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オーディブルはダニエル・ソカッチ『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』の続き。第2部「イスラエルについて話すのがこれほど難しいのはなぜか?」の第15章「地図は領土ではない」から第19章「BDSについて語るときにわれわれが語ること」まで。
・イスラエルジンもパレスチナ人も自分たちの正当性を主張する一方、相手を貶めるために歴史に修正を加え、土地の名前を自国語に書き直し、地図も現実の境界線(それの是非はおいといてグリーンラインが機能している)を無視して、すべてが自分たちの領土だとする地図を公式のものとしている。
・イスラエル人とは認められていないパレスチナ人とは別に、イスラエル国内にもアラブ系国民が2割いる。イスラエル建国宣言には「宗教と人種と性別にかかわらず、すべての住民に社会的・政治的権利における完全な平等を保障するとともに、信教、良心、言語、教育、文化の自由を保障し、すべての宗教の聖地を守護し、国連憲章の方針を遵守する」とあるにもかかわらず、アラブ系国民は職業・結婚差別の対象であり、不当な尋問・侮辱的な待遇・空港での拘束を日常的に受けており、学校制度も居住地域も別で、土地の所有権は国家に奪われ、ほとんどが最貧地区に居住している。兵役は免除されるが、多くの求人が「軍務経験者のみ」を対象としているため、とくにハイテク産業を中心とした就業機会と人脈から排除されている。
・成文憲法を持たないイスラエルで2018年に右派の主導によって成立した国民国家法は、イスラエルにおける民族自決権はユダヤ民族だけのものであり、非ユダヤ人の国民にはその権利はないと定め、ヘブライ語を唯一の公用語とし(アラビア語は特別な地位の言語に格下げされた)、ユダヤ人の入植事業を国家的価値として優先すると明記した。
◎イスラエルとアメリカの蜜月関係
・アメリカにはヨーロッパのユダヤ人が受けたような暴力的な差別はなく(差別されていたのはおもに黒人だった)、第二次大戦前からいるアメリカのユダヤ人にとって約束の地はアメリカ(とくにカリフォルニア)であって、イスラエルではなかった。よってシオニスト運動にも関心は薄かった
・戦後、ホロコーストによってヨーロッパのユダヤ人コミュニティが消え去り、突如としてアメリカがその中心となる。西洋各国はアメリカも含めて困窮したユダヤ人に避難所を提供しなかったため、アメリカのユダヤ人はシオニズムを擁護し、支援し、資金提供を担うようになった。
・イスラエルが建国されると、この国を支援し、防衛することがアメリカのユダヤ人コミュニティにとっての唯一の求心力となっていく。というのも、戦後アメリカではユダヤ人学生のクオータ制(一流大学に入学できるユダヤ人に上限を設ける)や、特定の地域(富裕層が暮らす地区)からユダヤ人を締め出したり、高級カントリークラブへの入会を拒否する差別的な条項が徐々に撤廃され、暮らしやすさが増大したために、アメリカ社会に同化し、異民族と結婚し、ユダヤ人の伝統的な文化や慣習やコミュニティから距離を置くのが容易になり、かえって自分はユダヤ人であるというアイデンティティを保つことが難しくなってきたからだ。
・つまり、アメリカのユダヤ人団体はコミュニティを維持するためにイスラエルを必要としたし、イスラエルは国家を存続させるための資金源としてアメリカのユダヤ人を必要としたのだ。
・イスラエルを支え、イスラエルが推進する政策は何でも支持するアメリカのユダヤ人コミュニティの窓口としてイスラエル公共問題アメリカ委員会(AIPAC)が設立され、アメリカで最も強力なイスラエル・ロビー団体の1つとなっている。
・イスラエル・ロビーのもう1つの柱がキリスト教福音派のシオニスト団体で、かれらはユダヤ人が聖地(パレスチナ)に帰還し、そこを征服することが、キリストの再臨と世界の終末=ハルマゲドンに必須だと考えている。この福音派の存在が、キリスト教徒なのにユダヤ人を支援するねじれ現象を引き起こしている。
・イスラエル訪問はアメリカのユダヤ人にとっての通過儀礼となり、イスラエル国内で無料食堂から美術館までを支える慈善事業に毎年寄付をした。2007年までに事前目的で25億ドルが寄付されている。
・アメリカのユダヤ人の大半がイスラエルの真の姿を思い知ったのは1982年の第一次レバノン戦争がはじめてで、イスラエルの戦車がアラブの首都を包囲し、住民に砲弾を撃ち込むのを目撃し、サブラーとシャティーラの難民キャンプでの虐殺事件はショックを与え、イスラエルに正義はあるのかという疑問をつきつけた。さらに、1987年の第一次インティファーダで、完全武装したイスラエル兵が投石するパレスチナの若者に銃をぶっ放す光景は、アメリカのユダヤ人を打ちのめした。
・1992年にビル・クリントンと、イスラエルのラビンが当選したおかげで、オスロ合意が成立したとき、多くのアメリカのユダヤ人は、アラブ人とユダヤ人の100年にわたる紛争は終わり、和平が実現したと信じた。だが、その夢は長続きしない。1995年のラビン暗殺、パレスチナによるテロの波状攻撃、第二次インティファーダ(2000〜05年)に対するイスラエルの過酷な対応がオスロ合意を崩壊させ、世界の二大ユダヤ人コミュニティであるアメリカ(大半が伝統的に民主党を支持するリベラルで、2008年の大統領選挙では3/4がオバマに投票した)とイスラエルの蜜月関係は終わりを告げ、隔たりが明らかになった。同じ選挙で共和党に投票した1/4のユダヤ人(その中にはアメリカにおける正統派ユダヤ教徒が含まれる)のあいだでは、ビビ(ネタニヤフ)はロックスターのように見られていたし、オバマはイスラエルへの脅威と見られていた。
・イスラエルを全面的に支持する従来のイスラエル・ロビーに代わり、より進歩的なJストリート(イスラエル存続の唯一の解決策は二国家共存だと考える)が設立され、現実のアメリカのユダヤ人コミュニティ(X世代、ミレニアル世代、Z世代のユダヤ人の大半がリベラルであり、イスラエルの極右勢力とは距離を置く)の代弁者となる。
・2016年にトランプ大統領が誕生すると、トランプはネタニヤフに次々と政治的贈り物をした。アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムへ移し、ゴラン高原におけるイスラエルの主権を認め、占領地への入植事業を「非合法とはみなさない」と言明し、イスラエルがヨルダン川西岸を一方的に併合することに対して、「和平案」という名のゴーサインを出した。
・トランプがイスラエル寄りの政策を次々と打ち出した背景には、彼の二大後援者の存在がある。1人は共和党への大口献金者でイスラエルに関して超タカ派だったシェルドン・アデルソンであり、もう1つは保守的なキリスト教福音派コミュニティである。
・トランプは自分と似たタカ派のイスラエルにはすり寄るが、アメリカ在住の「リベラル」なユダヤ人に対しては冷淡だった。2017年に発生したシャーロッツヴィルでのネオナチ集会で反対者を殺害する事件がおきた際も、白人至上主義者を糾弾することなく、「どちらの側にも非常に立派な人たちがいた」と認めただけだった。KKKの元幹部はこのトランプのコメントに拍手喝采したという。
・一方、ネタニヤフもアメリカのキリスト教福音派に取り入り、白人至上主義者(それはホロコーストサバイバーにとっては耐え難い存在のはずだ)を黙認するトランプ大統領と良好な関係を築いただけでなく、反ユダヤ主義を標榜する極右のハンガリーの独裁者オルバーン首相とさえも手を組んだ。
・ここに至って、アメリカのリベラルなユダヤ人は悟った。イスラエルはもはや、自分たちがどう考えるかなどは気にしていないと。イスラエルは、アメリカのユダヤ人コミュニティよりももっと波長の合う盟友を、トランプと福音派の中に見つけたのだと。
◎入植地
・ヨルダン川西岸のグリーンラインの外側の占領地に入植しているユダヤ系民間人は44万人以上。同じくグリーンラインの外側の東エルサレムに住むユダヤ系民間人は20万人あまり。イスラエルは東エルサレムを併合してイスラエルの一部だと主張しているが、国際社会はこれを認めていない。だが、トランプ大統領は入植は国際法に違反しないと明言し、ヨルダン川西岸の複数の地域をイスラエルが併合するのを容認したと解釈できる和平案を提案した。
・ヨルダン川西岸には230万人のパレスチナ人が住む。もしこれを併合し、彼ら全員が平等な権利をもつイスラエル国民となれば、新しい有権者はイスラエルを「パレスチナ国家」に変え票を投じるはずだし、逆に、パレスチナ人に平等な権利を与えなかったり、自治区をつくってイスラエルに併合された領土で囲い込んだ飛び地のようにすれば、それはまぎれもない「アパルトヘイト」になってしまう。
・だから、これまでのイスラエルの指導者は現状維持を選んできた。しかし、リビは何度も「併合」を口にしているし、イスラエル国民も二国家解決を支持する割合が43%まで落ち込み、パレスチナ人に政治的権利を与えない形の併合を容認する割合が過半数に達しつつある。
・当のパレスチナ人は、43%が二国家解決を支持するが、ほかにどのような選択肢が指示されているかを表すデータはない。わかっているのは、これまでずっと辛酸を嘗めつづけてきた彼らは希望を失い、「パレスチナ国家がイスラエルに認められるはずがないと信じていることだ。パレスチナ人は日々、イスラエルによる支配を強めるための検問所、壁、トンネル、道路、軍事基地という現実に向き合っている」「彼らはもはや二国家解決を求めてはいない。実現する可能性をまったく信じていないからだ。求めているのはもっと簡単なこと、すなわち、一人一票だ」
◎BDS(イスラエルに対するボイコットBoycott、投資撤収Divestment、制裁Sanctionの頭文字)キャンペーン
・2005年、パレスチナの多数の市民団体がBDS運動を始めた。イスラエルが以下の措置を取って国際法を完全に遵守するまでBDS運動は続けられる。もちろん非暴力の平和的な抗議運動。求めるのは次の三点。
①アラブ人のすべての土地の占領・植民地化の停止と、「壁」の解体
②イスラエルのアラブ系・パレスチナ系国民の完全な平等という基本的権利の承認
③国連総会決議194号が規定する、パレスチナ難民の故郷および所有地への帰還権の尊重、保護、促進。
・ボイコットと投資撤収は長年、不正義に対抗する手段として利用され、成功をおさめてきた(モンゴメリー・バス・ボイコットは公民権運動の先駆けとなり、アリゾナ州はスーパーボウルやロックコンサートのボイコットにあい、やむなくキング牧師記念日を有給休暇としたなど)。
・だが、ネタニヤフはBDSを、ハマスやヒズボラ、イランと並ぶイスラエルに対する戦略的脅威だとして、BDSとの闘いのための閣僚を指名し、多額の資金を投入した。なぜなら1948年にパレスチナ難民と鳴った人の子孫が大挙して帰国すれば、ユダヤ系人口はたちまちマイノリティに陥り、イスラエルはユダヤ人国家ではない国になってしまうから。そんなことが認められるはずもない。
・イスラエルの反ボイコット法は、入植地を含めたイスラエルのボイコットをイスラエル人が呼びかけただけで反ユダヤ主義、反イスラエルと認定し民事犯罪に問う法律で、BDS運動への対抗策として企図された。さらに2017年に法改正されたイスラエル入国法は、BDS支持者の入国も禁じた。
・同様に、イスラエルの占領と入植事業に対するあらゆる反対意見を「反ユダヤ主義」だとレッテルを貼るイスラエルのやり方は、意見の表明さえも封じようとしているようにみえる。彼らは意図的にこの2つ(違法な入植事業に対する批判と、イスラエルそのものを否定する強行意見)を混同し、自分たちに都合のよくない議論を封殺しようとしている。
「ほぼ世界中が、グリーンラインの内側のイスラエルを正当と認めている。しかし、入植事業、ことにヨルダン川西岸を併合して入植地を恒久的にイスラエルに統合しながら、何百万人ものパレスチナ人に基本的権利や平等を与えないという考え方が、その正当性を損なっている。この問題をBDSのせいだと言うのは、一種の欺瞞だ。つまり、問題をつくり出しておいて、その問題を解決しようとする他者を責め、そうすることで現実を否定している。別の言い方をすれば、イスラエルにはBDS問題はない。あるのは占領と入植の問題だ」
・リベラルなはずのアメリカの主流派ユダヤ人コミュニティでさえBDSを重大な脅威として認識している。BDSは「ユダヤ人とイスラエルの敵」の代名詞。
・アメリカ初の女性ムスリム議員となった民主党のラシダ・タリーブ(パレスチナ系アメリカ人。有色人種)とイルハン・オマル(有色人種)がヨルダン川西岸への入植事業に抗議するボイコットへの支援を表明したとして、トランプは二人を反ユダヤ主義的と非難し、イスラエル政府は二人のイスラエルへの入国を禁じた。
・トランプは民主党員を急進的反イスラエル主義者に仕立て上げることに成功したかもしれないが、ビビはやりすぎた。アメリカのユダヤ人の大半が支持する民主党を侮辱したことで、イスラエルへの支援をこれまで以上に党派的な問題にしてしまったからだ。だが、アメリカでは連邦議会と30を超える州が、イスラエルまたは入植地のボイコットの呼びかけを禁じる法案(それらはイスラエル本国の半ボイコット法の文言の引き写しだった)を可決または審議した。
「アメリカが伝統的に反対するイスラエルの入植事業の擁護のために、違憲が疑われ、アメリカ国民の言論の自由を損なうような法律を可決する? 一連の非暴力的圧力戦略に対し、あたかもイスラエルの存続が脅かされたかのように反応する? アメリカの女性議員が入植事業を批判したからといって、彼女たちのイスラエルへの入国を禁じる? 自分と意見を異にする大学生を脅すために巨大なカナリアの扮装をして駆け回る? いずれも、合理的な考えとは言いがたい。しかし、ことBDSをめぐる議論に関しては、合理的という言葉は通常、真っ先に思い浮かぶものではない」
やれやれ。
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