奥久慈縦走:西金から下野宮(県北ロングトレイル)
- GPS
- 15:10
- 距離
- 27.0km
- 登り
- 2,305m
- 下り
- 2,256m
コースタイム
- 山行
- 12:28
- 休憩
- 2:42
- 合計
- 15:10
天候 | 曇り |
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過去天気図(気象庁) | 2021年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
水郡線は極端に本数が少ないので、あらかじめ列車の時刻を確認します。また、筆者も忘れておりましたが、水郡線の常陸大子ー郡山間は大雨の影響でダイヤが乱れることが非常に多く、一番まずいパターンは運休です。時刻表だけではなく実際の運行状況を確認することがお勧めです。 無人駅に有りそうでないのがタクシー会社のチラシです。どこを呼ぶかを事前に調べておきます。台数が少ないのと近場に居ないのとで、すぐに来てくれるとは限らないということと、登山の場合夜中になることはめったにありませんが、夜遅いと営業終了で迎えに来てくれないことがあるという田舎ならではの事情があるので用心します。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
難しいコースではありませんが、がけっぷちを歩くところが多く、ちょっとした不注意が簡単に死亡事故につながります。特に雨または雨上がりは斜面が湿っているので滑りやすく、一段と危険度が上がります。 以下 場所別に感想を書きます。 ■不動滝入口ー釜沢越 滝の入口は川を囲った高い護岸沿いに歩きますが狭いので転落に気をつけます。その先の木道は腐りかけて崩落の危険があります。木道をよけたほうが安全でしょう。 不動滝からは落ち口へ高巻きます。滝の水しぶきで湿っていることが多いので、足元が滑りやすくなっております。鎖があるのでうまくバランスをとります。なお、単純に自分の体重(70kg)と自分の握力(50kg)を比較してみると、鎖があるといっても滑落が始まってしまえば握力で止めることはできそうにありません。どちらかというと絶対に滑らないための補助具だと考えます。 猩々岩方面は滝の落ち口にある標識の後ろの急斜面から入ります。バリエーションルートではありませんが、登山者は極端に少なくなりますので、自己管理がいっそう重要です。夏場でも踏み跡がかなり明瞭で、随所にテープや鎖があるので迷いは少ないです。猩々岩までの斜度はかなりあり、滑落が始まったら助からないので、ホールドを慎重に取って登ります 。 ■釜沢越ー男体山 釜沢越から大円地越まえでは、男体山に比べると、縦走者は少なくなりますので用心します。踏み跡が多く紛れがあります。枝道へ入るためのテープも下がっているのと、最近は枝道をハイキングする人も増えて枝道の踏み跡がしっかりしてきており、普通のルートかどうかは迷う場合があります。少し怪しくなってきたら、GPSで地図上の現在位置を確認しながら進みます。今回は不覚にも湯沢源流の方に降りかけてしまいました。別の山行では稜線沿いの踏み跡をたどって崖のような急斜面をクライムダウンしたこともあり、意外と道間違えしやすい地域です。 また天候にかかわらず湿った岩場を通過する箇所がいくつかあり、大変に滑りやすく危険です。そういった箇所には大抵鎖やステップがあるので、足の置き方、ハンドホールドの取り方に注意して進みます。特に大円地越直前の急な下りがあと少しということで油断を誘うところです。 男体山の頂上稜線に出ると、両側が切れた、特に一方は完全に崖になったやせ尾根を歩きます。ススキなどの草が伸びており、崖を隠しています。草の下に地面はないかもしれません。地面が見えている所に確実に足を置くように気をつけて進みます。普通に歩いているときには用心できるのですが、前方から登山者が来てすれ違うとき、不注意に横に譲るときが危険だと感じました。草の上には絶対に足を置かないように気をつけます。 ■男体山ー月居山 枝道が多いため、ぼんやり歩いていると道迷いする可能性があります。特にまぎれるところは標識やテープが出ているので見落とさないようにします。夏場は湿っていて滑りやすい場所がある一方、落ち葉が踏みしめられて踏み跡が明瞭になるという長所もあります。道は一部崩落が進んでいて危険な箇所があるため慎重に通りました。 ちなみに晩秋から初冬にかけては落ち葉で踏み跡や、崩落寸前の危険箇所が隠されていることがあります。 ■月居山ー生瀬富士 山王山からの下りは、途中から生瀬滝方面ではなく、国道461号方面へ進み、渡渉箇所を目指します。 基本的に渡渉箇所は靴脱ぎ必須です。筆者は渡渉用サンダルを持参してます。ボランティアの方が長靴を置いてくださってますが、どちらかに全部偏っている場合もあります。案外流量があるので足を取られないように気をつけて通行します。特にすのこの橋がかけられている部分が危険です。そのすのこの橋ですが、落ち葉や流木が被っていて歩きづらいことがあります。側の流れが多いときに橋は引き上げられています。 立神山への登山道の途中、袋田の滝を望める良い場所がありますが、がけっぷちですので不用意に寄って転落しないように気をつけます。 立神山山頂から「直進」すると本来のルートでない北東尾根へ入ってしまいます。県北ロングトレイルの標識に従います。一瞬来た道を戻るような錯覚を覚えるところです。 生瀬富士山頂直下は立神山側、袋田駅側ともに垂直の崖気味になっているため3点支持で慎重に登り降りします。 通称ジャンダルムがある北峰は、縦走路の南峰から、北側の薮みたいなところに踏み込むと現れます。すべて岩稜を歩こうとすると、最初の岩に登はん要素があるのですが、巻くことができます。巻き道もがけっぷちの狭い踏み跡をのけぞるようにして通るので、ザックなど引っ掛けないように気をつけます。 ■県北ロングトレイル開通ルート(生瀬富士分岐ー月待ちの滝) 土付きのサディスティックな急斜面の登り降りが続くルートです。開通前に比べますと、ボランティアの皆様が草刈り、ステップカット、補助ロープの設置など、コース整備を進めてくださっており、格段に歩きやすくはなったものの、歩くというよりは這うことを強制されるような箇所も少なくはありません。歩いて転倒するリスクを高めるよりは、四つんばいで登り降りすることを心がけています。 また他の地域とも共通しておりますが、踏み跡にいくつかの紛れがあり、しかも直感に反する方向が正解であることが少なくありません。こういう箇所は今は県北ロングトレイルの黄色テープが十分すぎるほどに巻かれているので、テープを見落とさないようにたどり続けます。当然ですが一端道を外れるとこのテープは見つからなくなりますので、黄色テープが見えなくなったら道迷いを疑ったほうがいいでしょう。 現在土地に関する調査が進められており、その調査目的のピンクテープが、主に稜線に沿って山中縦横に下がっております。こちらをたどって道をはずさないように気をつけますが、厄介なことにハイキングのルートを示すピンクテープもあり、迷うところもあります。迷ったら前述の黄色テープを探すこと、一番明瞭な踏み跡をたどります。 |
その他周辺情報 | 茨城県北ロングトレイルについてはコースの地図なども含めて下記が公式サイトです。 https://kenpokult.com/ 下野宮駅前には旅館「鈴木屋旅館」があります。 https://travel.rakuten.co.jp/HOTEL/130063/130063.html 西金駅を過ぎると自販機は湯沢の足湯(休業中)湯恵(ゆめ)を過ぎると、月待ちの滝を過ぎて、下野宮駅へ向かう道の途中、自動車整備会社の自販機までありません。 この道を更に進んで橋(八溝川)を渡った先のY字路を左へ進むと酒屋さんがあります。駅はこのY字路を右です。 |
写真
装備
備考 | ヘッドランプ 帽子+防虫ネット 日焼け止めという名の虫除け 手袋(ゴム引き軍手、商品名「タフレッド」) 渡渉用サンダル ファーストエイド 雨具 スマホGPS 携帯電話 モバイルバッテリー デジカメ タオル 着替え(下着、靴下一式、薄手フリース 体拭きタオル) 飲料水4L、ペットボトルコーヒー900mL、ミニあんぱん、塩補給飴。 ダイソーの虫除けネット+キャップがお気に入りです。この山域の縦走中は無数のくもの巣を突っ切っていきます。また暖かくなるとブユや蚊の歓迎を受けますが、今回はそれらはまったく気にならず、快適な縦走でした。反射が少ない黒のほうが視界が良いと思いますが、別の色は試したことが無いので自信はありません。若干ですが手元足元は見えづらいところがあるので、三点支持がちな場所ではまくって通過したこともありました。 コーヒー全部と水3.5Lを飲みました。夏場はこれくらい自分に必要と感じました。 ペットのコーヒーは敢えて普段買わない砂糖入りです。あの甘さとコーヒーの苦さのバランスが山では疲労をうまくごまかしてくれる気がするからです。 パンツ(ズボン)の替えも、ショートパンツでもいいので用意しておけばと思いました。今回はズボン代わりにレインパンツでしのぎました。気温が結構低かったので上下雨具を着込んで列車を待ちました。渡渉用サンダルは、下山後は着替えの補助と、蒸れた足を乾かし、休めるために活躍しました。 |
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感想
去年から奥久慈の夏山を歩くようになり。樹林帯は案外さわやかな風が吹くことを知った。汗はどっさりかくものの、焼けつく太陽、地獄の蒸し暑さという夏の低山の先入観は誤っていた。特に今回は地域全体の気温が低かったことにも助けられ、今年の最長移動距離にもかかわらず、縦走終盤で頭痛や吐き気が出ることもなく、普通に疲れただけで歩けたことはうれしい。
それにしても、もっと長い距離を走るトレランの方々のスタミナには脱帽する。
下山後に下野宮駅で着物履物を全取替えして、涼しい夜の駅舎をノコギリクワガタ、アブラゼミ、アマガエル、蛾たちととともに、縦走の余韻に浸っていたら、水郡線が線路に干渉した倒木の影響により85分遅れた。折しも激しく降りだした雨音をBGMに、縦走の余韻に加えて駅舎泊かもというドキドキ感まで楽しむことができた。
−−−以下自分のためのメモ−−−
■膝は恐らく回復
6月中旬に膝に痛みが出てトレーニングを抑えてきた。その後膝裏という今まで出たことのないようなところの筋肉にずっと張りのようなものが残っていて、走りたいけれども走ると違和感を感じるので散歩に切り替えるということを繰り返してきた。
7月になり不動滝往復、不動滝から袋田の滝と歩いて、歩いている分には、膝に違和感があるということさえ忘れてしまうことがわかった。一方走るほうについても、古傷のようなものが動き出しに少し感じられるけれども、じわじわと動き出していくぶんには、体が温まるにつれて快適になることもわかってきた。これならば本格的なハイキングを復活させても大丈夫ではないか。そんな野心的な気分になってきた。
7月に不動滝−袋田の滝をやったら脚がまだまだ歩けそうだったので、かねて妄想していた滝から滝の縦走、不動滝から月待ちの滝をやろうと決心した。
■尻込み
決心とはいっても、今までは妄想の範囲でしかなかったアイデアだ。昨年は8月に大円地から奥久慈岩稜(しかも釜沢越まで)を歩いただけでもへろへろになって下山している。一方男体山ー21峰も歩ききるだけで絞りきった気がする縦走だ。両方をつないで、しかも不動滝−釜沢越間をつなぐということは、自分的には3回分のハイキング(不動滝ー男体山、男体山−月居山、月居山−月待ちの滝)を1回でつなぐ企画だ。面白くてワクワクする反面、来るべき体力の著しい消耗を思うと、クーラーの効いた部屋でごろごろしていたほうがいいのではないかという誘惑にも駆られる。
もうひとつ課題は早起きである。これをやるときには超早出が必要なのだ。できれば序盤の林道は夜明け前のうちに歩ききって、縦走路に入るころに丁度明るくなり始めるタイミングにしたい。不動滝の高巻きをヘッデン頼りで登るのは避け、かつ気温の低い朝の時間を使い、なおかつ水郡線の2時間待ちコースを避けて17時32分下野宮発水戸行に滑り込むということを考えると、西金3時スタートを目標としたい。ということは、1時起床になる。これって早起きというより、寝ないというほうに近い。
そうした慢心と恐怖心と、若干の疲労で結構は2度キャンセルされた。1回目は8月7日の土曜日。前日金曜日の仕事の都合で帰宅が遅くなり、寝たのは11時ごろ。起床は5時。これでは無理だというということで見送り。翌日8日は雨の予報で見送り(実際終日雨)。
2回目は8月11日火曜日。今度は12時に起きてしまい。ちょっと寝なおしと思ったら再び5時まで寝坊。
3度目の正直も12時台の起床だったが、今回は前日たっぷり眠っておいたおかげで、寝なおしの誘惑も感じずにすんなりとスタートすることができた。
■夜間の滝の高巻き
西金スタートは午前3時半前。若干遅い。この30分が最終的に明暗を分けたようなところもある。前回6月にやったときには3時半はすでに薄明だったが、夏至からおよそ2ヶ月が過ぎようとしていると、夏の日の長さという印象とは裏腹に日の出は遅くなり始めている。真っ暗な中をヘッドランプで湯沢集落を通過した。曇天のおかげで、空は早めに白み、薄明の気配を出してくれる。。ホタル観察をやった山田の中を通過して不動滝の取り付きを目指した。もしかしたら名残のホタルが見られるかもしれないと期待したが、そもそもホタルは明け方にはあまり光らないし、盛りのシーズンを過ぎていてこれはホタルだと自信を持って言える光の明滅は観察することができなかった。じっくり探せばまだいたかもしれないが、今日はただただ歩き続けること。ホタルは(縁があれば)来年ということで先を急いだ。
イノシシとぶつかることもなくパノラマラインへの突き当りまで到着した。ここから山登りモードに入る。日焼け止めという名前の虫除け(虫除け効果は最強であると自分は思っている。しかも水に落ちにくい)を塗り、水と、行動食のミニあんぱんで元気をつけ、ポケットに行動食の塩キャンディーグレープフルーツ味を何個か突っ込み、キャップの上に防虫ネットを被って出発準備と、心の準備をおこなった。
時刻は4時半だが50mほど先の滝の取り付き口に自動車が一台停車した。暫く標識を確かめて通過。やがて引き返してきて再び標識の確認の様子。どこかを探しているのだろうか。確かに4時半はもう山歩きなら初めても良い時刻だし、自分と同じ人種ならば道を尋ねられれば答えようと思ったが、結局走り去ってしまった。ドライバーの立場では、細い田んぼ脇の林道にいる人は、いくらヘッデンを明るく照らしていかにもハイカー風情だったとしても、超不審者であり、危険な対象と思ったことは当然であろう。自分がドライバーであっても道は聞かないか。
不動滝への道へ取り付く。ヘッデンに完全に頼っての取り付きは避けたかった。足許は2mくらいの護岸だ。ここを落ちただけで終了だ。その先にはぬかるんだ斜面と腐りかけた木道といくつもの危険箇所がある。慎重に歩く。水音で滝の気配を感じる。というだけである種の畏怖を感じる。
その滝は水量控えめ。ヘッドランプに浮かび上がる白い筋ははかなく寂しい。円山応挙の幽霊画を思い出させる。本気の不動滝を知っている自分にとっても元気出してねと声をかけたくなる気分である。ただし登る身としては滝の高巻きでびしょぬれになることがなくて助かる。
今回の縦走で恐らく一番の危険地帯に突入した。足元の岩か泥かは良く識別がつかず。ただ湿っていることだけはわかる。部分的に崩れかけている場所もあって足を安定してつけるわけではない。鎖でもロープでも頼れるものは何でも頼って歩くと同時に、でも足を滑らさないような置き場を選びつつ、慎重に滝の落ち口まで進んでいった。
まだ安心はできない。ここから猩々岩までは急登だ。一時はゴルジュハンマーまで用意しようか迷ったほど。前回の不動滝ー袋田の滝で、丸腰でもいけそうなことを再確認したが、そのときには土は乾いて最高の状態だった。今回は雨ではないものの前日に少し降ったのであろうか。薮も濡れがち、足許も湿りがちだった。ハンドホールド取り損ねて滑落すれば、滝の落ち口まで落ちて死ぬか、途中で木の幹に頭をぶつけて死ぬ。滝の高巻きの慎重さを維持しつつ、猩々岩にたどり着いた。
■あとは体力の消耗と時刻を気にするだけ
猩々岩からは意外とあっけなく釜沢越に到着してしまうことは前回でも再確認済み。頭を真っ白にして歩くだけだ。そして頭を真っ白にして歩くことが、わざわざこのサディスティックなコースを選んでいる理由である。できれば17時32分の汽車に乗りたいという気持ちが8割。それどころか19時56分に間に合うのかという気持ちが2割という心地で、こつこつ歩いていった。
しかし時刻を気にしていたわりには通過予定時刻を具体的に定めていなかったのはいつものいい加減さ。過去の自分の記録を振り返れば、予定の時刻に駅に着くためには何時にどこを通過しなければならないかはかなり具体的に決められたのだから。袋田まで行ったときに脚がまだまだいけるよと応答していたところで体力を過信していたようだ。たとえば
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-3207205.html
では、17時に下野宮駅に着いているが、通過時刻を見ると、
男体山:07:10
月居山:09:52
生瀬富士:12:17
となっている。今回の縦走はおおよそ、
男体山:08:40
月居山:11:20
生瀬富士:13:50
とおよそ90分遅れで、最終的には
下野宮:18:40
と見事に90分遅れている。恐らく男体山の時点で今日は終列車コースが決定していたわけだから、そのあとの歩き方も、終列車コースを前提にして、道草食ったり、眺望をのんびり楽しんだりするというやり方でも良かったと思う。
こういった現実を知らずに歩いていたから、終列車コースを意識したのは21峰に入ってからだ。それでも三角点「赤坂」では月待ちの滝まで5.1kmで残り持ち時間が2時間20分あるから十分いけるのではないかと、大子アルプスにあれだけ可愛がられた経験を持ちながら楽観的なことを考えていた。
最終的に終列車コースと思ったのは第7峰を16:25に通過したとき。この段階で旧道をまたいでさえいないということは、過去のタイムを見なくてもあの終盤の延々と続くアップダウンを40分程度で歩ききることなど出来はしないという判断に、ようやっとのことでたどり着いたのだ。浅はかだった。
とはいえ過去に代行バスが走っていたころ、下野宮で1時間、常陸大子で1時間という待ちを経験しているので、「汽車に乗れさえすれば」待つこと自体も悪くはないだろう。今回は音楽を聴けるようにイヤホンも用意したし、とのんびり構えていた。
旧道を渡った所で脚がつった。途中で脚がつるのはこの意地悪なコースでは毎度のようなことなので、特別には驚かない。立ち止まって疲労を抜き、少し歩いてはまた立ち止まり、ゆっくり歩いた。2時間待ちコースを決めたので、急ぐ必要はない。途中意表をつくようにある木のベンチで山前の最後の給水、コーヒードーピング、そして行動食を食べた。21法の途中ではしばしば頭痛や吐き気を感じたものだったが、意外にもいつもの足のけいれん以外には、著しくバテを感じずに歩きとおせた。
■下野宮駅で最後のドラマが
ベンチを過ぎ、三角点「釜田」(アカサカにカマタと、東京23区みたいな三角点が続く)を通過し、殺人的な下りを歩かされた後、いよいよ終盤の眺望点第2峰に立った。稲穂の実りつつある田んぼが美しく、その向こうに久慈川右岸の峰々が広がる。その久慈川は、自分が見たことがある中では最も濁り、河原を沈めて流れていた。恐らく上流で大雨が降ったのであろう。そういえば以前郡山から水郡線で水戸方面へ向かおうとしたとき、大雨で汽車が止まり、往生したことを思い出した。上流で大雨だとすると列車が止まる可能性があるな、止まったらやだな。でもまさか止まるとは思っていなかった。
曇りがちな天気、樹林帯の中、早くなりはじめた日没、そして終日被っている黒い防虫ネットのおかげで、見通しが悪くなるのが速く感じてきた。脱ごうとするとブユとくもの巣の歓迎を受けるのでなかなか取れない。セミの鳴き声がやかましいばかりのヒグラシの合唱一色になってきた。その名の通り、間もなく暗くなるぞ。急げ急げと忠告しているかのごとく。21峰入り口で18時過ぎ。ヘッドランプでの下山を辛うじて免れ、庚申塚で山の神様に無事を感謝した。
関心は18:45に乗るか、19:56に乗るかに移った。18:45は常陸大子止まりなので、目的地西金へ行くためだけであれば、19:56で十分だ。無人駅でのんびり汽車を待つのも風情があっていいし、たっぷりある待ち時間を利用して、着物履物をすべて取り替え、汗と泥にまみれた身体をさっぱりさせて汽車に乗るほうが自分にとっても他のお客さんにとってもいいだろう。一方、とりあえず来た列車に乗ってしまえば、少なくとも有人駅の常陸大子駅までは行けるし、常陸大子からであればタクシーを拾う手も残されている(実際には金がないから、クレカを受け付けない車には乗れなかったのだが)
でもこの泥だらけ汗まみれで汗冷えが始まっている身体で常陸大子1時間待ちは堪える。乾いた服と無人駅のムードの魅力に負けて、19:56を選んだ。駅のトイレを利用して、濡れタオルで文字通り全身を磨き、用意してきた下着に着替え、ズボンの換えの変わりにレインスーツを着た。乾いた靴下に渡渉で使ったサンダルを履いてこざっぱりした。
あとは音楽でも聴きながらと思ったが、少しだけ聞いてやめてしまった。汽車が間もなく到着するときのアナウンス(機械)を聞き逃して眠っていたら、全く無意味に終列車を逃してしまう。
運行の様子を示す液晶ディスプレイに終列車が表示され始めた。東館到着。あと矢祭山、下野宮だ。東館到着。1分遅れ、2分遅れ。この程度は安全確認であることだろう、3分遅れ、4分遅れ。さすがに何かおきたことがわかってきた。でも何が起きたかの情報は掲示されない。9分遅れ、10分遅れ、やがて掲示板情報にテロップが流れた、東館ー矢祭山間で線路支障があり、運行開始は20時30分の予定。縦走中に心配していたことが現実に起きてしまった。こうなると18時45分を見送ったことが悔やまれても来る。それでも約40分の遅延なら、とりあえず自分は乗り継ぎがあるわけでもないし、西金に行けさえすればいいのだから待つことにしよう。
駅舎には、ノコギリクワガタ、アマガエル、アブラゼミ、その他セミ(ツクツクホウシか?)名前のわからない蛾などが集まってきた。子供だったら大喜びか。外は雨が降り出したようだ。当初はレインスーツのいでたちは不自然かなと思っていたが、結果的には自然な格好となってしまった。そろそろ20時30分だ。動き出すだろう。
ところが、20時30分を過ぎても、35分になっても、40分になっても列車は依然東館に止まったままだ。一体何が起きたのか?倒木か?落石か?少なくとも土砂崩れのような決定的な出来事ではないだろう。それなら遅延でなくて運休と出るからだ。しかし何が起きているかはわからないが、遅延が運休に変更されることもあるかも知れない。落石の被害が思いのほか大きく、線路の交換を要するなどということがあれば、今晩は汽車が来ないかもしれない。
さて、どのように対応するか?タクシーか?駅前の旅館か?いずれも現金がほとんどないから支払いが難しい。そうなると駅舎で一晩過ごすのか?無人駅なら追い出されないだろう。乾いた暖かい服装に着替えているから、疲れているとはいえ一晩駅舎に寝たところで、変な虫が飛んでこないように窓と出入り口を閉めれば何とかなるだろう。などと考えつつ、何度も運行状況の掲示を眺めた。半分眠ってるから視界がぼやけて列車の停車位置が東館から動き始めたように見えた。良く見直すとやっぱり東館のままだった。
21時を過ぎても東館に停まったままだ、、、あれ、動き出している!列車が東館と矢祭山の間まで来ている。良かったこれで終列車には乗れそうだ。と喜ぶのもつかの間。その列車のマークは駅と駅の間で再びぽつんと停まってしまった。一旦は情況が好転したものの、再び支障が出たということだろうか。
いやなことばかり考えてしまうことおよそ10分。汽車はありがたいことに動き出し、隣り駅の矢祭山まで到着した。支障箇所を通過したから、新しい不具合が発生しない限り、今度こそ汽車は来るだろう。結局遅れること85分。21時21分ごろ、ざあざあ降りの下野宮駅のホームに列車は到着した。これで家でシャワーを浴びて寝ることができる。
車掌さんに何が起きたかを聞いてみると、倒木が列車の通行する箇所に干渉していて伐採していたが、高いところ(周囲の急斜面からの干渉か、それとも高架気味のところだったのかは聞かなかった)であったため、伐採に予想以上に時間がかかってしまったとのことだった。
西金駅到着は22時ごろ。雨は一段と強く、帰宅の運転も結構大変だったが、国道118号からそれたとたん、雨が小降りになっていたのには驚いた。
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おなか周りと頭の仲の緊急事態宣言に伴い、2月から始まった奥久慈ー頭と体脂肪リセットハイキングは奏効している。このまま身体を損ねることなく続けたい。
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