椿井嶺〜行市山〜権現峠☆冬枯れの江越国境から余呉湖への縦走
- GPS
- 07:15
- 距離
- 21.0km
- 登り
- 877m
- 下り
- 1,035m
コースタイム
天候 | 晴れのち曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2020年01月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
下りは余呉駅に |
コース状況/ 危険箇所等 |
行市山から権現峠までは一般登山道なし、尾根上ではしばしば藪漕ぎを強いられる |
写真
感想
今年の年始に栃ノ木峠から椿井嶺に至るまでの江越国境をhanabanaさんとご一緒に歩かせて頂いたところではあるが、今度は椿井嶺から南の国境尾根が気になるところだ。相変わらず雪がないので、登山の対象は低山を考える。
京都から湖北の山は地理的には遠いのだが、米原まで新幹線を使うことで時間的には非常に近い。京都駅を8時過ぎに出発して、余呉に9時過ぎには到着するというのは上出来だろう。今回の出発点となる椿坂に向かうバスは木ノ本駅から始発するのだが、敢えて余呉駅で下車して下余呉のバス停まで歩くことにしたのは、バスを待つ間に余呉の湖畔へと寄り道するのが目的だ。
余呉湖の上には雲ひとつない蒼穹に東の大岩山の上を太陽が登ってゆく。静かな湖畔には多くの水鳥の姿を見かける。しかし、図らずも痛々しい光景を目にすることになってしまったのは、釣り人が捨てたと思われる釣り糸に脚が絡まった鴨が死んでいるのだった。そもそもここは釣りは禁止の筈である。
下余呉で余呉バスに乗ると運転手に『どちらまで?」と聞かれる。実際、このバスには私の他には乗る人の姿を見たことがない。
「椿坂までです」
「何しに行くんかいな〜?」
「登山です」
「大黒山かいな?」
「いえ椿井嶺です」・・・といっても通じない。
「この国道の左手の尾根を辿って行市山まで歩く予定です」と説明してなるほど、と納得してくれる。さらに余呉まで歩くつもりだとは言わなかったが。運転手はバスの行く手に広がる晴天を喜ぶどころか嘆くように云うのだった。
「この時期にこんなええ天気は異常やで〜。地球に未来がないんちゃうか」
確かに冬の時期は山行先を考えるのに北陸の天気を確認することから始まるのだが、二月ならいざ知らず、一月にこんな晴天に恵まれることは尋常ならざることなのだろう。
バスが走る国道には対向車もほとんどない。終点の椿坂で下車すると椿坂峠を目指し、旧国道を登ってゆく。トンネルの手前から谷沿いに入ってゆく細い林道がある。余呉トレイルの地図に破線で記載されている道だ。
先日、大黒山から下山した際には国土地理院の地図では実線で記された道があるのだが、この道に全く気がつかなかったので、まずはこの道を辿っていることにする。しかし、道はかなり荒廃しており、すぐにも不明瞭となる。谷沿いに登ってゆく微かな踏み跡を見つけるが、ところどころで藪化している。つくづく大黒山からの下りでこの道に入らなくて良かったと思う。この道は通過に時間を要するので、乗るつもりであった椿坂からのバスにはまず間に合わなかったことだろう。おまけに斜面から流出する水により泥濘が著しい。
椿坂峠が近づくとそれまでの薄い踏み跡は忽然と消える。左手の檜の植林地の急斜面を登り、峠に降り立つ。椿坂峠のガードレールに立って、谷を見下ろすが、道に気がつかなかったことを納得する。というのも道はおろか踏み跡すら見当たらない。峠から下ってここまで登ってきた踏み跡に降り立つのも容易ではないだろう。
椿坂峠からはまずは椿井嶺のピークを再訪することにする。林道を歩くのは面白くないのでまずはこの椿坂峠から椿井嶺のピークを目指して直登する。もちろん踏み跡はない。かなりの急斜面ではあるが、微かな鹿の踏み跡を辿って斜面を上がってゆく。問題は樹林の下生が榧(カヤ)であることだ。前日の伊吹山の南東尾根でもこの榧の藪に難儀したところだ。伊吹山で榧の藪漕ぎに少しは慣れたのだろうか。
斜面は登るにつれて徐々に傾斜が緩やかになる。ほぼ平坦になると前方に小屋が見えくる。すぐに小屋のすぐ脇を通過する林道に出る。
林道を少し進むと林道から右手の植林地に登ったところですぐに三角点の柱石を見出すことが出来た。この椿井嶺は山名標も何もなく、ピークというよりは植林地と自然林が境界上の一点である。先日、椿井嶺を訪れた時には雨が降り出したタイミングということもあり、三角点の柱石の北側の檜の植林地の鬱蒼とした印象であったが、この日は落葉した自然林から降り注ぐ陽射しの明るさが印象に残る。
椿井嶺から南はなだらかなピークがいくつも寄り添うように集まり、複雑な地形を形成している。地図で見ても複雑な迷路のように林道が張り巡らされている。林道を辿れば良いのだろうが、檜の植林地と雖も可能な限り尾根伝いを歩きたいものだ。
尾根を走る林道は終わり、薄い踏み跡が植林地の中へと続いていく。なだらかな起伏を呈する植林の尾根を方位のみを頼りに歩いてゆく。三角点ピーク559.4m峰は沓掛山の名称を有する。このあたりは二重山稜となっており、余呉トレイルの地図ではトレイルは西側の尾根を通ることになっているが、三角点がある東側の尾根へと入る。樹林の間からはすぐ東側に大黒山の山容が間近に迫る。
沓掛山のピークを南に下ると植林地は終わり、ようやく自然林が広がるようになる。まばらに笹が茂る臨床を柔らかい冬の光が充している。尾根を南下すると西側には野坂岳を展望する。こちらも驚くほど雪がない。
明るい自然林が続く尾根は次のピークca 530mにかけて大きく東に方向を転じる。踏み跡はその先のca520mのピークを避けて西側の谷へと下降してゆくのだが、尾根上の踏み跡とテープにつられてca520mのピークに踏み込む。ピークまでは下生のない快適な尾根が続いていたのだが、ピークから南に尾根を辿ろうとすると突如としてヤブツバキの濃厚な藪が始まるのだった。
ピークの南側で本来のトレイルに合流するとヤブツバキの間に明瞭な踏み跡が現れたので、藪漕ぎに難儀した距離は短かかったが、このトレイルを南下する場合には注意を要するところだろう。再び尾根が二重尾根になると尾根の間の右手の谷間からせせらぎの音が聞こえる。尾根が登りに転じる手前ではすぐ下の沢に降りる踏み跡がついている。ここまで水分はほとんど消費していなかったので水を補給する必要がなかったが、暑い日には貴重な水場だろう。
尾根上には 快適な自然林が続く。尾根の東側には大黒山のシルエットはすでに彼方の後方となり、代わりにすぐ横に妙理山を大きくの望むようになる。送電線鉄塔が現れると、わずかな間、明瞭な送電線巡視路を歩くが、巡視路はすぐにも尾根の西側にそれてゆく。
やがて西側から植林が上がってくると植林と東側の自然林の境界を歩くようになる。しかしおそらくつい最近のものと思われる新しい切り口の間伐材がトレイル上には散乱し、随所で道を塞いでいる。このトレイルを歩く登山者はいないという前提で登山道の上に木材を放置しているのだろうか。
植林の向こうに突然、開けた場所が見えてくるとほっと一息つく。すぐに広々とした城跡に飛び出した。玄蕃尾城趾、賤が岳の戦で柴田勝家が築いた城だ。城跡の南東の一角からは琵琶湖の方角に好展望が広がり、伊吹山をはじめ霊仙、御池岳といった鈴鹿の山まで展望することが出来る。ランチ休憩には格好の場所だ。
いつしかすっかり高曇りとなり、石灰を流し込んだような白い空がどこまでも広がっている。
すぐ目の前には妙理山の南の新谷山の山容が大きく広がる。この新谷山から妙理山にかけての尾根では昨年の台風によると思われる倒木が酷かったことを思い出す。ここまで辿ってきた尾根では倒木がさほど酷くなかったことに気がつくが、こちらはすぐ東隣の尾根よりも標高がかなり低いので、台風による風がましだったのではないだろうか。
休憩を終えて出発すると、城跡を訪ねて来られたと思われる一人の男性が現れる。柳ヶ瀬トンネルの西側からこの城跡の直下まで車道が通じているのだが、行きに乗ったバスの運転手によるとこの道は最近、通行止になってしまっているらしい。男性は登山の格好には見えなかったので、林道をかなりの距離歩いてこられたのだろう。
ちなみにバスの運転手によると柳ヶ瀬トンネルはしばらく前に高さ制限を無視してトンネルに進入したトラックにより照明が悉く破損し、修理はまだ1/3しかされていないとのこと。前回の縦走路にこのトンネルを通って栃ノ木峠に向かったのだが、道理で異様に暗かったわけだ。
深い切り通しとなっている刀根越を越えると次はいよいよ行市山だ。峠からのわずかな急登を登りきると、アップダウンのほとんどない、なだらかな尾根を緩やかに登ってゆく。尾根の西側は植林となっている東側は自然林が続く。目の前の杉の倒木の上を動く小動物がいる。栗鼠だ。距離はあったがカメラを向けてとりあえずシャッタを切る。栗鼠は私の存在を認識したのだろう、近くの樹に飛び移ると私の視線の届かない樹の裏側を素早く攀じ登ったようだ。樹に近づいてみると梢から私の姿をじっと見下ろす栗鼠の姿があった。
この山域では期待していなかったが、行市山の山頂が近づくと尾根上には山毛欅の樹々が目立つ。樹間からはそれまで新谷山の影に隠れていた金糞岳が姿を現す。行市山の山頂からは東側に笹原が大きく広がり、遮るもののない眺望が大きく広がる。左手の方角には久しぶりに横山岳の姿も望むことが出来る。この好展望の山頂でしばしコーヒー・ブレークをとることにする。
行市山から南東に下る尾根を見送ると自然林の尾根となるが、尾根上の踏み跡は急に薄くなる。一昨年の台風によるものだろうか、尾根上には倒木が目立つようになる。それまでは東側の妙理山から新谷山の尾根による風の影に入っていたと思われるが、このあたりでは東からの強風が直接尾根に吹き込んだのだろう。
尾根を南下すると東側の斜面を林道が走るようになる。このあたりは尾根を往来するのにhanabanaさんのようなマニアックな登山者は別として、林道の代わりにわざわざ踏み跡の薄い尾根芯を歩こうとする者は少ないのだろう。しかし、踏み跡は薄いものの丈の低い笹が繁茂する自然林の尾根は湖北の低山の雰囲気の良さを堪能させてくれる。
文室山の三角点は紅い山名標が飾られている。山頂では西側から登ってくる明瞭な道と合流するが、どうやら送電線巡視路のようだ。次の送電線鉄塔に出ると今回の縦走路ではほとんど展望が開けることのなかった西側の景色が大きく広がる。琥珀色に色づいた南西の空の下では武奈ヶ岳が見える。すぐ西側には三重嶽を中心とした野坂の山、東側には釜のように山々に囲まれて深緑色の水を湛える余呉湖の姿を目にする。
送電線鉄塔を過ぎるとすぐにも道は消え、薄い踏み跡を辿る。突然尾根上に現れたピンク・テープと明瞭な踏み跡につられて南西に下る支尾根をくだりかける。どうも方向が違うのではないかと早々に気がつくことが出来たのは落葉した樹林から垣間見る景色のおかげだ。しかしp454を過ぎて尾根が下りになると倒木も多く、踏み跡の上はかなり藪化している。尾根から東側の林道へと下る道があったのかもしれないが、林道の法面が崖になっている可能性が高いと考えられるので林道との合流地点を目指してまっすぐに南下する。
林道に出ると再び尾根芯に登り、笹が繁茂する歩きやすい尾根を南下すると三角点ピークに秋葉越に到着した。ピークの南側には深い切通しとなっている峠がある。ここが本来の秋葉越だろう。
ここからは今回の尾根の最終目的地である権現峠まではなだらかな尾根が続くのだが、尾根上にはかなりの数の赤松の倒木がある。自然林の尾根ではあるが、松の樹も風には弱い樹の一つだろう。尾根のすぐ右手からは頻繁に踏切の反復音と線路を走る列車の音が聞こえる。権現峠の真下を余呉トンネルが通過していることを思い出す。
権現峠に到着したのは丁度16時半、余呉駅の新快速の時間が気になるところではあったが、峠からの下りはそれまでとはうって変わって歩きやすい明瞭な古道となり、まもなく余呉の湖畔にたどり着く。あとは暮色を深める余呉湖の湖畔を余呉駅までのんびりと歩く。
余呉駅ではホームから眺める横山岳を前に、ようやく缶ビールを開ける。余呉駅の周辺には売店も何もないので、駅のホームで電車を待つ間のために一日、缶ビールを携行していたのだった。長い山行のあとではビールが何とも美味しく感じられるのは云うまでもない。
コメント
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山猫さん、こんにちは。
京都駅から近江塩津行の新快速に乗られたのかなと思いましたが、余呉バスには間に合わない。あれ?って思ったら新幹線利用なんですね。さすがです。私のスマホの検索アプリは、設定で新幹線を使わないって設定にしてますわ。+990円ケチってます。あの新快速が一時間早かったら、山行きに便利なんですけどね。
知り合いは、青春18きっぷを使って遊んでおりまして、この新快速か湖西線の新快速で乗換へ乗換へ金沢に行って近江町市場で海鮮丼食べて兼六園と美術館へ行って日帰りとかしてます。軽〜く18歳の3倍越えですけどね(笑) じきに4倍??
讃岐にうどん食べに行ってきたとか、浜松に行ってきたとか言ってます。そういう遊びですけど。
このルートは、余呉トレイルのひとつなんですね。近江と北陸を繋ぐ「R365 北国街道」を睨みを利かした玄蕃尾城跡もあるようで。
この玄蕃尾城をググると「最新鋭の構造を駆使した山城の傑作」「続日本100名城選定」「国指定史跡」とか、歴史やお城にご興味がある方には行ってみたい所なんでしょうね。
権現峠の先で、トンネル内を通っている電車の振動・気配を感じるというのも鉄道ファンには面白いのかな。
ののさん コメント有難うございます。
新幹線は隣駅まで(一駅)であれば自由席特定料金という制度で割安の料金が設定されており、870円か990円になるそうです。木之本からの朝一番のバスにも始発の新幹線を使えば間に合います。この新幹線のおかげで湖北の山々へのアプローチが早くなるのは有難いことだと思います。帰りは大概、米原駅で新快速は車両を連結するので、その間に駅の売店でビールを買いに行くことが出来ます。ちなみに売店は東海道線のホームにしかないのですが。
湖北に雪がないのは寂しいですが、雪がなくても魅力的なところだと思います。さすがにトンネル内を通過する電車の振動を感じることが出来るかどうかは分かりませんが
yamanekoさんほどマニアックじゃないです。普通の登山者のhanabanaです。
こんばんは
林道を歩くより尾根芯を歩くのが楽しいと思うのは普通だと思うのですが・・・
普通じゃない??
文室山の南側の鉄塔の所からの眺めは良かったですよね。
去年歩いた時はそこで食事休憩をした事を思い出します。
そして行市山から西に伸びている県境稜線の事も思い出しました。
とっても気になってるんですよね〜
ハナさん コメント有難うございます。
>林道を歩くより尾根芯を歩くのが楽しいと思うのは普通だと思うのですが・・・
それは尾根芯に登山道がある場合の話です
hanabanaさんのレコを見れば普通じゃないのは一目瞭然
気がつかれたかと思いますが、下山後、新快速で京都に向かっていたら、前日にこのルートを歩かれたyo yonedaさんレコが上がっていて吃驚です。
>文室山の南側の鉄塔の所からの眺めは良かったですよね。
実に仰る通りです。東西に展望が開けるのがいいですよね。
>そして行市山から西に伸びている県境稜線・・・
私もです。
yamaneko0922さん、hanabanaさん、こんにちは
1日まえに同じようなところ(yamanekoさんの全ルートには全然及ばないショートカット版です)を逆に歩いていたんですけど、文室山の鉄塔での西側の眺めの記憶が、ほとんどありません。
眺めを見ながら食事休憩できるところあったんですね。
体力がいっぱいいっぱいとか、小さいダニがズボンにまとわりついたりとか、で林道にあっさり逃げてしまったのがダメだったのかな。
周りを見渡す余裕さえなかったのかと、反省です
yo yonedaさん コメント有難うございます。
ここをhanabanaさんが歩いておられたことは認識していたので、下山後、hanabanaさんのレコを探そうと思って検索したら、前日に歩かれたyo yonedaさんのレコが出てきて吃驚。慌てて新快速の中でダニがついていないか体中をcheckすることになりました。周りの人から見たら、変な人にしか見えなかったことかと思います。幸い、ダニは見当たりませんでした。
林道に出られて正解ではないかと思います。集福寺越から北側では藪と倒木かったですよね。なにかの樹の枝が顔に当たった瞬間に痛みを感じたのですが、そこがかぶれてしまって未だに治っておりません。
yo yonedaさんが歩かれた時にはきっと西側はガスがかかっていて展望がなかったのだと思います。そういうことは往々にしてあることですから。
でもここは今回のルートで唯一の西側に好展望が開ける場所で、私もまた季節を変えて再訪したいと思うところです。
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