鈴鹿の上高地へ☆羽鳥峠〜お金峠〜ワサビ峠〜根の平峠


- GPS
- 08:41
- 距離
- 15.8km
- 登り
- 1,103m
- 下り
- 1,092m
コースタイム
- 山行
- 5:55
- 休憩
- 2:45
- 合計
- 8:40
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年05月の天気図 |
アクセス |
写真
感想
時折投稿させて頂くネット・サークルのオフ会が神崎川上流の右岸で開催されるので、家内と次男を伴って出かけることにする。通称「鈴鹿の上高地」と呼ばれるところらしく、まだ訪れたことのない場所であったが、その名の通り神崎川の畔の美しい場所のようだ。ヤマレコでも過去に山行記録が散見する。朝明からでも滋賀県側からでも武平峠からでもアプローチが可能なところだが、辿ったことがない朝明からのルートを選択する。
これまで鈴鹿にアプローチするのは石榑峠以外はもっぱら滋賀県側からであったが、新名神が開通したお蔭で三重県側の登山口への駐車場までのアプローチは全般的に格段に早くなった。京都の自宅から1時間半程で朝明の駐車場に到着する。駐車場には続々と車が到着してゆく、すでにかなりの車が駐車しており、駐車場の東の端に車を停めることになる。
清々しい朝の空気の中を歩き始める。駐車場では大勢の人を見かけたが、ほとんどは釈迦岳に登ってゆくのだろうか。羽鳥峠に向かう人は少ないようだ。対岸のキャンプ場の手前では白い花崗岩の間を落ちる滝が目に入る。滝壺の透明なエメラルド・グリーンが水の美しさを強調する。
猫谷を入ってゆくと、無機的なコンクリートの堰堤だけでなく、大きな花崗岩をブロック状に積み上げた堰堤が現れる。オランダ人技師ヨハネス・デ・レーケによる古い堰堤のようだ。無機的なコンクリートに比べると自然と調和したその景観は遥かに好ましい。それにして綺麗に花崗岩を加工し、積み上げたその技術と労力に感心してしまう。
積み上げられた石の堰堤の一つには左手の急斜面にはロープがつけられている。なわだるみ堰堤と呼ばれるところらしい。次男にあれを登れるかと聞くと一言、「大丈夫」と答え終わるや否や、器用に斜面の上に攀じ登ってゆく。
堰堤を越える度に急峻な崖に挟まれながらも広々とした谷の光景が広がる。深まりつつある樹々の緑に挟まれ、朝陽を浴びる花崗岩の白さが眩しい。後ろを振り返ると御在所岳の大きな山容が谷間にほどよく嵌まっている。次男は快調に登ってゆくが、歩き始めてから時折、咳をする。最近の連日のように発令される光化学スモッグが心配である。
やがて谷を離れ、ジグザグと斜面を登るようになると、峠の手前では登山路脇でチョロチョロと湧き出している清水がある。岩の奥にカップを挿入して何とか汲めるほどの細い流れである。水は十分に持参しているつもりではあるが、喉を潤す新鮮な清水の冷たさが有り難い。我々が清水を喉に運ぶのに夢中になっているとかなり下のほうで追い越した若い二人組の男性が後ろを通り過ぎてゆく。
羽鳥峠に到着すると、すぐ目の前には羽鳥峰の白いピークが忽然と現れる。山中にあって異様なこの花崗岩の小ピークは庭園に人工的に作られた築山のようでもあり、さしずめ銀閣寺の向月台の巨大版といったところではなかろうか。山頂には先程の若い男性二人組が少し前に到着されておられる。お二人の写真を撮って差し上げたところで、写真を撮りましょうかと申し出て下さるのだが、家内がなかなか登ってこない。
山頂からはすぐ西側に箱庭のような羽鳥峰湿原を見下ろす。この湿原に訪れるために羽鳥峠を経由するルートを選んだようなものである。次男と羽鳥峠に戻ると、家内は峠の木陰で休んだままであった。三日連続の山行になるのだが、昨日の芦生の森の山行では午後の暑さにかなり疲れたようであり、その疲労から快復していないのだろうか。
湿原の入り口では紅花灯台躑躅の花がほぼ満開の花を咲かせている。登山路の左手には小さな池塘が水を湛えている。無遠慮に湿原の中を歩き回るのは憚られるが、足場を選んで右手に広がる小さな湿原を覗いてみる。幾本もの倒木が荒れた印象を与えるものの、やはり箱庭のような特殊な雰囲気の空間である。湿原という標識がなければ、鈴鹿主脈の縦走路のすぐ脇にこんな場所があるということを知らずに通り過ぎかねないだろう。
湿原から流れ出る水の流れを追って、広谷を下ってゆく。沢沿いの谷は文字通り、広く、なだらかだ。谷の上部ではカシの葉と思われる光沢のある落葉が林床に深く堆積し、歩くにつれてカサカサと乾いた音をたてる。湿原から下り始めると、次男はほとんど咳をしなくなる。
左手の沢には滝があるようで、落口は登山路から見ることが出来るのだが、滝を眺めるには登山路から下に下る必要があるようだ。家内と次男を待たせるのが躊躇われたので、またの機会にしよう。次男がこの日、履く靴は娘のお下がりであるが、初めてである。神崎川も近くなる頃になって、指先が痛いと訴えるので、靴ずれ予防のセカンド・スキンを早めに貼る。
神崎川に出ると飛び石を伝って対岸に無事に渡渉。斜面をトラバースする道に入る。お金谷に入ると途端に広い沢沿いの道を緩やかに登ってゆく。次男は喉が乾くのだろう。家内が計画的に飲まなきゃだめよと次男が水をごくごくと流し込むのを嗜めるが、既にかなりの水を消費している。
お金明神に到着すると、次男は早速にも賽銭の硬貨の年号を調べている。私はお金明神の錆びついた鉄製の鳥居の写真を撮りながら、下からの次男の声を聞く。「パパ〜、平成28年のがあるよ〜」
峠が近づくと足元には白いものから濃淡様々なピンク色の小さな花が数多く咲いている。次男も気になったのだろう。「これなんていう花?」「イワカガミだよ」それにしても、昨年は花期が異様に早かったのか、京都の北山では5月の上旬には花期は終盤だったように思うが、今年の鈴鹿では花期が遅いのだろう。
お金峠にたどり着いた瞬間、反対側の谷から涼風が吹き上がってくる。次の瞬間、次男が「涼し〜い」と歓声を上げる。峠から南に下る稜線には山毛欅の大樹が目に入る。
お金峠からはゆるいアップダウンを繰り返しながら細尾根を辿る。ところどころで新緑を纏った立派な山毛欅の樹が散見する。尾根上は終始、涼しい風が吹いており、お金峠までの登りで火照った躰を冷ましてくれる。やがて二重尾根の広々とした尾根となる。しかし、結局、この尾根の通過で思ったよりも時間を消費する。どうやらオフ会の時間には大幅に遅れて到着することになりそうだ。
ワサビ峠からの下りは最初はオゾ谷の左岸の斜面をトラバースし、小さな尾根を源頭部めがけて急下降する。右手の源頭から水が流れ始めているのが目に入る。時間に余裕がなくなってはいるのだが、次男が大量に水を消費したせいで水の余裕が少なくなりつつある。沢に降りて水を補給すると、水の冷たさが喉に滲みわたる。ふと上流を見上げると臙脂色の道標が目に入る。谷沿いにつけられていた古いルートのもののようだ。
下るにつれて谷は広くなり、歩きやすい。斜面には苔むした炭焼き窯の跡がいくつか現れる。この炭焼き窯もなかなか雰囲気のよいところだ。沢沿いにはヤマツツジの朱色に目を奪われる。広い谷の平坦な左岸には再び苔むした石垣が現れるが炭焼窯の後にしては横に広く伸びているように思われる。果たしてなんの跡だろうか?と思っていたが、連窯の跡ということを他のメンバーの方が教えて下さる。
神崎川に出ると再び、左岸沿いの道に入る。タケ谷の出合が近づくと、平坦な河岸段丘となり、快適な林が広がる。タケ谷出合では次男は無事に神崎川を渡渉するのだが、家内がなかなか来ない。心配になって、道を引き返しはじめたところでようやく家内が到着する。渡渉するとオフ会の会場を目指して黙々と右岸の広い河岸段丘を辿る。
タケ谷を渡ると、下草のない広々とした新緑の林が広がりようになった。樹高の高い樹々が陽光を柔らかく遮り、林の中には清々しい緑の空気が充満している。なるほど、これが鈴鹿の上高地と呼ばれるところか。しかし、この林の景色を愉しんでいる余裕はない。まずはオフ会の会場を探して先へと進む。
川の近くでは人の群れが目に入る。遂に辿り着いたかと思い、近づいてみると数名の小さな子供達を伴った家族連れであった。もう少し進んだところで、ようやく彼方に周りを車座になって談笑する人の群れとその中心で見覚えのある背の高い男性が目に入る。Gooさんである。1時間半ほどの遅れで到着することになった。
次男も空腹なようだ。早速にもベーコンとしめじ、新玉葱でトマト鍋を調理する。本来はここにパスタを投入し、スープパスタにするつもりで、食材も豊富に用意をしてきたのだが、オフ会はもう既に終了しようという頃、時間的な余裕はない。多量の余った食材は再び背負って帰ることになる。
ほぼ終了間際に到着することになってしまったオフ会ではあるが、気がつくと会場に残っているのはいつの間にか我々の他には数名のみ。到着してから1時間半ほどの時間が経過している。時間が経過の早いことに今更ながらに驚く。
オフ会からの復路はGooさんに同行させて頂く。家内が京都に帰ってから用意しなければならない食事の時間を気にして、当初はキノコ岩を経由してブナ清水に向かう予定を根の平峠からブナ清水に向かうコースに変更してくださる。
会場を後にタケ谷出合に向かうと、終盤の石楠花の花が湿地の畔で我々を見送ってくれる。今年は鈴鹿の石楠花ははずれ年との話ではあるが、この時期に見かけるということは相当に花期も遅かったのだろう。一輪でも石楠花をみかけると嬉しいものだ。湿地の右手の緩斜面を登ると根の平峠に向かう明瞭な登山道が見つかる。
広いタケ谷を沢に沿って緩やかに登ってゆく。オゾ谷でも多くのヤマツツジを見かけたが、新緑を背景に咲く朱色の花は目に鮮やかだ。谷の右奥で白い花を纏った樹にそこだけ光があたって、眩いほどに輝いている。近づいてみると実によく見かける白い花ではあるにもかかわらず、すぐには名前が出てこない。後から思い出すと、なんということはないヤブデマリの花であった。我々が満開の白い花を愛でているうちに、後ろの林の中から忽然とOさんが出現する。
根の平峠が近づくにつれ、谷の源頭部はなだらかな斜面が広がるようになる。林の間かはところどころに広がる草地がり、絵画のような優美な風景を提供してくれる。朝明から鈴鹿主脈に至るのに最もポピュラーなルートではあるが、やはり魅力的なところである。登山道に戻り、根の平峠に到着すると、小さい子供を連れた数家族のグループが休憩しておられる。鈴鹿の上高地でお隣で見かけたグループだ。
根の平峠を過ぎると、いよいよブナ清水に向かって、花崗岩の間を流れる急流に沿って登ってゆく。この沢を遡行するとしたら容易ではないと思うが、かなり踏み込まれた明瞭な踏み跡が続いている。昔からあった登山路のようにも思えるほどだが、しばらく前までは踏み跡すらないところだったらしい。
登りがきつくなるにつれ家内が遅れることを心配したが、前半の山行とは異なり、全く遅れることなくついてくる。やはりGooさんと一緒だと緊張感が違うのだろうか。次男が再び咳をするようになる。
登るにつれて、山毛欅の樹が目立つ。やがて谷がなだらかに広がり、山毛欅の広々とした林の中を清流が緩やかに流れるようになる。ここは誰しもが歩みを緩め、心ゆくまでこの透明な緑の空気を呼吸することを願う場所であろう。午後の木漏れ陽が山毛欅の樹肌や林床に柔らかな光の斑なコントラストを添えている。
先程まで辿ってきた水の流れがどこへ行ったのだろうか、細い水の流れを目で追うと、落葉の谷間に抱かれるよう横たわる巨岩の下から勢いよく迸り出る水流が目に入る。
ブナ清水からは朝明に向かって真っ直ぐに下る尾根を下山ルートに選択する。最初はなだらかな二重尾根であり、その尾根の間には小さな池がある。踏み跡を追って尾根の間を進むが、すぐに踏み跡は不明瞭となる。どうやら尾根筋は左端の尾根から続くようだ。わずかに斜面をトラバースして尾根芯を捉えると明瞭な踏み跡が現われる。丁度そこは樹林の切れ目でもあり目の前には広々とした伊勢谷とその向こうに聳える釈迦岳の展望が大きく広がる。左手の山中で一際、目を惹く白い小さな三角錐は朝に登った羽鳥峰だ。
尾根はかなりのヤセ尾根の急下降が続く。岩場が数箇所に出現するが、岩場の度に好展望が広がり、急下降の緊張感を癒してくれる。尾根から東側に望む四日市の市街は霞んでおり、光化学スモッグが心配される。
尾根は下るにつれて樫の樹林となり、眺望がなくなる。尾根芯を少しでも外れると斜面には樫の滑りやすい落葉が敷き詰められている。二度ほど尾根芯の藪を避けて斜面の踏み跡を辿ってしまったが、家内と次男が落葉の上で足を滑らせる。この尾根はヤセ尾根の尾根芯を外さないのがポイントであろう。
延々と続くように思われた急下降も朝明渓谷の遊歩道と合流すると、途端に道も広く、なだらかになる。間もなく遊歩道は左手の斜面を降りてゆく。遊歩道を辿り舗装路を下るという選択もあったが、先に見える小ピークの向こう側では樹林が切れている。家内と次男を先に行かせ、展望を期待してピークへと登り返す。
ピークのから眺望は期待以上のものがあった。わずかに西側に降りると辿ってきた尾根が一望のもとである。滑りやすい樫の落葉が積もった斜面をショートカットして、下の林道に降りると、丁度、先を行く家内と次男が林道の向こうから歩いてくるところに合流した。舗装路に出るとすぐに朝明の駐車場に帰り着く。
駐車場には我々の3台の車と見覚えのある白い車の他にはわずか数台の車しか残っていない。朝明を後に平野に出て鈴鹿の主脈を振り返ると、収穫期を迎えつつある小麦畑が傾いてゆく西陽を浴びて小麦色に輝いていた。次男の感想は意外にも「今日は楽だった」。
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