新緑の季節に人気の川苔山を歩く


- GPS
- 05:29
- 距離
- 14.5km
- 登り
- 1,226m
- 下り
- 1,322m
コースタイム
- 山行
- 4:39
- 休憩
- 0:47
- 合計
- 5:26
天候 | 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
事故多発のため百尋ノ滝コースを下山で使用するのは非推奨。 |
写真
感想
新緑の季節、奥多摩でも屈指の人気を誇る川苔山(かわのりやま)。この山行記録は事故が多いという評判とは裏腹にその比類なき渓谷美と山歩きの醍醐味を堪能した単独行の記録である。川乗橋から百尋ノ滝を経て山頂へ至り、鳩ノ巣駅へと下る王道コースを辿りながらその魅力と注意すべき点を描き出す。
男は一人、奥多摩の懐へ
川苔山。事故が多いと奴らは言う。滑落、道迷い。その言葉が逆に俺の心を駆り立てた。己の目で、足で、確かめねばなるまい。新緑が燃える季節、俺は一人奥多摩行きの電車に揺られていた。
目指すは川乗橋バス停から百尋ノ滝を経て山頂に至る約12kmの道程だ。標高差は約1,000m。生半可な覚悟で踏み込める領域ではない。登山届はオンラインで済ませてきた。山への礼儀だ。
バスを降りるとひやりとした空気が肌を撫でる。ここからしばらくは舗装された林道歩きが続く。川のせせらぎだけが俺の歩みに寄り添う。やがて細倉橋を渡ると道は牙を剥き始める。本格的な登山道の始まりだ。ここからの道がただただ素晴らしかった。
道は沢に沿って続く。何度も橋を渡り、右岸から左岸へ、また右岸へと渡り返す。水の音が絶えることはない。木漏れ日が揺れ、前日の雨に濡れた苔が青々と光る。悪くない。むしろ最高だ。都会の喧騒でささくれ立った心が清流に洗われていくのを感じる。なるほど、人気にも納得がいく。この渓谷美は人を惹きつけてやまないだろう。だが、美しさは常に危険と隣り合わせだ。道幅は狭く、片側が切れ落ちたトラバース道が続く。濡れた岩場は滑りやすく、一歩間違えば谷底へ引きずり込まれる。警告を無視してはならない。ここはそういう場所だ。
やがて水の音が地響きに変わる。目の前に巨大な水の壁が立ち塞がった。百尋ノ滝。落差約40mの瀑布が岩肌を叩きつけている。滝壺近くまで寄れば水しぶきが容赦なく顔を打つ。その迫力にしばし言葉を失う。奥多摩を代表する名瀑、百尋ノ滝。冬にはこの滝が凍りつき、巨大な氷瀑と化すという。それもまた見てみたいものだ。
滝の上部は特に滑落事故が多発するという危険地帯だ。警告を無視してこの滝を安易に下山路に選ぶ気には到底なれない。俺は地図に示された正規のルートを辿り、山頂を目指す。滝を過ぎると道は急登となる。息が切れ、汗が噴き出す。だが足は止めない。無心に登り続ける。やがて視界が開け、川苔山の山頂、標高1,363mに立った。山頂は広く、360度の展望が約束されているわけではないが、西に目を向ければ東京都最高峰の雲取山がどっしりと構えているのが見える。風があれば汗ばんだ体を冷やしてくれるだろうがこの日はただ強い日差しだけが降り注ぐ。ここで飯を食うのはやめておこう。写真を撮ると足早に山頂を後にした。
下りは鳩ノ巣駅へ向かう。これが長い。ただひたすらに長い、樹林帯の中の道だ。舟井戸、大ダワ、大根ノ山ノ神と、地図上のポイントを一つ一つ確認しながら下る。持て余した時間の中でさまざまな思考だけが頭の中を駆け巡る。山のこと、日常のこと、仕事のこと、そんな思いにひとり向き合えるのも山の魅力のひとつだ。もちろん足元に気を使うのも忘れてはいけない。鳩ノ巣の駅に繋がる民家の町並みが見えた時、安堵よりも先に心地よい疲労感が全身を包んだ。
この素晴らしい景色と歩ききった達成感。これを独り占めするのも悪くない。だが、ふと思う。次は一人ではないかもしれん。この感動を分かち合える友を誘って、再びこの山を訪れるのもまた一興だろう。
山は準備を怠る者を決して許さない。だが敬意を払い、万全の準備で臨む者には、最高の時間を与えてくれる。川苔山はそういう山だった。
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