なことが記載されていますが、細かすぎるので、ここではその詳細は割愛します。ご興味のある方はご覧ください。


 さて「三波川帯」の岩石類は、地質学上でいう「西南日本外帯」に帯状に長く分布しています(注1)。三波川帯の岩石類がこの関東山地北部にある、ということは、日本海拡大/日本列島移動イベント(約20-15Ma)より以前は、少なくとも関東山地の部分は、今の西南日本外帯(糸魚川静岡構造線=糸静線よりも西側の部分)と一続きになっていたことを示す、日本列島の地質的歴史を紐解くうえで、重要な場所とも言えます。


注1)「三波川帯」(三波川結晶片岩)の分布域について
 三波川帯(結晶片岩類)の分布域は、日本列島西南部に、東西に長く延びており、西端が大分県の佐賀関半島、その東の四国が最大の分布域で石鎚山地などを含む、さらにその東は、紀伊半島、南アルプス北西部と断続的に続き、西南日本外帯の東の端である糸魚川静岡構造線(糸静線)で、断ち切られている。

  ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
(参考文献)
 文献1)日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊(2008)
    のうち、第3部 第三系 3−3−2節「秩父盆地」の項


 文献2)「ジオパーク秩父」サイト
      (「秩父まるごとジオパーク推進協議会事務局」作成)
     のうち「秩父の大地ができるまで」の項

    https://www.chichibu-geo.com/story/birthplace/


 文献3)小泉 著
    「日本の山ができるまで」エイアンドエフ社 刊 (2020)
     のうち、第8章「二億年前〜一億年前の付加体が作る山々」の項


 文献4)(著者、作成年など不明、ネット上の資料)
   「3.武甲山とその周辺の地質について」
   http://escience.html.xdomain.jp/saitama/sanchi/bukou/bukou_chihitu.pdf


 文献5)西村 著
   「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊 (2020)
     のうち、「チャート(Chert)」の項


 文献6)日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊(2008)
     のうち、第2部 「中・古生界」 2−2−7節「秩父帯南帯」の項


 文献7)日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊(2008)
     のうち、第2部「中・古生界」、2−2−4「三波川帯」の項


 文献8)西村 著
   「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊 (2020)
     のうち、「緑色片岩(Green Shist)」、「黒色片岩(Black Shist)」の項


 文献9)ウイキペディア 「長瀞渓谷」の項   
                      2020-12月 閲覧
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E7%80%9E%E6%B8%93%E8%B0%B7a
【書記事項】
初版リリース;2020年12月19日
△改訂1;文章見直し、一部修正。5−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月4日
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