安倍奥山稜縦走(梅ヶ島〜安倍峠〜安倍大滝)〜道迷いと吊り橋半壊で踏んだり蹴ったり〜


- GPS
- --:--
- 距離
- 12.1km
- 登り
- 1,242m
- 下り
- 1,243m
コースタイム
天候 | 晴のち曇りのち雨(ほぼ天気予報どおり) |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2011年11月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
クラブの先輩、MZさんと来年のキャンプの調査のため、梅ヶ島温泉に出かけた。 梅ヶ島は静岡から近いわりに山の奥深さが感じられるところで、これまで何度も訪れていた。 今回のコースは過去に単独で縦走したこともあって危険の観点では何の心配もしていなかったけれど、そんな軽い気持ちが結局仇となってしまった気がする。 梅ヶ島温泉に到着。 安倍峠への林道は9/21の台風15号の影響で通行止なので、ここに車を停め、歩き始めることとする。 梅薫楼の前を通り過ぎ、大きく左に曲がる林道の角からフミアトにはいるとすぐの上の林道に出られる。 そこから登山口はすぐ。 何台か車が止まっている。 道はよく踏まれており、普段着のカップルが先を行っていたが、すぐに追い抜く。 これ以降、山の中では誰にも会わなかった。 一汗二汗をかいて、ふたたび富士見台の肩にあたる林道に出る。 青空が広がっていて今日午後崩れるという天気予報が信じられない。 しかし、天気予報は当たることになる。 そぞろ歩きで林道を行く。 空気はきりりとしまっていていて見上げる空は真っ青だ。 歩きながらMZさんの学生時代の赤石岳の話を聞く。 五月連休の小赤石岳への肩への登り・・・・仲間が目の前からすーっといなくなった。 足元はアイゼンの爪のあとが点々と残るだけの硬い雪面。 急斜面をサーッと滑っていく。 一巻のおしまいだ。 ところが、どういうわけかそこだけ岩が露出していて仲間は四つんばいのまま引っかかって停まった。 彼を助けようとしてもうひとりの仲間が駆け寄ろうとしてまたバランスを崩した。 本当に生きた心地がしなかったそうだ。 五月連休にその場所に行ったことを思い出した。 アイゼンがよく利いて快適だったが、万一転倒したらそれは死を意味した。 ダマシの平まで下ってきて滑落停止のまね事をやったら思いの外スピードが出て肝を冷やした。 山は素晴らしいけれど、登らせてもらっているという謙虚な気持ちがとても大事だと思う。 そういう気持ちがある限り、登山者は事前に下調べをし周到な装備を持って慎重な行動を取るだろう。 今回はその謙虚さが足らなかった。 山には行っている。・・・ここは以前に行ったことがある・・・低山であるなどなど。 猛烈な台風が静岡につめ跡を残したのに事前の現地調査もせず、道に迷っても戻らず何とかなるだろうと・・・・。 林道の途中で、安倍峠への歩道が分岐する。 入り口にはクマ注意の看板があり記念撮影をした。 そのあとは、安倍川の最初の一滴を求めて緩やかな山径を進む。 多くの場合、沢の源頭は急斜面のガレの中に消えるが、ここ安倍川では緩やかな地形となって庭園のような雰囲気だ。 流れは峠に向かうにつれさらに優しくなる。 新緑の季節、紅葉の季節には素晴らしい景色となるだろう。 しかし葉が落ちた明るい谷底に陽光が降り注ぐこの季節の景観も捨てがたい。 ところどころ台風の爪あとであろう大木が倒れこんでいる。 流れはいよいよ細くなり、あまりに平坦なために水が動かなくなった。 最後は細い水溜りが静寂の中にポツンとあって「安倍川源流」と書いた立て札があった。 これより上にはもはや水はない。 この一滴が50kmも流れ流れて太平洋にそそぐと思うと痛快だ。 おまけに源頭から河口まで一級河川がすっぽり市内に収まるのは全国でも静岡市だけらしい。 やがてバラの段への分岐のある静かな安倍峠となる。 1420mの静寂とささやかな憩い。 見上げるとオオイタヤメイゲツの純林の上に青空…。 至福のときである。 上を林道が通過しているのが見える。 もともと林道は峠を通過する計画だったと聞くがオオイヤタメイゲツを守ろうと有識者が反対しそれを避ける形で建設された。 すばらしい判断だったと思う。 バラの段への登りは急だ。 しばし息をはーはーさせながら我慢の登りをしのぐと、富士山の雄大な景色が待っていた。 「メシでも喰おう」 景色をサカナに昼食をとる。 富士山の手前は毛無山と高デッキですかね。 髪の毛の薄い人に毛無山に行きませんかと誘うと大変ですネなどとタワイのない話をする。 時間を見るともう12時半。 これは急がないと暗くなってしまう。 先を急ぐこととする。 ここから大光山までは好ましい尾根道が続く。 ワサビ沢の頭や大笹の頭など小さな上り下りの要所要所にピークが現われる。 がさこそ音をさせると思ったら、小さなシカが2匹、連れ立って逃げていく。 その白くて丸いお尻が何ともかわいい。 やがて、安倍の大滝への分岐。 すこし先に大光山頂上があるので、そこまで行ってMZさんとふたりで握手の記念撮影をする。 安倍ノ大滝への下りは急だ。 防火帯のような斜面を等高線に直交するかのように下る。 一旦下ったあと登り返す。 かなりのヤセ尾根となっていてロープが張り巡らされている。 安全のため遠慮なく使わせてもらう。 雨が降り始めたのが14:20だった。 天気予報どおり空は掻き曇り、八紘嶺や山伏の展望もガスの向こうとなった。 やがて尾根上にロープが通せんぼされ登山道は右に180度戻るような形で下っていく。 ロープがあるので迷うことはないだろう。 斜面を下っていくと、植林帯の小平地にクマのわながあった。 珍しいのでその写真を撮ったあと、北東に向かう形で進んだ。 フミアトが斜めに下っている。 明らかにフミアトだが、急にヤブっぽい道だ。 おかしいですね。 しかし、あそこに赤布があるぞ。 じゃ、もう少し進んでみよう。 尾根の鼻を回り込むと刈り払われた杉の枝に埋もれるようなかたちでフミアトがある。 沢を横切る。 明らかにフミアトは細いし、上から笹がかぶってきている。 沢を横切って進むとまた、フミアトはしっかりしてきた。 やはり道か。 赤布もところどころにある。 それにしても台風で荒れているなと話す。 そのときに完全に道を失っていたのだ。 道を失う時は、これが正しいのだとひそかに弱い自分に言い聞かせるようなところがある。 それを正当化するように、そして無理やり納得させるかのように。 ジワジワと変化するものには、感性が鋭く働かない。 TV番組でゆっくり画面が変化するのをあてる番組があるけれど、それと一緒だ。 あとで正解を教えてもらうとこんなにって思うのに、最初に見たときは、全くといってもいいほどわからない。 それほど感性っていい加減なのだ。 山でも正しい道に戻ったときに、ハタとあれは全然違う道だと気付くのだ。 やがて急斜面の荒れた下り。 明らかに道は外している。 もう破れかぶれだ。 しかし赤布があり、若干のフミアトも台風の枝の下に見え隠れしている。 本来は戻るべきだったが、その気は一切なくなっていた。 急斜面を滑落しないように下りきるとそこは堰堤の上の河原だった。 河原にはケルンもないし、むろん指導標などもない。 完璧に迷ったと思った。 本来の道は安倍の大滝の下流側で大滝からの遊歩道に合わさるが、ここが大滝の上だとするとえらいことだ。 あの大滝は、日本の滝100選に選ばれるほどの巨瀑で高さは80m以上ある。 両側が切り立った崖だとすればもう下れない。 万事休すだ。 堰堤の上に立つと左側は露岩となっていて下れそうにない。 しかし、ここまで赤布があったのだからどこかに上がってくる道はあるはずだ。 靴を沢の水に濡らしながら対岸に渡りヤブをこいで目を凝らしてみるとそこに赤布があった。 また細々とフミアトが続いている。 あとから分かったことだが、このフミアトは、治山工事の調査道のようだった。 もちろんエアリアマップなどには載っていない道だ。 自分たちがいまどこにいるかは分からないが、このままフミアトがある限りどこかに出られるだろう。 赤布をたどるとまた向こうに赤布が見えてくる。 かなり頻繁に赤布が打たれていることがわかってきた。 足場は細く、気を抜くと下の沢に一直線だ。 やがて、沢の音がだんだんと大きくなってきて轟音となった。 安倍の大滝だ! そうか、自分たちはやっぱり大滝の上にいたんだ! しかしフミアトは続いている。 それをたどると明確な登山道に出た。 登山道を下り続けると、安倍の大滝の滝つぼのわきに出た。 あとから分かったことだが、この登山道は、上に走る林道に出る道だったのだ。 これで救われた。 ここからは遊歩道だ。 遊歩道を下ると、沢を横切る地点で、橋がない! 流されてしまっていた。 これはひどい。 吊橋を渡り、右岸から左岸に移ると、本来われわれが下ってくるべき道との分岐にいたった。 ここには指導標などはない。 「さあ、ここからは、安全な道ですよ」とワタシはドヤ顔で言った。 しかし、それは間違いだった。 テクテクくだると、突然また道がなくなっていた。 台風で道が流されている。 さぁ、困った。どうしようか。 よく見ると上の方にトラロープが張ってある。 なるほど。 その迂回するフミアトをたどることにした。 急な斜面を登り、トラロープをつかんで急な給なくだり、道のある向こう側に出たのだった。 「ひどい荒れようだな」 さらに下って、最後の吊り橋を見て啞然とした。 吊り橋が、斜めになって半壊している。 MZさんが渡ろうとしたが、危険だ。 わたるのを諦め足を濡らして沢を徒渉し対岸のヤブをこいで吊り橋のたもとについた。 階段を上るきると申し訳程度に欄干のテープが通せんぼしている。 安倍の大滝への遊歩道はしゃれた遊歩道だったが、いまや全く通行不能の道となっていたのだ。 疲れた脚にムチ打って温泉街に戻ったのが16:35だった。 お風呂屋の主から話しかけられた。 「どちらに行ってこられました?」 「安倍峠から大光山、そして大滝へ下ったんだけど、いや、ひどかったね」 「あ、今、このあたりの登山道、みーんなダメですよ」 「えっ、そうなんですか?」 「林道が通行止なんで事実上、登山道も通行止めみたいなもんです」 林道が通れなくても山に登る人はいるだろうにと思った。 「いつごろ安倍の大滝の遊歩道は歩けるようになるんですかね」 「もう暫くは全くダメでしょうね」 「おまけに大滝に下ってくる途中、クマの檻(おり)のところから迷って大滝の上の堰堤のところに下ってしまって・・・・」 「たぶん治山事業の人の作業道でしょうね」 「大滝の滝ツボへの明確な道がありましたが・・・・」 「地図には出ていないんですが、あれは滝から安倍峠の林道へ上がる道なんですよ」 硫黄の臭いのするトロトロのお風呂につかっていると落ち着いてきた。 外はとうに暗くなり、天気予報どおり雨が降り続いている。 目を閉じると沢がゴーゴーと音を立てて流れているのが聞こえてきた。 |
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感想
・梅ヶ島温泉の駐車場は、安倍峠への林道分岐を右に見送って直進すると右側に2段に分かれてある。合計で30台くらいは停められる大きな駐車場です。
・11/26現在、豊岡梅ヶ島林道は梅ヶ島温泉の先で通行止めです。安倍峠へは歩いていくしかありません。
・安倍峠にはオオイタヤメイゲツの純林があります。これは大型のカエデです。漢字では大板屋名月と書きます。葉っぱが大きいことから満月にたとえられて名月、またその大きな葉が重なりあう姿が板の屋根を想像させることから板屋の名前がついたそうです。オオイタヤメイゲツの学名にはShirasawaの文字がありますが、これは明治時代の樹木学者白沢博士にちなんで贈られたものです。
・稜線上は基本的に問題なく歩けます。
・稜線から安倍の大滝への下る分岐点には立派な指導標があり迷う心配はありませんが、大滝〜三河内の吊橋までの遊歩道が通行不可である注意書きは一切ありません。注意が必要です。
・安倍大滝への遊歩道は、三河内の最初の吊り橋を渡り終わったところで通行止めのテープが張られています。それを越えていったとしても吊り橋が半壊で渡れません。今の状況では相当のあいだ、通行止めは続くと思われます。
・クマの檻のところからの道迷いは、全くワタシの不注意です。が同じ間違いをしたらしいフミアトもありましたので一応注意が必要と思います。自分が以前に下ったときは、ふつうに下ることができました。今回もおかしい!と思ったら戻ってコンパスで調べれば問題なく下れたと思っています。エアリアマップだけで、国土地理院の地形図も持参しませんでしたが、これは失敗でした。
・駐車場の下の林道分岐にある湯元屋さんでお風呂に入りました。小さいお風呂ですが、硫黄泉で快適です(500円/人)。手作りの刺身コンニャクも買いました(250円/個)まだ食べていませんがおいしそうです。
コメント
この記録に関連する登山ルート
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とても気になっていた区間ですので、
興味深く読ませていただきました
安部の大滝へのルートは、昨年歩きましたが
奥大光からの下りは本当に長く、認識している
以上に深い山の中にいると感じさせられました。
さぞ不安だったかと思います。
また、寒い中の徒渉も大変でしたね。
安部奥は先の台風で大打撃を受けましたが、
自動車道の補修すらままならない今、登山道は
いつになるか分からないとのことです。
自然の力は恐ろしいですね。。
コメントありがとうございました。確かに安倍の大滝への道は長く、なかなか高度が下がらずむっとする(笑)下りの道でした。本当に自然の力は恐ろしいものですね。お付き合いをするのは気が遠くなるほどのエネルギーが必要な感じです。ずいぶん、静岡の山は歩かれてるようですね。またどこかでお会いできればと思っております。
コメント頂きありがとうございました。
安倍大滝への遊歩道が崩落しているとは静岡市のホームページで知っていたものの、そこだけ巻けばいいと思い、奥大光から安倍大滝へ下ったんですが、まさか吊り橋まで台風の被害を受けていたとは知りませんでした。
僕も檻(罠)のところで少し迷いました。あそこは分かりにくいですよね。
その他にも分かりにくいところがいくつかあって地図を見ながら慎重に下ったため、だいぶ時間がかかってしまいました。
ご訪問ありがとうございます。静岡のHPはワタシも見ました。結構でていることがわかりました。早く復旧するといいですネ。
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