![]() |
目黒川の河口手前にある荏原神社にほぼ満開に近い桜🌸が突如出現してビックリした。あとで調べたら色の濃い寒緋桜🌸らしい。寒緋桜は河津桜よりも早咲きなのか。どこかほかにも咲いてないかな。
#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルはフィリップ・K・ディック『火星のタイム・スリップ』の続き。
マンフレッドが見ている闇の世界が、ジャックの、そしてマンフレッドの能力を悪用しようとマンフレッドに近づきすぎたアーニー・コットの精神をも蝕んでゆく。
「ドリーン・アンダートンとアーニー・コット。おれにとってもっとも重要な人物。人生そのものと触れあい、密接につながっていられるのはあの友人たちのおかげだ。それなのに、あの子は、いまおれを蝕み、もっとも強靭な人間関係すら、おれから奪おうとしている。
あとになにが残るのか? ひとたびおれが、あそこで孤立すれば、あとの人間−−おれの息子、おれの妻、おれの父親、そしてミスタ・イー−−みんな自然に、おれのあとに続くだろう。
もしおれが、一歩一歩着実に、あの完全に異常をきたしている子供に徐々に負けていくならば、その先に待ちかまえているものは明らかだ。精神病とはなにかということが、おれにはわかった。それは外界の事物、とりわけ重要な意味をもつ事物にまったく無感覚になることだ、思いやりのあるひとびとのいる世界から疎外されることだ。そしてそのあとにくるものは? 恐るべき自我の喪失−−自我の果てしなき流出。内面から生じる変化は、内面世界にのみ影響をあたえる。それは内面世界と外部世界に分裂した世界、ゆえにどちらも他の世界には記憶されない。だがふたつの世界は存在し、それぞれの道をたどる。
それは時間の停止だ。経験の、新しいものの終わりだ。いったん精神病になれば、その人間にはもはやなにも起こらない。
そしておれは、その戸口に立っている。いままでもおそらくそうだったのだ、はじめから、おれの内部に、それは潜在していた。そしてこの坊やが、おれの手をひいて、遠くまで案内してくれた。というよりはむしろ、この坊やのせいで、こんな遠くまで来てしまった。
凝固した自我、閉じこめられた底知れぬ世界。自己以外のすべてが拭い去られ事故がすべてを占める。そして微細な変化を無限の注意力で吟味しつづける世界。これがマンフレッドの現在の状態だ。そもそもはじめからこうだったのだ。分裂症の進行の末期。」
マンフレッドは手足を失い、コープの建てたAM・WEBのビルの廃墟に長いこと閉じ込められている。かれはつねに自分の死を見つめている。
「おまえは死なねばならぬ」黒いひと(火星原住民ブルークマンであり、アーニー・コットの奴隷のヘリオガバラス)は、遠くから聞こえるような声で言った。「そうすれば生まれ変わるだろう。わかるかね、そこの子供? いまのままでは、どうしようもないぞ、なぜならば、なにかが狂って、おまえは、見ることも聞くことも感じることもできない。だれも、おまえを助けることができない。わかるかね、そこの子供?」
「かれはAM・WEBにだれよりも長くいる。われわれの仲間がここへ来たとき、かれはすでにいた。もうたいへんな歳だ」
「かれはここが気に入っているのか?」
「さあね。かれはひとりでは歩けないし、食べ物も食べられない。記録は、あの火事で焼けてしまった。たぶん200歳ぐらいだえろう。かれの手足は切断されているし、むろん、臓器もみんな除去されている。かれは、いつも花粉熱のことばかり愚痴っている」
ちがう、とマンフレッドは思った。とても耐えられない。鼻が焼けるように熱い。息ができない。これが、生へのはじまりなのか、黒い影のひとが約束してくれたことなのか? 新しい出発、そこではわたしはいままでとはちがったものになる。そしてだれかがわたしを助けてくれるのか?
わたしを助けてくれ、とかれは言った。だれかの助けがいる。だれでもいい。永久にここで待っているわけにはいかない。いますぐ来るか、それとも来ないかだ。いま来てくれなければ、わたしは、世界をのみこむ穴になってしまう。そして穴はなにもかも食いつくすだろう。
AM・WEBの下の穴は、その上を歩くひとびと、かつて歩いたひとびとをのみこもうと待っている。あらゆるひとびと、あらゆるものをのもうとしている。そして、マンフレッド・スタイナーだけが、それを食いとめることができる。」
ヘリオガバラスは、マンフレッドの心が読める。
「この子の考えていることは、わたしには、プラスチックみたいにくっきり見えるし、わたしの考えもこの子にははっきりと見える。わたしたち、ふたりとも囚人です。ミスタ、敵地にとらえられている」
「この子は、自分自身の老年を体験しているのです。この子は、いまから数十年後の、この火星にこれから建てられるはずの老人の家に、なかば朽ち果てた体を横たえています。その廃屋をこの子は言葉に言い表せないほど忌みきらっている。その未来の廃屋で、彼は、ベッドにくくりつけられたまま、空虚で退屈な年月を送っている。ひとりの人間としてではなく、ひとつの物として、愚かしい法律によって課せられている義務のために、生かされているのです。彼が、現在に目を向けようとすると、たちまち、自分自身のその恐ろしい姿に悩まされるのです」
「(老人の家は)まもなく建てられるはずです。はじめは老人の家ではない、火星に移住してきたひとたちのための巨大な住居です」
「ひとびとがやってくる、そして腰をすえ、生活をはじめる。そして野蛮なブリークマンを最後の隠れ家から追いはらう。その返礼に、ブリークマンは、その土地に呪をかけ、昔どおり不毛の地にしてしまう。地球の移民は失敗する。彼らの建物は年ごとに荒廃する。移民は、来たときよりも早く地球へ逃げ帰る。そしてついに、その建物は他のことに使われる。老衰したよぼよぼの老人や貧乏人を収容する施設になる」
「その恐ろしい幻影から逃れるために、この子は、もっと幸福だった日々に、母親の腹のなかにいたころの日々に、だれもおらず、変化もなく、時間もなく、苦しみもなかった日々に逃げ込んでいる。子宮の暮らしに。この子はそこに、自分の知っている唯一の幸福のなかに閉じこもっている。ミスタ、この子は、そのお気に入りの場所から出たくないのです」
「この子の苦しみは、わたしたちと同じ、みんなと同じ。でもこの子のは、もっとひどい、なぜなら、この子には、わたしたちにはない予知能力があるから。それは、恐ろしい能力です。きっと彼の−−内側は真黒でしょう」
「おまえは、おれの考えていることがわかるか?」「この子は時間を見通すばかりじゃない。時間をコントロールしているんだ」
「そうじゃないのかね?」「いいか、ヘリオガバラスの黒すけさんよ、この坊やはな、昨夜という時間をもてあそんだ。おれにはわかっているよ。この坊や、ゆうべ起こることを知っていて、勝手にそれを変えようとした。起こるはずのことを起こらないようにしたのではないかね。この坊主、時間を止めようとした」
「それが事実なら、こいつはすばらしい能力だよ。きっとこの子は好きなように過去に戻ることができて、現在を好きなように変えることができるんだよ。おまえ、この子の相手をしてやってくれ、この先もずっと」
マンフレッドとともにブリークマンの聖なる岩〈汚れた瘤〉へとたどり着いたアーニー・コットは、ヘリオガバラスの指示にしたがって岩室に入り、そして……過去に戻った。ジャック・ボーレンにはじめて会ったあの日の前に。だが、彼の心はガビッシュに侵食されていく。ガブルガブルガブル……。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する