![]() |
![]() |
![]() |
1. 観察概要
観察日:2025年9月下旬
場所:笠ヶ岳下山路・佐俣林道付近(標高約1,300m)
天候:雨上がり、湿潤環境
状況:下山時に林道脇で鮮やかな赤い果実を観察。調査の結果コナシ(ズミ)と判明。
2. 同定結果
和名:コナシ(小梨)学名:Malus toringo var. toringo
分類:バラ科リンゴ属
別名:ズミ、ミズメ、エゾノコナシ
分布:本州中部〜北海道、標高1,000〜2,500mの冷温帯〜亜高山帯
3. 判定根拠
特徴 観察結果 判定理由
果実の形 直径7〜10mmの赤い小球,1〜2個ずつ点在
果柄 赤く細い、長さ1〜2cm ズミ特有の赤枝を確認
葉 単葉で楕円形、縁に細鋸歯 羽状複葉でないためナナカマドではない
枝色 赤褐色、しなやかに湾曲 若枝の特徴が一致
生育環境 亜高山帯林道沿い ズミ・コナシの典型的生育環境
4. 植物の特徴
花期:5〜6月。白色五弁花、サクラに似る。
果実期:9〜10月。直径1cm前後の赤実を付ける。
葉:互生、長さ3〜7cm。秋には黄変後落葉。
樹高:2〜5m。明るい林縁や沢沿いに自生。
果実の生態:野鳥やサルに好まれ、種子散布に寄与。
5. 上高地との関係
上高地の「小梨平(こなしだいら)」は、この木が群生していたことに由来する地名である。春は白花が一面に咲き誇り、秋には赤い実で谷が彩られる。笠ヶ岳周辺も同様の生態帯に属し、共通する植生が見られる。
6. 観察メモ
雨後の湿潤環境下で果皮の光沢が際立ち、写真映えが良い。
葉には虫食いや病斑も見られ、自然環境下の健全な老熟個体と推察。
果実は食味や香りは弱いが、野生動物にとって重要な秋季栄養源。
登山道沿いでの観察例としては典型的な「ズミ型コナシ」。
7. コメント
今回の観察は、登山後の疲労と天候変化の中での偶発的な発見であり、 自然の「実りの季節」を象徴する風景であった。佐俣林道のコナシは、 上高地小梨平に見られる景観と共通する美しさを備えている。
8. 補足資料:小梨平とリンゴ台木の関係(植物文化史ノート)
結論:小梨平の「小梨」はコナシ(ズミ)の自然群落が地名の由来。コナシがリンゴの接ぎ木台木に用いられてきたのは事実だが、上高地の群落は基本的に自然分布で、後年に一部補植が行われた可能性がある程度。
混同が生まれた背景:同じ種(ズミ)が農業分野で台木として広く使われたため、「台木用に植えられた→広がった」という言い伝えが派生。
台木としてのズミ(コナシ)の特性
耐寒性:非常に強い(寒冷地向き)
根張り・寿命:強健・長命
耐病性:根腐れ等に比較的強い
欠点:樹勢がやや強くなりがち/結実まで長め/果実が小玉化傾向
現在の位置づけ:果樹栽培では M9・M26 など欧米系台木が主流だが、寒冷・高地では在来系(ズミ台)の系譜が一部で継承。
要約:
コナシ=リンゴ属の野生種で台木利用は事実。
小梨平の“コナシ由来”は主に自然群落。
「台木として植えたから増えた」という物語は半ば歴史的混同。
追記しました。
小梨平の地名由来=コナシ(ズミ)の自然群落
コナシがリンゴ台木に使われてきた事実
両者が混同されやすい背景
台木としての特性(耐寒・耐病・寿命・欠点)
現在の位置づけ(M9/M26主流だが在来系も一部継承)
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する