新型コロナウイルスのまん延によって,新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「法」という。)に基づく緊急事態宣言が発せられ,これに基づき対象都府県の知事から外出自粛要請がなされた。
ヤマレコの場でも盛んに議論されていることであるが,このような事態において山行もまた自粛すべきかという問題がある。
既に当該議論は尽くされているので,私は,自粛の可否について述べるものではないが,この外出自粛要請(山行自粛要請ともいえよう。以下同じ。)が果たしてどういう性質のものなのか,断片的に述べておきたい。
法は,その45条1項で,外出を禁止するのではなく,「生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。」と外出しないことの協力を要請するに留めている。これは,「外出」という自己の意思に基づく極めて私的な権利の行使をできる限り制約しないようにするためであって,憲法が定める自由権の保障に由来する。よって,法によって外出という憲法上保障された私権の行使を著しく制約することはできないのである。ただし,居住移転の自由を定める憲法22条1項は,「公共の福祉に反しない限り」保障されるものとしている。
そうすると,外出の一環である山行もまた,憲法上保障された私権に属するものであり,法により著しくその権利の行使を制約することはできないのである。
そこで外出自粛要請をどう捉えるか。法的には任意の協力義務に過ぎないから,その腑に落ちる先に至るには道義的な議論になるわけであるところ(これは上述のとおり,議論は尽くされている。),私見を若干述べると,外出を禁止することができず外出自粛要請にとどめざるを得なかった立法意思に鑑みると,外出を他人が積極的に批判したり,排除したりするべきではないが,相当程度外出は控えるべきであると考える。
まとまりのない文章となったが,私見を少し述べてみた。
分かりやすい説明ありがとうございました。
私は「緊急事態宣言が出された」という事は世の中の様々なサービスが必要最低限の状態に制限された「非常事態モード」になっている事をよく認識すべきだと思います。
コロナウイルスに感染するとかしないとか、そういう事も確かに大事ですが、自分が今まで当たり前に受けてきたサービスが受けられない可能性が高い状態である事を考えれば、何がOKで何がNGなのかはわかると思います。
例えば、自宅待機していたって、今まで以上に怪我や病気に注意して、医療サービスのお世話にならないようにすべきでしょう。
これを機に,一人一人が危機意識を持つことは重要ですね。
外国での罰則を伴う外出禁止は法的にはどうなっているのでしょうか。日本では可能なのでしょうか。可能だとすると憲法との関係はどうなりますか。すべて法に基づく行為ですよね。よろしくお願いします。
外国における私権制限は,緩やかに解されているようであり,日本のように憲法上の制約とはなっていないようです。日本においても,パターナリズム(父権的干渉。英:paternalism)の一環として,ペナルティを課すことは理論上可能でしょうが,できる限り軽い行政上の秩序罰に留まるべきです。
そうですか。個の確立した文化圏でも社会の重さが大きいのですね。輸入した基本的人権の精神は憲法で重い意味を持つと思っていますが,金科玉条ではなさそうですね。父権的干渉という用語は初めて接しますが,字面からくる保守的な思想ではなく,ぬくもりのある政策性を感じます。秩序罰も初めてですが,軽い規制の枠があることを知りました。専門的立場からの的確なご回答,勉強になります。
政府が自粛というゆるい縛りでリードしようとするのが,国民の犠牲によって立つ単なる休業補償逃れのように見えていましたが,そうでない考え方もあるのですね。しかし,結果的に弱いものが苦しむ状況は何とかならないかと気をもみます。
疑問が晴れました。どうもありがとうございます。
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