高ボッチ山-塩尻峠 〜独りぼっち〜
- GPS
- 07:45
- 距離
- 23.3km
- 登り
- 1,108m
- 下り
- 1,000m
コースタイム
- 山行
- 1:12
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 1:12
天候 | 1/12 曇り 1/13 曇り時々雪のち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2020年01月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
1/13 岡谷駅発15:37(臨時特急かいじ号)新宿駅着18:28 |
コース状況/ 危険箇所等 |
BBR塩尻かたおか〜高ボッチ山 樹林帯の明瞭な道、抜けてからは幅広の尾根伝いに。方向間違わなければどこを歩いてもたどり着ける。 高ボッチ山〜東山 幅広の尾根を左に寄りすぎず乗り切れば何とかなる。 東山〜塩尻峠 完全にミスルート。強引に復帰したため、軌跡がほとんど参考にならず。他の方の記録をご参照。それにしても「わな」が怖かった。 |
その他周辺情報 | ブリーズベイリゾート塩尻かたおか(旧称アスティかたおか) 夕食付8,310円、10畳の部屋に通してくれた。食事も温泉も文句無し。 |
写真
感想
独りの時間を満喫した山行だった。高原の白い霧の中、ぼんやり浮かぶモニュメントを見つめ、広い牧草地の上をのんびり歩き、音の無い樹林帯で耳を澄ました。標識やテープのほとんど無い道、か細い踏み跡を、慎重に進んだ。(にもかかわらずコースアウトしたが)
眺望は得られなかったが、それぞれの光景を鮮明に記憶できた。1度も腰を下ろさず、ひたすら歩いた。悪天候予報に出発を躊躇ったが、やはり行って良かった。今年最初の山行は、思いのほか印象的で濃密な時間を与えてくれた。
<以下詳細記録>
眺望が魅力の山に、悪天候の日に登ることほど空しいことはない。そう思って、10日前から天気図や予報から目が離せなくなった。このところ最も信頼しているウェザーニュースでさえ、「どんでん返し」を受けること多々あり、なかなか期待どおりにはゆかない。北アルプスと八ヶ岳の眺望が秀逸の高ボッチ山、祈るような思いでそのときを待った。
出発日の二日前、当日が典型的な冬型配置になることを知り、旅行サイトのキャンセルボタンを押す寸前まで進んでしまった。けれどもその翌日、1時間刻みの予報から雪だるまマークが減りつつあるのを確認し、荷をまとめ始めた。
早く着きすぎたので、ニュウマンのPAULで、コーヒーとクロワッサンを頼んだ。テーブルの上には、手書きのコースが書き込まれた地形図と買い換えたばかりのスマートホン。二つの重要アイテムに大いなる期待を寄せ、コースタイムの無い道を可能な限り想像した。
松本行き高速バスは満席だった。ウォークマンに3時間を託し、リクライニングレバーに手をかけた。少しの間、明日の予定を忘れることにした。
長野道広丘野村バス停、勿論下りるのは初めてだ。ここから登山口の宿まで1時間ほどゆっくりと歩く。相変わらず渋いアプローチを選択できたことにすこぶる満足していた。曇り空だが、泣き出しそうにはない。東へ、しばらく道は直線状、やがて緩やかな上り坂へと変化してゆく。
宿の名前は、ブリーズベイリゾート塩尻かたおか。外観には歴史を感じさせられたが、館内はきれいにリニューアルされ、快適な滞在を約束してくれるようだった。10畳の和室、リゾートホテルに当然備わるべき設備が用意されていた。そしてパノラマ写真によると、大きな窓の向こうには、北アルプスの雄大な姿があるはずだった。
露天風呂で温泉浴を堪能し、信州牛のすきやきに舌鼓を打つ。部屋の中央に布団を敷き、読みかけの本を開いた。明日が荒天ならばこのまま帰っても良い、そう思えるほど至福の時間を過ごした。
午前6時に自然に目が覚めた。予定どおり準備を進める。白み始めた空は徐々に青色に染まってゆく。このまま、いやそれ以上、晴天への思いは強くなる一方だった。天気予報では午後から晴れることになっていたが、山頂滞在の間だけでも雪雲を遠のかせてほしい、そう望まざるにはいられなかった。
午前7時、宿を発つ。樹林帯の道は明瞭で、穏やかで静かな始まりだった。冷え切った空気に触れる熊鈴の音色は、いつになく澄んでいる。今日は道迷いによるロスも見込んだ時間配分をしていて、標高差600メートル余りを2時間弱で登り、900メートルを4時間かけて下る予定だった。先を急ぐ必要はなく、晴天の訪れを待てるだけ待ちたかった。
林道を渡ってからは、道は徐々に白さを増し、雪も舞い始めた。ほどなく急登らしい登りを経ずに樹林帯を抜ける。そのまま樹林帯を進む道の方がはっきりとしていたが、低木も育っていない幅広の斜面の方が気持ち良さそうだった。どこを進んでも方向さえ誤らなければ、辿り着けるだろう。
厚手のセーターだけでは少し心配な程度の風が吹いていた。前方には、雲間からうっすらと陽の光が射す。神々しい光景に息を呑み、振り向けば、青空と松本盆地が望めた。いいぞ、このまま雲が退散すれば、見たかった眺望が得られる。
午前8時30分、突然目の前に鉄条網が現れた。途切れることなく横一線に張り巡らされ、潜り抜けるほかなかった。複雑な倒木よりはましかもしれない。
そしてその先には牧草地が広がっていた。再び降り始めた雪の中、電波塔を目指し進んだ。気持ち良かった。徐々に、眺望の得られない空しさを忘れつつあった。電波塔を捲くように、展望台に近づく。道端の木々が美しい霧氷を纏っていた。先日の赤城山のそれとは異なる、得難い気品を感じた。
展望台の標識によると、ここに、だいだらぼっちが腰かけて休んだという言い伝えがあるようだ。確かに、この高原は、美ヶ原ほど広くはなく、今日のようにひとりぼっちの私にはちょうどよい大きさである。北アルプスの片鱗も見えず、されど心は満たされている、またレット・イット・ゴーを口ずさみそうだった。
高ボッチ山山頂には、9時20分に到着した。勿論ここからも何も見えない。コーヒーを淹れるほどの余裕もない。一路、塩尻峠を目指し、南下を開始した。
スカイラインに出てからは、路面の氷で転倒しないよう慎重に進む。再び登山道に入り、しばらくすると前方に、陽の光に輝く諏訪湖が現れた。そしてその向こうには、富士山のシルエット。やはり嬉しい。俄かに体力が回復するようだった。
予報どおり、時間を追うごとに青空は増し、アウターを脱げるほど暖かくなった。広がった尾根を、踏み跡構わず下りて行く。南面ゆえ積雪はほとんど無かった。
ひとしきり下ると荷直峠。ここからしばらく車道を進む。わなに注意の看板が新旧入り混じって貼られている。東山への取り付き点にも標識は無かったが、大分勘が養われてきたせいか迷わず車道を離れられた。
東山には予定よりも30分程度早く着いた。腰を下ろし、コーヒーを淹れようか迷ったが、何となく休むことを躊躇い、すぐに出発した。明瞭な道がほぼ直線状に続いていた。少し急だが、なかなか快適、これなら塩尻峠には相当早く着けそうだ。
それから10分、突然訳も無く不安になった。慌ててスマホの画面をのぞき込む。全くあらぬ方向に進んでいた。幅広の尾根でも、か細い踏み跡を辿るのも容易く歩いてきたのに、妖しく魅せられたかのごとくその道に引き込まれていた。
急坂を戻るのは嫌だ。遠回りでもいずれ正規ルートと合流するのだ。このまま行こう、そう決意し、足早に下り続けた。ふと地図を見れば近くに林道がある。少し強引に降下すれば辿り着けそうだ。当然のように駆け降りた。
今から思えば、わなの危険性を完全に忘れていたが、何とか林道に出て予定のコースに復帰した。歩きやすく、緩やかに道は伸びていた。程なくして車道に出た。展望台が見える。大いなる期待と共に上がった。
眼前に諏訪湖とそれを囲むように市街地が広がっていた。かすかだが富士山も見える。12時を回り、数時間前の霧に包まれた氷点下の世界からは想像できないほどの、暖かでのどかな光景がそこにあった。振り返れば、雲に包まれた御嶽山、乗鞍岳、北アルプスの姿。何も感じられない。十分に独りの山旅を満喫したことを知った。
塩尻峠に着いたのは12時半、車の窓越しだがようやく人と出会った。急に空腹を覚えた。国道20号を縫うように下ってゆく。そこここから美味しそうなにおいがしてきた。早く駅に着きたかったからか、4キロメートルあまりの市街地歩行は、ひどく長く感じた。汗ばむほどではなかったが、この季節に珍しくコカ・コーラを求めていた。
出発の二日前、決行を躊躇ったのは、天候のせいだけではない。未だ痛みの消えない左腕は、十分にブレーキだった。帰ったらクリニックを受診しよう。そう誓うために空を見上げる。もう雲はほとんど退散していた。思いがけず素敵な山行になった。きっと、あの高原でのひとときを忘れることはないだろう。たとえしばらく山に向かえなくても、しばらく独りの時間が得られなくとも、あの光景を思い出せればきっと。
コメント
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kimichin2さん、ステキな冬の高ボッチレコですね(^^) 静かな風景がすごく印象的でした!冬の高ボッチも行ってみたくなりました。
住んだことはありませんが、若い頃長野県内を仕事で飛び回っていた時から思っていたのですが、県内の街では塩尻が1番好きな風景の見れる街です。穂高と槍がこれほどキレイに間近で見える街は他にありません。松本だと常念山脈が大きすぎて見えないし、上田や小諸もキレイに見えるのですが遠望すぎて。。。塩尻からの風景は山に登らなくても美しい穂高連邦が望めて、塩尻山麓に住めたら幸せだろうな〜って思っています。
今回はお宿や山頂からの北アルプスは少し残念でしたが、麓からも十分楽しめると思うので高ボッチの思い出と共に、またいつか塩尻を通過する際の楽しみにしてみてください(^^)
harubo33様
高速バスを降りたとき、ひんやり乾燥した空気に清々しさを感じ、前方を見上げるとぼんやりと「かたまり」が見えました。塩尻の良さを感じられた瞬間かもしれません。晴れていればそこからもきっと望めたのでしょう。
北アルプスの見えない高ボッチなんて、と思っていましたが、広い雪原(というほど積もっていませんでしたが)の中にぽつんと独りいられて幸せでした。まさに単独行の良さはこれだ、なんて思っていました。
登山に、スキーに、忙しい冬と思いますが、怪我に気を付けて、また楽しいレコを読ませてください。
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