あれは今よりもっと若かった夏休みの事。四国の田舎へ里帰りした時の事だった。せっかく帰ったので石鎚山でも登ろうかと、西条市の西之川というロープウェイ駅の近くに車を預けた。駐車場のおばちゃんから「兄ちゃん虫いるよ」と言われた。何のことか解らず聞き流して登り始めた。やがてアブが回りを飛び始めた。そうか虫とはアブだったんだと判った。
多少刺されたが登るにつれてアブは少なくなり、やがて居なくなった。この時、田舎の人はなんて大げさなんだと思っていた。成就社、夜明け峠、弥山と順調に登った。この頃はまだ体力にも自信があり、天狗岳を割愛すれば時間に十分だと踏んで、山頂からすぐ近くに見えるなだらかな瓶ヶ森に回ってみる事にした。土小屋からしらさ峠、そして瓶ヶ森と回り東之川に下山した。下山した時、まだ時間に余裕がありルンルン気分だった。しかし不思議な事に人家はあるのに人の姿は全く見えなかった。
駐車場の西之川へ向けて川沿いの道を歩き始めてすぐ、アブが集まりだした。やがて回りが暗くなる(そう感じた)ほど集まってきた。頭と言わず腕と言わず刺し始めた。そうか駐車場のおばちゃんが言っていたのはこれだったのか。こんなことが判っていたら同じコースで帰ったのにと反省するが遅かった。
川の水に濡らせたタオルを振り回すと一度に3〜4匹取れた。そんな事で奴らは減る事も無く隙を見ては刺し続ける。その攻撃に我慢が出来ず暑い夏なのにカッパの上下を着けフードを被りタオルで顔を覆う。その上タオルを振り回す姿は滑稽であっただろう。それでも隙間から刺され続け、泣きそうになりながら暑さをこらえて歩き続けた。
集落までしか無い行き止まりの道路、車など通るはずが無い。そう思っていた矢先、若夫婦の乗った車が通りかかった。アブを避けながらタオルを振り回す様子はよほど辛そうに見えたのだろう。またアブに襲われているのも判ったのだろう。その車は親切にも停まって乗せてくれた。
このアブとの格闘は、今までで一番辛い出来事だった。
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