9−1章 関東、中部地方の火山概説
1)はじめに
この「日本の山々の地質」という連載は、「序章」の項で述べたように、日本の山々を地質学的観点から解説する目的で始めたものです。
ここまでに第1部「四国山地」から始め、第2部から第4部は「日本アルプス」、第5部から第8部までは「関東地方西部」、「関東地方北部」、「東北地方」、「北海道」の山々の地質について解説してきました。
ところで日本の山々は大まかには、「火山性の山」と、「非火山性の山」とに分けられます。
(※ ここでの「火山性の山」とは、「第四紀火山」注1)を意味し、それより古い火山岩でできている山は除きます)
日本列島での火山性の山としては例えば、富士山、浅間山、大雪山、阿蘇山、桜島など、日本百名山にもなっている著名な山々が多いのですが、それらの山々を構成している地質(岩石)は、自明なことですが、火山岩類(注2)です。
そして、日本のほとんどの火山は安山岩質の火山岩類でできており、地質学的(岩石学的)な説明はあまり重要ではありません。
従って、この連載を始めた当初は、火山性の山は原則、解説の対象外としてきました。
しかし、第7部「東方地方の山々」、第8部「北海道の山々」では、それらの地域の著名な山として火山が多いことから、方針を変更し、火山についてもその形成史を中心に解説することになりました。
そこで、第2部「北アルプス」〜第6部「関東北部の山々」までの各部では解説を省いた、関東地方、中部地方の主な火山性の山々について、改めてこの第9部で、説明したいと考えました。
この第9部では大まかに以下のような章立てで、各地域の火山性の山々について、その形成史を中心に解説してゆく予定です。
ここまでに第1部「四国山地」から始め、第2部から第4部は「日本アルプス」、第5部から第8部までは「関東地方西部」、「関東地方北部」、「東北地方」、「北海道」の山々の地質について解説してきました。
ところで日本の山々は大まかには、「火山性の山」と、「非火山性の山」とに分けられます。
(※ ここでの「火山性の山」とは、「第四紀火山」注1)を意味し、それより古い火山岩でできている山は除きます)
日本列島での火山性の山としては例えば、富士山、浅間山、大雪山、阿蘇山、桜島など、日本百名山にもなっている著名な山々が多いのですが、それらの山々を構成している地質(岩石)は、自明なことですが、火山岩類(注2)です。
そして、日本のほとんどの火山は安山岩質の火山岩類でできており、地質学的(岩石学的)な説明はあまり重要ではありません。
従って、この連載を始めた当初は、火山性の山は原則、解説の対象外としてきました。
しかし、第7部「東方地方の山々」、第8部「北海道の山々」では、それらの地域の著名な山として火山が多いことから、方針を変更し、火山についてもその形成史を中心に解説することになりました。
そこで、第2部「北アルプス」〜第6部「関東北部の山々」までの各部では解説を省いた、関東地方、中部地方の主な火山性の山々について、改めてこの第9部で、説明したいと考えました。
この第9部では大まかに以下のような章立てで、各地域の火山性の山々について、その形成史を中心に解説してゆく予定です。
9−2章;関東北部の火山群(1)那須、赤城、榛名など
9−3章:関東北部の火山群(2)日光火山群とその周辺の火山
9−4章;上信越地域の火山群;浅間山、志賀火山群など
9−5章;北信の火山群;妙高、黒姫など
9−6章;中信の火山群;美ヶ原、霧ケ峰、八ヶ岳など
9−7章;中部地方西部の火山;御岳、乗鞍、白山など
9−8章;富士山とその周辺の火山群;富士山、箱根など
9−3章:関東北部の火山群(2)日光火山群とその周辺の火山
9−4章;上信越地域の火山群;浅間山、志賀火山群など
9−5章;北信の火山群;妙高、黒姫など
9−6章;中信の火山群;美ヶ原、霧ケ峰、八ヶ岳など
9−7章;中部地方西部の火山;御岳、乗鞍、白山など
9−8章;富士山とその周辺の火山群;富士山、箱根など
まずこの第9−1章では、以下の、第2項)、第3項)において、関東、中部地方のプレートテクトニクス的な状況と、それに関連する火山配列について概説します。
注釈の項
注1)「第四紀」という地質時代区分は、2009年までは、「現在から181万年前まで」
と定義されていましたが、2009年の国際地質科学連合(IUGS)の会合にて、
定義が変更になり、「現在から258万年前まで」となりました。
(文献1)(文献2)
ただしこの連載の第9部では、参考とする文献、専門書の執筆年代を考慮し、
旧定義である、「現在〜181万年前」に活動した火山を、
「第四紀火山」とします。
注2)ここで火山性の山々を構成するものを「火山岩」ではなく、「火山岩類」と
記載したのは、例えば火砕流堆積物、火山灰層、軽石層など、
単純に「岩石」とは言い難いものも、火山の山体を構成するものだからです。
と定義されていましたが、2009年の国際地質科学連合(IUGS)の会合にて、
定義が変更になり、「現在から258万年前まで」となりました。
(文献1)(文献2)
ただしこの連載の第9部では、参考とする文献、専門書の執筆年代を考慮し、
旧定義である、「現在〜181万年前」に活動した火山を、
「第四紀火山」とします。
注2)ここで火山性の山々を構成するものを「火山岩」ではなく、「火山岩類」と
記載したのは、例えば火砕流堆積物、火山灰層、軽石層など、
単純に「岩石」とは言い難いものも、火山の山体を構成するものだからです。
2)日本列島のプレートテクトニクス的状況と火山配列
日本列島(北海道―九州)は、太平洋プレート及びフィリピン海プレートが陸側プレートの下に沈み込む、「島弧―海溝系」を形成しており、火山もその関連で形成されています。
日本列島をプレートテクトニクス的観点から細かく見ると、東北日本弧(主に東北地方)は、東から太平洋プレートが日本海溝で沈み込む、「島弧―海溝系」を形成しています。
また南西日本弧(主に近畿地方、中国・四国地方)は、南からフィリピン海プレートが南海トラフで沈み込む、「島弧―海溝系」を形成しています。
火山も東北日本弧、南西日本弧それぞれ、海溝、島弧と並行な方向に火山が並び「火山フロント」と呼ばれる火山列を形成しています。
一方、北海道は、沈み込む海洋プレートは太平洋プレートですが、島弧としては、「東北日本弧」と「千島弧」(千島列島)との会合部になっています。
同様に九州は、沈み込む海洋プレートはフィリピン海プレートですが、島弧としては、「南西日本弧」と「琉球弧」(屋久島から西表島に至る南西諸島)との会合部になっています。
これら2つの会合部では、火山活動が特に活発なこと、火山の配置が不規則になっていることが特徴でもあります。
(文献3−a)、(文献3−b)
日本列島をプレートテクトニクス的観点から細かく見ると、東北日本弧(主に東北地方)は、東から太平洋プレートが日本海溝で沈み込む、「島弧―海溝系」を形成しています。
また南西日本弧(主に近畿地方、中国・四国地方)は、南からフィリピン海プレートが南海トラフで沈み込む、「島弧―海溝系」を形成しています。
火山も東北日本弧、南西日本弧それぞれ、海溝、島弧と並行な方向に火山が並び「火山フロント」と呼ばれる火山列を形成しています。
一方、北海道は、沈み込む海洋プレートは太平洋プレートですが、島弧としては、「東北日本弧」と「千島弧」(千島列島)との会合部になっています。
同様に九州は、沈み込む海洋プレートはフィリピン海プレートですが、島弧としては、「南西日本弧」と「琉球弧」(屋久島から西表島に至る南西諸島)との会合部になっています。
これら2つの会合部では、火山活動が特に活発なこと、火山の配置が不規則になっていることが特徴でもあります。
(文献3−a)、(文献3−b)
3)関東地方、中部地方のプレートテクトニクス的状況
関東地方から中部地方にかけては、「東北日本弧」と「南西日本弧」との島弧会合部でもありますが、北海道や九州よりさらに、プレートテクトニクス的には非常に複雑な地域です。
まず沈み込む海洋プレートとしては、東から太平洋プレートが沈み込んでいます。一方、南からはフィリピン海プレートが沈み込んでおり、地下ではこの2つのプレートがせめぎあっています。
(実際は、フィリピン海プレートがより浅めの位置にあり、太平洋プレートはより深い位置にあると推定されていますが、一部では両プレートが接触していると推定されています)
さらにこの地域の南側は、フィリピン海プレート上に乗っている「伊豆―小笠原弧」(島弧)が北進して衝突している、という特異的な場所でもあります。
(この衝突地域を「南部フォッサマグナ地域」と呼びます)
また陸側プレートも“一枚岩”ではなく、ほぼ糸静線に沿ってプレート境界があると考えられており、糸静線の西側はユーラシアプレート(もしくはアムールプレート)、糸静線より東側は北米プレート(もしくはオホーツク海プレート)です。
両プレートは糸静線を含む幅50−100kmの範囲で衝突していると推定されています。
このように、関東、中部地方では、海洋プレートが2つ、陸側プレートが2つ、ひしめき合っており、3つのプレートの境目である「三重会合点」が、日本海溝と相模トラフの会合部(千葉県の沖合)と、富士山の直下付近の、2つもある、世界的にも非常に特異的な場所です。
このように関東、中部地方はプレートテクトニクス的に非常に複雑な構造を持っており、そのためと考えられますが、火山の配列も非常に変則的です。
まず東北日本弧の火山フロントは、那須火山群より北側では日本海溝や島弧の方向と調和的に、南北の走向ですが、那須火山群を境に北東―南西方向へと走向を変え、赤城、榛名山へと続きます。その背弧側には日光火山群などがあります。
中部地方になると、火山配列はさらに変則的で、火山群の配列はどちらかというと日本列島を縦断するような、南北方向の配列が目立つようになります。
まずもっとも東側の列は、志賀高原火山群―浅間山付近の火山群で、火山列というよりは「火山クラスター」と言った方が良いかもしれません。
その西側には中部地方を縦断するような南北走向の火山列があり、日本海側の妙高火山群―美ヶ原、霧ケ峰 ―八ヶ岳連峰 ― 富士山、箱根と続き、その南は伊豆―小笠原島弧の火山島群に続きます。
さらにその西側には、北アルプスの中に、立山(火山としての)、白馬乗鞍岳、焼岳などの火山があり、その南方延長には、乗鞍岳、御岳山といった大型成層火山があります。この火山列は以前には「乗鞍火山帯」とも呼ばれていました。
中部地方の最も西側には、大型成層火山である白山が、孤立ぎみにそびえています。
これらの複雑な火山配列とプレートの動きとの関係は、明確にはなっていないようです。
(文献3−a)、(文献3−b)、(文献4−a)、(文献4−b)、
(文献5)、(文献6)
まず沈み込む海洋プレートとしては、東から太平洋プレートが沈み込んでいます。一方、南からはフィリピン海プレートが沈み込んでおり、地下ではこの2つのプレートがせめぎあっています。
(実際は、フィリピン海プレートがより浅めの位置にあり、太平洋プレートはより深い位置にあると推定されていますが、一部では両プレートが接触していると推定されています)
さらにこの地域の南側は、フィリピン海プレート上に乗っている「伊豆―小笠原弧」(島弧)が北進して衝突している、という特異的な場所でもあります。
(この衝突地域を「南部フォッサマグナ地域」と呼びます)
また陸側プレートも“一枚岩”ではなく、ほぼ糸静線に沿ってプレート境界があると考えられており、糸静線の西側はユーラシアプレート(もしくはアムールプレート)、糸静線より東側は北米プレート(もしくはオホーツク海プレート)です。
両プレートは糸静線を含む幅50−100kmの範囲で衝突していると推定されています。
このように、関東、中部地方では、海洋プレートが2つ、陸側プレートが2つ、ひしめき合っており、3つのプレートの境目である「三重会合点」が、日本海溝と相模トラフの会合部(千葉県の沖合)と、富士山の直下付近の、2つもある、世界的にも非常に特異的な場所です。
このように関東、中部地方はプレートテクトニクス的に非常に複雑な構造を持っており、そのためと考えられますが、火山の配列も非常に変則的です。
まず東北日本弧の火山フロントは、那須火山群より北側では日本海溝や島弧の方向と調和的に、南北の走向ですが、那須火山群を境に北東―南西方向へと走向を変え、赤城、榛名山へと続きます。その背弧側には日光火山群などがあります。
中部地方になると、火山配列はさらに変則的で、火山群の配列はどちらかというと日本列島を縦断するような、南北方向の配列が目立つようになります。
まずもっとも東側の列は、志賀高原火山群―浅間山付近の火山群で、火山列というよりは「火山クラスター」と言った方が良いかもしれません。
その西側には中部地方を縦断するような南北走向の火山列があり、日本海側の妙高火山群―美ヶ原、霧ケ峰 ―八ヶ岳連峰 ― 富士山、箱根と続き、その南は伊豆―小笠原島弧の火山島群に続きます。
さらにその西側には、北アルプスの中に、立山(火山としての)、白馬乗鞍岳、焼岳などの火山があり、その南方延長には、乗鞍岳、御岳山といった大型成層火山があります。この火山列は以前には「乗鞍火山帯」とも呼ばれていました。
中部地方の最も西側には、大型成層火山である白山が、孤立ぎみにそびえています。
これらの複雑な火山配列とプレートの動きとの関係は、明確にはなっていないようです。
(文献3−a)、(文献3−b)、(文献4−a)、(文献4−b)、
(文献5)、(文献6)
(参考文献)
文献1)日本地質学会 ホームページのうち、「地球史Q&A」項の、
「Q/A 第四紀の時代区分の変更」
http://www.geosociety.jp/faq/content0203.html
文献2) 日本地球惑星科学連合ニュースレター Vol.6、No.2、p1−3(2010)
「第四紀の新しい定義」
http://www.jpgu.org/wp-content/uploads/2018/03/JGL-Vol6-2.pdf
文献3)米倉、貝塚、野上、鎮西 編
「日本の地形 第1巻 総説」東京大学出版会 刊 (2001)
文献3−a)
文献3)のうち、第3−2章「島弧時代の日本列島」の項
文献3−b)
文献3)のうち、第6−6章「火山の地理的分布」の項
文献4)町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊 (2006)
文献4−a)
文献4)のうち、第1−1章「中部地方の地形と地質の概説」の項
文献4−b)
文献4)のうち、第2部「南部フォッサマグナ地帯」、
第3部「北部フォッサマグナ地帯」、
及び 第4―4章「飛騨山脈の火山」の各項
文献5)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)のうち、
第1−4章「(関東地方の)新第三紀研究の進展」の項など
文献6)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」朝倉書店 刊 (2006)のうち、
総論 第3部「プレート運動と中部地方のテクトニクス」の項など
「Q/A 第四紀の時代区分の変更」
http://www.geosociety.jp/faq/content0203.html
文献2) 日本地球惑星科学連合ニュースレター Vol.6、No.2、p1−3(2010)
「第四紀の新しい定義」
http://www.jpgu.org/wp-content/uploads/2018/03/JGL-Vol6-2.pdf
文献3)米倉、貝塚、野上、鎮西 編
「日本の地形 第1巻 総説」東京大学出版会 刊 (2001)
文献3−a)
文献3)のうち、第3−2章「島弧時代の日本列島」の項
文献3−b)
文献3)のうち、第6−6章「火山の地理的分布」の項
文献4)町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊 (2006)
文献4−a)
文献4)のうち、第1−1章「中部地方の地形と地質の概説」の項
文献4−b)
文献4)のうち、第2部「南部フォッサマグナ地帯」、
第3部「北部フォッサマグナ地帯」、
及び 第4―4章「飛騨山脈の火山」の各項
文献5)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)のうち、
第1−4章「(関東地方の)新第三紀研究の進展」の項など
文献6)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」朝倉書店 刊 (2006)のうち、
総論 第3部「プレート運動と中部地方のテクトニクス」の項など
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【書記事項】
初版リリース;2021年9月30日
△ 改訂;2021年10月〜12月 (各章のリンクを順次追加)
△ 改訂 最新版;2021年12月25日
△ 改訂;2021年10月〜12月 (各章のリンクを順次追加)
△ 改訂 最新版;2021年12月25日
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