超がつくほどいまさらながら、山を歩く人間として避けては通れないだろう(大げさ)ということで、読んでみた。
まあ山行記なんて多かれ少なかれそんなもんかもしれないけど、どちらかというと、未登の山の章を読んで、その山への登行欲が掻き立てられるというよりは、登ったことのある山の章を読むことが「おおっ!」という驚き、「ああ…」という感慨、「ですよね!」という得心、その他諸々を心にもたらしてくれる、そんな作品だなと思った。
言い方を変えると、ある山について「『百名山』のその山の章を読む」ことと「自分が登る」ことが合わさって、自分の中で初めて、本当の意味で、『日本百名山』の一章が「完成」するような、言ってみればそう、その章に「色がつく」ような、そんな感覚がある。
具体的には…
・鳥海山:深田氏は山形県側から登り、秋田県側からの鳥海は見ていない模様。「ククク、秋田県側から仰ぐあの豪快・雄大な鳥海の姿を知らぬとは損しておるのぅ」と不埒にも優越感を抱いてしまう。
・巻機山:なんと!あの酷道マニアで知らぬ者は無いという国道291号清水峠越えについて言及している!「今でもところどころに道の痕跡がある」と書かれているが、そうか彼の時代にはまだ痕跡があったのか(今では完全に山に飲まれてしまった)。
・鷲羽岳:三俣蓮華岳の山頂から鷲羽を見て「なるほど、いかにも羽を広げたワシだ」と思ったものだが、なんと昔は鷲羽岳というのは(その時まさに俺が立っていた)三俣蓮華岳のことを指していたのだった。でもそれを「改悪」(作中の表現)してしまう気持ちもわかる。だって(今の)鷲羽ってこれ以上ないほど「鷲の羽」なんだもん。
・宮之浦岳:屋久島が国立公園に含まれたことに触れて「もう鹿(ヤクシカ)の声は聞こえなくなるだろう」と書いているがこればかりは大外れ。国立公園どころか世界遺産に指定されてもなお、ヤクシカは増える一方で食害が問題になっている。自然を保護することがいかに単純な話ではないか、ということは自然破壊の「黎明期」の頃の人には想像も付かなかったのだろう。
こんな具合だ。
この本を読む前は、正直言って百名山ハントを内心「理解不能な趣味」と思っていたが、今ならそれを目指す意味があると考えられるようになった。「日本百名山」を読み、百名山に登る(順番は逆でもいい)ことで、深田久弥の文章と読者の体験がコラボレーションを起こし、次々とその章に「色」がついていく。そしてすべての章(山)についてそれが行われたとき、世界でただ一つの脳内書物「『日本百名山』in俺」が完成するのだ。それはきっと素敵なこと。
未登の山の章についても、読んでてつまらないってことはない。「この山に行くときはこんな登り方をしてみたい!」という思いを惹起してくれるような記述が随所にある。例えば…
・利尻山に登るときは、島へは飛行機ではなく船で訪れて、「海に浮かぶ富士」の姿をぜひとも海上から仰ぎたい
・至仏山に登るときは、尾瀬からではなく、西麓(今なら奈良俣ダムのあたりか)から登り、至仏の稜線に出たところで初めて尾瀬ヶ原を「発見」してみたい
なんて、この本を読むとそう思ってしまうのだ。
知らなかった山を知り、知っていた山はさらに愛着を深められる。ブランドカタログ扱いという現代人の色眼鏡を外して見ればいろんなことが得られるよい本だ。
こんばんは。やはり、百名山を登るからには、「日本百名山」を読んで、深田氏の精神は学んでほしいと思います。
そうすれば、深田氏の精神を無視した「百名山バカ現象」は、なくなると思うのです。
NYAAさんこんばんは。
なんか、百名山制覇を目指している人は当然「日本百名山」は読んだ上でそうしているものだと思っていたんですが、どうも必ずしもそうではないようですね。
まあ確かに、ちゃんと読んでいれば、百名山最短日数制覇!みたいな発想は(商業的理由は別として)出てこないよなーと思いました。山に「居る」時間をものすごく大切にしてますもんね、深田氏は。
世界でただ一つの脳内書物「『日本百名山』in俺」のくだり、その通りだと思います。
今更ですが新しい百名山に登ることも数年に一度はありますが、その度、読み返します。だから長く読める本ですね。登った山に関する随筆や山行記録は他にもたくさんあって、足で歩いてこそ、読み物も深く読めますね。
読了、とは言っても、またきっと読みますよ。
yoneyamaさんこんばんは。
私も、この本に限らず昔の山行記録を読むのは心躍ります。個人的に、交通(道路、鉄道など)にも興味があるので、記録が書かれてから数十年の歳月で大幅に便利になった道路や鉄道、あるいは山小屋などの施設と、全く変わることのない山との対比が、古い山行記の妙味だと思います。
ヤマレコの膨大な記録群も、ぜひとも50年後、100年後の山好きたちに読んでもらえるようになるといいな、と勝手な期待をしていますw
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