山小屋の電気事情とか　その２　設計編

2017年06月21日 20:52雑記全体に公開

【前回からの続き】
　→https://www.yamareco.com/modules/diary/187099-detail-145296

４．設計してみる
４－１．全体概念図、及び装置選定基準
　全体概念図は写真１のファイルを参照してください。
　装置の選定基準は、あまりに重いモノだと荷揚げだけで大変な苦労を強いられること間違いないですので、極力軽くしたいところです。
　　
４－１．基本の太陽光パネル
　太陽光発電といえば、なんとなくハイテクかつ新しいモノというイメージがある人も多いかと思いますが、その歴史は思った以上に旧かったりします。
　元は人工衛星用の電源設備用に研究開発されたものであり、今日においても人工衛星の主要な電源設備として世界の宇宙機関で第一線を張っている、信頼性が高いものとなります。（1958年のVanguard 1にて初めて人工衛星で使用。まだ軌道を飛んでいたりする。）

　全体概念図にある通り、100Wクラスの12Vクラス（最大約18V出力）のパネルが最低1枚必要になります。
　→http://www.chikuden-sys.com/aboutsolarpanel/at-ma100a.asp

　単体で8kg程度なので、これであればサイズにさえ目をつむれば簡単に荷揚げできそうです。

４－２．チャージコントローラ
　太陽電池パネルで発電した電気はバッテリーに給電されることになるのですが、このままでは太陽がパネルに当たっている間、バッテリーが満タンになっても充電し続けようとします。
　バッテリーは過充電となると壊れてしまう上に、場合によっては中身（希硫酸とか）が出てしまうことになります。
　よって、何らかの方法でバッテリーが満充電になったらバッテリーへの給電を停止する機構が必要となるわけですが、それを担うものがチャージコントローラと呼ばれるものになります。
　
　今回は太陽電池パネルが最大で3枚の300W程度を見込んでいるため、20A程度の入力電流能力があるものでよいかと思います。
　→http://www.denryo.com/solar_controller/controller/sa_b.html
　※本当は30A程度あると安心なのですが...高い。

　この手のコントローラは海外製で特に中国製は妙に安いのですが、システムの肝となる装置なので、信頼性の高いモノを選定したいところです。上記のモノであれば日本製ですので、個人的には安心できるかなと思います。

４－３．バッテリー
　自動車のバッテリーを交換したことがある人であれば、バッテリーの重さは十分に理解されているかと思います。
　基本的に選択するバッテリーはディープサイクルバッテリーと呼ばれる、繰り返しの充放電耐性の高いバッテリーとなります。
　※鉛バッテリーになるのでとにかく重い。

　なぜリチウムイオン電池にしないのか？と思う方がいるかもしれません。確かにリチウムイオン電池は重量が軽く、コンパクトでありながらも大容量のバッテリーとすることが出来ます。
　しかし、リチウムイオン電池は内臓されている充電制御回路が故障した場合、最悪爆発

の可能性があるため、常時人が張り付いているわけではない山小屋ではリスクが高いものとなります。よって、比較的安全かつ涸れた技術の塊である鉛バッテリーが適切であるわけです。

　1回の荷揚げでバッテリーだけを揚げるのであれば大容量のバッテリーも選択肢に入ってくるのですが、ひとまず10kg前後の小容量のものを並列接続することで容量を稼ごうかと思います。これであれば複数回に分けるか、人数をかけて荷揚げすることになりますが、各部品を冗長化できるというメリットもあります。
　（100Ahとか大きなバッテリーであれば1個で済みますが、万が一壊れた場合、システムが全く機能しなくなるというリスクがあります。そもそも重くて...

）
　割と現実的なところで40Ah前後のバッテリーを選択すると、以下のようなものがあります。これであれば割と軽いので、荷揚げも楽そうです。
　→http://www.chikuden-sys.com/category/battery.asp?id=499&c2id=98

　このバッテリーであれば20時間率で36Ahとそこそこの容量なので、以下の直流12V LED電球（明るさ100W相当、単体消費電力0.36A）であれば10本程度で理論上は10時間ぐらいは灯せる計算になります。
　※電線等の損失を無視してるので、実際には9時間前後がいいところでしょう。
　→http://amzn.asia/9x0zu3e

　今回は交流100Vにしたいシステムなので、インバーターの損失なども考えるともっと短くなるかと思いますが、それでも日が暮れてから消灯（20時ぐらい）までは十分に灯せるかと思います。
　並列接続することで容量は増やせますので、最終的には36Ah × 3個 = 108Ahぐらいにすると週末であれば乗り切れるかなと思います。

４－４．DC/ACインバータ
　バッテリーに給電した電気は直流のままのため、そのままでは交流機器に使用することが出来ません。
　このため、DC/ACインバータによって直流（DC)12Vから交流（AC）100Vに変換してあげる必要があります。
　選定にあたって注意しなければならないのは交流の出力波形が正弦波であるものでなければなりません。
　安いDC/ACインバータの場合、疑似的な正弦波を出力するものがあるのですが、この場合蛍光電球、及び一部LED電球が点灯しない可能性が出てきます。また、携帯電話、スマートフォン用の充電器も正常に機能しない可能性もあります。
※詳しく説明しようとすると大変なので、すいませんが割愛させてください。
　よって、多少高くても、正弦波出力となっているタイプを選択する必要があります。

　今回は目的として蛍光電球、またはLED電球で100型を10個程度＋小屋番用の携帯電話、スマートフォンの充電用と考えると、トータルでも最大で300W程度となるかと思われます。
　少しマージンを持たせると定格出力が400WぐらいのDC/ACインバータを選択するとよさそうです。
　→http://amzn.asia/aOu4iml

５．まとめ
５－１．最終形態
　写真２のような構成となるかと思います。点線は追加用のオプションという感じです。
　なお、安全装置としてのヒューズ、及びブレーカー等は図から省略してますが、各所で入れたほうが安全かなと思います。
　DC系統であればブレードヒューズ等、入手性が良いかつ耐久性に優れるものが良いかなと思います。（↓こういうやつ↓）
　→https://www.pecj.co.jp/fuse/blade/bfat.html
　AC系統は5A程度の安全ブレーカーを入れると良さそうですが...あるのかな？ありました。
　→http://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/222004910549/?HissuCode=B-1EA%205A

５－２．導入コスト
　写真③にある通り、ひとまず最少でまとめると\70,000前後となり、フルセットで行くと\140,000前後となりそうです。
　実際にはほぼ定価で揃えてるのでもう少し安くはなるかな？という感じですが、それでも\100,000はかかりそうですね。
　ランニングコストは3年に1度バッテリーの交換が必要になるくらいでしょうか。
　蛍光電球も玉切れはあまり心配しなくてもよさそうですが、暗くなったものから順次交換するにしても５年ぐらいは元気に光ってくれそうです。
　※太陽電池パネルは未知数です。

５－３．注意事項
　注意事項としては太陽電池パネルとバッテリーは追加したとしても合計でそれぞれ3台程度に収めたほうが良いかと思います。
　いずれの装置も並列接続を前提としているため、各装置が増えるにつれ電圧こそ12Vのままですが電流が増えていきます。電流が増えるとケーブルを太くする等の措置を取らないと熱損、最悪出火する

という事態を招きかねません。
　
　また、太陽電池パネル、チャージコントローラ、バッテリー、DC/ACインバータを接続する電源ケーブルは可能な限り短くした方がよいです。直流電流の場合ケーブルが長いと電圧降下量が無視できないレベルとなることがあります。
　どうしても伸ばしたいのであればDC/ACインバータ以降で、交流に変換した後のケーブルを伸ばす方が良いでしょう。

以上でしょうか。
割と現実的かつ、実現できそうな構成で設計してみました

何か意見や質問、こういうのもあるよという情報があればご自由にコメント

いただければと思います。

【おまけ】
　写真３に300W構成のシステムで時間当たりの発電量（効率別）とバッテリ容量毎の充電時間等記載してます。
　ピーカンになるような日は山だと珍しそうなので、効率60％として3時間ぐらいの日照時間がいいところでしょうか。これであれば3日もあれば90Ah近くはバッテリーに給電できそうです。
　100Ahのバッテリーを満充電するには10時間近く必要になる感じですかね。実際にはもう少し条件が悪そうですが...週末有人とかの小屋だと平日は充電する時間はありそうなのかつ、万が一足りそうになければディーゼル発電機に充電させるという手もあります。
　電源は複数用意しておくと電気設備に死角のない小屋になりそうですね。