![]() |
#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルは神林長平『グッドラック 戦闘妖精・雪風』の続き。
雪風と深井大尉に接触をはかってきたジャムとの対話。
「われにはおまえが理解できない。なぜ戦う」
「われには、ユキカゼという知性体が理解できない。特殊戦という知性体群が、理解できない。なぜだ、深井中尉、なぜ戦う」
「貴殿、ユキカゼを含む、特殊戦知性体群がけが、ヒト的意識を持たない知性体であり、われに相似であると思われる。それがFAF集団と分離せず、なぜわれに干渉し邪魔をし戦うのか、それが理解できない。ユキカゼは、われとの非戦協定の批准を拒否している。拒否を撤回するように働きかけ、それを実現できるのは、貴殿だけである。深井中尉、覚醒を望む。われに返れ」
「現在のヒト及びその集団に操られる人工知性体群は、われの予定せし本来の性質から逸脱した存在である。貴殿らは、そうではない。貴殿らこそ本来的存在であり、貴殿らの敵は、われではない。貴殿らを消耗させるは、われの本意にあらず。われの下に返る選択を望む」
(桂城少尉の割り込み)「それはようするに、おれたちがジャムに似ているから、ジャムの仲間になれ、寝返って、おまえと一緒にFAFと戰えというのか」
「われと貴殿らは相似だが、仲間ではない。だがFAFに対する共闘は可能であると解釈されたい。それを貴殿、桂城少尉の生きる道にできると判断する。返答を求む。FAFを離脱し、われに与する意ありや、意向を表明せよ、深井中尉」
(深井大尉)「おれは、おまえという存在をより詳しく知りたい」「おまえの正体をおれは理解できないが、おまえのほうは、こちらをある程度理解している。このような不公平な状況下での非戦協定の批准など、おれにできるはずがない。そもそも、おまえは人語を完全に理解して使っているとは思えない。−−いったいおまえは何者だ? 生物なのか。知性や意志や情報だけの存在なのか。実体はあるのか。どこにいるんだ?」
「例示された貴殿の概念では、われを説明することはできない。われは、われである」
(深井大尉)「それ以外に説明する言葉がないというのなら、言葉によるこれ以上の交渉は無意味だ」「おまえの要求は、拒否する」
「了解した」
雪風と深井大尉の捕縛を目論むジャムに対して、雪風は自機を標的にミサイルを発射することによって、一か八かの賭けに出た。
「雪風は、この場に誘い込んだジャムの目的を理解しているだろう。ジャムは、自らに理解できない存在である雪風の乗員に用があったのだ。もしその人間との交渉が決裂しても、殺さずに捕獲しようとするだろう、というのは予測できる。だから自分もこの場では殺されないだろうと余裕をもって構えていられたのだ、と零は思う。しかし雪風は、そうはさせない、この場でジャムのそうした目論見をうち砕いてやると、決意したのだ。
これは雪風の自殺行為などではない。ジャムに対する戦術戦闘行為だ。決死の。もしジャムがこれを無視し、その結果自爆という形の最期になろうとも、雪風にすれば、ジャムの企てを阻止したということで、負けではないのだ。
−−雪風はこのおれを人質にしているのだ。ここから出せ、でないと、乗員を殺す、自分は本気だ、と。雪風は、自分がその気になればいつでも乗員を自らの手で殺せるのだ、ということをジャムに実際に示しているのだ……なんてやつだ。
零はあらためて雪風に畏れを抱いた。人間を犠牲にしてまでもジャムに勝とうとしている、その存在に」
ミサイルによる爆死の直前、ジャムは深井大尉の心に直接語りかけてきた。雪風を介さずに。
(おまえは死を望んではいない。雪風に殺されることは、死ではないと判断しているようだが、それは誤りだ。おまえは雪風に殺されようとしている。いまなら、まだ間に合う。われが阻止してやろう。返答せよ。われに従え)
(なぜだ。なぜわれの提案を受け入れないのだ。なぜわれを信じない)
(われを理解できないまま消滅してもいいというのか)
−−おれは雪風に殺されるのだ、おまえにではない。もはやおまえのことなど、どうでもいい。おれと雪風の関係に割り込むんじゃない、さっさと消えろ。これは、おれと雪風との関係だ。邪魔されてたまるか。おれはいま、雪風との関係を完成させるために忙しい。邪魔をするな。おれの生死は、おれのものだ。だれにも渡さん。
間一髪で帰還した深井大尉と桂城少尉のレポートを踏まえたフォス大尉の見解。
「雪風とあなたは、もはや戦闘機とパイロットという関係ではない。かつてあなたが感じていた、友人とか恋人とかいう関係でもなく、いまや仲間ですらない。どちらが主人、ということでもない。それにもかかわらず、生命を互いに託すことができる。状況によって、雪風もあなたも、ジャムに対する自爆兵器として自分が機能することを認め合っているという関係よ」
(深井大尉)「おれは、自分を消耗兵器だと思ったことはない」「思っても、認めたくなかった。それは、いまも変わらない」
「雪風も、そう思っている」「雪風は自分を消耗兵器だとは思ってはいない。これは、あなたと、雪風との関係の上でのみ成立するのよ。それをジャムや第三者から見れば、互いに兵器として機能することを受容している、というふうに感じられる。でもあなたと雪風の関係は、実はそんなものではない。それが、ジャムにはわからない」
(ブッカー少佐)「わたしにもだ」「戦闘機とパイロットではなく、友人でも仲間でもない。同僚や戦友でもなく、敵や味方でもないとすると、なんだ」
「簡単なこと。自分自身よ」「雪風と深井大尉は、互いに自己の一部なのだ、ということ。互いに自分の手足であり、目なのよ」
(ブッカー少佐)「サイボーグだというのか」
「いいえ」「サイボーグとは違う。機械に人間の脳を組み込んだのではないし、コンピュータに操られる人体でもない。二つの、異なる世界認識用の情報処理システムを持っていて、互いにそれをサブシステムとして使うことができる、新種の複合生命体。これは人間ではないし、機械でもない。ジャムにわからないのは当然、という気がする。なにせ新種だもの。ジャムの脅威に対抗するために生まれた、新しい生命形態種と言えるでしょう」
「零、他者を自分の一部として同一視するというのは、病的か、未熟さを表しているといえる。でもいまのあなたのそれは、そうではない、ということなのよ。他者と認めつつ、それはまた自己の一部でもあると意識するのは、人間にとってさほど珍しい現象ではない。人間にはそういう能力があるのよ」
(深井大尉)「そんなのは分裂病だろう」
「とんでもない。高度な意識作用だわ。健康でなければ、そんなことはできない。分裂病では、そのような豊かな精神世界を構築できる可能性はまったくない。誤解もいいところよ。あなたは、病気だと診断してほしいの?」
(深井大尉)「いや。しかし、なんと言われようと、おれは、おれだ。新種だろうが、狂っていると言われようと、おれには関係ない」
「でも、ジャムに対しては、新種の複合生命体、という見方は通用すると思う。ジャムにとっては、雪風とあなたをペアで捉えた場合、FAFにかつて存在しなかったタイプの敵であるというのは間違いない。ジャムは、さほど深く人間というものを理解しているわけではないと思う−−」
桂城少尉の気付き。
「でも、ぼくは、思ったんだ」「ジャムは、特殊戦の性格は理解できるけれど、それが、ジャムの仲間にならないことが、理解できないのだろう、と」
「ぼくは、特殊戦以外にも、そのような集団があるのを知っている。ジャムはそれにはどうして触れなかったのかなと、ふと思ったんだ。わからないはずはないんだ。その集団のことは、ジャムは理解しているのだろう、だから触れなかったんだと、いま、そう思いついたんだ」
(深井大尉)「そのような集団とは、FAF内でか」「特殊戦以外にもあるというのか」
「あるさ。FAF中央情報局の実戦部隊、FAF情報軍だ。というより、ロンバート大佐の指揮する集団だよ。ぼくは、あの大佐こそ、ジャムだと思う。根拠はないんだが、そう感じたんだ」
(深井大尉)「……なるほど」「十分、考えられるな。おれは特殊戦ではなく情報軍に配属される可能性があった、というくらいだからな。それがジャムのための活動なら、ジャムがなんの疑問も抱かないのはあたりまえ、ということか」
(フォス大尉)「ダブルスパイね」「たしかにFAF内での対諜報活動を知ることは、ジャムにとってこれ以上ない情報価値を持つでしょうね」
(ブッカー少佐)「ま、ロンバート大佐にすれば、こちらがそのように警戒しているというのは先刻承知だろう。特殊戦は、むろんその可能性に気づいていたさ。特殊戦にとって、いちばんジャム人間であってほしくない人間といえば、ロンバート大佐だからな」
(深井大尉)「大佐が、ジャム人間とすり替わる機会はあったのか」
(ブッカー少佐)「ジャムがやる気なら、いつでもできた。おれはそう思う。それに、コピーでなくても、ジャムと組むことで自分の欲求が満たされると判断し、そのような行動をとる人間がいても不思議ではない。ジャムとどうやって接触したかは問題だが、そのほうが可能性としては高いかもしれん」
(深井大尉)「早い話が、ロンバート大佐はジャムの手先だと、特殊戦は疑っているわけだな」
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する