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#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルはフィリップ・K・ディック『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』の続き。
レオ・ビュレロも受けた強制進化のE療法。だが、個体の獲得形質の変化と世代間で受け継がれる生物進化を混同してるらしい記述が気になる。
「これは自然な進化の過程を加速するだけのことなんだ。とにかく、進化の過程ってやつはしょっちゅう進んではいるんだが、あんまりスピードがのろいんで、ふだんは感じられない。早い話が、洞穴に住んでいたわれわれの祖善だ。彼らは全員体毛に覆われていて、あごがなく、脳みそだって、ごく限られた前頭葉しかなかった。それに、木の実をかみくだくために、一つになった大きな臼歯を持っていた」
「彼らから遠く離れるほど、われわれにとっては好都合なわけだ。とにかく、彼らは氷河期に対抗するために進化した。われわれは焦熱期に対抗するために進化しなきゃならない。ちょうど正反対さ。だから必要なんだよ、あのキチン質の皮膚、あの堅い甲羅が。それと、日中に眠れるような代謝作用の変化、体温調節の改善−−」
「ナットがその男の頭から、連想したのは、むかし教科書の中で見た写真だった。その写真には〝水頭症〟と説明がついていた。眉から上のふくらみ方がそっくりだ。明瞭なドーム形で奇妙にかよわい感じのそれを見たとたん、なぜこういう進化をとげた富豪たちが、俗に〝フーセン頭〟と呼ばれているかがなっとくできた。−−まるでいまにも破裂しそうだ、と彼は思い、強い感銘を受けた。それに−−あの堂々たる外皮。頭髪は後退し、色の濃い、つるりとしたキチン質の殻にかわっている。フーセン頭? ココナツのほうがぴったりだ」
パーマー・エルドリッチ(と思しき人物。もしかしたらプロキシマ星人が化けてるかも)がプロキシマ星系から持ち帰ったチューZは、人類を妄想の世界(マトリックス的な何か)に閉じ込めるためのプロキシマ星人の策略だという。かれらは地球侵略を目論み、地球が日毎に熱くなっているのも、かれらのせいらしい。キャンDが異星の植民地の穴蔵で暮らす住民たちにもたらす共同妄想では、男はみなウォルトとなり、女はみなパーキー・パットとなって、地球での生活を体験できるだけ。そこにあるものは、模型キットであらかじめ用意したものに限られる。
パーマー・エルドリッチによる説明:
「わたしはプロキシマ星系で神を見つけはしなかった。だが、もっといいものを見つけたよ」「神は永遠の生命を約束する。わたしはそれ以上のことができる。永遠の生命を引き渡せるのだ」
「チューZの名前でわれわれが市場に出す地衣類をつうじてさ」「あれはきみのほうの製品とはほとんど似ていないんだよ、レオ。キャンDは時代遅れだ。そうじゃないか、あれになにができる? つかのまの逃避、たんなる幻想にすぎん。だれがそんなものを欲しがる? まがい物でない体験がわたしから得られるというのに。だれがそれを欲しがる?」「われわれはその世界にいるんだよ、いま」
「これは特別の状況さ。きみにこれがまがい物でないことを証明して見せるためだ。それには、肉体的苦痛と恐怖にしくものはない。グラックどもは、これがただの幻想でないこと、を、絶対的な明確さできみに示した。やつらっは実際にきみを殺すこともできたんだよ。そして、もしきみがここで死んだとすれば、それで一巻の終わりだ。キャンDとは似ても似つかんだろうが、ええ?」「プロキシマ星系であの地衣を発見したときは、信じられない気持ちだったね。レオ、わたしはすでに百年も生きたよ、プロキシマ星系でむこうの医者の指導のもとにあれを使ってな。内服もした、静脈注射もした、座薬もためした−−火にくべて煙を吸いこみもしたし、水溶性の溶液にしたものを沸騰させて、蒸気を嗅ぎもした。ありとあらゆる方法で使ってみたが、なんの害もなかった。あれがプロキシマ星人に与える効果は、われわれに対するのとはちがって、ごくわずかだ。連中にとっては、高級タバコよりも弱い興奮剤でしかない。もっと聞きたいかね?」
「われわれが以前の肉体にもどったとき−−どうか〝以前〟という言葉を使ったことに注意してくれたまえ、きみがキャンDについては、あるもっともな理由から、決して使わない用語だ−−きみは時間がまったく経過していないことに気づくだろう。かりにここで50年暮らしたとしても、それはおなじこと。ルナの私有地へもどってみれば、なにひとつ変わってないのがわかる。だれかがわれわれをずっと見まもっていたとしても、意識の空白は目につかないはずだ。そこがキャンDとちがうところでな、失神も起こらず、昏睡もない。そりゃ、まばたき1つぐらいはするかもしれんよ。ほんの一瞬。そこまではあえて認めるがね」
−−われわれがここにいる期間を決定するものは、なんだ?
「われわれの気持ちさ。接種した量じゃない。そうしたければ、いつでも戻れる。だから、薬剤の量は必ずしも−−」
−−嘘だ。だって、わたしはさっきから、ここを出たい出たいと思っている。
「しかし」「きみがこれを−−この世界を−−こしらえたわけじゃない。そうしたのはわたしであり、これはわたしの物なんだ。あのグラックどもも、この風景も−−」「きみの目に見えるすべてのものは、わたしが創りだした。きみの体も含めてな」
「きみがわれわれの宇宙にいるときとそっくりおなじ姿でここへ現れるようにと、わたしが意志を働かせたのさ」「わかるか、そこがヘバーン=ギルバートにアッピールした点なんだ。やっこさんは、むろん仏教徒だからね。つまり、人間は自分の願いどおり、どんなものにでも生まれかわる。あるいは、こんどのように、だれかが代わりにそれを願ってもおなじだ」
「チューZを使えば、人間は生から生へと輪廻をつづけることができる。なろうと思えば、虫にも、物理の教師にも、タカにも、アメーバにも、粘菌にも、1904年のパリの一通行人にも−−」
−−グラックにさえもなれるわけか。いったいわれわれのどっちが、あそこにいるグラックなんだ?
「教えたろう。わたしが、わたしの一部からあれをこしらえたんだ。きみもそうしたければ、なにかを作れる。やってみたまえ−−きみのエッセンスを投影するのさ。あとはむこうがひとりでに形をととのえる。きみはロゴスを与えてやればいい。おぼえているかね?」
レオ・ビュレロによる推察:
「かりにわたしが自分の宇宙をこしらえたくなったとしよう。ひょっとすると、わたしの中にもなにか邪悪なものが、自分では知らない性格の一面があるかもしれん。それが原因して、きみの生み出したよりももっと厭らしい怪物を作り出してしまうかもしれん」
−−どんなものができたって、うっちゃってしまえばいいのよ。もし、それが気に入らなかったらね。だけど、もし気に入ったら−−そのまま残しとけばいいわ。だってそうでしょ。だれが困るっていうの? どうせそこにいるのはひとりっきり−−
「ひとりっきりか」「つまり、めいめいの人間が、べつべつの主観的世界へ行くって意味か? それじゃあ、模型セットとはちがう。なぜなら、キャンDを使った場合は、グループの全員が模型セットの世界へ行くからだ。男はウォルトの中へ、女はパーキー・パットの中へ。だが、そうすると、きみはここにいないことになる」それとも−−と、彼は思った。おれがここにいないかだ。しかし、そうだとすると−−
「われわれはチューZを与えられたんじゃない」「これはみんな催眠誘導的な、まったく人為的な疑似環境だ。われわれは出発点からどこへも行っていないのさ。まだルナのきみの私有地にいるんだ。チューZはなにも新しい宇宙を創り出したりしないし、きみもそれを知っている。正真正銘の輪廻なんてありはせん。すべてが手の込んだペテンだ」
−−いいえ。わたしを信じたほうがいいわよ。だって、もしそうしないと、おじさんはこの世界を生きて出られないから。
パーマー・エルドリッチがこしらえた少女モニカの言うとおり、かれの創作した世界に綴じ込められたレオは、モニカの首を絞めて殺す。だが、その仮想世界は依然としてそこにあった。なぜかそこにいたプロキシマ星人のあとをつけたレオは、進化した地球人2人組と遭遇して、自分が幻影にすぎないこと、過去にパーマー・エルドリッチを殺して地球を救った英雄であることを知る。そう記された記念碑があったのだ。現実世界に戻ってきた(ホント?)レオに、パーマーは電子装置越しに語りかける。
「そう、わたしは記念碑を見たよ。未来の約45パーセントに、あれがある。成功の確率は五分五分よりも少ないから、わたしはたいして心配していない」
「わたしはきみを釈放してやるつもりだ」「ただし、ほんのしばらく。約24時間。そのあいだ、きみは地球へ帰っていい。きみの零細企業のちっぽけなオフィスへな。そこで、この状況をよく考えたまえ。すでにきみはチューZの権力を目の当たりにした。キャンDなどという古めかしい製品がとうていそれに太刀打ちできないことは、いやでもはっきりしたはずだ」
「念のためにいっておくが」「わたしはきみに慈悲をかけたのだよ、レオ。そうしようと思えば、わたしはきみの比較的みじかい生涯に−−なんというか、終止符を打つこともできた。いつでもこっちの好きなときにな。それを念頭において、きみもおなじことをするよう、わたしは期待−−いや、強く勧告するね」
「レオ、もしきみがわたしと手を握ろうとしなかったときは、こっちもそれ以上は待たないぞ。その場合、わたしはきみを殺す。そうしなくてはならん。自分のいのちを救うためにな。わかったか?」
レオは、自分を助けにこなかった部下のバーニイをクビにする。行き場を失ったバーニイは国連の徴用令状に従って開拓移民団に志願し、火星のファインバーグ・クレセント開発地に赴くことになった。
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