孔子と弟子たちの一行が、乱れ果てた世界を建て直したいという目標で、諸国の君主たちに遊説に回っていたころの出来事。
孔子の一行は、蔡(さい)という国にいたが、うまくいかなかった。そのとき、もっと大きな国である楚(そ)という国から、孔子を招聘しようという声がかかった。孔子は弟子たちを引き連れて、答礼におもむこうとした。しかしながら、蔡と隣国の陳(ちん)の家臣たちは、共謀して孔子の一行を途中の野で包囲して押しとどめた。理由は史書にいろいろと書かれているが、楚は蔡・陳の敵国であり、両国は楚の侵略に長年悩まされていた。そんな敵国に優秀な弟子たちを連れて移籍するなど、面白いわけがない。孔子と弟子たちの一行は、野に包囲されて食糧も乏しく、進退窮まってしまった。
弟子の子路(しろ)が言った、
「君子とは、こんなにも困窮するものなのですか!」
孔子は答えた、
「そうかもな。だが困窮して乱れるのは、小人だ。困窮して乱れないのが、君子というものだよ。」
孔子は、弟子たちに聞いた。
「諸君、我々は何かまちがったことを行ったのであろうか?各々の考えを、申すがよい。」
さきほどの子路は、言った。
「我々は、まだまだ努力が足りないのです。だから報われないのです。そうに違いない、、」
孔子は答えた。
「むかしの賢者たちは、正しいことを王に告げて改心させようとしたのに、殺されたものだ。彼らは、努力が足りなかったのであろうか?」
次に、弟子の子貢(しこう)が言った。
「我々の目標が、まちがっているのです。あまりも非現実的で、だから相手にされない。もっと身近で人々にやりやすいことを、勧めたほうが成功できるのでは?」
孔子は答えた。
「農夫が麦の種をまいても、全てが実るとは限らない。結果をもって目標を変えることは、志が遠大とはいえない。」
次に、弟子の顔回(がんかい)が言った。
「先生の目標は、遠大です。だから、人々が聞かないのです。ですが、報われないからといってそれが何の問題でしょうか。いま我々が志を低くするのは我々の恥であり、人々が聞かないのはいずれ人々の恥となるでしょう!」
孔子は、顔回の言葉に賛同した。
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目標を立ててうまくいかなかったとき、三とおりの理由づけが行われるだろう。ひとつ、「自分の努力が足りなかったのだ。もっと自分を追い込まなければ。」ひとつ、「目標が自分には高すぎたのだ。もっと楽にしよう。」ひとつ、「そんなこともあるさ。また目標に向けて続けるだけだ。」
孔子は顔回の言葉に賛同して、最後の三つ目の理由づけが正しいと言った。しかしながら、前の二つの理由づけも、決してまちがっているとはいえないだろう。
子路の理由づけは、もしかしたらもう少し努力すれば道が開けるところにいるのかもしれない。しかしながら、自分を追い込みすぎて壊れてしまうかもしれない。子貢の理由づけは、もっと楽に生きる逃げ道となるだろう。しかしながら、最高レベルに立つことをあきらめたという負い目を生涯背負うことに承知しなければいけない。顔回の理由づけは、正しいように見えて精神的には最もつらい。世の人からは無視されて、いつまで経っても達成の喜びが得られない。そこで心折れないのが「君子」なのであろうが、、
目標に対する心掛けについて、論語を引いて書いてみました。
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