7月27日(日曜日)晴れのち時々曇りのち霧
グリンデルワルトやサースフェーにいる時からきょう(27日)が天気が良さそうだと思っておりました。しかしながら昨日の雨がマッターホルンじゃ雪になっているのか分かりませんでしたが、まあ、この日しかチャンスがないのでトップは無理でもテストクライミングのつもりでアタックをかけました。
こちらの時間で27日夜中の1時半にシュワルツゼーのホテルを出発しました。少し重荷のためにヘルンリヒュッテに4時半に到着。まだ雪がある予測のためか、この日にマッターホルンに登るのは私とギリシャの3人のパーティーのみでした。
ギリシャの3人のパーティーが先行したものの私は途中から本来のルートではなくヘルンリ稜主稜という少し難易度が高いルート選びました。これはルートファインディングが簡単という理由もありました。まあ、これが大失敗の原因でした。(注※マッターホルンに登るノーマルルートは、途中のソルベイヒュッテまではヘルンリ陵主稜ではなく東壁側の斜面を登っていきます。)
最初のうちは3級程度の楽しい岩登りが続き、「こりゃマッターホルンは大人の遊園地だな」なんてタカをくくっていました。
しかしながら、高度が上がるにつれて難易度がだんだんと上がり難しくなり厳しい登りが続きました。見た目もマッターホルン北壁を登っている感覚でした。逆にいえば、まだその時点では「北壁もそんなに難しそうじゃないな」とタカをくくっておりました。そのうち4級程度の岩登りが現れてきました。1箇所シュリンゲで人工で超える箇所がありました。最後は氷が現れて難易度的には5級程度の難しさとなりカッティングで進みましたので時間を浪費しました。
そして途中の小ピークに登った時点で時間配分からトップは断念しました。勇気ある撤退と言えばかっこいいですが、現実的には氷が残っているために時間的にも無理だという判断でした。
その小ピークからロープを使って懸垂下降で下りました。下山にはまだ時間があると思ったので、本来のルートらしきところに戻ってみました。
すると、最大5級程度のところを登ってきた感覚からするとむちゃくちゃ簡単に見えました。本来のルートをとっておれば時間的にもトップを狙えたかも知れませんが、それは後の祭りです。仕方ありません。
今後のためにその本来のルートらしき所を登ってみるとギリシャの3人のパーティーがいました。雲が出てきたためにトップは断念して今から降りるということでした。「あなたはどうするのか?」と聞いてきたので、「私はちょっと上のヘルンリ稜まで再度行って、登ってきた稜線伝いに下るつもり」と答えました。
ギリシャのパーティーに答えた通り今回の最高到達点まで登った後、そこからロープを使って懸垂下降を繰り返しました。
ロープを使って下りながらも、よくもまぁこんな厳しい所を登ってきたものだと自分で感心するというか飽きれた感じでした。豚もおだてりゃ木に登ると言いますがまさにそんな感じに見えました。自分で言うのも変ですが。
ロープでの懸垂下降をくり返すも技術的に意外と難しく時間がかかりました。懸垂下降は壁が急な方がロープの回収などが簡単なのですが緩斜面と急斜面がミックスすると難しいわけです。時間ばかりかかり、「こりゃあホテルの夕食には間に合わないな」と思いました。
そしてヘルンリ稜の岩稜から東壁側に降りる時に大チョンボでルートミスをしてしまいました。GPSを使って登ってきたルートあたりに来たつもりでも、調子こいて登って来たので降る方が遥かに時間がかかりました。ルートミスのため下降用のピンもないので予備の補助ロープで岩角に支点をとったりして懸垂下降をしました。
そのうちだんだんと暗くなって来てますますルートが分かりににくくなってしまいました。ヘッドランプをつけて懸垂下降をし、ルートを特定するために雪渓が残るザラザラと崩れる嫌らしい所を登り返したりしてさらに時間がかかりました。そのうち霧が出てきてさらに困難な下山となりました。雨が降ってこなかったのが幸いでした。
小さなピークのところで行き詰まり、ツエルトを持ってきているのでビバークするかどうかの判断をしました。でも、ホテルの人が心配するのでGPSと霧が消えた瞬間に現在地の確認をし、とりあえず体力が続くまで下山をしようと思いました。行動食と水をたくさん持ってきたのでヘロヘロバテバテになっても行動食を食べて水を飲むと元気が出てきてそれほど寒さを感じませんでした。改めて人間のガソリンは食料と水だなと思いました。当たり前の話ですが。
ともあれ、ただでさえ単独は危ないと現地でさんざん言われているので、こんなところで事故をしたら最悪なことを言われるのは分かりきっているので超慎重に行動しました。ヘッドランプで見ても断崖絶壁の所の行動なので少しのミスも許されません。ただ、ミスをしないこと自体は私の若い頃からの経験から自信はありました。浮石や体重をあずけていい岩なのか、三点支持を的確にし、超慎重に行動しました。
しかしながら、超慎重な行動のため時間はどんどんと消費しました。懸垂下降は何回やったか数えておりませんでしたが多分20回から30回ほどやったと思います。
夜中、霧に包まれて、なんだかんだとルートを発見するために登り降りをしていると心が折れそうになりましたが、やっと本来のルートに戻って踏み跡らしき道を発見したときは朝の3時になっていました。やれやれでした。
朝4時ごろにガイド登山2組とすれ違いました。皮肉なことにやっとこれから夏のマッターホルンが始まった感じに思えました。一日違いという感じでした。しかしながら結局この日でもマッターホルンに向かったのはたった3組だけでした。(ひょっとしてもう1組パーティがいたかも)
ともあれ、最後はヘロヘロバテバテになりましたが、ホテルに着いた時は朝9時前でした。
前日の夜中の1時半からの行動から計算すると、32時間30分というおバカな行動時間でした。この行動時間は私の記録です。まあ、自宅などでの訓練でそれだけの体力筋力が出来ていたという発見は嬉しく思っておりますが、判断力(ルートファインディング力を含め)や技術力などが全く不足していると痛感しました。逆に、こんな厳しい状況まで行く事は少ない日本の山はいいなと思いました。
そんなことで、残念ながらマッターホルンのトップには登ることが今回もできませんでしたが、まぁこれは今後の課題という事になりました。今回のプチ遠征で精神的にも私には良い修行となりました。
ということで、私のマッターホルンへの挑戦はこれで終わりです。これから暑い日本に戻るわけですが対応できるかどうか心配です。でも、やっぱり日本がいいなあと思うのでした。
そんなことで全身筋肉痛になってしまったので、シャワーを浴びてからバンテリンを塗りまくったのでありました。
7月28日(月曜日)。晴れ時々曇り。
32時間余りのおバカな行動のために朝から夕方までホテルで寝ていました。
7月29日(火曜日)。曇り時々はれ。
朝起きてみると泊まっているシュワルツゼーあたりは5センチほどの新雪で冬のように真っ白でした。
雲が消えた時にマッターホルンを見たらこれまた冬のように真っ白でした。すごい山です。
この日のホテルの宿泊者はドイツ人カップルと私の3人だけだったのですが、ここで水を買うと1リットル1000円余りしますので私のエビアン2リットルを差し上げてからチェックアウトをしました。前日も1リットルをドイツ人にあげてよろこばれました。
テレキャビンでツェルマットまで下り、今度はいつ来れるか分かりませんが、そんな思いでツェルマットを後にしました。
チューリッヒに向かう途中で首都のベルンによって時計塔など少しだけベルンの雰囲気をたのしみました。
現在、チューリッヒユースホステルにチェックインして、大きなバックパックを背負い、ユースホステルに泊まるという若い頃と同じ念願の夢が実現しました。ユースホステル会員はモンベルカードのものです。
やっぱり旅というものはこうでなければいけませんね。私も少し大人になりました。
明日はチューリッヒ空港からヘルシンキ経由で帰国です。マイル消費のためビジネスクラスですが、たぶんそれを贅沢とは思わないと感じる自分がいるように思います。
日本は暑いだろうなぁ(^O^)/
おはようございます
>32時間30分というおバカな行動時間
歩くのがやっとでしょうね
こちらでは相馬さんの遭難情報があり心配していました。
>Fuji Trailheadのウェブサイトで発表されているとおり、日本を代表するトレイルランナーである相馬剛 / Tsuyoshi Somaさん(Fuji Trailhead代表)が7月23日にスイスの名峰・マッターホルンの登山中に遭難しました。
情報によると800mほど滑落したうえに雪崩れと積雪で生存の可能性は低いということでした
無事帰国を祈っております
でわでわ
大阪7月30日34℃予想です。8月2日(土)には台風が九州西部に接近予定です
uedaさん、相馬さんのことは現地では耳にしませんでした。ただ、遠くで「Japanese」という言葉が何度か耳に入ったのでそのことだったのか分かりません。
23日は私はマッターホルンから20キロ離れたアラリンホルンという4000メートルの簡単な山を登っていました。天気はとても良かったのですがマッターホルンも間近に見え、見た目はマッターホルンはかなり白かったのでノーマルルートでも厳しい状況だったと思われます。
実はアイガーのトレイルマラソンの時、選手と並走して歩いていたとき私も地元民から拍手で迎えられてしまい、「I'm different!」と言ったらわらわれました。
32時間の行動時間はまさにおバカな(Stupid)ことでしたが、足も体もガクガクにはなりませんでした。それに登山靴との相性もよくなって豆もできませんでした。そのことが(靴のことが)今回よかった発見でしたしラッキーなことでした。モンブランの夜間下山の24時間が実際にいい訓練になったと思っています。
あー、鰻が食べたい!ー
食欲があるのは元気な証拠ですね(大笑
しかし、32時間雪山を行動して足元がしっかりしているのはさすがですね
元気そうで何よりでした
でわでわ
うなぎを持って出迎えはできませんが(大笑
ほんとうにご苦労様でした。うらやましい限りです
murrenさん、こんにちは。
登頂断念も思い出です。
また、次が有りますから〜。
ご無事で何よりです。
ヘルンリ稜は、一般ルートと思っていましたが、違うのでしょうか?
若い頃、ここを登ろうと思った事が有ります。
平均斜度は30〜5°位と記憶してましたが、「平均」ですから、上に行く程、立って来るのでしょうね。
ソルベイ小屋は通過したのでしょうか?
murrenさんの日記を見て、行かなくて良かったと思っています。
きっと、もう、ウン十年前に死んでいたかもです。
murrenさんの日記を読んで、昔を思い出しましたよ。
アイガー北壁を眺めて、お金無いので、始発の登山電車に乗って(始発は運賃安い)ユングフラウ・ヨッホに上がり…。
真っ白けで、何も見えず…。
じ〜〜〜〜〜〜と、待っていたら、
アレッチ氷河が徐々に見えて来て…。
あぁ、メンヒに登りたい!
と、思ったり…。
余談になって、しまった。
暑いですよ、日本は…。
体調崩さないよう、ゆっくりして下さい。
時差もありますし…。
ではでは!
ウエダさん、リンゴヤさん、今、ヘルシンキ空港のラウンジでデブの原因のタダ酒を飲みながらネットをしています。
スイスでは最悪のヤマレコの接続環境だったのですが、ここは違って快適なヤマレコ環境です。
リンゴヤさん、そうですね、ソルベイヒュッテまでは稜線から離れて東壁側の斜面を登って行くのが本来のルートです。ソルベイヒュッテからは稜線沿いに登って行くようですが、私はマッターホルンの難易度が正直分からず、クーロワールを過ぎて稜線に入ったのが決定的な失敗でした。他の国の登山家に聞くと、やっぱしガイドレスだと右へ右へとのぼって稜線に出て敗退してしまうようですね。ソルベイヒュッテまでのルートファインディングがポイントですね。ただ、ガイドも登っていないので非常にルートファインディングは難しいと思いました。
まあ,今回の敗退をいい勉強材料にして次回はバッチリ決めてみたいと思いました。
ただ、久しぶりの壁での緊張感は私を若返えさせてくれました。その意味ではとても楽しかったです。色々勉強になりました。
コメントありがとうございました。
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