富士山に咲くアザミといえばフジアザミ(富士薊)が有名だが、もう一つホソエノアザミ(細柄野薊)という品種も存在する。
ホソエノアザミもよく見られる品種なので、富士山にあるからフジアザミだと安易に決め付けるのはやめたほうがいい。
御殿場登山道に大きく葉を広げているのがフジアザミ。
柔らかい印象の葉形をしているので見分けは容易だ。
8月から10月にかけて大きな花で楽しませてくれる。俯いて咲くのも一つの特徴だ。
基本的に富士山や富士山周辺に分布しているようだが、遠く長野にも自生しているらしい。
(遺伝子型は少し違うようだ。富士山のフジアザミのほうがトゲが強いと聞く)
丹沢方面にはシロバナフジアザミという亜種も存在する。
ホソエノアザミは須走によく見られる。
ふじあざみラインにあるアザミをフジアザミだと決め付けることはできない。
こちらはフジアザミより鋭い葉形をしている。
葉形だけでは他種のアザミと見分けが難しいが、開花すればホソエノアザミだと確認できると思う。
ホソエノアザミは花の柄が細く長い。そして横に向いて咲く。
花期は9〜10月だそうで待ち遠しい。
今後富士山を巡ればもっと詳しく正しい分布がわかると思う。
今の見立てではフジアザミのほうが日照を好むように思える。
深い森の中ではあまりみないし、植生の回復途中の砂礫地にまず先に生えるからだ。
ところで、フジアザミとホソエノアザミの両方が分布している場所がある。
それは水ヶ塚公園だ。
水ヶ塚公園の西側の雪遊び広場にはフジアザミがよく見られる。
逆に売店より東側にはホソエノアザミがよく見られる。
両種の葉形はよく見分けがつき、雑種らしきものが見受けられない。
これはなぜだろう?
両種はどちらもキク科のアザミ属。
遺伝子レベルでは交雑可能なはずだ。
交配できるかどうかの目安の一つが属が同じかどうかだ。
つまり姿は似ていてもチョウセンアザミ属のアーティチョークとは
交雑しないというわけ。
属が同じでも交雑し難い仕組みを持つ植物というのはある。
例えばマメ科の植物。マメ科は例外的に自家受粉しやすいグループだ。
マメ科は開花前に受粉が終わってしまうので他家受粉し難い。
それを知ってメンデルは遺伝の研究にエンドウを用いている。
アザミにもそのような特性があるのかと思ったが、広く分布するノアザミは各地方の
固有アザミと交雑して雑種をつくりやすいらしい。
園芸関係でもアザミは交雑してしまうので純粋な種が欲しいなら袋がけが必要とある。
この2種は花期も重なっている。(ソメイヨシノと河津桜は花期が違うので受粉しない)
昆虫受粉なら公園の端から端の距離での交雑率は高いと思われる。
ひょっとしてフジアザミとホソエノアザミは染色体数が異なるのだろうか。
アブラナ科アブラナ属に例を出すと、染色体数のバリエーションが
n= 8、9、10、17、18、19とあり、染色体数の違うグループ同士は交雑しにくい。
同じ理由か知らないが、ウリ科カボチャ属である西洋カボチャ類と
ペポカボチャ類は交雑し難い例がある。
これがフジアザミとホソエノアザミが各々別の姿を保ちつつ同じ富士山周辺の
中部関東に分布している理由かもしれない。
例え染色体数が異なったとしても全く交雑しないわけではない。
今後もアザミの観察を続けていけば雑種が見つかるかもしれないし、
花を見れば新たな違いが発見できるかもしれない。
これが正しかったとしても新たな謎はある。
フジアザミとホソエノアザミが隣り合って生えているところを見ないのだ。
アザミはタンポポと同じ綿毛(冠毛)で種を飛ばす。
公園の端から端まで種が飛んでも不思議は無いのに東西にわかれて生息している。
両者ともアスファルトの隙間から生えていたりもするというのに近くには生えていない。
どうして2種は仲良くできないのだろうか?
今後はこれらを頭に入れてアザミの観察をしていくつもりだ。
植物学者なら簡単にわかることなのかもしれないが素人にとっては疑問であり、このように身近な疑問は大変面白いものだ。
余談だが、雑種の繁殖能力は低下する例がよくある。
動物に例を出すとネコ科ヒョウ属のライオンとトラの雑種ライガーは繁殖能力を殆どもっていないし、
ウマ科ウマ属のウマ(ウマ亜属)とロバ(ロバ亜属)の雑種ラバも繁殖能力に劣る。
野菜のF1交配種も不稔で次世代を残す能力が低いことが多い。(エンドウマメはそれがなかった)
しかしこれは一代目の交雑をしない理由にはならないので、観察を続ければF1種が見つかるかもしれない。
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