ワイルドで無茶苦茶でデタラメ気分(三頭山)


- GPS
- --:--
- 距離
- 5.2km
- 登り
- 575m
- 下り
- 564m
コースタイム
- 山行
- 5:10
- 休憩
- 0:10
- 合計
- 5:20
炭焼き小屋での分岐がわからず黒滝へ。連絡路を経由して尾根に到着。悪路多し。
天候 | 晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2019年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
「里山の路」への分岐がわかりにくく、見落としてしまった。 連絡路「黒滝の路」「ひぐらしの路」を経て「里山の路」へ復帰。 これらの連絡路は軽い土砂崩れが放置されており、かなり危険。 |
写真
装備
個人装備 |
Tシャツ
ズボン
靴下
グローブ
雨具
日よけ帽子
靴
ザック
サブザック
昼ご飯
行動食
非常食
飲料
地図(地形図)
コンパス
笛
計画書
ヘッドランプ
予備電池
筆記用具
ファーストエイドキット
常備薬
日焼け止め
保険証
携帯
時計
タオル
ストック
カメラ
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感想
運転が好きだ。飽きるということがない。
とはいえ、遠い。すでに、高尾山に行って帰って、もう一回高尾山に行けるくらいの時間を走っている。
奥多摩と高尾山。今までその位置関係をきちんと考えたことはなかった。ただぼんやりと「両方とも東京の西のほう」くらいに考えていた。
違うのだ。地図で確認してみると一目瞭然である。
高尾山のある八王子市は、東京の中では中央ちょい西より。対して奥多摩は、東京の西の外れだ。
私の家があるのが東京都の中央付近であるがゆえ、高尾山に行くのは「ちょい西」に移動するだけで充分だったのだ。30分で着くわけである。
それに引き換え奥多摩は、まるまるたっぷり東京の中央から西の外れまで走る必要がある。実に遠い。運転が好きでなければ、こんなところまで繰り出すのは苦行でしかないだろう。
午前5時過ぎに家を出て、走ること2時間。
ちょうど駐車場のゲートが開いたところらしく、何台かの車が入っていくのが見えた。
6月半ばの某日。奥多摩周遊道路の最奥部、都民の森駐車場。
バイクで走り回った若かりし頃にはただの休憩地点としか考えていなかったこの場所が、三頭山という山の登山口であることを知ったのは、ごく最近のことである。
実のところ、東京にも登って楽しい山は沢山あったりする。今のところ登山地図を眺めて妄想してニヤニヤするに留まっているが、近いうちに登る山はいくつか決めてある。
そのなかの候補のひとつが、ここ三頭山だ。
どこを攻めるかと迷っているときに、ソロトレッキングの本で「初心者ならまず三頭山を登っとけ」みたいに書かれているのを見つけた。決まりである。
駐車場はわりと広く、ネットで見た情報によれば80台が駐められるそうだ。
登山道はというと……うむ、実にわかりやすい。駐車場のゲートの反対側、お土産屋さんを左手に見て、赤く塗装されたアスファルトの坂道がドドーンと伸びている。
初手からなかなかの急勾配である。だが、慌てない。ここまでの山行で学んだ登山歩きで進めば、この程度の坂道は物の数ではないはず。
さあ、冒険の始まりだ。
坂道を進むと、そのままアスファルトに従うルートと、左側の階段ルートとに別れている。行き先は同じだが、階段のほうが「さあ、この自然を御覧なさい」と言わんばかりに綺麗に整えられている。せっかくだからそっちへ行こう。
しかし……自分で登っておきながらなんだが、やはり階段は苦手だ。この階段はかなり綺麗に整備されているほうだが、それでも登山歩きのペースを容赦なく乱してくる。
しばらく登ると、なにやら物々しい建物が見えてきた。デカイ看板で「森林館」と書かれている。
三頭山に関する資料館と管理事務所と、あとレストランを兼ねた施設だ。山関係の体験イベントなども頻繁に催されているようで、運営サイドの本気度が伺えて好印象である。
だが、今の私にはレストランも資料館も必要ない。必要なのは山だ。山に登るのだ。
地図によれば、この森林館にある分岐を左手に進めば三頭大滝、右手に進めば鞘口峠(さいぐちとうげ)、どちらからでも三頭山の山頂には登れるらしい。
単に山頂に登ると言うだけなら、三頭大滝経由のほうが楽なようだ。だが、私は例によって富士山へ挑むための練習としてここへ来ている。よって、ここは鞘口峠方面へ、更に、あえてダイレクトには鞘口峠に向かわずに、「里山の路」と名付けられている散策路を通ることに決めていた。
里山の路は、ちょっとした尾根道を経てグルリと遠回りして鞘口峠へ至る、あまり人の行かないルートである。その代わり、尾根からは奥多摩湖が綺麗に見えるそうだ。
これくらい歩けば、この間の高尾→陣馬の縦走登山には及ばないものの、そこそこの鍛錬になるのではないだろうか。
少し進むと沢沿いの道となり、古めかしい建物が見えてきた。地図には炭焼小屋とかかれている。今でも炭焼をしているのだろうか。
里山の路はここから最も右手の道を選べば、以降は右手の法則だけで鞘口峠までたどり着ける、とてもわかり易い道だ。
炭焼小屋からまっすぐ進んで、右手沿いに……。お、分岐がある。ここも右に行けば良い。道の曲がっている角度が予想より浅く、「ん?」と思ったが、まあ右手沿いに行けば良いのだから迷うまい。
地図によれば、すぐに尾根道に出て、そこそこの景観を楽しみながら歩けるようだ。
深い森の中、あまり整備されていない細い道を歩く。
そろそろ、尾根道に出ても良い頃だが……。とか思っていたら、水が激しく落ちる音が聞こえてきた。
小さな滝だ。このあたりの沢は、この滝の水が落ちた先を流れているのだ。
滝の目の前を渡るように、ボロい木の橋が渡されている。若干朽ちかけていて、私の体重でぎしりと軋む。頼りない。しかし、非常に良い感じに苔むしていて、風情はばっちりである。うん、なかなか良いところだ。ひとつの問題を除いては。
山の奥深く、誰も来ない登山道、滝を前にひとり。
嫌な汗、ダラダラ。
「ここ……どこ?」
繰り返すが、「里山の路」は少し歩けば尾根道となるはずなのだ。尾根に滝があるはずがないではないか。滝があるという時点で、既に道を間違えていること確定なのである。
どうやら、初っ端からやらかしてしまったらしい。
やばい。焦ると思考が退化して「とにかく登れば良いだろう」とか、ひどくゴリラ的発想が湧いてくる。
いや落ち着け。目の前の滝には「黒滝」と書かれた標識が立てられているではないか。
黒滝だ、黒滝。地図で確認だ。
あった。ええと、なにやら曲がるべき右への分岐を一本見落として、直進してしまったらしい。
さっき「ん?」と思った場所、あそこで「曲がる角度が想像していたよりも浅い」というのがヒントだったのだ。
あの手前に、もっとググッと急角度で曲がる道があったのだ。あまりに急角度なので、「横道」というよりも「斜め後ろの道」になっている。「横道」ばかりを探していたがゆえに陥ってしまった天然の罠といえよう。
これは教訓である。山道で、「ん?」と感じたら、己の判断を疑わねばならないのだ。「ん?」と感じたら、その己の感覚を信じねばならないのだ。
次からは、「ん?」と来たら、まずは立ち止まるクセを付けよう。……実践するのは難しそうだが。
ともあれ、とりあえず今いる場所はわかった。どうやらこの辺りの山には、いわゆる「登山道」とは別に地域住民が山菜採りのために通ったりする「連絡路」というものがあるらしい。その連絡路の一本に入り込んでしまったのだ。
さて。問題は、このまま進むか引き返すかだ。
ここがメチャクチャ深い山奥だとかいうのなら、もう間違いなく引き返すべき場面だろう。
しかし地図を見ると、目的の「里山の路」は、今いる地点を中心にぐるりと一周して鞘口峠へと向かっている。そして、連絡路はかなり沢山走っていて、ここからならどの方向に向かっても、必ず里山の路に出ることができる。
ならば、このまま連絡路を通って里山の路まで出てみようじゃないの。これもまた楽しいハプニングだ。
などと、安直に考えて先に進んでから数分。
……連絡路って……勾配……すげえのね……。
考えても見たら、本来なら登山道からスムーズに尾根道に入っていくところを、尾根を真横からダイレクトに登っているわけだから、当然っちゃ当然か。
幸いなことに、分岐のたびに連絡路の詳細図と現在地が記されている。迷ってはいない。だが、勾配が洒落にならん。冗談抜きで45度くらいありそうな傾斜を這い登っていく。山菜採りのおじいさんやおばあさんは、いつもこんな道を歩いているのだろうか。実は彼らもまたゴリラなのかも知れない。
開けた道に出てきた。うまく里山の路に復帰できたらしい。しかし、疲れた。なんだか、いきなり体力の50パーセントを消耗してしまったような気分だ。
実際、前回のポンポンピーピー警報に警戒しながら歩いたときと言い、今回のように半ば迷いながら歩く場合と言い、精神的に余裕がないときには、体力の消耗はかなり激しくなるようだ。
ともかく、無事に尾根道に出た。間違いなく登山道、歩きやすさは段違いである。
話によれば、ここからは奥多摩湖が眺められるとか……。どこだ。奥多摩湖展望スポットはどこだ。
鞘口峠へ向かって歩きながら進む。看板発見。「ここから見える奥多摩湖の景色」みたいなイラスト? 写真? が張られている。うむ、ここか。
話が違うぞ。イラストの中では確かに奥多摩湖がドドーンと広がって見えている。だが、実際に私の目の前にあるのは深い杉林である。
言われてみれば、幾重にも重なった杉の木のごく僅かな隙間から、ちらりちらりと青いものが見えないこともない。あれか。あれが奥多摩湖か。ふざけんなカネ返せ。
いや、別にカネは払ってはいないが、わりとここの景観を楽しみにしていたのだ。なんともやりきれない。
思えば、杉の木は成長が早いがゆえに大量に植樹されたと聞く。20年もすれば多少ヒョロリと頼りないが一人前の立木に、30年もすれば幹もそこそこの太さになってくるものだ。
この看板が何十年前に作られたのかは知る由もないが、当時はこのイラストのような景観だったのであろう。寂しいものである。
見えないものは仕方がない。気を取り直して先へ進もう。
ほどなく道は下り勾配へと変化して、階段が現れる。ということは……先を見てみると、小綺麗な木造のベンチがある。鞘口峠だ。
この先の計画は……。このまま北尾根に沿って三頭山の山頂に登り、南へ向かって下り、2本に分岐するうちの南側ルート「深山の路」にて三頭大滝を目指すことになる。
この南ルートを選んだのは、一番距離が長いし、途中にガレ場(岩ゴロゴロ地帯)があって良い経験値稼ぎになると思ったからである。
ともあれ、せっかく「さあ、座りなさい」とばかりにベンチが現れたのだから、遠慮なく休んでいこう。
行動食をボリボリ齧りながら休憩していると、森林館からダイレクトに登ってきたらしきおじさんも休憩を始めた。
ところでこのゴリラ、山に入るとテンションが上がるのか、妙にフレンドリーなゴリラと化す。しかし、考えてみたらこれは当たり前なのかも知れぬ。山という場所がそうさせるのか、話しかけるにせよ話しかけられるにせよ、どの人も「喋りたくて仕方がない」と言ったふうになってしまうのだ。もちろん私もである。人類、皆ゴリラ。
三頭山に慣れているらしいこのおじさんに言わせると、初めて三頭山に来たのなら、計画していた南ルートの「深山の路」よりも、ぜひもう一本のルート「ブナの路」を歩いてみなさいとのことだ。なんでも、ものすごく気持ちいい道なのだそうだ。
ふむ、そこまで推されるのであれば、あえて逆らう理由もなし。行ってみようではないか。
だが、とりあえずは三頭山の山頂へ向かわねば。
おじさんと別れ、鞘口峠からしばし階段を登ると、登山道は再び尾根道っぽくなる。
さっきの連絡路で思いのほか消耗してるので、努めてゆっくり歩く。高尾山で学んだ「のったり、のったり」だ。
しかし、山頂へ至る尾根道もなかなか変化に富んでいる。木の根っこの天然階段もあれば、岩を縫うように登っていく道もある。楽ではないが、楽しい。
ときおり杉林が大きく開けて、近隣の山が見える。正面に見える「ふたこぶラクダの背中」は馬頭刈山と鶴脚山だ。
こうした道を一時間も歩いただろうか、なにやら木造りの展望台らしきものが見えてきた。ここが山頂か。……と思いきや、地図で確認したら山頂手前の展望台だった。
さすがに展望台だけあって、良い眺めだ。真正面には大岳山。近いうちに登ってみようと思ってる山だ。
富士山を眺めるときもそうだが、今度登ろうと思っている山をこうして遠くから眺めるというのも、なんだか不思議な気分である。
どうにもうまく表現できないが、山というものは「登ろう」と決めた瞬間から、やたらに距離が近く感じるようになるのだ。
はるか遠くに見えるあの山のてっぺん。この距離で見ると現実感が湧かないが、いずれそこに登っているであろう自分を重ね合わせると、やたらに身近な山になったような気がしてくる。
この感覚は、私だけのものだろうか。
さて、遠くを見て惚けるのは程々にしておこう。まだ山頂には着いていないのだ。地図を見れば、もう目と鼻の先らしい。
歩いてすぐに見えてきたのは東峰の標識だ。この三頭山、名前の通り三つの峰を戴く山で、東峰・中央峰・西峰とあり、うちの西峰がどうやら山頂ということになっているらしい。
そのまま歩き続けると、五分もしないうちに標識が。中央峰だ。両方とも、こじんまりとした林の中の広場といった感じで、どうにもパッとしない。
そこから一旦下りると、道がいくつかに分岐している。道標に従って山頂方面へ。
ここも五分足らずで着いた。どうやら三つの峰はものすごーく近い場所に隣接しているようだ。
さすがに山頂。気合の入った石碑に三頭山と刻まれている。標高は1524.5メートル。高尾山よりも1000メートルほど高い。
スタート地点である都民の森駐車場の標高が990メートルとあるから、500メートルちょい登ってきたことになる。
見晴らしは……残念ながら最高とは言い難い。展望を確保するためか、何箇所か杉林を伐採してあるようで、ポイントポイントで遠くを眺められるようになっている程度だ。
ここからは、雲取山から鷹ノ巣山にかけての一連の山がよく見える。
雲取山にはいずれツェルト(ビバーク用の簡易テント)を手に入れたらツェルト泊で登りたいと思っていたが、ここから見ると、鷹ノ巣山も魅力的だ。
鷹ノ巣山は今までノーチェックだったが、この距離から見ても山頂付近の木が少なく、見晴らしが良いであろうことは想像に難くない。うん、登りたい山の候補に加えておこう。というか、雲取山から縦走できそうだ。
そんなことを考えながら、ボリボリと行動食を齧る。カップラーメンはまだない。
実のところ、前回の山行の後、私の山装備にコッヘルとバーナーを加えることの現実性を考えていた。
好日山荘を偵察してアタリを付けた感じだと、約550グラム。バーナー、コッヘル、ガスカートリッジを合わせると、おおよそペットボトル一本分ほど重くなる。これに肝心の食い物の重さ数十グラムが加わるわけだ。
今のところ、絶対に無理という重量ではない。おそらくザック(30リットル)にもまだ余裕はある。調理に使う水に関しては、予備ハイドレに水900ccを常備しているので、それを割り当てれば問題ない。
買っちまうか……。いや、買わなければ、この先の山行においても常に「食料を確保できる山=売店のある山」しか登らないか、あるいは食事はすべて一本満足バーで済ませるか、ということになる。一本満足バーだけでは、あまりにも侘しい。
いずれは買うことになる気がする。……まあ、とりあえずは保留だ。
さて、腹も落ち着いたことだし、鞘口峠でおじさんの言っていた超おすすめルートに行ってみるとしよう。
山頂からは奥多摩湖や山梨県の小菅村方面に向かって下ることもできる。さっきの調子で方角を間違えるとエライことになるので、慎重に方向確認。南に向かって下山開始。
急勾配の階段を下っていくと、すぐにムシカリ峠なる分岐にぶつかる。
ここが各ルートの分かれ道だ。実のところ、当初予定していた南ルート「深山の路」にも後ろ髪を引かれている。まだ初心者の私にはガレ場の経験がないのだ。比較的難易度の低いこんな山でこそ、是非経験しておきたいところではある。
だが、今回は年長者のおすすめに従っておこう。最初に道を間違えた「里山の路」と言い、三頭山にはもう一度チャレンジすることになりそうだ。
ムシカリ峠から東に進み、おすすめの「ブナの路」に入る。
しばらくは天然石の無骨な階段に閉口していたが、沢が合流してきた辺りで「おおう……」と声が出た。
なるほど、これは確かにおすすめだ。「一度は歩いておけ」の意味がよく分かる。
沢は岩石を縫うように流れ落ちており、その岩石のことごとくが、鮮やかな緑色の苔で覆われている。
加えて、水がいちいち岩石を叩くので辺り一面にはひんやりとした水気が漂い、とんでもなく涼しい。これは快適すぎる。もう、登山者とかでなくとも超ウッキウッキになれるルートだ。おじさん、ありがとう。
ふと思い立ち、加熱した足を冷やすべく靴を脱いで、靴下も脱いで、沢に足を突っ込む。やべえ。冷たすぎる。気持ちいいが、冷たすぎて足がしびれる。足がしびれて、熱いのか冷たいのか、痛いのか痛くないのかもわからなくなる。
足を拭いて靴下を履くが、冷えすぎて感覚がない。ぶ厚い登山靴を履くと、なんだかホカホカする。さっきまで灼熱の象徴だった登山靴が、妙に心地良い。もはや、自分がどんな感覚を求めているのかさえ定かではなくなってくる。
ああ、このワイルドで無茶苦茶でデタラメな感じ、たまらん。なんだか、子供の頃に遊び足りなかったのを、この歳になって取り戻しているような気分だ。
先ほど、もう一度この山にチャレンジして、次は南ルートを歩こうなどと書いた気がするが、その時には、きっとまた沢に足を突っ込むためにこっちのルートを選びたくなって葛藤することだろう。
まあ、未来のことは未来の自分に任せておこう。
さて、先に進む。次は三頭大滝。滝だ。滝である。滝だいすき。話に聞いたところでは、東京近辺ではかなり大きい滝らしい。楽しみである。
どうやら急勾配はもうほとんど終わりらしい。天然の石畳を沢と一緒に下っていくと、路が細くなって、ざわざわと水の落ちる音が聞こえてきた。
お、いよいよか。わくわくしながら歩いていくと、見えた。沢は谷になって、落っこちないように金網が張られている。その金網の奥、谷の向こう側に小さな滝が二段階くらいで落ちていっている。
お、おう……滝だね……。なんか、小さいね。さっき迷った先で見た黒滝と同じくらい? ちょっとがっかりかも。
なんて思いながら更に下りていくと、いきなり道が開けた。休憩所らしきベンチがあり、その向こうには巨大な吊橋が見えた。
頭の中に「滝見橋」とかいうキーワードがポワンと浮かぶ。そうだ、どこかで聞いたことがある。三頭大滝を見るための橋があるという話を。
あの吊橋が滝見橋か。つまり、さっきのは三頭大滝ではない。あの橋から見れる滝が三頭大滝なのだ。
では早速行ってみようではないか。
と歩き出した瞬間、「のわあ!」とか声が出た。蛇だ。蛇がいる。2メートルに満たないほどの蛇がゆうゆうと道を横切っている。ちょっとビビった。
緑色の胴体に黒い帯、すらりとしたトカゲちっくな頭。アオダイショウだ。毒を持たず害獣を食べてくれて、家なんかに住んでるとむしろ有難がられるナイスガイだ。
長さはまあまあだが、頭の大きさからしてまだ若いように見える。この滝のヌシ候補と言ったところか。
顔も、じっくり見ると可愛い奴である。とりあえず写真を取りまくろう。
アオダイショウが藪の中に消えて行くのを見送って、さあ、改めて三頭大滝である。
よし、デカイ。いいぞ。それでこそ「大滝」だ。水量も豊富で、高い崖の上から岩にぶつかりながら落ちていく。なかなか壮観だ。
父親もこの滝を見ることを勧めていたが、なんでも奥多摩周遊道路のなかった昔は、この辺りは山の超ど真ん中だったそうだ。
三頭大滝を見るためには、奥多摩湖から延々と三頭山を登って、反対側の斜面であるこっちに下りてくる必要があったとか。つまり、かなりの時間と体力を使って初めて見ることのできる、いわばガチ登山者への「ご褒美」的な滝だったらしい。
それが今や、都民の森駐車場からあっさりと見に来れるようになった上に、滝までの道も綺麗に整備されてしまったと、なんだか嫉妬だか羨望だかわからんことを言っていた。
まあ、確かに気持ちはわからんでもない。
滝見橋から森林館までは、真っ平らにならされた道に木材のチップが敷き詰められていて、そりゃもうお年寄りから赤ん坊まで余裕で歩いてこれるように整備されているのだ。おまけに森林館までは無料バスが通っていて、あの坂道すら登らなくて良いらしい。
登山に関しては超初心者の私でさえも「山なめんな」と言いたくなってくるほどに至れり尽くせりなのだ。
でもまあ、こうやって観光客を沢山招くことで、私ごときの初心者でも登れるくらいに山が整備されているわけでもあるのだ。ここは謹んで恩恵を受けておこうではないか。
などと思いながら木材チップ道を歩いて、ふと足元を見た瞬間、「のわあ!」二回目である。蛇だ。蛇がいる。さっきのアオダイショウがいつの間にか私のすぐ横を這っていた。やあ、縁があるな、アオダイショウ君。
森林館まで来ると、朝方に反対側へと登っていった分岐へと戻ってくる。
看板に「最近、ツキノワグマが目撃されました。ご注意ください」と書かれているのに今気づいた。
さっきの道迷った先で連絡路をうろつくのとか、結構やばかったりした……?
山に入るときには、情報もまた大切ということである。まあ、何もかも今更だが。
さて、駐車場に戻ってきたが、ここからが大変だ。
家まで2時間かけて帰らねばならない。家に帰るまでが遠足なのだから、仕方がない。
まずは、奥多摩周遊道路の下りコーナーを極めるところから始めるとしよう。
サンバー(660cc)で。
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