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更新日:2020年06月05日 訪問者数:273
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日本の山々の地質;第2部 北アルプス、2−8章 双六岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳
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2−8章 双六岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳
2−8章 双六岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳

  槍ヶ岳から西鎌尾根を進むと、樅沢岳を経て、双六(すごろく)小屋のあるコルにつきます。もうこのあたりになると、奥深い北アルプスの中核部となり、下界の街は見えず、また槍穂高連峰の鋭い岩稜帯と対照的に、緩やかな山並みが広がっています。

 このこの北アルプス中核部(=黒部源流域)の山々について、その地層、地質を順に説明してきますが、まずこの2−8章では、双六岳(すごろくだけ)、三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)、黒部五郎岳(くろべごろうだけ)の3つの山に関して説明します。

1)土台を作っている、ジュラ紀花崗岩類
 「槍穂火山」の火砕流堆積物で出来た地層(岩石)は、西鎌尾根にも続いて険しい尾根を形成し、さらに次のピークである樅沢岳(もみさわだけ)あたりまで続いています。樅沢岳山頂から双六小屋のあるコルまで下る登山道の途中で、地質の境目があり、花崗岩類の世界に入ります。

 北アルプスは全体的に花崗岩類の岩石、地層が多くを占め、常念山脈の北部も、後期白亜紀の花崗岩でできているのは、前に説明しましたが、この黒部源流域一帯も、花崗岩、および類似の花崗閃緑岩が広がっているゾーンです。(注1;以降この章では、「花崗岩」と「花崗閃緑岩」を合わせ、「花崗岩類」と称することにします)

 ただし、同じ花崗岩類でも、黒部源流域の花崗岩類は、生成時代がジュラ紀の前期から中期(=約2.0億年前〜約1.7億年前)であり、常念山脈北部の花崗岩類の生成年代が白亜紀後期(約8000〜約6500万年前)であることと比べると、時間差にして一億年近くも古い花崗岩類です。
 おそらくジュラ紀前期から中期にかけて、海洋プレートの沈み込みが起こっていて、沈み込んだ海洋プレートからマグマが発生し、地中深く(おそらく3km〜10km)にマグマ溜りができるとともに、その直上に多くの火山が噴煙を上げていたことでしょう。現在では、当時の火山が作った火山岩の層は浸食によって失われ、地下にあったマグマ溜りが固化してできた花崗岩類が、北アルプスの隆起運動によって、標高2800m付近まで上昇してきているわけです。
 花崗岩類は、地下深くのマグマ溜りが固化した岩石ですが、地表に露出すると風化作用によって、だんだんと岩が砕け、構成している鉱物(石英、長石、雲母)に分解され、いわゆる「ザク」、あるいは「ザレ」という状態になります。白っぽい色のザクが続く稜線には、緑色のハイ松や(夏には)高山植物が咲き乱れ、いかにも北アルプスらしい、稜線歩きとなります。
 このジュラ紀前期から中期の花崗岩類はかなり広い範囲に露出しており、北の方向には、黒部渓谷あたりまで、西には岐阜県の飛騨高原にまで広く分布しています。常念山脈の一部を形成する白亜紀末の花崗岩類とともに、現在の北アルプスの稜線を形作る、主要な岩石類です。


2)それぞれの山の説明

a) 双六岳(すごろくだけ)
 双六小屋のあるコルから西の稜線に上がっていくと、ザクが広がった台地となり、後ろを振り返ると槍ヶ岳や北鎌尾根が良く見えます。双六岳の頂上はこの頂上台地の西の端にありますが、あまり目立ったピークではありません。
 「地形図」をよく見ると、双六岳の頂上付近(直径500m程度の範囲)だけは、「槍穂火山」から噴出した火砕流堆積物が、風化に耐え、わずかに残ってることが解りますが、全体的には、花崗閃緑岩が風化したザクでできた山です。


b)三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)
 双六岳から尾根沿いに、高山植物の多いなだらかな道を進むと、約2kmほどで、三俣蓮華岳に至ります。三俣蓮華岳は、地形的には北アルプスの「へそ」ともいえるピークで、ここから北東方向には、はるか白馬岳、親不知まで続く「後立山山脈」が伸びています。またここから北西方向へ延びる尾根は、薬師岳、立山、剣岳への「立山山脈」が伸びています。また一方で、南の双六岳から先は、西鎌尾根を通じて、槍穂高連峰につながり、さらに東鎌尾根にて常念山脈へと続きます。
 ただしこの山は、地形的には重要な交差点(ジャンクション)となっている割には、山体はあまり大きくなく、めだたないピークです。
 この山は、山体も山頂部も全部、ジュラ紀の花崗閃緑岩でできています。


c)黒部五郎岳(くろべごろうだけ)
 三俣蓮華岳から、西へと延びる尾根を進むと、いったん、深くきれこんだコルまで下ります。コルには黒部五郎小屋があります。そこからは、山頂部の北東面にできているカールに至り、さらにカール壁を登ると、ようやく黒部五郎岳の山頂に着きます。
 地形的に黒部五郎岳を特徴づけているのは、その北東面にできている大きなカール地形です。黒部源流域の山は、どの山も2800m台ですが、これほど大きなカールを持つのは、この黒部五郎岳と薬師岳ぐらいです。少し離れた雲の平あたりから望むと、大きなカールをもつ特徴的な山容が魅力的で、日本百名山にも選ばれています。
 地質的には、この山も、山体のほとんどがジュラ紀の花崗閃緑岩でできており、三俣蓮華岳から黒部五郎小屋を経て、黒部五郎岳へと至る縦走路は、ほぼ、このジュラ紀の花崗閃緑岩です。

 先に、花崗岩類は風化しやすくてザレになりやすい、と説明しましたがそれは地表に出てきてからの時間にかなり左右されます。
 黒部五郎岳のカールは前回の氷河期のうち、約6万年前(酸素同位体ステージ;4)、および約2万年前(酸素同位体ステージ;2)に形成された山岳氷河が作ったものと思われます。氷河が溶けて岩の面ができたのは、現間氷期の始まりの約1.2〜1.0万年前ころだと思われます。
 そのため、氷河に削られたカール壁はまだ風化があまり進んでおらず、花崗閃緑岩の新鮮な岩が露出するとともに、カール底には、カール壁から転がり落ちてきた巨石がごろごろと転がっています。(黒部五郎岳の「五郎」は「ごーろ」から転じたもので、「ごーろ」とはごろごろと岩が転がっている場所を意味する、山の言葉です。)

 なお、「地質図」を詳しく見ると、黒部五郎岳の山頂部(直径 約1kmの範囲)だけは、「手取層群」と呼ばれる、前期白亜紀の湖沼性堆積層(砂岩、泥岩、礫岩)で覆われています。この手取層群については、隣の峰である「北の又岳」の章にて詳しく説明する予定ですが、古い時代にはこのあたりの花崗岩類の上には、広く、手取層群が覆っていたものと思われます。それが、山の周辺部から徐々に浸食によって削られ、こうやって山頂部のみ、残っているのでしょう。
 またカール壁の北の部分は、「地形図」によると、白亜紀後期のハンレイ岩が分布しています。ハンレイ岩も、花崗岩と同様の深成岩(マグマ溜りにあったマグマが固化してできた岩)ですが、鉱物組成が若干異なり、花崗岩よりやや黒っぽい岩石です。ジュラ紀にできた花崗岩類の岩体の下から、後期白亜紀になって、地下深くからハンレイ岩質のマグマが貫入してきたものと思われます。


注1) 花崗岩と花崗閃緑岩について
 岩石関係のテキスト(文献1)によると、火成岩(火山岩、深成岩)の分類は、主に、含まれるシリカ分(SiO2)の量で分類されています。

 深成岩では、シリカ分が66〜77%以上のものが「花崗岩」、シリカ分が63〜77%が「花崗閃緑岩」、シリカ分が52〜63%が「閃緑岩」、シリカ分が45〜52%が「はんれい岩」と分類されています。
 ただし、素人目では花崗岩と花崗閃緑岩の違いはほとんど解らない程度です。
 大陸性地殻は、その深い部分はほとんどが、花崗岩類で出来ていると推定されています。一方、海洋性地殻の深い部分は、ほとんどがはんれい岩でできていると推定されています。

文献1)「薄片でよくわかる岩石図鑑」チームG 編、誠文堂新光社刊(2014)
黒部源流部の地質図
・赤色;花崗閃緑岩(ジュラ紀深成岩)

・うす紫色;花崗岩(ジュラ紀深成岩)

・ミントグリーン(黒部五郎岳頂上);手取層群(白亜紀堆積岩、砂岩、泥岩層)

・黄土色(黒部五郎岳頂上);手取層群(白亜紀堆積岩、礫岩層)

・濃いめの紫色(黒部五郎岳北側);はんれい岩(白亜紀に貫入した深成岩)

・黄色(雲の平付近);火山岩(安山岩、玄武岩質溶岩)、第四紀
双六岳の頂上付近
花崗閃緑岩が風化したザレた広い稜線、遠望は槍ヶ岳
双六岳山頂
双六岳の山頂部は、槍穂火山由来の火成岩がゴロゴロとした岩となって積み重なっている
三俣蓮華岳(双六岳より望む)
小規模なカールを東にもつ、小さいピーク
黒部五郎岳のカール壁
氷河に削られ、花崗閃緑岩の新鮮な岩が荒々しく露出している
黒部五郎岳のカール全貌
黒部五郎岳の山頂より望むカール。典型的なカール地形を示している。
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