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2014年03月31日 18:17未分類全体に公開

冬壁の一日

南光河原駐車場で車を降りた時点では、まだどのルートを登るか決めていない。元谷まで登って北壁全体のコンディションを見てからルートを決めることにしているので、とにかくクライミングの装備は全て持って行くはずが・・・ここで大事なギアを忘れたのは事実である・・・

元谷から北壁を眺める・・・

天候はまずまず、南岸低気圧が雪を降らせて去った後、弱い冬型の気圧配置になっているはず。ということは午後にはガスが上がってきて風も若干強くなる。

北を向いたそれぞれの谷筋にはたっぷりと新雪が積もっている。ここで考えることは主に2つだ。第1に壁がガッチリと凍っているかどうか?特に別山北壁や大屏風は、岩が緩んでしまう位に気温の高い時に登るのは危険だが、今朝は良いコンディションに見える。第2に壁の基部までのアプローチルートに新雪雪崩のリスクがあるかどうか?今日は規模は小さいながらもリスクがあるように感じる。

パートナーのTとしばらく相談した結果、別山バットレス北壁の中央稜に決める。ただしルートの開始地点までのアプローチは、普通は元谷小屋奥の尾根の東側を登るのだが、今日はアプローチ上部で弥山尾根付近からの雪崩もありえるので、尾根通しを登ることにした。つまり元谷小屋から中央稜ルート開始地点を目指して尾根上をラッセルすることになる。

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案の定、ラッセルは厳しい。腰までの積雪の中、急な斜面では胸までのラッセルをTと2人で交替しながら進む。約2時間のアルバイトで別山バットレスの基部に到着。改めて壁の状況を観察しながら、クライミング装備を身につける。

防寒着に着替えてハーネスを装着。ハーネスのギアラックに確保用のカラビナや制動器を掛けてゆく・・・なんか足りないな・・・オー、ピトン(ハーケン)を全部忘れた!冬壁用に買っておいたアングルピトン(氷雪の詰まった割れ目に打ち込むV字型のハーケン)とナイフブレード(同じく幅の広い割れ目用)各種・・・

ここでルートの状況を必死で思い出して、ピトン無しで行けるかどうか、気持ちの上で確認。ビレイポイント(確保地点)には残置ピトンや残置ボルトがあるはずなので、登ることには問題ない。この場合心配なのは、いざ壁の途中から撤退という時の懸垂下降や自己確保のために、それらのギアが要るかも知れないという懸念だ。

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急な雪璧からルートを登りはじめる。隣の弥山尾根に3人パーティーが取り付いている。我々よりも早い時間にクライミングを始めていたが、最初のピッチをトップが登っているところだ。我々は開始地点から50〜60Mほど登って中央稜のリッジ上に出たが、まだまだ上部までコンティニュアス(お互いにロープで繋がっているがランニングビレイ以外の確保はしない)で登るのでスピードは速い。時間を忘れて中央稜を半分ほど登ったところでしばらく休憩。後続のTを待って、ここからはお互いを確保しながら登ることにする。

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ところどころ際どい部分を乗り越えながら、2ピッチ登って核心部の凹角下部でビレイ。雪が降っているが風はほとんどなく、ノンビリしたクライミングだ。凹角の岩の部分まではアイゼンの前爪を氷雪璧に蹴りこんでのスムーズなクライミング、ただし頼りになるランニングビレイ(中間確保)はあまりない。そんな状況から凹角下に入り込んで初めて埋込みボルトにランニングビレイをとる。浮石を慎重に確認しながら、凹角をまたぐ体勢で登ると、股の間から急なリッジが切れ落ちているのが見える。凹角を突破して確保地点へ。今度はTが登るために確保する。

私はガイドクライミングでも何度もここを登ってるが、Tは今日がこのルートの初クライミング。凹角では少し苦労していたが、さすがにベテランだけに安定して登ってくる。実はここから上部にも、きついオーバーハングと、おっかないナイフリッジが待っている。

天候はまだまだ崩れてはいないが、雪と風が少しづつ強くなってきている。隣の弥山尾根を登っているザイルパーティは、まだ我々よりも100Mくらい下で苦労している。彼らは日没までにルートを登りきることが出来るだろうか・・・

次のピッチのオーバーハングを越えると、雪璧の傾斜がゆるくなり、やがて右上部に別山北壁の最高点が見える。そこまで1ピッチを残してビレイ点を作り、Tを確保。

最高点まで40M、その先は大山の頂上稜線までナイフリッジが続いているが、これがまたいやらしい。特にナイフリッジのクライムダウンには気を遣う。Tがトップで降りる。途中のコル(鞍部)で確保。ここからは再びコンティニュアスクライミングで頂上稜線を目指す。

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ナイフリッジを15分ほど登って頂上稜線の雪のプラトーに出る。ここで本日のクライミング終了。登ってきたTとガッチリ握手して、早々に装備を片付けて下山を開始する。

風雪がいっそう強くなり、6合目の避難小屋まで下る間に顔半分の眉毛や髭に氷が張り付く。吹雪が痛くて風上に顔を向けることは出来ない。これは冬の大山の稜線では普通のこと。しかし弥山尾根のザイルパーティーはまだ北壁を抜けていないと思われるので心配だ。あと2時間もすれば暗くなってくる。北壁を抜けさえすれば、頂上の避難小屋でビバーク出来るので安全だろう。

5合目の少し上から元谷側に下降。一般ルートを歩いて降りるのが面倒なので、元谷まで一気に滑って降りる。非常に快適。頂上から1時間で元谷に到着。北壁は完全にガスに覆われて、既に近づく者を拒否しているようだ。気がつけば、2人ともクライミングに夢中で昼飯を食べ忘れていた。それに気が付いた途端に腹が減ってきた。

数日後にランタン・リ(7205m/ネパール)南西稜へ向かうT。彼らの成功と安全を、心から祈る。
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