海谷山塊・不動川
- GPS
- 80:00
- 距離
- 11.1km
- 登り
- 1,495m
- 下り
- 960m
コースタイム
9月23日:C1→アブキの河原岩小屋C2
9月24日:C2→標高920mC3
9月25日:C3→阿弥陀山→阿弥陀沢左俣下降
アクセス |
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写真
感想
海谷山塊・不動川
【年月日】2001/9/22-25
【メンバ】日下(90年入部)、松原(90年入部)
【行 程】
9月22日:糸魚川→粟倉→不動川二の沢出合C1
9月23日:C1→アブキの河原岩小屋C2
9月24日:C2→標高920mC3
9月25日:C3→阿弥陀山→阿弥陀沢左俣下降
【記 録】
入山までの二週間、この谷からは久しく感じたことのない程の大きなプレッシャーを受け続けた。「ゴルジュクライミングの原器」「究極のゴルジュ」記録中の"もがく、溺れる"の文字、・・・しかし、すべてがうまく回った。
9月21日:糸魚川へ
塾終了後、高山経由にて一路糸魚川を目指す。峠では、冷たい雨が降る。
9月22日:海岸ぶらぶら減水待ち
深夜、久方ぶりの日本海との御対面に一人、嬌声をあげる。ビリー・ホリデイを伴った5時間のドライブにて糸魚川到着。近いもんだ。車中にて仮眠をとる。5時半、糸魚川駅にて日下と合流。何と、タイミングを同じくして不動川に入渓するという一団有り。日本山岳会青年部と名古屋ACCの混成3人パーティ一がそれで、彼らのフレンズやらウェットスーツやらの重装備ふりにはコチラが不安を覚えるほど。名古屋の山田氏から御嶽の兵衛谷での例の遭難話を聞く(俺はどうやら遺体のすぐ脇を通過していたようだ)。
お先に、と出発するも、我らがアルト号はあっと言う間に彼らのRV車にブチ抜かれる。粟倉についてみれば、不動川は濁りをもって増水しており、ここにきてバラつき出した雨も我々の入渓を牽制している。ので、今日の予定を2時間で着く二の沢出合までとし、減水待ちと称して町に引き返し、日本海で昼寝をこく。波は高いが海岸では快晴で、人懐こい翡翠拾い爺さんの講釈を聞く。ただひたすらに青い海。午後は、下山の事を考えて山境峠に車を回し、ヒッチを決めて出合に戻って減水した頃合をみて人渓。ショボい流れはいつしか奥行きの有るゴーロ帯となり、両岸壁が高く迫ってきたところに不動滝が侵入に待ったをかける。これはチョックストウン持ちの8m滝で登れず、定石通り右岸を巻く。ルートに迷うことはない。降り立ったニノ沢出合から下流には、不動滝に連なる抉れたゴルジュが滝を伴って俯瞰できる。予定通りここで幕なのだが、天場とは言えぬ、強引に開削した草の上にゴロ寝を決め込む。遠くで落石の音がする。明日の更なる減水と、気温上昇を期待す。
9月23日:(快晴)ファイト一日目
秋の優勢な移動高の張り出しに、警戒心ゼロで下部廊下に足を踏み入れる。天場すぐの4m滝は、左のブッシュから7mの懸垂下降。この沢での高巻きは殊にイヤラシイので、あとは全部中を行こうぜと話し合いスタート。いきなり泳げとばかりに、大きな釜を従えた見覚えのある4mチョックストウン滝現わる。過去にはボルトを打ったりもしている様だが、日下が事も無げに左手ポコポコスラブに這い上がる。お上手。次が問題の10mチョックストウン滝で、左岸の残置ボルトが無けりゃ帰ってしまうところだ。出だしに一本アングルを打ち足して、十年振りのアブミでの人工リ一ド。残置は実に上手く打ってあり、リーチの短い俺にはいささか遠い。セカンドの日下は、ボルトを一本抜いて上がって来た。ひえぇ。この上流からは両岸迫り、2m程の厄介そうな滝の前では右壁が押さえ付けてくる感じ。日下が果敢にシャワーを浴びて攻めるも撃退されて戻ってくる。ザック置いて空身で登る。俺はといえば、悪い予感が的中し、落水下にてもがく。意外にも冷静に対処できたが、消耗はした。次は成功。越えたところは絶好の日だまりになっており、爬虫類よろしく太陽光を全身に浴びて回復を図る。震えで、昼メシ食うにも大儀なほどにアゴが痛い。
この先からは更に月世界化が進み、えぐれた釜持ちの小滝を短い斜懸垂で越える。これも写真でよく見るくの字段差2mは、左岸残置ボルト3本の安易な人工登攀。江戸時代頃の余別川の様相を想像させる廊下がうねうねと間断無く続く。奥に落ちる7m滝に泳いでトライするも、瀑流を横断する所であと1歩及ばず圧し戻される。日下はスタローンばりに滝身にへばり付く。落水右の落ち口への登りも、渋い。振り返れば、両岸くっつかんばかりのこの狭まりよ。庇のように覆い被さるこのゴルジュの造り、その威圧感たるやザクロ谷を凌ぐ。綺麗とは言い難いが、究極のゴルジュの一つの型であり、好きな人には堪えられないだろうし、そうでない人にはそうでない空間だ。本図パーティーが手古摺り、志水パーティーが苦労の末高巻いたという例の4m滝には、10m程泳いで左岸に点々と打たれたボルトに導かれて日下が上昇するも2本目で抜落、アブミ紛失で敗退。タッチして1本飛ばしで俺が登る。落ち口のボルトはひん曲がってクサビが辛うじて引っ掛かっているだけの、今にもスッポリ抜けそうな代物で、日下は以降ボルト恐怖症に陥ることになる。
この上から、心持ち両岸が緩む。次の3mは面白い。これも日下が泳いで右手に取り付き、水際の貫通した岩穴をシャワー浴びつつくぐり抜けて登るという代物。小さいが、これも貴重な釜の底抜け物(5つ目のコレクションだ)。この岩のブリッジ部分は真っすぐで、最初は流木だと勘違いした程だ。この上の小滝をショルダーで越えたところで、高巻いている最中の先行パーティーに追いつく。一瞬、誰なのか認識できなかった!というのも、彼らは既に昨日中に下の廊下を抜けているものだと思い込んでいたから。最後の関門である5mチョックストウン滝に日下はトライしているが、そんな瀑水に突っ込んで登られた日にゃ、フォローする俺はたまらんぜよ。初のスカイフックまで動員して5分程張り付いていた日下も諦めて戻ってきたので胸を撫で下ろす。後で聞けば、先の3人は一時間程粘っていたとの事。彼ら同様、左岸捲きにかかるが簡単ではない。打ちたてほやほやのボルトが2本あり、それを利用して捲いて懸垂下降。捲きの途中で「さっきの滝には、流水の下に隠れホールドかあるそうな」と、昔の記録に書いてあった通りに話すと日下の奴、地団駄踏んで悔しがっていた。本日初めての支沢である三の沢を確認、残る滝はおとなしくなった両岸をいいことに容易に捲く。ザクロもそうだったが、この険谷中に一区切りをつけるアブキの河原の存在は実に有難い。たった1キロ進むのに丸一日を費やした。一足早く到着していた彼らと報告会。何と!14本ものボルトを打っていたとは!! 14本!!! お陰で俺たちは苦もなく下の廊下を通過できた訳だ。山田氏曰く「僕ら、松原さん達のサポート隊でしたわ。」ありがとう。その夜は岩小屋泊。
9月24日(晴れ):ファイト二日目
皆、放射冷却の寒さで早起き。日数不足で下山する彼らに挨拶して、出発。暫くの河原歩きで簾滝を左右から合わせ、再び両岸が立ちあがる。上の廊下へようこそ、と。ゴーロ越えで朝の準備運動、右に曲がった地点の大岩下の滝が四段滝の始まりで、二段目小滝の右手にはボルト穴が見える。ここは日下の肩を借りてショルダーで上がる。左手に残置ボルトが見えるが、これまた無視して右手にロープを伸ばす。正解。そろそろだと思えば、これまた見覚えのある二条5m チョックストウン滝が、緑の淵を従えて登場。明るい日差しに包まれて、日下が滝裏に潜り込み、そこで二人が集合する。ここには30センチ程のアンモナイトの化石がある。ボルト穴に一本差し込んでアブミに乗り、落水浴びつつチョックストウンにナッツを引っ掛けて伸ぴ上がったところで、スッポリ抜けてボッチャン。今度は日下が、唯一のキャメロットを闇雲に咬ませて水流の向こう側に登り抜ける。これでもう、溺れる心配は無くなった。この上で旗振沢を分け、水量と共に威圧感も幾分減じる。15m滝にも手堅くロープを出し、巨岩トンネル下の小滝も水流を潜り抜けて流木とアブミ利用で難無く登れる。12mの滝は、かつてはチョックストウン滝と記録にあったが、どうやら岩が抜け落ちたようだ。左岸を3ピッチの高巻きと懸垂20m。途中、両岸高くに壁が必要以上に立っているのが見える。長淵持ちの3m滝などはトライする気も起きずに右岸を先程と同様の高巻懸垂。二俣に着く頃には、二人とも疲労でヘロヘロのハニワ状態になり、久しぶりの快楽に目を合わす。光を求め、重い身体を何とか標高920mまで引きずり上げる。またしても満点の星空と焚き火、酒は尽きたが話は弾む。
9月25日(晴れ):詰めと下山
のんびりと発つ。細かい地図読みをして進む。30mの滝は左岸をあっけなく捲き、傾斜をつけ出したゴーロを進む。ちゃんと地図読んで。つるっとした小滝群そして源頭のスラブを、気を引き締めて登り詰め、石仏佇む阿弥陀山へ。見慣れぬ山々と、日本海。冬の風景を思ってみた。稜線の薮を辛抱強く西へ漕ぎ、阿弥陀沢の左俣に確実に当て、入り込む。かつて、志水哲也氏が下山ではまっていたので。海川では、図らずも上高地を思い出した。後は山境峠までの道を、頭の中を空っぽにして歩く。噂に聞きし千丈ヶ岳南西壁は、大した壁だとは思えど勃起こそしないのが成瀬氏と俺の微妙な相違だ。駅前食堂で祝杯をあげ、糸魚川駅で日下に手を振る。温泉で汗を流せば、湯に浸けられぬ程に両手が傷ついていた事に気付く。親不知のドライブインにて車中泊。穏やかな波の音がする。
(松原記)
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