抜戸岳 秩父前沢「元気ライン」初滑降
- GPS
- 11:49
- 距離
- 18.8km
- 登り
- 1,997m
- 下り
- 1,950m
コースタイム
- 山行
- 10:10
- 休憩
- 1:40
- 合計
- 11:50
過去天気図(気象庁) | 2016年02月の天気図 |
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アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
3時に宿で目を覚ますまで悩んだ結果、穴毛谷からの笠を取りやめ、隣の抜戸に決めた。新穂高に車をとめ、林道を歩く。少し雲が出ているが、天気は回復傾向。前日の新雪が10cm程積もっており、アプローチは快適そのもの。穴毛谷へ向かう橋を左手にやり過ごし、笠新道へ向かう。いくつかの沢は先日の雨で発生したと思われるデブリで埋まっていた。自然の驚異を感じるも、逆に言えばその後の低温で雪は昨日同様に抜群の安定性を示している。そんな状況判断に基づき、本来なら登路として選択肢に入らない狭い沢を詰める。デブリで押し流された沢の表面はツルツルでクト―での登高に最適だ。何度も繰り返しジグを切りながら、高度を稼ぐ。だいたいが踝、場所によっては膝くらいまでのラッセルだったが、やはり雪崩れる気配は感じ取れない。東斜面に陽が当たり始め、気温は上昇。風が無い時には半袖でも良いくらいの陽気だった。
雪庇の無い弱点を突いて杓子平に乗越す。笠が見えた。穴毛谷に続く複数のシュートはどれも急で、特にAルンゼに続く不帰2峰のような雪壁(三ノ沢上部?)や周辺の襞だらけの壁はさながらアラスカ。ここでフリーライドツアーを見たいような、見たくないような、、、疲れを感じながら抜戸岳を目指す。カール地形に雲間の日差しが差し込み、ここは別天地。生きてて良かったと涙ぐむほど。こういう時はだいたい疲れている。
頂上稜線へあと高度差100mに迫ったところに奥抜戸沢へのドロップポイントがあった。雪庇の隙間から沢を覗き込み、とりあえずエスケープを確保。僕はここを滑ろう、とザックデポ後の山頂往復を提案する。相方のカンテガはあまり乗り気でない様子だが、とりあえずそうすることに。
再び雪壁を乗越て、頂上稜線に立つ。今年は雪庇が少ないそうだが、それでもせり出しは部分的に10m近い。少し歩いて地味過ぎる山頂に立ったが、ほとんど感慨はなかった。その時、すぐ北の雪庇に切れ目があるのに気付いた。ここは地形図に出ていた名前のない沢だ。山頂からほぼダイレクトに落ちるその沢は奥抜戸沢よりも斜面変化に富み、面白そうに思えた。ドロップポイントを確認し、斜面を確認。これは、行ける。ここしかない。覚悟を決めて、デポ地へ戻る。
本日1回目の滑走はサンクラスト。段差のある斜面で飛んだところ、着地点の湿り気のある雪にスキーが埋没し前転した。気を取り直し、ザックを担いで登り返す。
時間は午後に差し掛かっているが幸いにも天気は持ってくれている。そして、こういう判断は体力的に余裕がないとできないな、と改めて思う。そういう意味であそこを滑りたがるカンテガには余裕がある。僕はあそこにザックをデポしよう、と提案をする時点で弱っていたと言えるだろう。
この元気なパートナー・カンテガは、厳冬期に黒部横断をするようなアルパイン野郎で、こないだはピオラー2人とヒマラヤの壁に挑戦していた。山の総合力でいえば、僕より遥かに上の存在だ。さて、件の沢をのぞき込み、陽が入ったタイミングで飛び込む準備を整えた。事前情報が無いオンサイト滑降だが、緊張はほとんど無い。トップは元気なカンテガに譲った。
タイミングをみて僕も沢へ飛び込み、どんどん高度を落とす。日陰にパウダーが溜まっており、全体的には重いが悪くない。斜度も平均40度くらいで、不安はない。
途中尾根に出たりしながら滑っていく。と、カンテガが止まっている。下方に両側を岩に囲まれた狭い窄みが見えた。地形図に崖マークは無かった。とりあえず下りて見るが、板を横にしてギリギリくらいの狭さで、先は急激に落ち込み、先は見えない。板を脱いでカンテガが偵察するが、青氷が出ている、という。登り返して尾根向こうの左岸側の沢を目指すが、そこがダメなら「あそこをクライムダウンするしかないね」「行けないことは無いが」となぜか嬉しそう。僕は秩父沢を目前にビヴァークのことも考え、心は半泣き。
登り返してみると、幸いにも左岸側の沢はつながっていて、凍ってはいるもののウィペットとピッケルで制動しながら滑走できた。回り込んで見た「あそこ」は10mの氷瀑だった。いやぁ、クォークあってもクライムダウン厳しいのに片手ウィペットって。。。ロープとナッツ少々はオンサイト滑降に必須のようです。あとは帰るだけ。穴毛谷との分岐の橋からは斜度が出て、林道は快適に滑れた。
この日は達成感、満足度でいけば今までも一番。やはり人がいない、情報がない、自分たち以外に頼るものがない状況は緊張感が違う。そこには未知があり、小規模ながら「冒険」がある。
後ほど、この手の話に一番詳しいと思われる Mr. Steep Descent に滑ったラインを知らせ、照会した。すると、しばらくして「ここは間違いなく初滑降でしょう」との返信を頂く。かくして人生初の First Descent が成立した、らしい。中には自己主張しないスキーヤーもいるだろうし、滑られているかも知れない。しかし、それはあくまでもオマケ。自分たちが見出したルートを、独力で滑降した。それが達成感の源泉で、全てなのだから。
なお、この沢には名前が無い。国土地理院の地形図、昭文社、大系を参照したが、わからなかった。そのため、終始元気で頼もしかったパートナーの名前に因み、「元気ライン」とした(漢字は違うが)。
このルートは一人ではありえなかった。やはり、山におけるパートナーは大事で、替えがきかない。強い仲間と山に行けていることに心から感謝している。
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追記:「ROCK & SNOW」 074 冬号「山岳滑降の現在形2016」欄に掲載されました。
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トマホークさんこんにちは 久しぶりに若手の熱い山行見ましたよ。今は亡きA君以来でしょうか?この辺りの沢は毎年すざまじいデブリの出る沢ですから本当に好条件を捕らえないと無理でしょうね。ワサビ平正面尾根から杓子平に抜けて抜戸に立った事は何度かありますが正面尾根脇の沢ですら帰りは雪崩の巣になりましたからね。ダブルウイペット大活躍でしたね.これからも熱い山行期待していますが山スキーヤーは生き長らえてなんぼですから安全第一で頑張って下さい.
YSHRさん、コメントありがとうございます!
Aさん以来とは光栄です。
体力、創造性、過激さも全然比較になりませんが、、、
これからも長く楽しみたいですね
また機会があればご一緒させて下さい!
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