こんなことは日常のことだよ・・・ 大峰奥駆道


- GPS
- 28:45
- 距離
- 21.6km
- 登り
- 1,972m
- 下り
- 1,984m
コースタイム
七曜岳 - 国見岳 - 9:14大普賢岳 - 14:29阿弥陀ヶ森分岐 - 15:11小笹宿(泊)
5月4日:小笹宿5:19 - 阿弥陀ヶ森分岐 - 6:57大普賢岳 - 国見岳 - 七曜岳 -
9:14行者還岳 - 一ノ峠 - 11:15行者還トンネル西口
天候 | 2日間ともガスと雨。 特に2日目は強風が加わって気温も下がり、稜線では雨がみぞれ混じりに。 体感温度は0度位だったように感じました。 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
停めたときは数台でしたが、下山時には数百mにわたって駐車車両が並んでいました。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
行者還トンネル西口登山口に登山ポストがあります。 奥駆道は全体にわかり易い表示があります。 (世界遺産だけあって案内には英語が併記されています) 所々尾根が広くなったところで踏み跡がわかりにくく、ルートを確認するのに右往左往したところがあります。 下山時に奥駆道出合からではなく西向き尾根を下るルート(山と高原地図では点線で表示)を通りましたが、踏み跡、テープはあるものの登山道としての整備はこれからの印象でした。 足元のみに目をやるのでなく、周辺への注意を払うことで道迷いのリスクを減らしたいところです。 |
写真
感想
大峰奥駆道・・・普段の生活の中ではもちろんのこと、山を歩くようになっても滅多にお目にかかれない山の懐深くの世界を想像していました。
「もののけ姫」の世界と言ってしまうと通り一遍等ですが、この道を歩きたい思いはずっと胸にあったのです。
GWの行き先に北アや八ヶ岳まで足を伸ばしたいとの思いもありながら大峰を選択してしまったのは、今回は眺める景色よりもそこに立つことのできる、触れられる世界を欲していたのかもしれません。
天気予報は3日の朝まで崩れている天気がその後快方に向かうとのことで、初日の出だしをガマンすれば何とかなりそうです。
(もっとも年間4,000mmを越える降水量だというこの山域、雨は降って当たり前だとも思っていました。)
2泊3日の行程でまずは奥駆道の見所をスポットで訪問するルートになるのは仕方なさそう。
よく見かけていた行者還トンネル西口からのルートを選択します。
八経ヶ岳・弥山方面と大普賢岳・山上ヶ岳方面とが正反対ですが、山と高原地図の行程所要時間を見ると少し無理すれば歩ききることはできそうです。
今回2度目のツェルト泊で荷物を減らし、そのぶん3日分の食料などの構成を考えて準備します。
(2泊するだけで食料はかなり増えます。それ以上の長期縦走ではどうするんだろう?)
前夜に地図を見ようとして地形図をまだ持っていないことに気付きました。
山と高原地図では広域を見るには便利ですが細かい地形を見るようにはできていないのでかなり不安です。
現地でのルートの表示等が問題ないとすればあとは自分の注意の払い方でカバーできるだろうと割り切ります。
朝、自宅を出発前に仕事のごたごたで会社に寄ったりしていたものですから結局ちゃんと車を出せたのは3時でした。
前夜の準備で睡眠時間が長くは取れていませんが、いつも通りの高揚感で130kmを走りきりました。
夜が明けて視界の広がったR309を走りながら目に入る世界が変わっていくことを感じます。
行者還トンネルには案外早く到着しました。
予想していた時間時間はかかっているのですが、自分で長く感じなかったので体調はいいようです。
駐車スペースはかなりの広さで驚きましたがこの時間にはまだほとんど停まっている車はありません。
つまり日帰りで来る人は少ないってことでしょうか?
歩き出すと見る間に傾斜が急になり、湿度の高さもあって汗が吹き出てきます。
息が切れないようにペースを一定に抑えながら、久しぶりのこの汗の感覚を楽しんで歩きます。
高度を上げていくと次第にガスに包まれて細かい雨の粒が顔に当たり始めます。
早めにレインウェアを着込み、ザックカバーもつけるともう雨を気にする必要はないとテンションも上がっています。
この雨も大峰の山が普段の顔で迎えてくれているものと思って歩くことにしましょう。
1時間弱の登りで稜線に出ます。
いよいよ大峰奥駆道です!
どんな歩き方が似合うだろう・・・?
ここの歴史から想像すると、修験者の修行の道? 木枯らし門次郎のような渡世人の歩いた道?
どちらにしても身軽な風体の早足のイメージですね。
自分の荷物でまねをするわけにはいかないか・・・(汗)
ガスの中、雨の中のトレッキングですが、風はほとんどありません。
だから気分はのんびりムードで能天気にいろいろ気を散らしながら歩いています。
稜線上の大木が何本も根こそぎ倒れていてまだ土のついた根を浮かせているのを見ました。
見ていると脳裏にこの大木が倒れるシーンを想像してその迫力に圧倒される思いです。
ただ、こんな一抱え以上もある木を根こそぎにする風ってどんな・・・?
今日がこんなに穏やかなものだからリアルには想像できずにいたんです。
木の様子を見ても、倒れてから何年も経ているものもあれば、生きていて倒れた木の枝からは今年の芽吹きが見られるものもあります。
何十年に一度の災害ではなくて、季節の巡りの中でこの木を倒すほどの風が吹く?
ちょっと信じられない見の前の風景に首を傾げてしまったことでした。
笹の茂る見通しのよい尾根道や鎖場の登りを辿りながら一つ目のピーク、行者還岳に着きました。
ソロの気楽さでしばらく時間を使ってセルフの写真を撮ったりもしながらこの先のルートを地図で確認してみます。
鎖場の表示が何ヶ所もある難所のようです。
進んでいくと確かにありました。
斜面に這わせた鎖というよりどちらかといえば鎖がぶら下がっているような状況です。
そのたびにストックを短くして両手を使いながら登ります。
下を除くとガスで見えませんが、足を滑らして悲鳴を残しながらガスに消えていく想像はブラック過ぎて・・・
七曜岳のピークあたりで修験者の一行とすれ違いました。
20歳くらいのまだ若い人もいて驚きました。
先輩から梯子の下り方を教えてもらいながら恐々下りていかれました。
(その先輩はワンゲルの部活のような指導の仕方でちょっと笑えました。)
その後すぐにほら貝の音が響いたのを聞いて、ホントに吹くんだと思いました。
道はいよいよ過酷になり、足元のすべりに注意しながらそっと足を下ろして歩きます。
雨は相変わらずシトシト降り続きますが、おかげで見の前の風景がしっとり潤っています。
湿気というのは人間の生活の中では嫌われ者ですが、この山の命を育む役割を担っていることを感じます。
コケも草花も木もみんなが自分の居場所を持っています。
ゆっくり歩きたくなる風景です。
15時に到着したのは小笹の宿というところ。
護摩行の祭壇のようなところの隣に避難小屋らしき建物があり、中には数名が先に着いていました。
私は予定通り目の前にあった沢沿いの平坦地にツェルトを張ることにしましたが、この日この場所には7〜8名が泊まったようです。
夕食を済ませる頃にはまずいことに風が強くなってきました。
ツェルトを張るのが2度目だった私はもう不安でたまりません。
今晩こそ熟睡しようと持ってきたウイスキーとサバ缶でいい気分になるつもりでしたがどうやら今夜は寝られそうにない・・・
まだ外は明るいのですが、雨が降り続いて風も強くなり、こちらは緊張しながらシュラフにもぐりこんで身体を硬くしていました。
あの小屋にはまだ入る余地があるだろうか?
風でツェルトが飛んだら?
沢が増水したら?
経験のない分妄想だけが風船のように膨らんできます。
加えて起こったとんでもない状況は結露です!
ツェルトに当たる雨の粒の振動で内側に結露した水滴がはじけ飛んでそこらじゅうを濡らします。
床、ザック、衣類、シュラフカバー、食料・・・
夜中に移動の必要があったときのために荷物を全てザックに詰め、後はシュラフカバーの防水を信じてもぐり込みます。
自分ができることはこれで全部。
そう思って腹をくくったら、今度は妙に落ち着いてきました。
風は相変わらずツェルトをわっさわっさ揺らしています。
山ではこんな夜は日常のことで、アライテントのツェルトの規格は日常の状況に耐えられないはずはない。それを災害のように怯えるのは自分の未熟さだと言い聞かせていたんです。
これは私にとって特効薬になりました。
それに反論の余地がないのならそれは正しいことで信じられることだと思い込めるのは私の性格です。
(同時にそれは大きな弱点でもあります・・・)
おかげでその状況の中、いくらかは眠れたようです。
揺れるツェルトの中でも落ち着けたのは体には良かったようで、明け方3時ごろには昼寝をしたような爽快感さえ感じることができました。
(もちろんそれはアドレナリンの効果かも知れませんが、都合のいいほうに解釈しておくのも得意です)
シュラフもかなり水を吸っているようで、残念ながらもう一晩のツェルト泊は断念することにしました。
起きる前に今日の行動をシュミレーションしてみます。
昨日とおなじ時間歩くとすると、昼食は必要だろうが火を使う状況は難しそうです。
食事を朝昼交代させて、朝食べておいて昼はカロリーメイトとお菓子で持たせる。
そちらのほうが効率はいいです!
行動予定が立てば動き出すだけです!
外はまだ暗いのですが、食事と撤収をしてスタート時に明けてくればこれも効率のいい時間の使い方です!
これもアドレナリンの助けでしょうが、張り切って体が動くうちにやることやってしまいましょう!
風の音はずっと大きいままですが、5時過ぎには撤収も終えてスタートすることができました。
歩き出すとわがままな心がむくむくと起きてきて主張を始めます。
今歩けているんだから当初の予定通りもう1泊すればいいじゃないか。
山上ヶ岳にも向かわずに真っすぐ引き返すのは軟弱すぎるぞ!
計画に当たって参考にしたヤマレコの先輩方も、もっと歩いているぞ!
確かに軟弱かもしれないですね・・・
次に来たときにはこの状況に笑って対応できる力をつけておきたいと思いながら、今回はそう思わせてくれた大峰に再会を約束することとしました。
何人ものトレッカーと出会いましたが、吉野から歩いている人が多くいることに驚きました。
グループもあればソロの方もいて、テントを持って縦走していました。
たかだか2泊で大騒ぎして途中撤退も恥ずかしいことですが、今回も山に教えてもらったことは大事なことでした。
☆トラブルの大きさはある程度自分の主観で抑えられること。
☆想定できていれば防げることは多いこと。
☆自分の思い込みの強さは武器にできること。
初日に倒木を見て「この木を倒すような風ってどんな?」と疑問を持った私に山はちょっと風を吹かせてくれました。
(それだけで逃げ出そうかとあたふたしたちっぽけな人間に大笑いされたかもしれませんね)
私の背中に「もう少し経験と強い心を持ってまたおいで」と声をかけてくれたようです。
また来ますよ。
コメント
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monsieurさん 大変でしたね。
私も何十年も前ですが、突風と大雨で、テントを吹き飛ばされ、ずぶ濡れになり散々な目に遭ったことがあります。原因は台風が近づいているのに強引に野営した事と、このような天候に経験があまりにも不足していたことに因ります。
以来、「山は決して安全ではない。身の丈以上の事を行う場合は入念な計画を練って判断する。」これが私のスタイルとなりました。
monsieurさんの今回の判断、正解だと思います。
monsieur さん お疲れ様でした。
山では、いろいろなことが起こりますね。
けれど、そのつど前向き、ポジティブに
かつ、的確に判断し、無事に帰ってくる。
そして、次の山行に生かしていく。
レコとても参考になりました。
さっそくコメントいただいてうれしいです
テントを飛ばされたんですか
私の妄想通りのことが・・・
ソロの強みなのかどうなのか、今日はここまでと線を引くのは早いんです。
おかげで撤退の回数も順調に(?)伸びていますよ
ただ今回も思いましたが次にこの山に向き合うときに今の自分より何が成長できたか、そこをわかって行きたいものです
無事に帰ってこれたから言えますが、やっぱり恥ずかしいものですね
私が自覚しているのは「自分は怖がりだ」ということ。
すべての考え方の基本はそこから始まっています。
テントを揺らす風のうなりを怖がることから始まった私の考え方の変化は自分のいつもの怖さ克服プロセスです
でもこれも不思議なもので、「怖かったからもうやめよう」にはならないんですよね
次は・・・を考えてワクワクしています
お帰りなさい、ご無事で何よりです
無事に帰ってこれるから、次に繋げることができます。
( 予定短縮、怪我とかじゃなくて良かったです。)
雨の中ツエルトで一夜を過ごす、一気に経験値が・・・羨ましい
って、僕なら迷わず非難小屋?に逃げ込むと思います
いやいや、雨予報なら中止にしてるかも(笑)
深い深い大峰、歩いてみたくなりました
妄想計画、再編したいと思います
nobuchiさん、ありがとうございます
深かったですよ・・・
あの世界はなかなか他の地域では見つからないんじゃないでしょうか
ツェルトの結露は対処法を考えたいところです。
(テントでもですが)
結露を減らす技術と結露しても過ごせる技術・・・
どちらかだけだと完全には無理のようですから歩み寄らないと・・・
経験値より宿題がたまりそうです
山行お疲れ様でした!
雨、風の中のツェルト泊、大変でしたね。
シュラフカバーしていても、シュラフが濡れてしまうとは、、。
私もいつか大峰縦走したいので、今回のレコはとても参考になりました。
(女人結界の先は行けないのでどんな風になってるのか気になります〜)
また、めげずにリベンジなさってくださいね。
>>☆自分の思い込みの強さは武器にできること。
↑この格言いいですね〜
slowlifeさん、こんばんは
もう5年以上前でしたが、日に3箱のタバコを吸っていた私がやめたのはこの”思い込み”のアイテムを使用した結果でした。
「禁煙セラピー」という本をもらって読む前に「ここに書いてあることに感心し、頷いて納得しよう」とだけ決めて読み、読み終わって最後のタバコを消した瞬間から一度も吸いたいと思わずに今に至っています。
何の根拠もないことを信じ込むことはできない(オカルトや疑似科学のたぐいは×)のですが、自分なりに納得できればタバコをやめたり雨風を凌げるくらいの効果は発揮できますよ
”ちょっと変わったヤツ”の方が身につけられそうです
無事でなによりです。
リスクを減らす事が大事ですね。
私は恐がりなので、リスクを減らすことを真っ先にかんがえるので、
なかなか行動に移せないのが困ったもんです
山(自然の中)での雨風、想像以上で強いですね。
いかに、街で守られいるかという事を実感出来ます。
テント
風に飛ばされ、フレームを破損した事があります。
それから、確実にペグで固定することを心がけています。
シュラフカバー
諸刃の剣ですよね。
確かに外部からの水分を防ぎ保温力も上がりますが、
結露してシュラフが濡れてしまって、結局冷たかったり
なので緊急用には持ってはいますが、使わなくなりました。
テントを風で破損することはあるものなんですね
設営の仕方にもよるのでしょうが、どの程度ならセーフでどこからアウトか、自分はそこの感覚をまだ持てていないんですね
シュラフは購入時に店の人から通気性は絶対必要
機能の通りカバーの内側のシュラフは濡れていませんでした
濡れていたのは首周りのカバーがずれていたところなんです
カバーの表面には落ちた水滴がびっしり付いていましたが、首より下は寝ていて全く気になりませんでした。
monsieurさん こんにちは!
私も吉野〜熊野の全山縦走を計画しておりましたが、計画の浅はかさで達成できませんでした
変な言い方ですが、失敗するって、次への予防策・対策を考える様になって、これはこれで良かったのでは無いかな?と思ったりしてます
またお互いにトライしましょうね
ButaModernさん、ありがとうございます!
私もたった今、ButaModernさんのレコにコメント書かせてもらったところです
お名前を見て、もう返信をくれたのかとびっくりしました
今回の私の山行は大峰の山を覗いてきた程度のものです
もちろんこれで終わったつもりはないですから何度も歩くつもりですよ
でも今回のたかだか2日の行程にも満足してるんです
「失敗した
反省点だらけではありますが、今の自分のレベルでは「場数を踏む」ことも必要かと・・・
ま、追い返されようが撤退を重ねようが毎回楽しんでるんで、何回かかってもいいです
テント泊だと思っていたら、ツェルト泊だったんですね!!
雨の中、本当にお疲れ様でした。
精神的にもお疲れだったでしょう。
ちょっと前に歩いた大普賢、七曜岳あたりの写真、懐かしく思いながら拝見しました。
あっという間に雪は消えちゃったみたいですね。
次は女人禁制エリアのレコ、ぜひ書いてくださいな
ツェルトだったんです
縦走型の山行では軽量化重視だろうと浅はかな判断だったのか
今から考えると風で飛ぶことよりも結露の方が問題だったわけで、それはテントでも同じでは
あの山を深く分け入っていく感覚は全くの非日常を演出してくれて虜になりそうです
これから何回通うことになるのやら・・・
女人禁制だから
その意味なんかをいくらか予習
monsieurさん、おはようございます。
大峰奥駆道…とうとうこちらにも足を踏み入れましたか
昔の人達のことを考えながら、ここを歩き通す…やってみたいですね〜
女人結界があるので、私には出来ないのですが
ツェルト泊、私もやってみようと考えています。
一度家で設営していますが、これを実際に使うとなると改造が必要かな?と思いました。
でも慣れたら、長期縦走の強い味方になりそうですよね
ツェルトの設営と撤収のプロセスさえつかめば使いこなせるものと思い込んでいた私の甘さですね
自分のひとかけらの経験で想定できることのなんと小さかったことか
山は絶妙のさじ加減で私の対処能力不足を教えてくれたように感じています。
テントだから、とかツェルトだからではなくて、過ごす自分がしっかりすることです
いつか奥駆道を歩き通します
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