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#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルは神林長平『グッドラック 戦闘妖精・雪風』の続き。
欠員となっている雪風のフライトオフィサに、情報軍のロンバート大佐が懐刀を送り込んできた。身内にスパイを抱えることになったブッカー少佐は、軍医のフォス大尉と深井大尉に、桂城少尉とプロファクティング(心理負荷強度分析法などを使った行動心理予測手段)を実施するよう命令する。フォス大尉はプロファクタリングツールのMAcProIIを使って桂少尉のプロファクタリングに取り組み、それをモニタしていた雪風は、MAcProIIを通じてジャムのプロファクタリングをおこない、その結果を返してきた。
〈MAcPro2: JAM aspire to receive us… I judged it true〉
「ジャムは我々をレシーブしたがっている、わたしはそれは本当だと思う」。雪風はジャムの出方を予測する独自の手法をもっている。だから、MAcPro2による結果については、自分は正しいと判断すると返してきた。とすると、MAcPro2を介して雪風自身のジャムへの予想を聞き出せる。いままではその手段がなかった。
「少佐、あんたは雪風の例の予想について、どう思う。もしジャムが特殊戦を味方にするのに成功すれば、FAFは間違いなく壊滅する。絶対にあり得ないシチュエーションではないだろう。こちらが意識しないうちにジャムに与した行動戦略をとっている、ということも考えられる」
「特殊戦の生き残り戦略とすれば。積極的にそれを選択することもあり得る」
「生き残れれば、ジャムと手を組んでもいいというのか。本気か、ジャック」
「……クーリィ准将の言葉だ。むろん、准将は、現時点でそうするのがわれわれのベストな戦略だなどと本気で考えているわけではない。だが、そのようにクーリィ准将から聞かされても、おれは驚かなかった。おまえもだろう。違うか。おまえは、生きるために戦っている、と言ったろう。ジャムも雪風も、生存競争の相手だ、と」
「しかし、それはおれの個人的な立場での話だ。特殊戦やFAFはそうじゃない。ジャムの地球侵略を阻止するのが目的−−」
「このままではFAFが敗北するのは時間の問題だとクーリィ准将はか考えているんだ。わたしもそう思う。ジャムがどのくらいFAFに紛れ込んでいるのかもわからないというのに、これで勝てると思うやつがいるとしたら、そのほうがどうかしている。ならば、ここでFAFとともに自滅するのか、それとも独自の戦いを始めるのか、いまやそういう選択を迫られている、と准将は判断している。おれたちの命運は彼女の決断にかかっている、と言ってもいい」
「ジャムと仲良くしよう、などとクーリィ准将が決断したら」「おれは、准将がジャムなのだ、と疑うことになるだろうな」
「それをいうなら、いまおまえこそが、そのように疑われているんだ、深井大尉。雪風があのような予測を出してきたというのは、おまえの工作だということも考えられる、とクーリィ准将は言ったよ。おまえがジャムかもしれないという疑いはロンバート大佐も抱いている。だから桂城少尉を送り込んできたんだ」
「おれがジャムなら、雪風にもう見破られているさ」
「それはどうかな……しかし、たしかに雪風にとっては、ジャムはあくまでも敵だ。もし特殊戦がジャムは敵ではないという選択をすることになれば、雪風はその存在目的を失う。それへの対処はやっかいな問題になるだろう」
「ジャムが生存競争の相手だというのは、この戦争での敵味方という立場にかかわらず、雪風にとってもそうだろう。雪風にはもう外部から存在目的を与える必要などない。生き残るための行動を独自に選択する」
「雪風が生きているかのような口振りだな」
「生きている」「そして、おれも、生きている。ジャムか人間かというのは、それとは関係ない。現に雪風はジャムでも人間でもない−−」
「個人的な話ならそれでいい。勝手に言っていろ、なんとでも言えるってことだ。だが組織を管理するおれの立場では、話は別だ。個人的にはおれはおまえを疑ってはいないが、こうなると、組織上でも各自自分はジャムではないと信じて行動するしかない。自分だけを信じて行動するんだ。しかし考えてみれば、特殊戦は以前からそうしてきた。そのような個人を集めてなお統制がとれている一種奇跡的な集団だそうだからな、フォス大尉に言わせれば。だが、FAFはそうではない。それが問題なんだ」「ともかく、ジャムがこちらを味方にしたいと思っているなどというのは、雪風のジャムに関するプロファクタリング結果における予測そのものではない。予測結果をわれわれ人間が解釈した、そのうちの一つにすぎない。あの雪風予測は、こちらの解釈のしようでどうとでもとれる。あいまいだが、それだけ情報量が多いということでもある」
「ジャムは特殊戦がFAFから乖離するようにうまくこちらを操作している、ということだって考えられる。おれはそれが気になってしかたがないんだよ、少佐。おれたちが空中戦で戦っている相手はジャムの本隊ではないんじゃないか?」
「それこそ、特殊戦が抱いている疑惑そのものだ。対ジャム戦略偵察でジャムの本隊の所在を明らかにしたいんだ。FAFの人間に対する地球人のような、背後に控えているジャムの本隊、本体を、つかまえたい」
(中略)
「現状では、FAFから離れて特殊戦だけが生き残れる可能性はまずない。クーリィ准将もそれは承知している。特殊戦の戦略コンピュータはいま特殊戦の生き残りシミュレーションの仕事でフル稼働しているよ。おまえは、自分のそれを考えろ。部隊の生き残りについては、クーリィ准将が考える。わたしは、両者を取り持つ。とにかく、ここにきて滑稽な死に方はしたくない。いつぞやおまえが言ったとおりだ。特殊戦はいま総力を挙げて生き残り戦略を構築中だ」
「生き残り戦略か……ほんとに生存競争だな」
「ジャムが対人戦略を練っているのはコピー人間を送り込んできたことからも明らかだ。これまでのように人間を無視しているかのような戦略を転換する可能性はかなり高い。戦況は緊迫の度を高めている。それがどの程度のものなのか上層部にはわかっていない。FAFが危うい状態にあるのは間違いない」
ジャムの基地クッキーに総攻撃をかけたFAF。雪風はそれを監視する業務についていたが、その雪風に接触してきたジャム機が一機あった。雪風はその誘いに乗ろうとしている。雪風がMAcPro2の自然言語処理システムを介して、人語で零に語りかけてきた。
〈目標機は紫外線変調による通信を実行中。SSLバージョン1.03プロトコルによる《follow me》タグを繰り返し発信中〉
〈目標機はあなたと直接話したいと願っていると予想される。しかしその内容をFAFの他機に聞かれたくないので、どこか邪魔の入らない場所への誘導を試みている最中であると予想できる。−−わたしもそのMAcPro2予測を正しいと判断する〉
「どこだ、邪魔の入らない場所とは」(深井大尉による音声会話)
〈UNKNOWABLE WAR AREA〉(不可知戦域)
「雪風……目標機との電子戦に備えろ。油断するな。やつは、ジャムだ」
〈everything is ready/I don’t lose/trust me… Lt.〉
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