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Yamareco

記録ID: 3687719
全員に公開
沢登り
東海

【奥美濃】西ノ浦(西ノクラ谷)〜△三等・滝谷(大白木山)〜イチン谷左俣

2021年10月30日(土) [日帰り]
 - 拍手
GPS
--:--
距離
8.2km
登り
714m
下り
712m

コースタイム

日帰り
山行
9:20
休憩
0:00
合計
9:20
6:50
20
駐車地
7:10
7:10
210
西ノ浦(西ノクラ谷)に入渓
10:40
10:40
180
△1082.2m(三等・滝谷。別名・大白木山)
13:40
13:40
70
イチン谷本流に合流
14:50
14:50
40
イチン谷・赤谷出合
15:30
15:30
40
赤谷・才ノ谷出合
16:10
駐車地
天候 晴れ
過去天気図(気象庁) 2021年10月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
塚白椿隧道の西口を出てしばらく走ると広い路肩があるため,そこに駐車
コース状況/
危険箇所等
【西ノ浦(西ノクラ谷)】
・ 徳山ダムの湛水により入谷困難になってしまった谷の一つ。長瀑こそないものの,形の美しい滝あり,ちょっとドキッとさせられる極細ゴルジュあり,オール自然林で途中に素晴らしいブナの森ありと,なかなか良い谷。
・ 谷の入り口がぎりぎり徳山ダムのバックウォーターにかかってしまっているが,距離は短いのでダム湖岸をへつったり,山腹を巻いたりして比較的簡単に入渓できる(もちろん,泳いで入渓も可能)。特に,今の時期のように減水でダム湖が小さくなっているときが狙い目。
・ 難易度的にはごく易しい谷で,ほとんどの滝が楽しく直登できるし,無理な場合は簡単に巻くことが可能。植林のない自然林の谷なので,新緑や紅葉を楽しみながらの散策的谷歩きにぴったり。
・ なお,谷を詰め上げた三等・滝谷(大白木山)のある稜線は,当然のことながら藪尾根で道はない。帰路は,今回のようにイチン谷側に降りるか,往路の西ノ浦を戻るかになると思う。もしくは,北方向の尾根を赤谷出合まで降りてもいいと思うが,藪漕ぎになる。

【イチン谷左俣〜イチン谷本流〜赤谷(下降路)】
・ 今回,下降路としたイチン谷左俣(520m二俣の左俣)は,イチン谷本流との出合いに2段20mほどのかなり立派な滝がある。右岸を大きく巻き下るが,急傾斜なので注意。注意が必要なのはそこだけで,あとは小滝が出てくるだけで特に問題はない。
・ イチン谷本流は,途中で8mほどの直瀑が出てくる。右岸側の岩場にフィックスロープがあり,そこからクライムダウンできるが,滑りやすいので注意(懸垂してもよいが,残置ハーケンが錆び錆びなので注意)。そのほかは特に問題なし。
・ 赤谷本流も,イチン谷出合から下部はひたすら河原歩きで,特に困難な箇所はない。渡渉は何度かするが,最大でも腰くらいの水位でそれほど困難はない(増水中は話は別だが)。ゆったりした美しい流れを楽しみながら心安らかに下れる。
今回の山行で最も不安だったのが,徳山ダムのダム湖をどう処理して西ノ浦(西ノクラ谷)に入るか,ということだったのだが,恐る恐る河原に降りてみると,かなり減水している! これはもらった!と嬉々として歩いて行くと…
今回の山行で最も不安だったのが,徳山ダムのダム湖をどう処理して西ノ浦(西ノクラ谷)に入るか,ということだったのだが,恐る恐る河原に降りてみると,かなり減水している! これはもらった!と嬉々として歩いて行くと…
西ノ浦の出合いまであとわずか,というところで,ダム湖に阻まれてしまった。うむむ…やはり,そううまくは行かないか。
西ノ浦の出合いまであとわずか,というところで,ダム湖に阻まれてしまった。うむむ…やはり,そううまくは行かないか。
西ノ浦の出合まではわずかの距離なので,夏なら確実に泳いだだろうが,気温3℃まで冷え込んだ今日,泳いだりしたら山行開始5分にしてお家に帰りたくなってしまいかねない。ここは水とのコンタクトを極力避け,ダム湖の側壁をへつっていく。
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西ノ浦の出合まではわずかの距離なので,夏なら確実に泳いだだろうが,気温3℃まで冷え込んだ今日,泳いだりしたら山行開始5分にしてお家に帰りたくなってしまいかねない。ここは水とのコンタクトを極力避け,ダム湖の側壁をへつっていく。
最後は山腹を少し巻くようにして,難なく西ノ浦に入谷。増水時は西ノ浦の谷の中もバックウォーターに満たされるようで,谷中は石が堆積している。
最後は山腹を少し巻くようにして,難なく西ノ浦に入谷。増水時は西ノ浦の谷の中もバックウォーターに満たされるようで,谷中は石が堆積している。
西ノ浦の入渓地点から,ダム湖を振り返る。
西ノ浦の入渓地点から,ダム湖を振り返る。
西ノ浦の遡行開始。少し進むと,西ノ浦は美しい渓流の姿を取り戻す。
2
西ノ浦の遡行開始。少し進むと,西ノ浦は美しい渓流の姿を取り戻す。
なかなかいい感じ。周囲は植林の姿は全くなく,完全な自然林だ。徳山ダムができる前は,人里に近い谷だったはずなので,少し意外だった。
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なかなかいい感じ。周囲は植林の姿は全くなく,完全な自然林だ。徳山ダムができる前は,人里に近い谷だったはずなので,少し意外だった。
小滝もちらほら。
2
小滝もちらほら。
しばらくは穏やかな流れが続くので,何も出てこないのかな,と思いながら歩いて行くと…
しばらくは穏やかな流れが続くので,何も出てこないのかな,と思いながら歩いて行くと…
再び小滝。これは右から直登。
2
再び小滝。これは右から直登。
おやおや? なんか壁が立ち始めたぞ? この小滝は左をへつるように越える。
2
おやおや? なんか壁が立ち始めたぞ? この小滝は左をへつるように越える。
気が付いたら物凄いゴルジュに。まさかこんなのが出てくるなんて…
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気が付いたら物凄いゴルジュに。まさかこんなのが出てくるなんて…
ゴルジュの最狭区間。幅は1m位しかなく,特に右側が見上げるような岩壁。へつることもできず,淵をお腹くらい水に浸かって通過。み,水が冷たい…。
2
ゴルジュの最狭区間。幅は1m位しかなく,特に右側が見上げるような岩壁。へつることもできず,淵をお腹くらい水に浸かって通過。み,水が冷たい…。
狭隘区間を振り返って撮影。距離は短いが,なかなかドキッとさせられるゴルジュでした。
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狭隘区間を振り返って撮影。距離は短いが,なかなかドキッとさせられるゴルジュでした。
両岸の壁は少し緩むが,まだまだゴルジュは続く。お次は5mほどの岩盤をえぐるような美しい滝。頑張れば直登もできそうだが,水が冷たすぎて心が折れ,左岸の壁を登って巻いていく。
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両岸の壁は少し緩むが,まだまだゴルジュは続く。お次は5mほどの岩盤をえぐるような美しい滝。頑張れば直登もできそうだが,水が冷たすぎて心が折れ,左岸の壁を登って巻いていく。
しばらく小滝が続く。
2
しばらく小滝が続く。
3mほどの美しい斜滝。左岸から巻ける。
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3mほどの美しい斜滝。左岸から巻ける。
この辺りから周囲の森の自然度がさらに増し,大きなサワグルミやトチノキも見受けられて,素晴らしい空間となる。
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この辺りから周囲の森の自然度がさらに増し,大きなサワグルミやトチノキも見受けられて,素晴らしい空間となる。
気持ちいいなぁ。
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気持ちいいなぁ。
小滝を越えていくと…
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小滝を越えていくと…
3mほどの滝。左岸から巻き越える。
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3mほどの滝。左岸から巻き越える。
5mほどの斜滝。思った以上に滝が出てきて嬉しい限り。これも直登…したいところだが,水が冷たすぎて右岸から巻く。
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5mほどの斜滝。思った以上に滝が出てきて嬉しい限り。これも直登…したいところだが,水が冷たすぎて右岸から巻く。
と,10mほどの美しい滝が。この滝が西ノ浦で見た(単体では)最大の滝だった。なかなか形の整った美滝だ。
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と,10mほどの美しい滝が。この滝が西ノ浦で見た(単体では)最大の滝だった。なかなか形の整った美滝だ。
この滝は根性を出して直登。楽しく登れる滝が多いのも,この谷の美点だ。
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この滝は根性を出して直登。楽しく登れる滝が多いのも,この谷の美点だ。
10m滝を越えると,谷は開けてしばらく大人しくなる。
10m滝を越えると,谷は開けてしばらく大人しくなる。
左岸側に降りてきている尾根(標高点660mの表記のある尾根)のブナの森がいい感じに見えたので,ついつい惹かれて山腹を登って散歩してみた。案の定,素晴らしいブナの純林が広がっていた。
2
左岸側に降りてきている尾根(標高点660mの表記のある尾根)のブナの森がいい感じに見えたので,ついつい惹かれて山腹を登って散歩してみた。案の定,素晴らしいブナの純林が広がっていた。
太いブナも散見される。立派な森だ。
太いブナも散見される。立派な森だ。
ブナは黄葉のさかり。黄金色の雨がふりそそぐようだ。
2
ブナは黄葉のさかり。黄金色の雨がふりそそぐようだ。
薮も濃くなく,理想的なブナの森だ。あまりに気持ちが良かったので,この尾根をこのまま登っていってしまいたい衝動にかられたが,あくまで今回の山行の目的は西ノ浦なので,後ろ髪を引かれつつも谷底に戻った。
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薮も濃くなく,理想的なブナの森だ。あまりに気持ちが良かったので,この尾根をこのまま登っていってしまいたい衝動にかられたが,あくまで今回の山行の目的は西ノ浦なので,後ろ髪を引かれつつも谷底に戻った。
谷は谷で,カツラやサワグルミの立ち並ぶ気持ちのいい空間が続く。
谷は谷で,カツラやサワグルミの立ち並ぶ気持ちのいい空間が続く。
ただ,人の手が全く入っていないというわけではないようで,林業用の機械が落ちているのが目に入った。確かに,植林はないものの,ところどころ伐採が入ったような雰囲気の場所もある。
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ただ,人の手が全く入っていないというわけではないようで,林業用の機械が落ちているのが目に入った。確かに,植林はないものの,ところどころ伐採が入ったような雰囲気の場所もある。
全段で15mほどの滝。直登可能。
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全段で15mほどの滝。直登可能。
5mほど。源頭に入って水量が減ってくるが,断続的に小滝が続いて楽しませてくれる。
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5mほど。源頭に入って水量が減ってくるが,断続的に小滝が続いて楽しませてくれる。
標高が上がれば上がるほど,両岸の紅葉・黄葉が冴えてくる。
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標高が上がれば上がるほど,両岸の紅葉・黄葉が冴えてくる。
美しいなぁ。
ついに水が切れ,もうすぐ稜線だ。ピンポイントで三等・滝谷(大白木山)に出られるよう,慎重に枝谷を選んでいく。
ついに水が切れ,もうすぐ稜線だ。ピンポイントで三等・滝谷(大白木山)に出られるよう,慎重に枝谷を選んでいく。
枯滝を越えて。
ついに藪に突入。基本的に笹薮で,思ったほど藪が濃くないのがありがたい。
ついに藪に突入。基本的に笹薮で,思ったほど藪が濃くないのがありがたい。
藪漕ぎの手を休めて頭上を見上げると,相変わらずの素晴らしい黄葉。
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藪漕ぎの手を休めて頭上を見上げると,相変わらずの素晴らしい黄葉。
いいところだなぁ。
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いいところだなぁ。
高みを目指してひたすら藪を漕いでいくと…
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高みを目指してひたすら藪を漕いでいくと…
1082.2m三角点,三等・滝谷に到着。大白木山(有名な根尾の大白木山と別です)とも呼ばれる。当然ながら周囲は完全な藪だが,三角点の周囲だけわずかに開けている。
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1082.2m三角点,三等・滝谷に到着。大白木山(有名な根尾の大白木山と別です)とも呼ばれる。当然ながら周囲は完全な藪だが,三角点の周囲だけわずかに開けている。
三等・滝谷の三角点。ほとんど土に埋もれており,厚く苔むしている。このピークは残雪期に千回沢山への登路として踏まれることはあるが,無雪期にこの三角点の姿を見たことがある人は少ないのではないだろうか。
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三等・滝谷の三角点。ほとんど土に埋もれており,厚く苔むしている。このピークは残雪期に千回沢山への登路として踏まれることはあるが,無雪期にこの三角点の姿を見たことがある人は少ないのではないだろうか。
この三角点の珍しいところは,三角点の四囲の防護石が完全に残っているところだ。通常,防護石は失われてしまっていることが多いのだが。どれだけ人の目に触れていないかの証拠のような気がする。
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この三角点の珍しいところは,三角点の四囲の防護石が完全に残っているところだ。通常,防護石は失われてしまっていることが多いのだが。どれだけ人の目に触れていないかの証拠のような気がする。
藪の隙間から垣間見た千回沢山の姿。稜線上の藪がそれほどでもなかったので,もしかしたらこのまま千回沢山まで歩けるかもな,と思ったが,今日は出発が遅かったので自重した。
藪の隙間から垣間見た千回沢山の姿。稜線上の藪がそれほどでもなかったので,もしかしたらこのまま千回沢山まで歩けるかもな,と思ったが,今日は出発が遅かったので自重した。
さて,三等・滝谷(大白木山)の山頂で日向ぼっこしながらウトウトしたりして過ごした後,イチン谷へと下降すべく北西斜面を藪をかき分けながら下っていく。
さて,三等・滝谷(大白木山)の山頂で日向ぼっこしながらウトウトしたりして過ごした後,イチン谷へと下降すべく北西斜面を藪をかき分けながら下っていく。
急斜面だが藪も薄く,いい感じのブナとミズナラの森が続く。
急斜面だが藪も薄く,いい感じのブナとミズナラの森が続く。
なんか…すごくいいところだな。
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なんか…すごくいいところだな。
歩いていて思ったが,この辺りの山域は,稜線上は藪が濃いが,山腹は藪が薄く,気持ちのいい森が広がっていることが多いようだ。無雪期は,稜線上を行くより,山腹をひたすらトラバースしたほうが早かったりして…。
歩いていて思ったが,この辺りの山域は,稜線上は藪が濃いが,山腹は藪が薄く,気持ちのいい森が広がっていることが多いようだ。無雪期は,稜線上を行くより,山腹をひたすらトラバースしたほうが早かったりして…。
眼下にイチン谷が迫ってきた。美しい紅葉に覆われている。
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眼下にイチン谷が迫ってきた。美しい紅葉に覆われている。
イチン谷左俣に降り立った。小滝は出てくるものの,概ね穏やかで問題なく下降できる。
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イチン谷左俣に降り立った。小滝は出てくるものの,概ね穏やかで問題なく下降できる。
周囲は美しい自然林が続く。
周囲は美しい自然林が続く。
次第に滝が増えてきたが,まだまだ問題なくクライムダウンできる。
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次第に滝が増えてきたが,まだまだ問題なくクライムダウンできる。
おっと! 急に目の前がすっぱり切れ,かなりの落差の滝が出現。恐らく,イチン谷本流との出合いの2段20m滝だ。手持ちのロープでは下まで届かない可能性があるため懸垂はせずに,右岸の急斜面を,慎重に巻き下る。
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おっと! 急に目の前がすっぱり切れ,かなりの落差の滝が出現。恐らく,イチン谷本流との出合いの2段20m滝だ。手持ちのロープでは下まで届かない可能性があるため懸垂はせずに,右岸の急斜面を,慎重に巻き下る。
巻き下りを終え,巻き下った滝を見に行くと,果たして出合いの2段20m滝であった。この滝は,一昨年にイチン谷を遡行した際に見かけて,その美しさが印象に残っていた滝だった。赤谷流域では(というより,揖斐川東谷全域に広げても)かなり上位に食い込む規模と風格の滝だと思う。
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巻き下りを終え,巻き下った滝を見に行くと,果たして出合いの2段20m滝であった。この滝は,一昨年にイチン谷を遡行した際に見かけて,その美しさが印象に残っていた滝だった。赤谷流域では(というより,揖斐川東谷全域に広げても)かなり上位に食い込む規模と風格の滝だと思う。
イチン谷の穏やかな流れを下っていく。イチン谷は,上部では連瀑帯が出てくるが,下部のこの辺りは概ね穏やかだ。
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イチン谷の穏やかな流れを下っていく。イチン谷は,上部では連瀑帯が出てくるが,下部のこの辺りは概ね穏やかだ。
イチン谷の下部で出てくる唯一の滝らしい滝,8m直瀑。右岸側の壁にフィックスロープがあり,そこからクライムダウンできるが滑りやすいので注意。(懸垂してもいいが,残置ハーケンが錆び錆びなので,自前のハーケンを持ってきたほうがいいかも。)
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イチン谷の下部で出てくる唯一の滝らしい滝,8m直瀑。右岸側の壁にフィックスロープがあり,そこからクライムダウンできるが滑りやすいので注意。(懸垂してもいいが,残置ハーケンが錆び錆びなので,自前のハーケンを持ってきたほうがいいかも。)
赤谷本流に合流。
赤谷本流に合流。
赤谷本流は相変わらずの美しさ。
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赤谷本流は相変わらずの美しさ。
美しい流れを眺めながら,悠々と下っていける。
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美しい流れを眺めながら,悠々と下っていける。
思ったより時間が余ったので,ところどころで腰を下ろしてゆっくりしていく。
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思ったより時間が余ったので,ところどころで腰を下ろしてゆっくりしていく。
才ノ谷との出合いに到着。赤谷の流れを渡渉して,林道に上がった。
才ノ谷との出合いに到着。赤谷の流れを渡渉して,林道に上がった。
赤谷よ,さようなら。静かな谷と美しい紅葉の森をさまよう,いい一日だった。
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赤谷よ,さようなら。静かな谷と美しい紅葉の森をさまよう,いい一日だった。

装備

備考 ・フェルトソール沢足袋使用。この周辺の谷はヌメリが強いので,フェルト推奨。
・40mロープを携行したが不使用。

感想

 西ノ浦(西ノクラ谷)は,揖斐川本流(東谷)の右岸側,大渓谷・赤谷の一つ下流の小さな支谷である。昔は時々登られていた谷だったようで,日本登山体系の古い記録には「小さいながら滝の多い,よくまとまったすばらしい谷」と記載があり,興味を惹かれていた。しかし,徳山ダムの完成により,西ノ浦はダム湖の湛水域に入ってしまい,少なくとも地形図を見る限りは,通常の手段では入渓は絶望的に見える。恐らくそのためだろう,少なくとも徳山ダム完成後にこの谷に入った記録はネット上には見当たらない。唯一可能性として,もんりさんが徳山ダイレクトで入られていそうな気もするが…もしそうでしたらすみません。(→と思っていたら,「晴れ,時々山へ」のmasaさんが入られてました!しかも△西勝谷と△滝谷を結ぶ素晴らしいルート。大変失礼いたしました。もんりさん,情報いただきありがとうございます。)
 しかし,西ノ浦の出合付近は,徳山ダムのバックウォーターの一番端に当たり,もしかしたら,雨量が少なく十分減水している時期であれば,歩いて入渓できるかもしれない。そんな期待を抱いて,今回の山行を計画した。
 実際に現地を訪れてみると,残念ながら,かなり減水気味と思われる今の時期でさえ,西ノ浦の出合付近はぎりぎりバックウォーターに覆われてしまっており,歩いての入渓は叶わなかったが,割と簡単にへつりと山腹のトラバースで西ノ浦の谷中に降り立つことができた(もちろん,夏だったら泳いで入渓するのも楽しいはず!)。
 西ノ浦は,大きな滝こそないものの,形のきれいな滝が結構現れ,しかもその大半が直登できるという楽しい谷だった。中間で出てくるゴルジュは,ごく短いとはいえ,最狭区間は高い岩壁に挟まれた幅1mほどの極細ゴルジュとなっており,なかなかドキドキさせられる。そしてこの谷の美点は,出合いから源頭まで,植林が全く出てこず,自然林に覆われていることである(ところどころ,伐採が入ったような雰囲気のところもあるにはあるが)。特に,谷の左岸側,標高点660mの表記のある尾根のあたりは素晴らしいブナの純林に覆われており,藪も薄くて気持ちのいいところだ。新緑や紅葉の時期の気軽な谷歩きにはぴったり。皮肉なことではあるが,ダム湖に阻まれているおかげでほとんど人が入ることはないと思われ,谷と森と自分だけの,静かな時間を過ごすことができる。
 また,下降路としたイチン谷の左俣は,イチン谷本流との出合いに2段20mほどの迫力のある滝が掛かっており,一昨年にイチン谷を遡行して千回沢山に登った際にこの滝を見かけて,興味を惹かれていた谷だった。期待に反して,イチン谷の左俣は小滝がいくつかあるのみの穏やかな谷だったが,それにしてもやはりこの出合の2段20m滝は素晴らしいと思う。規模と風格の点では,徳山周辺の滝の中では上位に食い込むのではないだろうか。
 帰路の赤谷もやはり美しかった。単なる平流なのだが,谷を覆う紅葉が静かな水面に色とりどりに反映しているのを眺めていると,いつまでも腰を下ろしてゆっくりしていきたい思いにかられてしまう。しっとりとした流れと鮮やかなブナの黄葉に彩られた,静かな徳山の谷の一日だった。

※西ノ浦(西ノクラ谷)には,昔,山賊が住んでいて徳山を荒らし回ったが,徳山五兵衛に退治されたという伝説があるそうです(森本次男「樹林の山旅」より)。確かに谷の奥に暗い極細ゴルジュなど不気味なところもあるので,そのあたりから生まれた伝説かもしれません。

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コメント

渋いルートどりっすね
2021/10/31 23:07
西ノ浦、妙に気になって入っちゃいました。10月初旬にchukiさんが回られたタンド谷→千回沢山→イチン谷のルート、いいですね。一度行ってみたいと思いつつ、なかなか日程が取れません…
2021/10/31 23:46
hillwandererさん
タンド谷は、各種茸とれて良かったっすけど滝らしい滝は、私が通った沢筋には、なかったです。
2021/11/1 23:05
情報ありがとうございます!滝ないんですね〜。でも森がきれいで茸があれば十分です笑
2021/11/2 6:58
もんりです
キャ〜〜、またまた凄いところへ!
刺激が強いわ〜
似たようなルートはmasaさんの記録がありますが、尾根中心のものです
http://okuminokaitakudan.blog.jp/archives/591505.html
私も行きたいリストにはあげていましたが、西ノ浦の南のお沢に気をとられて、まだ行けずじまいです

名前を出して頂いただけで、私は光栄で〜す
指くわえてブログを読ませて頂いております
2021/11/5 7:04
もんりさん、こんばんは!西ノ浦の南の沢、西赤谷でしょうか。私も気になってます…。西ノ浦より更に「渡りがい」がありそうですよね(笑)昔の記録を見ると穏やかな谷みたいなのですが、ダムに塞がれてからどうなってるか、気になりますね。
西ノ浦、入っておられる方がいらっしゃったとは!しかも素晴らしいルート…。不勉強で失礼いたしましたm(_ _)m記録訂正しておきます。情報いただきありがとうございました。
もんりさんが行かれている加野内谷、しみじみ良い谷ですね〜。秋満喫って感じですね。
2021/11/5 18:53
hillwandererさん
回答をぼやかしてしまい申し訳ありませんでした
西ノ浦の南の狙っていたお沢は、西赤谷ではなく、荒谷でした!
舞滝という滝があり、この周辺の地形はなかなか痺れますぞえ〜
hillwandererさんエキスパートの皆さま、是非、登りで味わってくださいませ
もんり
2023/8/29 8:34
moriman1971さん
こんばんは! 不幸なことに百山百渓を手にする機会に未だ恵まれず、荒谷ってどこ?から始まりましたが、既にもんりさん入られてたんですね…お見逸れしました。これは興奮するロケーションですね! まさかこの界隈にこんな滝場があるとは…。良いものを見せていただきました。
2023/8/29 22:15
西ノ浦、満喫できました!
hillwandererさんの記録を参考にさせていただきました
ありがとうございました
閉ざされている感がたまりませんね〜
よくぞ、初見で行かれましたね!! 
イチン谷もおじゃましてきます
湖面が高かったからか、トラバースは泣きが入りました(笑)
2022/6/5 12:00
moriman1971さん
お疲れ様でした!「閉ざされてる感」、イイですよね〜
やっぱり雪代がまだ残ってる今の時期はダムの水位かなり高いんですね。西ノ浦の中までダム湖が入り込んでるとは…
下山ルート、そっちを取るといい森に出会えるんですね〜。勉強になりました🙇
イチン谷もいい谷ですね。5月に千回沢山に登ったときに覗いてみたら、結構雪渓の残骸が残ってました。もう大分溶けたと思いますが、お気をつけて!
2022/6/5 19:11
hillwandererさんの記録を参考にイチン谷左俣へおじゃましてきました
出合の大滝は立派でございました!
ヤブなしの詰めで、美しく稜線に上がれ、驚きました
次回はイチンをキチンと行ってきますよ〜
2023/5/28 7:14
moriman1971さん
こんにちは! 出合の滝,形がきれいですよね。
左岸も巻けるんですね! ちょっとびっくりしました。さすがですね〜。
そうそう,詰めの斜面のあたり,藪もないし,ブナもきれいで良い斜面ですよね。
尾根より斜面を延々とトラバースしたほうが簡単に千回沢山まで行けたりして,とか妄想したりしてました。
今年は残雪も少ないし,もうイチン谷も遡行できるかもしれませんね。後半で滝が連続するので,楽しめると思いますよ〜
2023/5/28 12:44
すでに御存知かもしれませんが、帰路の渡渉点辺りで土砂崩れがあり、現在、私達が駐車したところまでしか、入れません
釈迦嶺辺りが、遠いお山になっております(泣)
徳山情報でした もんり
2023/5/28 17:00
moriman1971さん
情報ありがとうございます! まだ復旧していないんですね〜。福井県側から回るにしても遠回りですもんね 早い復旧を祈るばかりです。
2023/5/28 20:15
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