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いわゆる霊感と呼ばれる類は全くない私の実体験談です。
キノコが待ちきれず、下見も兼ねて未踏の山域へ1人で入った時のこと。まずは県境の峠までクルマで上がって稜線を探索する。まだ微妙に時期が早いため、標高の高い方がより可能性が高いと踏んだためだ。なるべくなら、登らず、労せずにキノコを探れるステージの方が貧弱な自分にも有難い、と言う安直な考えもある。
しかし、そんな思惑を他所に、稜線での探索は見事に空振りに終わった。
その後は予め狙いをつけて置いた本命の山へ向かう。しかし、登山口へは入れなかった。何やら貸切りイベントが行われているらしく、部外者は入場も駐車も通り抜けも禁止ときやがった。
畜生、そんなのアリかよ。
今日は気合を入れて遠出しているし、次週の本番でその山へ入る予定なので、ある程度は山の様子を確認しておきたい。何より手ぶらでこのままスゴスゴ帰る訳にはいかぬぇ…。
とは言え、地図を見てテキトーにアタリをつけて来ただけだったので、簡単に山へ取り付ける登山口が使えないとなると困ってしまった。土地勘もない。未知の山域にも関わらず地図を持って来なかったのもイタダケなかったorz。
お目当てのキノコを観察するには、標高を上げないとダメだろう。しかし、ただ単純に標高が高ければ良いワケでもなく、植生(木、森)に注文が付く。
仕方なく別のアプローチからの突入を試みる。メイン道路から山へ向かいそうな脇道へ折れてみた。案の定、道はすぐに細いダート林道になり、やがて草がボーボーと生えたジャングルのようなあぜ道になった。道路一杯に生い茂る草が延々と続き、草に隠れた落石に気づかずに車体の底を擦る。
こんなトコ行っちゃって大丈夫なのかな?戻れるのかよ?
引き返したくても、もはや切り返せるスペースもなく、この先に曰くあり気なヤバイ廃村があったらどうしよう…などと、涙目になりながら仕方なしに進む。進まざるを得ない。
厳冬の八ヶ岳本沢林道でスタックした悪夢も甦る。あの時も、少しでも歩行距離を短くしようと最終ゲートまで強引に乗り入れて墓穴を掘った。強烈な寒気に雪がガチガチに締まった朝方は通り抜けられたが、その帰りには、日中緩んだ雪にタイヤが激しく喰い込んでスタックする憂き目にあっている。
マイナス20度を下回る真冬の八ヶ岳山中で取り残されたらちょっとサムいよ…。
他にも、難攻不落の山城林道(ジムニーでも通れなかったという路)で立ち往生し、麓までバックで下ったとか、知る人ぞ知るふた昔前の風吹土沢(北アルプス風吹大池への登山口の一つ。現在はタクシーが拒否しない程度の林道に整備されている)へ13Bで乗り付け、風吹の常連さんからは、その狂気を称えられてRX-7のあだ名で呼ばれている…など、何かと林道には苦い思い出がある。
さて、いよいよどうにもならなくなった所で、沢を渡る簡素な橋の横に僅かなスペースを見つけて一応は安堵。これでクルマを切り返せる。そしてその沢沿いには上流へ向かって獣道とも林業用の作業道とも判断のつかない踏み跡らしきものも伸びていた。
よし、ココから取り付いてみるか。実は林道へ入る前に、なるべく雑木林が多い方へ向かいそうな林道を選んでいたのだが、思ったより、杉や落葉松などの植林地へ進まされたようだった。この先、スギ林がどのくらい続くのか、カラマツ林を抜ければ雑木林にブチあたるのか?そしてキノコが出ているのか?確かな事は何もワカらなかったが、ココは行くしかぬぇだろ…
沢沿いを進むと、まもなくスギ林へ。クモの巣や足元のヘビに脅える草ヤブ歩きから解放される代わりに傾斜が増して来た。個人的にスギ林を歩くのは余り好きではない。大抵のスギ林は落ち葉が多く堆積し、地面も柔らかく、運び出しやすいよう急斜面となるのがお約束だ。だからよく靴に葉が入り込む。それがいちいち不快なのだ。しかし、スギ林は山奥になるほど先人の苦労が偲ばれるというもの。
とりあえずは尾根を目指す。自分がどの山のどの辺にいるのか、出来ることなら現在地も確認しておきたい。急登のスギ林を抜け、やがてカラマツ林を通り抜けると、良さげな雑木林に変わってきた。ココまでの道中、食用きのこをいくつか見たが全てスルーした。自分の好きなキノコ以外は写真すら撮らないのは高山植物と一緒である。
ともかく、お目当ての雑木林を前に気分も高鳴った。この雰囲気だと、お目当てのキノコはもちろん、舞っちゃうキノコまで狙えるのではないか、そんな期待すら感じさせる森だった。ミズナラがあれば一本一本見てまわりつつ、地表の斜面にも目を配り、倒木や朽木を見ればそれらも探る。きのこ探しもなかなか忙しい。
しかし何の成果も得られないまま尾根上まで登ってしまった。ナンてこった、こんなはずではなったorz.
期待が高まっていただけに落胆も大きかった。おまけに尾根に出ても、木々に囲まれて視界が利かず、自分が何処にいるのか全くワカらない。未知の山で、登山道も無ければ地図も方位磁石もない。とは言え、不安や問題は何もなかった。帰りは別ルートで下りたとしてもクルマへピンポイントで下りれるよう、地形は把握して来てもいる。
尾根に出てからの行動として3つの選択肢が考えられた。このまま尾根上を探るか?尾根を挟んだ反対側の斜面を探るか?すなわち、さらに標高を上げるべきか、それとも日照の異なる斜面を探るかだ。
太陽の位置から察するに、登ってきた斜面は北西側。反対の北東側の斜面を尾根から覗くと、同様の雑木林が広がっており、心なしか湿り気と言うか冷気をようなものを感じる。恐らくは下に沢があるのだろう。植生は同じでも、今登ってきた斜面よりずっとキノコの育成には良さそうな印象を受けた。
尾根上を進むなら、しばらくは雑木林が続いているようだった。
えっ?3つ目の選択肢は何かって?
それは私の得意技よ。
そう、ココで逃げ帰るという得意の十八番だorz.
なめてもらっては行けないよ。それが役に立つ事もあるのだから。
キノコおたくならば、この条件ならまず反対側の斜面を選ぶだろう。反対側の谷へ下り、再び登り返す必要があるが、キノコが採れる可能性が高ければそんな苦労など厭わない。
私もそう思った。しかし、それは躊躇われた。登り返しを懸念したワケでは決してない…
カラカラに乾いているのが気になるものの、このまま尾根を登ってみる事にした。しかしその尾根が意外と厄介だったのだ。
歩きにくいとか、滑落の危険があるとかではない。むしろ逆。いくつかの枝尾根が合流して複雑に入り組んでおり、そして登るに連れて、尾根上がなだらかに広がっているのだ。しかも相変わらず見通しの無い同じような木々の風景の中、きのこを探しながら歩いていると、尾根上が広すぎて支尾根の分岐がワカらなくなる。自分の登ってきた尾根も支尾根のさらに枝尾根の一つだが、木を丸ごと1本横倒しにするマーキングを施しても、帰りにその目印に気づけない恐れがあるくらい広い。
やがて主稜線と思しき尾根に出た。意外に主稜線にも登山道がなかった。いったい私はどこの山に登っているのか?木々の向こうに山並みが見えるようになったものの、それが何処の山かもわからないので、自分の位置も定かではない。
我ながら、トンでもない山奥まで入り込んだモンだぜ…
そして、Shit Happens.
もはやこれまで。もういくら探してもキノコは望めないだろう。この先は植生が変わりつつもあった。さすがに時期が早かったのか。きのこが食べれないのは残念だが、良さげな森を確認出来たし、下見としての収穫はあったと慰めるべきか。
撤退を決め込んでも気は抜けない。念のためと言うか往生際が悪いというか、未練がましく往路と異なるルートでキノコを探りつつ、尾根を間違えないよう慎重に下って行く。
やがてもとの尾根に戻れたことを確認。
一安心していると不意に便意をもよおした。
やべーよ、ウォシュレット以外ではウ〇コしねぇポリシーに反するんだよ…
どこで雉撃っても問題ない環境であった。何しろ人跡未踏の地だ。それでも何となく適地を探していると、不意に鈴の音のような音が耳に入った。錫杖の音だったかも知れない。
こんな登山道もない隔絶された山奥で鈴の音?
しかも平日に?
人なんか居るワケぬぇ…ぞ…
思わず便意も引っ込んだ。決してこちらの存在を悟られてはならない気がした。悟られたらヤバイという直感がある。
昼間だというのに血の気が引くのを感じた。
木の陰に身を隠して錫杖の音が聞こえた方角を探る。
いや、もう悟られているかも知れない。マズイぞ…それもかなり…
すると先ほど冷気を感じた側の斜面の下。
その木々の合間に何やら蠢く影が…
(((*´-`))ヒィィィィイイィ!!
そして…。とって置きの得意技が出るワケですよ…
帰宅後に地図で確認すると、やはり登山道などはない未踏の地だった。
主稜線の先にも登山道はないが、その先は当初予定の山の頂へと続いていた。
私が聞いた錫杖の音と、あの影は何だったのか、今も謎である。
ちなみに、翌週の本番では予定通りの山へ登山口から入った。
虚無僧茸を見た。
私の日記はこれにて終了です。😳。
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