登山の安全生理学講演のレポート

2016年10月23日 19:57遭難対策全体に公開

昨日10/22日本勤労者山岳連盟事務所において行われた
『登山の生理学』でも著名な鹿屋体育大学の山本正嘉先生による
講演内容を神奈川県勤労者山岳連盟救助隊長がまとめて下さったので
承諾を得て公開いたします。

最近の遭難事故は再び高齢者の数および占有率とも急増しております。
登山というものは娯楽でも旅でもなく、もの凄いエネルギーと
筋力を使う「スポーツ」であるということをあらためて認識していただき
たいと切に願っております。
スポーツですから日常的な筋力トレーニング、心肺トレーニング、
そしてバランス力が絶対不可欠であるということを忘れないでいただき
過去最高を更新し続けている遭難事故を少しでも減らしたいと願います。

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安全登山の為の運動生理学とトレーニング
平成28年10月22日　マウンテンゴリラ主催安全登山講習会　於労山全国事務所
講師　山本　正嘉　鹿屋体育大学教授
１．近年の登山における事故の傾向
・怪我
56％が転落・滑落、転倒によるもの。それも、ほとんどが一般ルートで起きている。
登山に必要な筋力やバランス能力が低い。
60歳以上の年齢に多い。「いわゆる」ベテラン層。登山歴は10年以上。
事故に対する自己分析では、「体調・体力の不足」を60％以上の人が上げている。
・病気
心疾患が多い。86％以上が男性。
ほとんどが行動開始から３時間以内に発症している。
心臓病の既往歴が無いのに発症している。
★過去の体力は過去のもの！

２．運動に必要な体力の数値化
・Mets（メッツ）　運動量の指標単位
１Mets・・・安静時
２Mets・・・ゆっくり歩く
３Mets・・・やや早歩き
４Mets・・・早歩き
５Mets・・・エアロビクスダンス
６Mets・・・ジョギングと歩行のインターバル運動。ハイキングでの歩行
以上までが安全圏内とされている。

７Mets・・・無雪期縦走。ジョギング
８Mets・・・雪山登山。ランニング８㎞／ｈ
９Mets・・・ランニング８．４㎞／ｈ
10Mets・・・柔道、空手、キックボクシング
７Mets以上の運動はリスクを伴う激しい運動。基本的に、登山は安全圏外である事が示されている。

３．高齢者の統計的実態
６０代前半までは、これまでと同じトレーニング方法・内容で体力を維持できている。６０代後半になると、トレーニングの質を改善しないと体力や運動能力の維持ができない。
　アメリカでの統計で、10000ｍ走のタイムを年齢別に調査した結果、上記の結論が得られた。
　トレーニングは、時間の長さではなく、密度を上げなくてはならない。

やっている積もりの日々の運動。
ウォーキング・・・登山に必要な体力を付けるには負荷が低すぎる。心拍数が上がらない。
階段登り・・・トレーニングとしての効果があるのは、５階まで16往復、所要40分以上の階段登り運動が必要。

４．トレーニングは毎日でなくても良い。
・週末の山歩きで、身体に負荷を掛ける。
・トレーニング時の心拍数の目安は130～145位。個人差、年齢差があるので、運動時の自分の心拍数を把握しておく事。登山等での運動時に出る心拍数まで、トレーニング時に上がらなくては効果が無い。
・日常での筋力トレーニング。
　スクワット、腹筋運動（上体起こし）、脚上げ運動　
トレーニングの初期は各10回を３セット。慣れてきたら各15回を５セット。
週に３回程度で充分。筋肉の回復期が必要なので毎日は逆効果。
・登山では、バランストレーニングも必要。

５．筋パワー
・筋力には、静的な力だけでなく、瞬発力も必要。登山でも、バランスを崩しかけた時に対応するための力として必要とされる。

６．山でのトラブル防止。体力を自覚する。
例　六甲山タイムトライアル
水平距離6.3㎞、登り標高差984ｍ、下り標高差114ｍ。標準コースタイム３時間。
これを、どの程度の時間で踏破するかで、自分の体力度を知る。
ある会では、ランク制を導入している。上記の様な尺度によって会員のランクを定めている。会員の平均年齢は高いが、やはり他の会に比べて山でのトラブルは圧倒的に少ない。

７．事故発生の傾向
・実は、年齢や経験年数との関係性は低い。
・年間の登山日数によって、事故を起こす割合に違いがある。定期的に登山に行っている人は登山に必要な筋力も付いている。年間登山日数が少なく、日頃のトレーニングも少ない人は、転倒等による事故を起こしやすい。

８．山に行ってからの疲労（安全対策）
・疲労の要素
Ａ）登り・・・オーバーペース
Ｂ）下り・・・筋肉疲労
Ｃ）エネルギーの欠乏
Ｄ）水分欠乏

・エネルギー、水分補給の目安（一般登山道）
体重（㎏）×歩行時間（ｈ）×５（定数）＝消費カロリー（kcal）及び水分量（ml）
計算例　体重６０㎏×歩行時間６時間×５＝1,800kcalのエネルギーもしくは1,800mlの水分補給量
目安としては、これの70～80％を補給する。
また、出発前にある程度身体に補給しておく事を忘れずに。
その他、荷物の重量も勘案した計算式もあり、これらの数値をコース定数として、登山コースの指標としている。最近のガイドブックにも記載される例が出てきた。
詳細は、年内刊行予定の「登山の運動生理学とトレーニング学」にて。

以上

2016-10-08 谷川岳危険地域入山の際の条例

2016-10-30 丹沢／県道７０号一部通行止め

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