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Yamareco

記録ID: 2622267
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
白山

【白山】地獄尾根探訪(火の御子峰北峰)

2020年10月02日(金) 〜 2020年10月03日(土)
 - 拍手
GPS
32:00
距離
26.6km
登り
3,472m
下り
3,471m

コースタイム

1日目
山行
9:10
休憩
0:00
合計
9:10
5:40
260
新岩間温泉
10:00
250
ゾロ谷への下降点(見返坂の頭)
14:10
40
中ノ川との出合
14:50
仙人谷・地獄谷の出合(幕営地)
2日目
山行
17:00
休憩
0:00
合計
17:00
3:30
270
仙人谷・地獄谷の出合(幕営地)
8:00
30
火の御子峰北峰
8:30
210
火の御子峰北峰と火の御子峰のコル
12:00
30
仙人谷・地獄谷の出合
12:30
300
ゾロ谷出合
17:30
180
稜線(見返坂の頭)
20:30
新岩間温泉
天候 10/2晴れ 10/3曇り時々晴れ
過去天気図(気象庁) 2020年10月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
新岩間温泉の駐車場に駐車。
岩間温泉元湯(岩間休憩舎)への道は,法面工事が現在も継続中で,新岩間温泉から先には立ち入り禁止となっている(なお,現地の看板では,工事期間は「令和2年12月11日まで」となっていた。)。
コース状況/
危険箇所等
【ゾロ谷(中ノ川支流)】
※白山東面の大白川地獄谷のゾロ谷とは別ですのでご注意を。
・中ノ川へは,本来は岩間温泉元湯(岩間休憩舎)の先の岩間噴泉塔から入渓するのがスムーズなのだが,「アクセス」の欄に記載した通り道路が立ち入り禁止なので,ゾロ谷経由でアプローチした。
・ゾロ谷は基本的に平流部分が大半だが,楽々下降できるかというとそうでもなく,中間部で多段70mほどの斜滝が現れるうえ,下部は傾斜が強まり小滝が連続する(いずれも懸垂不要で,クライムダウン又は巻き下りでクリアできる)。また,源頭部も切り立った箇所が多いため,下降ルート注意。

【地獄尾根(仙人谷・地獄谷出合の尾根末端〜火の御子峰北峰と火の御子峰のコル)】
・火の御子峰北峰直下までは濃い藪が続く。特に1600mあたりで顕著な尾根に乗り上げてからはハイマツ・シャクナゲ・その他灌木の藪が強烈。それより下部は大きなブナ等が生えているせいか,意外に藪は薄く幾分まし。仙人谷・地獄谷出合からすぐに尾根に取りつくと比較的藪が薄い(地獄谷に入ったところの尾根はかなり藪が濃い。下山時に難渋した)。また,1600mあたりからの顕著な尾根に乗り上げる直前の等高線が詰まった箇所は崖のようになっており,登りは巻いたが,下りでは20mほどの懸垂下降となった。
・火の御子峰北峰直下からは一転して植生の全くないガレた稜線となる。火の御子峰北峰までは比較的容易に通過可能(一箇所,短いがナイフリッジ状になった部分があり,注意)。北峰から火の御子峰(本峰)との間のコルまでは急な下りで,最後の20mほどが切り立っているため,懸垂下降で降りたほうが良い(北峰の頂上に大岩があり,懸垂支点に使える。懸垂距離は60mほど)。コルから火の御子峰(本峰)までは,両側が切れ落ちた中,出だしから大きなピナクルが3つほど連続して稜線上を塞いでおり,通過リスクは高いと思われる。
快晴の楽々新道からアプローチ。笈ヶ岳や大笠山もよく見える。
2
快晴の楽々新道からアプローチ。笈ヶ岳や大笠山もよく見える。
小桜平。ところどころ紅葉。
3
小桜平。ところどころ紅葉。
見返坂を登りながら,中ノ川への下降路として選んだゾロ谷を見下ろし,下降ルートを探る。ゾロ谷は記録がほとんどなく,地形図からはそれほどの厳しさは感じないとはいえ,未知の谷の下降はやはり緊張する。
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見返坂を登りながら,中ノ川への下降路として選んだゾロ谷を見下ろし,下降ルートを探る。ゾロ谷は記録がほとんどなく,地形図からはそれほどの厳しさは感じないとはいえ,未知の谷の下降はやはり緊張する。
ゾロ谷の源頭部は結構切り立った箇所が多く,結局,見返坂の頭からゾロ谷に下降開始。急斜面が続く中,藪を掴みながら下降していく。
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ゾロ谷の源頭部は結構切り立った箇所が多く,結局,見返坂の頭からゾロ谷に下降開始。急斜面が続く中,藪を掴みながら下降していく。
やっと谷らしくなってきた。
やっと谷らしくなってきた。
ゾロ谷は,最初は大人しい谷で,これくらいの小滝しか出てこないため,このまま中ノ川まで降りられるかと思っていたが…
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ゾロ谷は,最初は大人しい谷で,これくらいの小滝しか出てこないため,このまま中ノ川まで降りられるかと思っていたが…
突如,目の前に大空間が広がり,谷いっぱいに大スラブが出現。谷水は斜滝となってスラブを流れ下っていく。
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突如,目の前に大空間が広がり,谷いっぱいに大スラブが出現。谷水は斜滝となってスラブを流れ下っていく。
スラブ自体の傾斜はそれほど強くないため,右岸側の草付き混じりのスラブを下降していく。1段目の滝を撮影。
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スラブ自体の傾斜はそれほど強くないため,右岸側の草付き混じりのスラブを下降していく。1段目の滝を撮影。
スラブはかなり長く続いており,70m近くはありそうだ。滝もまだまだ続く。逆光で写真がうまく撮れていないが…
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スラブはかなり長く続いており,70m近くはありそうだ。滝もまだまだ続く。逆光で写真がうまく撮れていないが…
70mスラブ滝を見上げたところ。いかんせん逆光…。
3
70mスラブ滝を見上げたところ。いかんせん逆光…。
大滝が終わった後も,谷底には美しいナメ滝が続く。
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大滝が終わった後も,谷底には美しいナメ滝が続く。
もうすぐ中ノ川に合流というところで,急に両岸が切り立ち,険悪な様相となってきた。ここまで降りてきて,通過不能な悪場だけは勘弁してほしい…。
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もうすぐ中ノ川に合流というところで,急に両岸が切り立ち,険悪な様相となってきた。ここまで降りてきて,通過不能な悪場だけは勘弁してほしい…。
と,周囲を岩壁に囲まれた弱点のない10mほどの滝。これは懸垂かな…と思ったが,一か八か右岸側から巻きを試みてみることに。
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と,周囲を岩壁に囲まれた弱点のない10mほどの滝。これは懸垂かな…と思ったが,一か八か右岸側から巻きを試みてみることに。
結果,あっけないほど簡単に巻けてしまった…。10m滝を下から見上げたところ。飛び出すような2条の滝となっており,なかなか面白い形。
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結果,あっけないほど簡単に巻けてしまった…。10m滝を下から見上げたところ。飛び出すような2条の滝となっており,なかなか面白い形。
その後は,かなり傾斜が強い中をひたすら小滝が続く。しんどいが,何とかクライムダウンで通過できる。
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その後は,かなり傾斜が強い中をひたすら小滝が続く。しんどいが,何とかクライムダウンで通過できる。
ついに中ノ川との出合に到着。
3
ついに中ノ川との出合に到着。
周囲は圧倒的な壁となっている。凄まじい光景だ。
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周囲は圧倒的な壁となっている。凄まじい光景だ。
谷の様子も異様で,岩盤が発達した廊下の中を,青白く濁った水が不気味に流れており,水が触れる箇所の岩は腐食したように赤くなっている。おそらく,水に酸化鉄が含まれているのだろう。
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谷の様子も異様で,岩盤が発達した廊下の中を,青白く濁った水が不気味に流れており,水が触れる箇所の岩は腐食したように赤くなっている。おそらく,水に酸化鉄が含まれているのだろう。
ひたすらガレた高い壁が続く。まさに地獄の入り口といった感じ。谷中は概ね河原が続き通過が容易なのは救いだが…。
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ひたすらガレた高い壁が続く。まさに地獄の入り口といった感じ。谷中は概ね河原が続き通過が容易なのは救いだが…。
こんな崩壊壁が随所に。
3
こんな崩壊壁が随所に。
仙人谷と地獄谷の出合に到着。右が地獄谷,左が仙人谷。正面の尾根が,明日取り付く地獄尾根だ。地獄尾根の末端は,上部の厳しい岩稜の片鱗もうかがえないほど,樹林に包まれた穏やかな尾根に見える。
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仙人谷と地獄谷の出合に到着。右が地獄谷,左が仙人谷。正面の尾根が,明日取り付く地獄尾根だ。地獄尾根の末端は,上部の厳しい岩稜の片鱗もうかがえないほど,樹林に包まれた穏やかな尾根に見える。
これは仙人谷と地獄谷の水がちょうどぶつかる箇所の写真だが,上の地獄谷の水は赤く,下の仙人谷の水は白くなっており,完全に2色に分かれた面白い光景である。地獄谷の水には酸化鉄が含まれ,仙人谷の水には温泉が含まれているようだ(実際,仙人谷のほうに入ると,明らかに硫黄臭がする)。
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これは仙人谷と地獄谷の水がちょうどぶつかる箇所の写真だが,上の地獄谷の水は赤く,下の仙人谷の水は白くなっており,完全に2色に分かれた面白い光景である。地獄谷の水には酸化鉄が含まれ,仙人谷の水には温泉が含まれているようだ(実際,仙人谷のほうに入ると,明らかに硫黄臭がする)。
今日はこの出合の河原でビバーク。地獄谷と地獄尾根の末端という,まさに地獄の入り口で一夜を過ごすのも乙なものだ。今日は雨の心配はなさそうなので,タープは張らずにゴロ寝することにした。
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今日はこの出合の河原でビバーク。地獄谷と地獄尾根の末端という,まさに地獄の入り口で一夜を過ごすのも乙なものだ。今日は雨の心配はなさそうなので,タープは張らずにゴロ寝することにした。
薪は豊富なうえに良く乾いており,すぐに大きな焚火となった。昨日がちょうど中秋の名月だったので,今日の月も素晴らしい。ウイスキーを飲みながらお月見し,シュラフに入ってからもお月見しながら,次第にまどろんでいった。
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薪は豊富なうえに良く乾いており,すぐに大きな焚火となった。昨日がちょうど中秋の名月だったので,今日の月も素晴らしい。ウイスキーを飲みながらお月見し,シュラフに入ってからもお月見しながら,次第にまどろんでいった。
2時に起床し,3時半にまだ明けやらぬ中をヘッデン頼りに地獄尾根に取りつく。出合からすぐの箇所から取りついたが,ブナの深い森が続く急斜面の下は意外に藪が薄く,助かった。
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2時に起床し,3時半にまだ明けやらぬ中をヘッデン頼りに地獄尾根に取りつく。出合からすぐの箇所から取りついたが,ブナの深い森が続く急斜面の下は意外に藪が薄く,助かった。
しかし,登るにつれて灌木が茂り出し,次第に藪漕ぎに苦労するようになった。
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しかし,登るにつれて灌木が茂り出し,次第に藪漕ぎに苦労するようになった。
月が向かいの稜線に沈もうとしている。夜明けが近い。
2
月が向かいの稜線に沈もうとしている。夜明けが近い。
藪漕ぎの途中で夜明けを迎えた。
2
藪漕ぎの途中で夜明けを迎えた。
1600mくらいから顕著な尾根となるが,その手前は崖のようになっており,左手から急斜面をモンキークライムして巻き越えた。
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1600mくらいから顕著な尾根となるが,その手前は崖のようになっており,左手から急斜面をモンキークライムして巻き越えた。
顕著な尾根に乗ってからは,ハイマツ,シャクナゲ,その他灌木が密集した猛烈な藪となる。10m進むだけでも気が遠くなるような時間と労力がかかる。まさに塗炭の苦しみ。
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顕著な尾根に乗ってからは,ハイマツ,シャクナゲ,その他灌木が密集した猛烈な藪となる。10m進むだけでも気が遠くなるような時間と労力がかかる。まさに塗炭の苦しみ。
紅葉がきれいだが,紅葉がきれいとか言ってる余裕はない。これを全部かき分けないといけないのだから…
7
紅葉がきれいだが,紅葉がきれいとか言ってる余裕はない。これを全部かき分けないといけないのだから…
と,藪の隙間から,ようやく目指す火の御子峰の北峰を捉えた。
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と,藪の隙間から,ようやく目指す火の御子峰の北峰を捉えた。
しかし,火の御子峰北峰が見えてからも,稜線上は深いハイマツ主体の藪が続く。心は逸るが,歩みは遅々として進まない。
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しかし,火の御子峰北峰が見えてからも,稜線上は深いハイマツ主体の藪が続く。心は逸るが,歩みは遅々として進まない。
右手は地獄谷の凄まじい眺め。
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右手は地獄谷の凄まじい眺め。
途中,ガレた斜面にシカの足跡を見つけてびっくりした(白山だから、カモシカかな?)。こんな行き止まりの地獄尾根まで,このシカさんは何をしに来たのだろう?
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途中,ガレた斜面にシカの足跡を見つけてびっくりした(白山だから、カモシカかな?)。こんな行き止まりの地獄尾根まで,このシカさんは何をしに来たのだろう?
火の御子峰北峰が少しずつ近づいてくる。
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火の御子峰北峰が少しずつ近づいてくる。
紅葉がきれいだが,紅葉はいいから,とりあえず通してほしい。
9
紅葉がきれいだが,紅葉はいいから,とりあえず通してほしい。
ついに藪を抜け,火の御子峰北峰へのラストラン。かなりガレているが,このあたりはまだ尾根が広く,通過に支障はない。
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ついに藪を抜け,火の御子峰北峰へのラストラン。かなりガレているが,このあたりはまだ尾根が広く,通過に支障はない。
地獄谷の凄まじい眺め。地獄尾根の斜面の岩稜が鋸歯を連ねて谷底へとなだれ落ちている。
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地獄谷の凄まじい眺め。地獄尾根の斜面の岩稜が鋸歯を連ねて谷底へとなだれ落ちている。
火の御子峰北峰までもうすぐ。
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火の御子峰北峰までもうすぐ。
と,山頂直前で,一箇所だけナイフリッジが出現。距離は短いが,風化してボロボロであり,通過はかなり緊張する。
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と,山頂直前で,一箇所だけナイフリッジが出現。距離は短いが,風化してボロボロであり,通過はかなり緊張する。
ナイフリッジを抜け,火の御子峰北峰に到着。地獄尾根の一峰に立った。わずかなハイマツのほかは,荒涼としたガレに覆われている。
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ナイフリッジを抜け,火の御子峰北峰に到着。地獄尾根の一峰に立った。わずかなハイマツのほかは,荒涼としたガレに覆われている。
南に続く地獄尾根の稜線。激しく燃え盛った姿勢のまま石化してしまった火焔のような厳しい岩稜が続いている。
8
南に続く地獄尾根の稜線。激しく燃え盛った姿勢のまま石化してしまった火焔のような厳しい岩稜が続いている。
火の御子峰もコルを一つ隔てた指呼の間にある。
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火の御子峰もコルを一つ隔てた指呼の間にある。
さて,北峰からの眺めを楽しんだ後は,当然,火の御子峰本峰への通過の可能性を探る。鍵は北峰からコルへの下降と考えているのだが…さあどうだ…。
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さて,北峰からの眺めを楽しんだ後は,当然,火の御子峰本峰への通過の可能性を探る。鍵は北峰からコルへの下降と考えているのだが…さあどうだ…。
うーん…行けそうだが,最後が切り立っているようなので,ロープを出すことにした。
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うーん…行けそうだが,最後が切り立っているようなので,ロープを出すことにした。
火の御子峰北峰の頂上には大岩があり,ここから懸垂支点を取ることができた。(コルまで下る稜線上はひたすらガレており,途中で支点を取るのは難しそう。)
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火の御子峰北峰の頂上には大岩があり,ここから懸垂支点を取ることができた。(コルまで下る稜線上はひたすらガレており,途中で支点を取るのは難しそう。)
最初の40mほどは歩いて下降できたが,最後の20mが切り立っており,予想通り懸垂下降となった(手持ちのロープはここで使い切った)。動かない岩は皆無なくらい酷くガレており,ロープが触れただけで落石が起こる。冷や冷やものの懸垂下降となった。
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最初の40mほどは歩いて下降できたが,最後の20mが切り立っており,予想通り懸垂下降となった(手持ちのロープはここで使い切った)。動かない岩は皆無なくらい酷くガレており,ロープが触れただけで落石が起こる。冷や冷やものの懸垂下降となった。
コルの底に降り切る直前で下降停止し,行く手を観察するが…,あー,こらあかんわ。コルから火の御子峰側に登り返す最初の20mほどが見るからに脆そうなナイフリッジとなっており,その上に大きなピナクルが連続して進路を扼している。少なくともロープの確保なしには前進は難しそうだ。
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コルの底に降り切る直前で下降停止し,行く手を観察するが…,あー,こらあかんわ。コルから火の御子峰側に登り返す最初の20mほどが見るからに脆そうなナイフリッジとなっており,その上に大きなピナクルが連続して進路を扼している。少なくともロープの確保なしには前進は難しそうだ。
残念だが,ここまでとしよう。
それにしても,すごい眺めだ…。ロープにぶら下がったまま,眼前に展開する壮絶な風景を呆けたように眺めていた。
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残念だが,ここまでとしよう。
それにしても,すごい眺めだ…。ロープにぶら下がったまま,眼前に展開する壮絶な風景を呆けたように眺めていた。
火の御子近影。天を舐める火焔の先端のような深紅の鋭鋒。一見力強そうに見えるこの火焔は,その実,非常に脆く,触れるだけでぼろぼろと崩れていく。この脆さが,地獄尾根の通過を困難なものにしている。
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火の御子近影。天を舐める火焔の先端のような深紅の鋭鋒。一見力強そうに見えるこの火焔は,その実,非常に脆く,触れるだけでぼろぼろと崩れていく。この脆さが,地獄尾根の通過を困難なものにしている。
コルから,地獄谷を見下ろす。斜面の脆さも相まって,一度滑り出したら止まらないだろう。
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コルから,地獄谷を見下ろす。斜面の脆さも相まって,一度滑り出したら止まらないだろう。
こちらは仙人谷側の斜面。
3
こちらは仙人谷側の斜面。
さあ,引き返そう。火の御子峰よ,また会う日まで。
8
さあ,引き返そう。火の御子峰よ,また会う日まで。
ガレガレの斜面を慎重に登り返す。下部の切り立った箇所はプルージックで確保しながら登り返したが,どんなに注意しても足場はどんどん崩れ,かなり苦労した。
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ガレガレの斜面を慎重に登り返す。下部の切り立った箇所はプルージックで確保しながら登り返したが,どんなに注意しても足場はどんどん崩れ,かなり苦労した。
地獄尾根を引き返していく。
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地獄尾根を引き返していく。
ナイフリッジ箇所の通過は,下り気味になる関係で,帰りのほうが怖かった…。
3
ナイフリッジ箇所の通過は,下り気味になる関係で,帰りのほうが怖かった…。
ハイマツの密林に再突入。もう当分ハイマツは見たくない,というくらいにハイマツを漕ぎ続けること幾星霜。
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ハイマツの密林に再突入。もう当分ハイマツは見たくない,というくらいにハイマツを漕ぎ続けること幾星霜。
尾根の下部は下部で,登りと違うルートを選んだらツル性植物が繁茂する最悪な領域に足を踏み入れてしまい,塗炭の苦しみを味わった。岩稜地獄だけでなくツル地獄まで用意してくれているとは、さすが地獄尾根。
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尾根の下部は下部で,登りと違うルートを選んだらツル性植物が繁茂する最悪な領域に足を踏み入れてしまい,塗炭の苦しみを味わった。岩稜地獄だけでなくツル地獄まで用意してくれているとは、さすが地獄尾根。
藪との格闘を終え,赤い水が流れる地獄谷に降り立つ。ゾロ谷を喘ぎ喘ぎ稜線まで上がり,往路を引き返して下山。
1
藪との格闘を終え,赤い水が流れる地獄谷に降り立つ。ゾロ谷を喘ぎ喘ぎ稜線まで上がり,往路を引き返して下山。
【おまけ1】今年1月に奥三方岳から間名古の頭に登った際に撮影した地獄尾根。真ん中が火の御子峰,右端が火の御子峰北峰。拡大すると,今回前進を阻まれたピナクルも写っている(冬季の写真しかなくてすみません…)
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【おまけ1】今年1月に奥三方岳から間名古の頭に登った際に撮影した地獄尾根。真ん中が火の御子峰,右端が火の御子峰北峰。拡大すると,今回前進を阻まれたピナクルも写っている(冬季の写真しかなくてすみません…)
【おまけ2】1日目の余った時間で,中ノ川本流(出合より下部)も少し覗いてきました。ビューティフル。いつか中ノ川も通しで遡行してみたいな(一応,百名谷だし…)。
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【おまけ2】1日目の余った時間で,中ノ川本流(出合より下部)も少し覗いてきました。ビューティフル。いつか中ノ川も通しで遡行してみたいな(一応,百名谷だし…)。

装備

備考 ・40mと20mのロープを各1携行。今回のルートで火の御子峰まで登るには,これではロープが不足(ロープがあったとしても,無事通過できるかは未知数ですが…)。
・中ノ川は温泉成分や鉄分が多く,水は濁り味もあまり良くない。気になる場合は,ゾロ谷などの支流で水を汲んだほうが良い。

感想

 地獄尾根は,中ノ川の仙人谷と地獄谷の中間尾根で,中宮道や楽々新道から,その燃え盛る火焔土器の縁のような凄まじい赤茶けた岩稜を眺めることができる。その荒涼とした稜線の核心部に鎮座するのは,火の御子峰(ca1980m峰)。言わずと知れた白山の難峰である。
 この地獄尾根については,YSHR氏・大魔人氏・なにわ氏パーティーの素晴らしい火の御子峰登頂記録など,(あくまで確認できる範囲でだが)いくつかの先人の記録があり,いずれも側壁ルンゼか稜線南側からのルートとなっている。ここで素朴な興味として湧いてくるのが,北側からのルートはどうなっているのだろう?ということだ。地獄尾根に北側から(つまり,仙人谷と地獄谷の出合付近の尾根末端から)取りついた場合,記録をほとんど見ない火の御子峰の北峰(ca1970m峰。正式な山名が不明のため,仮に「火の御子峰北峰」と呼ばせていただきます)の山頂を踏むことができるうえ,火の御子峰を新たな角度から間近に眺めることができる。航空写真を確認する限り,火の御子峰北峰の直下まで植生があるため,行程の90%に渡り激しい藪漕ぎが予想されるが,普段泥臭い山登りばかりしている自分にはぴったりのルートである。今回の山行は,この素朴な興味を実行に移したものだった。
 火の御子峰北峰までの行程は,予想通り混じりっけなしの100%藪漕ぎとなり,かなり消耗したが,火の御子峰北峰までは(一箇所ボロボロのナイフリッジがあることを除けば)比較的安全に到達できた。技術的に大きな困難なく地獄尾根の上に立つことができるという意味では,おすすめのルートかもしれない(長いアプローチと,往復8時間以上の激しい藪漕ぎに堪えられれば,ですが…)。火の御子峰北峰からは,地獄尾根の核心部を間近に眺めることができ,特に火の御子峰は小さなコルをひとつ挟んですぐそこで,地獄尾根の素晴らしい展望台である。残念ながら火の御子峰本峰にはナイフリッジに岩塔が連続する険悪なセクションに阻まれ登ることはできなかったが,あの地獄尾根の火焔の縁を少しばかりでも渡ることができたと思うだけでも,素晴らしい登山となった。
 地獄尾根も素晴らしかったが,中ノ川も一種独特な世界であった。巨人が岩盤を断ち割って作った廊下のようなどこまでも続く険悪な側壁と,硫黄の臭いが漂う濁った流れに赤く染められた不気味な谷底の風景などなど,日常からかけ離れた異様な光景が広がっていた。地獄尾根と合わせて,中ノ川の仙人谷や地獄谷もいつか歩き回ってみたい。白山の地獄が醸し出す妖しい魅力に(畏怖を抱きながらも)惹きつけられた2日間だった。

<追記(2021.9.7)>
 とある本を読んでいたら,偶然,火の御子峰の初登記録を見つけました。昭和7年8月10〜13日にかけて,金沢商業OBの丸岡誠幸氏が火の御子峰初登攀及び地獄谷上流部遡行。しかも単独とのこと。既に昭和初期にこの尾根に目を付け,登っている人がいたとは…。先人は偉大だ。

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コメント

お疲れ様でした。
YSHRです。今度は火の御子峰ですか、びっくりポンですね。それも北からのアプローチとは全く予想だにしませんでした。自分も地図を見てどうルートを開拓するか真剣に悩みました。それであのルンゼコースが最適だと思いましたが、最初の挑戦であと距離にして50mで敗退しましたからお気持ちよくわかります。
しかし絶対落としたいと二度目の挑戦と相成りました。仲間がいたからピクれましたが単独では絶対無理でした。単独挑戦はすごい価値があると思います。あのボロ壁の攻略は大変だと思います。日本の2000m以上峰をすべて登った方が日本最難関は火の御子峰で登る機会がなかったと雑誌で書いておられました。
2020/10/4 22:11
Re: お疲れ様でした。
 こんばんは!コメントをいただき,ありがとうございます。
 今回,地獄尾根に直に接してみて,弱点も少なく岩質も脆く,本当に難しい尾根だと思いました。そのわずかな弱点の中に弱点を見出され,挑戦の末に火の御子峰に登頂されたYSHRさん,大魔人さん,なにわさんの凄さを改めて思い知った次第です。
 火の御子峰まで行けなかったのは残念ですが,日ごろ地図を眺めて想像を膨らませていたルートの実現可能性を自分の脚で確かめに行くのは,やはり楽しいものですね。今の自分でどこまで行けてどこから行けないかはしっかり見てきたので,今のところは,北峰に登って地獄尾根の素晴らしい光景を見ることができたことで満足しておこうかなと思っております。そこから先に進むには,更なる研究・研鑽が必要そうです。
 地獄尾根も含めて,中ノ川の界隈は本当に日常からかけ離れた面白いエリアですね。仙人谷や地獄谷も面白そうですし,またこの界隈をいろいろ歩き回ってみたいと思っております。コメントをいただき,ありがとうございました。
2020/10/5 20:18
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