入笠山(日本勤労者山岳連盟関東ブロック「雪崩事故を防ぐための講習会」)
- GPS
- 11:57
- 距離
- 6.7km
- 登り
- 342m
- 下り
- 322m
コースタイム
2/1 600マナスル山荘近くで雪面観察(表面霜など)-700マナスル山荘(朝食)802-923入笠山-1020途中昼食をはさみマナスル山荘近くの斜面で講習-1355マナスル山荘-1416ゴンドラ山頂駅
天候 | 1/31 曇 2/1 晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2009年01月の天気図 |
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
マナスル山荘ご主人によると前日の夜はマナスル山荘付近でも雨が降ったらしい。朝から雪が降り15センチほど積もったということ。 歩いたコースは斜度もゆるくスノーシューがぴったりという感じだった。実際天気の良かった2/1にはスノーシューで歩いている人をたくさんみかけた。 |
写真
感想
昨年の講習では30人近くいたということだったが今年は受講者は3名。講師が5人という贅沢な講習。講師と色々話せたしマンツーマン以上の講習で密度の高いものだった。受講者としてはうれしい。
交流会ではお酒も入って色々雪崩の話が聞けた。
講習内容
1日目午後
・ビーコンチェック
・雪面観察
・弱層テスト(円柱テスト、シャベルコンプレッション)
・ビーコンによる探索
・表面霜、雪の結晶の画像(机上)
・雪崩ビーコンの原理(机上)
・雪崩体験報告(机上)
2日目午前
・雪面観察(早朝 表面霜など)
・ビーコンチェック
・雪崩捜索犬の捜索デモ
・捜索訓練
・ビーコンによる探索
・埋没体験
2日目午後
・弱層テスト(円柱テスト、シャベルコンプレッション)
メモ
・ビーコンチェック
ビーコンチェックのやり方
1.リーダーのみ送信(Send)モードにする。メンバーは受信(Search)モードで受信できることをチェックする。(複数探索できるビーコンでは人数(1人)もチェックする)
2.リーダーは受信モード、リーダー以外のメンバーは送信モードに切り替える。
3.リーダーが離れたところへ移動し、メンバーが1人ずつ近づいてリーダーの前を通り過ぎる。リーダーはメンバーが近づき通り過ぎる時にそのメンバーのビーコンが信号を出していることを確かめる。メンバー全員分やること。
※メンバーが通過する際に体調はどうかとか声をかけると吉。
4.最後にリーダーが自分のビーコンを送信モードにする。
・雪面観察
入笠山へ向かう登山道の脇で行った。東側斜面は積雪140センチ。西側は50センチほどだった。雪面観察ではまず垂直に掘り下げ積雪の層が観察できるようにする。温度計で深さ10センチごとに雪の温度を測定。
表面0.2度
10センチ 0.5度
20センチ 0.5度
30センチ 0.4度
40センチ 0.4度
50センチ 0.5度
60センチ 0.5度
70センチ 0.5度
80センチ 0.6度
90センチ -0.6度
100センチ -0.8度
110センチ -0.9度
120センチ -0.9度
130センチ -0.5度
140センチ 0.2度
最近の気温の高さが上から伝わった。温度勾配は80〜90センチの間。
どれくらいの雪がどの程度積もっているか。
雪の違いは
・温度
・固さ
・結晶の様子
など。
黄砂の影響で下のほうはうっすら色づいていた。
小さな雪庇もできていて雪庇の下に小さな空洞もあった。水性スプレーで断面に色をつけたが一様に染まっただけだった。バーナーであぶらないと層の違いは見られないらしい。
雪の固さはこぶし、指で確かめる。
・こぶし=F(fist)
・4本指=4F(finger)
・1本指=1F
・鉛筆=pencil
・ナイフ
新雪、ザラメ、霜ザラメの結晶をルーペで確認。
・弱層テスト(円柱テスト、シャベルコンプレッション)
円柱テストは手で30センチの円柱を掘る。垂直(つまり重力方向という意味)方向の円柱をつくること。
・作っている最中に壊れた
・手首で引いたら壊れた
・腕で引いたら壊れた
・腰を入れて引いたら壊れた
シャベルコンプレッション
1.まず1メートルくらいの幅で掘り下げる。積雪が多いときは1.2メートルくらいの深さまで。
2.1箇所、下までスノーソーで切れ目を入れる。
3.2の切れ目の右30センチほどのところに同じように切れ目を入れる。
4.2,3の切れ目の上から30センチくらいをシャベルでとり、しゃべるを下からぽんぽんとたたいて層がずれないか調べる。
5.2,3の切れ目の間の雪をシャベルで全部取り除く
6.四角柱を作るため30センチ左に切れ目を入れる。
7.細い三角柱をつくるよう6の切れ目の左に斜めに入れる。
8.三角柱部分の雪を取り除く。(ケーキカット)
9.背面に切れ目を入れて四角柱の完成
四角柱の上にシャベルを置き、手首で10回たたく。次に肘から10回たたく。最後に肩から腕を振り下ろして10回たたく。
強度は
・四角柱を切り出していたら崩れた
・手首の○回目でずれた→CTE○
・肘の○回目でずれた→CTM○
・腕の○回目でずれた→CTH○
例えば肘の3回目でずれたらCTM13
※回数は最初からのトータルで数える。
※シャベルコンプレッションテストを略してCTという。
シャベルコンプレッションではどこに弱層があるのかわかる。
・ビーコンによる探索
自分はピープスDSP(デジタルビーコン)なのでピープスDSPの探し方を。
最初はビーコンの矢印の方向へ進む。(電波誘導法)
2メートルより近くなると矢印が消えるので雪面にビーコンを近づけてクロス法で探索する。
クロス法とは横、縦、横、縦、...と探していく方法。大体、横、縦、横もやれば探せた。まず横に動かして距離が最小になるところを探す。最小になるところ(たとえば0.5m)から少し距離が大きくなるところ(0.6m)になるところに印(線)をつける。右と左両側にあるはずなので2箇所印がつくはず。線の中間で今度は縦に探す。縦でも同じように上下2箇所に印をつけてその中間で今度は横に探す。これを繰り返す。
最後には横と縦の中間の点が重なるはずなのでそこをプローブで突く。埋没者(練習ではビーコンの上においたコンロ板だけど)を感じたらスコップで掘る。プローブは立てたままにしておく。(抜くと掘っているうちにどこだったかわからなくなるから。)
ピープスDSPの威力は絶大で4,50センチくらいの深さならビーコンの向きがどういう向きでも一発で埋没者を探り当てられた。
机上は講師の部屋で行われたプロジェクタも用意されていて映像がふんだんに使われていてなかなかよかった。
・表面霜、雪の結晶の画像(机上)
表面霜や新雪、ザラメ雪、霜ザラメ、しまり雪なんかの拡大したものを見た。まるっこくなっているとか角ばっているくらいならわかるかな。
・雪崩ビーコンの原理(机上)
ビーコンとそこから出る磁力線の様子を模型に作って白濁した水の中につけていたのは力作だった。アイデアだなと思った。お風呂に白濁した水を張ってその中に模型をいろんな方向で沈めてあるので雪の上の磁力線の様子はどうなっているか一目瞭然。
・雪崩体験報告(机上)
講師が雪崩に遭遇したということでその報告があった。腰まで埋もれたが無事だったということ。山スキーで滑走中に足元からなだれたらしい。
地形的にはおわんを伏せたような地形で斜度がきつくなるポイントが破断面だった。状況として
・前日、当日に合計で50センチの積雪
・4日前、3日前には天気がよく日照有り、気温も上がったので表面に弱層(サンクラスト?)が形成
・破断面近くの新雪は風のため積もり方にムラがあった。新雪の厚さが35センチ〜100センチ。
新雪が35センチのあたりがトリガーポイント。
あとから気象状況など調べると雪崩はおきるべくしておきたという感じだが、そこまで入念に調べるものなのだろうかと思った。(自分は積雪量は気にするだろうが、地形に合わせて日照や風向きがどうかは事前に調べないと思う。)ただ、「どかっと雪が降っている最中や、降った後は気をつけろ」ということはわかった。それから山に行く前にその山の気象状況を調べるのに気象庁の観測点は山の上にはないので行く山を取り囲む3点もしくは2点の観測点のデータを調べるというのは非常に参考になった。2点の場合は山の東と西の2点のデータを見るということ。いい方法だと思う。
2日目午前
・雪面観察(早朝 表面霜など)
表面霜は積雪の表面が冷えて風がない時に発達するということ。今回は残念ながら1mmくらいの小さいものしか観察できなかった。晴れて(放射冷却で冷える)、風がない夜が明けたとき表面霜ができるよう。
・ビーコンチェック
ビーコンチェック。自分がリーダーの役割でやった。
・雪崩捜索犬の捜索デモ
雪崩捜索犬はなかなか優秀。人から洩れ出る匂いを探して埋没者を特定するようだ。見つけたら掘り始める。雪が固くてなかなか掘れない時はほえて知らせる。ちなみに犬の名はチャンス。"search dog"と書かれたベストを着けている。
・捜索訓練
入笠山に登ったあと山頂の下で突然の捜索訓練が始まった。事前に知らされてないのであせった。まあ雪崩現場に遭遇するなんてそんなもんなんだろう。
シミュレーションは倒れている人が1人。その人は怪我もなく、仲間が2人雪崩に埋もれたことを知らされる。埋没者の1人はビーコンあり、1人はビーコンなし。受講者3人で探す。
まずビーコンで探索。探した点を掘ったらビンゴ。その後、遺留物(オーバー手袋)から下へ向かってプローブで捜索。2メートルほど下のブッシュの上でプローブに感じるもの有り。プローブを立てたままにして掘ったらザックが出てきた。救出完了。(ツェルトをかぶせてとかはやらない。)
講師からのコメントは
・まず最初に倒れた人を見つけたとき、その人の状態は確認したのか。(いちおうした。)怪我はないかとか。またその人は安全な場所に移動させる。
・2次雪崩など周りの危険に気を配る必要有り。
・ビーコンで探り当てた点はプローブで突いて埋没者を確かめること。
今回プローブは立てずいきなり掘り始めた。
・リーダーは指示をメンバーに与えること。
3人しかいなくてもリーダーを1人作ったほうがいいようだ。2次雪崩などの監視、メンバーの様子を見ながら何をするか指示する。リーダーも探索に加わったりして作業したほうがいいような気もするが、そうではなくてリーダーがいたほうがいいらしい。
・ビーコンによる探索
1.ビーコンで探す。(電波誘導法→クロス法)
2.プローブで特定する。
3.スコップで掘る。
・埋没体験
受講者3人とも埋めてもらう。
4,50センチしか埋められていないのにかなり圧迫される。胸、腹が圧迫されて呼吸がしづらい。最初は口の前の空間で呼吸は無理なく出来ていたが、しばらくすると急に息苦しくなってきた。これはやばいと思って助けてーと叫んでしまった。叫んでもがいていたら余計に苦しくなった。もがいても全然動けない。雪に閉じ込められるのは想像以上に怖いものだった。
埋没者はスリングを握って埋められる。苦しくなったらそれを引っ張って外に知らせる。銀マットにくるまってうつ伏せで埋められる。外のものがプローブで突いてみるので首のところはコンロ板で防御。無線機を持ちやり取りし外で埋没者の状況を確認しいざというときに対処。自分は無線機は持ってなかったのでスリングをがんがん引っ張って助けてーと叫んだ。声は聞こえていたらしい。チャンス(雪崩捜索犬)が掘ってくれて顔が出たときはほっとした。
2日目午後
・弱層テスト(円柱テスト、シャベルコンプレッション)
円柱テスト、シャベルコンプレッションを2回ずつ練習する。45センチあたりのところに霜ザラメの弱層があった。円柱テストでは腕、作っている最中に弱層が壊れた。シャベルコンプレッションではCTM12で弱層が壊れて角柱がずれた。
プローブで突いてみても雪の様子がある程度わかる。クラストしているところは固いし、霜ザラメの層はざくざくした感じがする。
弱層テストをするタイミングについて。
・山の西面から北面に移るときなど雪の状況が変わると予想されるところ
・尾根ルート(一般的には雪崩の危険は少ない)でも少し尾根の下に外れてトラバースするような時
・斜度が変わるなど状況が変わった時
山の雪の全体像を知るために弱層テストはやるのだ。
谷底とその両側の斜面なら両側の斜面の方が雪崩れる斜面の様子をよく表している。(谷底は周りから色々影響を受けるため)
かなり勉強になった講習会だった。
マナスル山荘の食事は結構おいしかった。御飯が少しやわらかいのは好みではないけど。
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