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更新日:2022年01月06日 訪問者数:3105
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第2部 北アルプス、2−5章 常念岳〜餓鬼岳(常念山脈北部)
ベルクハイル
常念山脈北部の地質図
中央やや右手に並ぶ▲印は、上から
餓鬼岳、燕岳、大天井岳、常念岳
そのさらに右手の▲印は有明山

・全体に広く広がるピンク色;花崗岩(白亜紀後期貫入;「有明花崗岩」)
・左下の黄色;砂岩(丹波美濃帯の付加体型地質、ジュラ紀)
・図の左手の朱色;花崗閃緑岩(ジュラ紀に貫入)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
残雪期の常念岳山頂部
南側から撮影、勾配のキツい登り

(筆者撮影)
新雪の大天井岳
有明山より撮影(10月下旬)
大天井岳は常念山脈の最高峰ではあるが、比較的なだらかで大きな山体を持つ

(筆者撮影)
燕岳山頂部付近
燕岳の山頂部は、独特の形状をした花崗岩の小岩峰が林立している、特徴的な山容

(筆者撮影)
餓鬼岳
燕岳に似て、所々に花崗岩の岩峰がある山

(※ ヤマレコ内の山のデータより引用させて頂きました。)
(はじめに)
前章では常念山脈の南側半分(霞沢岳〜蝶ヶ岳)の地質について説明しましました。
この2−5章では、それに続き、常念山脈の北半分(常念岳、大天井岳、燕岳、餓鬼岳)の地質について説明します。
1)常念山脈北部の地質概要
 常念山脈は、霞沢岳から常念岳、大天井岳、燕岳、餓鬼岳まで、ゆるやかにカーブしながら、きれいに並んだ一続きの山脈ですが、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、実は蝶ヶ岳と常念岳との間を境に、地質が大きく異なっていることが解ります。

 2−4章で説明した通り、霞沢岳から蝶ヶ岳までは、主に砂岩で構成されるジュラ紀付加体(丹波・美濃帯)でした。
 一方、常念岳から北の稜線は、餓鬼岳までずっと、花崗岩でできています。
 また、常念山脈の主稜線より東側にある、有明山も、同じく花崗岩でできた山です。

 花崗岩の特徴がよく現れているのは燕岳周辺で、足元はザクザクとした、花崗岩の風化物である“ザレ”(”ザク” とも言う)で覆われており、その中に花崗岩でできた小岩峰が独特の景観を作り出しています。たとえば、メガネ岩、イルカ岩とも呼ばれている小岩峰が、ざらざらした表面の花崗岩らしい表情を見せています。

 また、燕岳の北にある餓鬼岳付近も「剣ズリ」と呼ばれる切り立った花崗岩の稜線があり、燕岳の東になかば独立峰としてそびえている有明山も、登ってみると花崗岩の多い急登が続きます。

 常念岳の山頂部は、燕岳とはちょっと感じが違っていて、大きな岩がゴロゴロと山積みになっていますが、産総研「シームレス地質図v2」によると、ここも、山頂の一部を除き、同じ時期、種類の花崗岩でできています。

 この一帯の花崗岩類は、常念山脈北部だけでなく、後立山山脈(裏銀座コース)南部の野口五郎岳付近など、北アルプス中央部にもかなり広がっています。常念山脈北部の花崗岩は、「有明花崗岩」とも呼ぶようです(文献1)。


 この、常念山脈の北部を中心に分布する花崗岩は、中生代、白亜紀の後期(約8000−6500万年前)に、地中(おそらく地下 約5-10km)にあったマグマだまりがゆっくりと固結し、その後、第四紀(約260万年前以降)に北アルプス全体が隆起した際に、地中から上昇してきて、元々、上に乗っかってい地質が浸食、剥離されて、今では山々の稜線を形作っているわけです。

 白亜紀後期から古第三紀前期(約8000万年〜約5000万年前)にできた花崗岩は、西南日本内帯にわりと多く分布しています。その範囲が広いのは(日本の)中国地方で、その上にあったはずのぺルム紀付加体、ジュラ紀付加体類の下から地表に顔をだしており、古い地層の分布がバラバラになってしまっています。また花崗岩とセットとして、同時期の火山岩(マグマが地表に噴出してできた岩石)も、中国地方にはよく見られます。

 これらのことから、白亜紀後期から古第三紀前期にかけての西南日本内帯は、火山が並んだ火山帯だと考えられており、地表に噴出したものは火山岩(安山岩、デイサイトなど)、噴出せずに地中で固化したのが花崗岩や花崗閃緑岩といった深成岩です。
2)花崗岩について
 花崗岩はもともと、地中深くでマグマがゆっくりと固まってできた岩石(深成岩)であり、本来は固い岩石です(例えばヨーロッパアルプス モンブラン山群の多くのクライミングルートやピークは花崗岩、日本でもフリークライミングのメッカ、奥秩父の小川山も、花崗岩でできています)。しかし花崗岩も地表に出てきて時間がたつと、構成する鉱物(石英、長石、雲母)の粒が大きいせいで、風化が急に進んで、ザレを作るようです。(粒子径が小さい土状のものは「マサ土」と呼ばれる)

 なお花崗岩のような深成岩で鉱物の粒が大きのは、深成岩の特徴であり、マグマだまりの中でゆっくりと冷えて固化していくので、鉱物結晶が成長するのに余裕があるせいです。一方、火山から噴出した火山岩は、噴出後に急激に冷えて固化するので、鉱物結晶が十分成長する暇がなく、構成鉱物のサイズはミクロンサイズとなることが多いようです。(文献3)

 なお、同じ花崗岩であっても、常念岳山頂部のように大きな岩がゴロゴロした状況と、燕岳のように、ザレが多い状況との違いは、地表に出てから風化を受けた歳月の違いがあるのかも知れません。
 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、常念岳付近は、常念山脈の南部に分布していた砂岩層がパラパラと残存しており、花崗岩が地上に顔をだしてからあまり長い年月が経ってないように見えます。そのため、まだ大きな岩屑までにしか風化されてなく、一方、燕岳付近は、常念岳よりずっと前に花崗岩が地表にでたために、風化作用が長く働き、構成する鉱物(石英、長石、雲母)まで分解されザレ地を作っているのかもしれません。(この段落は私見です)

 また常念山脈北部での花崗岩の風化には、氷河期における周氷河作用と呼ばれる、寒冷環境による風化作用(岩の割れ目にしみ込んだ水分が凍ると、体積膨張により、割れ目が拡大して、岩が小さく割れていく)の影響がかなり大きいように思われます(文献2)。
(参考文献)
文献1)原山、山本 共著
   「超火山「槍・穂高」」山と渓谷社 刊(2003)
    のうち、p101の図


文献2)町田、松田、海津、小泉 編
    「日本の地形 第5巻 中部」 東京大学出版会 刊(2006)のうち、
    4−3章 飛騨山脈 の項


文献3)西本 著
   「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
    のうち、火成岩/深成岩の章、特に「花崗岩」の項
【書記事項】
初版リリース;2020年5月10日
△改訂1;写真を追加。地質図への説明文を作成。
     本文の文章見直し、一部追記、修正。章立ての変更。
     参考文献の項を新設、参考文献内容を追記、修正。
     山名 追加。2−1章へのリンクを追加。書記事項追記。
△最新改訂年月日;2022年1月6日
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