蔵王山〜御田の神湿原〜屏風岩〜股窪☆色とりどりの花咲く南蔵王を周回
- GPS
- 06:52
- 距離
- 21.8km
- 登り
- 1,109m
- 下り
- 1,133m
コースタイム
- 山行
- 6:16
- 休憩
- 0:36
- 合計
- 6:52
天候 | 曇り時々晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
特に問題なし 終始、良好に整備された一般登山道 |
写真
感想
久しぶりに東北を訪れる機会を得る。東北の山はほとんど訪れたことがなく、魅力的に思われる山が多いが、蔵王に向かうことにする。蔵王を訪れたのは五年前の積雪期、山形側から登り杉ヶ峰まで縦走したのだった。無雪期の山の姿をみてみたいということもあったが、特に杉ヶ峰と屏風岩との間にある芝草平と呼ばれる高層湿原を訪れてみたいと思っていた。南蔵王の縦走は刈田峠からピストン往復が一般的なようだが、刈田峠よりも手前の大黒天からの周回ルートを計画する。
早朝に東京発の始発の東北新幹線に乗り込み、郡山でやまびこ号に乗り換えると白石蔵王には8時過ぎに到着する。駅の観光案内所がレンタカーのデスクを兼ねていた。駅から正面に見える山は不忘山らしいが、山の上の方は霞んでいる。湿度が高いのだろう、
蔵王エコーラインと呼ばれる県道12号線を進み、一路、蔵王を目指す。滝見台展望台を過ぎると雲の中に入ってゆく。晴れていれば本来は展望が広がるのであろうが、周囲に見えるのは白い雲ばかりだ。大黒天の駐車場に到着すると、数台の車が停められてる。登山の準備をしていると緞帳を引き上げたかのように突如として雲が晴れ、目の前に荒々しいい火口原の光景が広がった。
刈田岳を目指して歩き始めるとすぐに森林限界を超えて灌木帯となる。足元には多くの花々が咲いており、ツマトリソウやイワカガミが目に付く。イワカガミは関西で見かけるものに比べて葉が小さいと思ったが、コイワカガミと呼ばれるものらしい。赤紫色のハクサンチドリも咲いているが、登るにつれてすぐに姿を消してしまい写真に収める機会を逸してしまった。
標高が上がるにつれ、背後には午後に向かう予定の杉ヶ峰が見えるが、その彼方にある屏風岩は雲に覆われているようだ。刈田岳に登ると避難小屋がある。積雪期はこの小屋のほとんどが雪に覆われていたかと思う。山頂からは右手の眼下に碧色の水を湛える火口湖、いわゆる「お釜」が目に入る。なだらかな山頂部には左手に刈田神社がある。刈田神社の手前には社務所があり、宮司さんがおられた。
刈田神社から緩やかに斜面を下る。鞍部の展望台には大勢の人がいる。刈田岳のレストハウスまで車で来ることが出来るので、ここから歩いて来られたのだろう。火口縁に沿って登山道が設けられているが、登山道を歩く人は少ないようだ。火口湖を眺めながら火口縁を北上する。火口縁に近づき過ぎないnように柵が設けられている、積雪期は柵は雪の下であった。火口湖には近づかないように注意書きがある。
刈田岳から眺めた時には正面に見える熊野岳は雲に覆われていたが、歩くうちにも雲が薄くなり、なだらかな山頂部が姿を現す。荒々しい岩壁の間の残雪が動物の斑点のような様相を見せている。
賽の河原のような荒涼とした火山性の光景を歩いて、熊野岳の山頂に向かう。登山道沿いには3m
ほどの丈の高い杭が連続して立ち並んでいるが、積雪期に登山道が示すためのものだ。積雪期にはこの杭のかなり上のあたりまで雪で埋まるのだろう。ホワイトアウト時にはこの杭がなければ大変なことになる可能性がある。
熊野岳の山頂からは北の地蔵岳までの尾根が見える。右手には雲の中から名号峰と思われる山が顔を出しているが、そこから先の北蔵王の山々は雲の中だ。熊野岳から平坦な尾根を歩いて石室の避難小屋に語ると再び荒涼とした火口縁に下降してゆく。
すぐ先を私とほぼ同じスピードで歩いている女性がおられる。女性が対抗する男性に道を聞かれて立ち止まられたので、女性に追いつくことになる。ご挨拶のついでにどちらまでとお伺いすると、お田の神湿原という湿原が本日の山行の目当てであることを教えていただく。山と高原地図にも国土地理院の地図にも湿原は記載されていないが、刈田峠に登るリフト乗り場の駐車場のすぐ近くにあるようだ。女性の話によると多くの高山植物が咲くようで、そろそろチングルマが咲き始める頃かと思うので確かめに来られたとのこと。
時間は十分にあると思われたので、刈田峠に向かう前に湿原に寄り道することにした。刈田峠のリフトの前の駐車場は非常に広く、綺麗なトイレも整備されていた。駐車場からわずかに下って蔵王エコーラインを横断すると途端に木道の敷かれた湿原に入ることができる。早速にもミツバオウレン、ヒナザクラ、チングルマの花が多く咲いている。
湿原にはわずかに人影を見かけるが別天地のように静謐で美しいところだ。ところどころに現れる小さな池塘が目を愉しませてくれる。背後では蔵王の熊野岳が描く緩やかな稜線が湿原の雰囲気のたおやかさを強調しているようだ。
湿原を先に歩いて行くと赤い屋根の小さな避難小屋が現れ、湿原の光景にメルヘン的な印象を与える。避難小屋を通り過ぎて、木道を先に向かうと行き止まりとなり、木陰に石の小さな祠がある。祀られているのはお田の神と呼ばれる山の神で、この湿原の名称の由来となったところらしい。気がつくとあたりには4m近くあると思われる細長い金属の棒が立っている。積雪期はこのあたりは一面の雪原になるので、この棒を目印に歩くことになるようだ。
再び避難小屋まで戻り、先に進むと再び蔵王エコーラインと合流する。道路の北側に駐車場に戻る道が続いているので、ここで女性とお別れして刈田峠に向かうことにする。景色を車が通る蔵王エコーラインのすぐ近くにこんな場所があるとは驚きだ。登山ガイドを精読するかこうして地元の方に教えて頂かなければ訪れる機会は得られなかっただろう。教えてくださった女性に深謝である。
ふと刈田岳の方向を見上げると立ち枯れの針葉樹が多く目立つ。駐車場からは刈田峠まで車道を歩いて1.5kmほどの距離だ。刈田峠が近づくにつれ、南に杉ヶ峰の展望が広がる。ここでも刈田峠から杉ヶ峰の北斜面にかけて多くの立ち枯れの樹が目立つ。前回に訪れた時にこんなに立ち枯れの樹を目にした覚えがない。
立ち枯れているのは見慣れない針葉樹だが、アオモリトドマツで、蔵王の冬の風物詩でもあるスノーモンスターはこの樹への霧氷によるものらしい。ここ数年の間に立ち枯れが深刻化していることをネットの記事で読んで、果たしてこの刈田峠のあたりの樹々がどうなっているか気になっていたところでもあった。立ち枯れの原因は主にはキクイムシによるものらしいが、その大量発生の発生の背景には最近の温暖化も要因の一つのようだ。
刈田峠から南蔵王の縦走路に入ると、多くの登山者とすれ違う。登山道の周囲では数多くのミツバオウレンやスミレの花が咲いている。小さな花をつけたマメザクラの花盛りだ。随所でムラサキヤシオが鮮やかな紅紫色の彩を添えている。すぐに避難小屋への分岐があるので、避難小屋に向かい、小屋の前の階段でおにぎりでランチをとる。ふと足元を見るとサンカヨウの花が数株咲いていた。
登山道に戻り、まずは前岳のピークを目指して尾根を緩やかに登ってゆく。すぐに樹林帯を抜け出し、灌木帯越しに随所に好展望が広がる。背後を振り返ると刈田岳の向こうでは熊野岳が再び雲に覆われていた。午前中とは逆にこの杉ヶ峰への稜線にはすっかり雲がなくっている。足元には相変わらずミツバオウレンの花が連綿と続いている。高度が上がると濃い紅色や薄紫色のショウジョウバカマが目立つようになった。
杉ヶ峰を越えると尾根が大きく広がり、緩やかに笹の繁茂する斜面を降ってゆく。正面には大きなドームのような屏風岩のなだらかなピークが広がっている。屏風岩というからにはどこかに大きな岩でもあるのかと思ったが、少なくとも岩山の雰囲気はない。
斜面の先に小さな湿原が現れる。芝草平の一角に到着したようだ。先に進むと屏風岩との鞍部に広い湿原が広がっているのが目に入る。湿原の方からは子供達の賑やかな声が聞こえてくる。まもなく小学生達のパーティーとすれ違う。平日なので学校の遠足なのだろうか。私が道を避けて
待っていると、先頭の教師と思われる若い男性が通りすがりに「すみません。20人ほどおりますので」と仰られる。
子供たちのパーティーが通り過ぎると途端にあたりは静寂に包まれる。湿原の左手に分岐する木道があるので、進んでみるといくつかの池塘の前に小さな展望台が設けられていた。豆大福とお茶でしばし休憩する。北西の方角にある湿原には数多くの池塘が目に入る。残念ながらそこまで辿り着くのは今の季節は四つ足動物の特権となっている。
再び登山道に戻ると若いカップルが寛いでおられた。「今から不忘山まで行くんですか?」と聞かれるので「屏風岩まで」とお答えする。先ほどから平日であるにも関わらず実に多くの登山者とすれ違うと思えば、今の時期は南屏風岩と不忘山との間にハクサンイチゲが数多く咲いており、この花を目当てに刈田峠から往復する登山者が多いらしい。
「刈田峠に多くの車が停まっているのを見かけませんでしか?」との疑問に私が「駐車場を通っていないので・・・」とお答えすると「どこから来たんですか?」と驚かれる。ここまでのコース取りを説明申し上げると刈田峠の駐車場を通過していないことを納得されたようだ。同時に私の言葉が東北のものと違うことにも気がつかれたようだ。大黒天までのコース取りに対しては「そのルートは滅多に人が歩かないと思いますので、道が荒れているかもしれません。それから熊さんにはくれぐれも気をつけて」とのご忠告を頂く。
屏風岩への登りは急登はないが、緩やかな登りが続く。振り返ると杉ヶ峰との間のなだらかな尾根の広範囲に芝草平の湿原地帯が広がっている。屏風岩の山頂にかけてはなだらかな尾根道が続く。ふと気がつくと登山道脇の笹から濃紫色の花穂が出ている。もうすぐ笹の花が咲くのだろう。笹は五〜六十年に一度、花を咲かせ、その後は一面に繁茂する笹が一気に枯れてしまうというが、このあたり一体の笹も寿命が近づいているのだろう。
東側には随所に展望が広がる筈だが、皮肉なことに山頂が近づくと雲の中に入ったのだろう。目に入るのは白いガスばかりとなった。屏風岩の山名が記された標柱は損壊が目立つ。熊の仕業であることは疑う余地がない。
登山道を引き返し、降りに入ったところでろうずめ平への道に入る。このあたりには雲はかかっておらず、登山道の左手には杉ヶ峰の彼方に熊野岳を眺めながら北側斜面をトラバースしてゆく。登山道はしっかりと刈払いされているようだ。足元にはチングルマの花も目立つ。
登山道が尾根の東側を下降するようになると正面には後烏帽子山のピラミダルな山容の山を望むようになる。後烏帽子山との間には広く平坦な鞍部が広がっている。ろうづめ平と呼ばれるところのようだ。足元にはオオバキスミレの花を見かけるようになったかと思うと、その群落が続くようになる。降るにつれて薄紫色の半透明の花弁を有する花が現れる。シラネアオイの花のようだ。次第にこの花の群落が随所に現れ、オオバキスミレの黄色と華やかなコントラストを呈する。いつしか雲の間から柔らかな日差しも差し込むようになり、シロネアオイの半透明の花弁からは宝石のような透過光が溢れる。ところどころにサンカヨウの群落も現れ、このルートは望外のなんとも贅沢なフラワーロードであった。
ろうづめ平からは後烏帽子岳まで往復するのに1時間はかからないだろうと思われるが、さすがに下山の時間が遅くなりそうなので断念することにする。ろうづめ平から股窪に向かって下降する道に入るとそれまで足元に見られた花は途端に姿を消してしまう。その代わりに紅紫色のムラサキヤシオが目立つようになる。
山と高原地図ではこのルート沿いにシロヤシオの文字が記載されているので、花の姿を求めながら歩くのだが一向に花は見当たらない。ca1400mを過ぎたあたりでようやく花株が現れたかと思うと、途端に見事な花付きシロヤシオが次々と現れる。登山道に落下している花がほとんどないので、まさに花盛りなのだろう。今年は鈴鹿を始めとして関西ではシロヤシオの当たり年との評判であったが、関西ではシロヤシオを見る機会を逸してしまい、高知でわずかにシロヤシオを眺めることが出来ただけであった。これほどまでに見事なシロヤシオの群生に蔵王でお目にかかることが出来るとは思いもよらなかった。シロヤシオの花ばかりに視線を奪われがちだが、気がつくと周囲の樹々は立派なブナの大樹が目立つ。
御田の神湿原に案内して下さった女性が後烏帽子山への登山道にはシロヤシオの名所があると仰っておられたが、まさにこのポイントのようだ。どこまでも続かのように思われたシロヤシオのトンネルはその始まりと同様に唐突に終わることになる。同時にブナも見かけなくなる。その後は再び樹林の中でムラサキヤシオがフワラーロードの余韻を愉しませてくれる。足元には相変わらずミツバオウレンやマイヅルソウが続く。
股窪と呼ばれる四ツ辻は大黒天に向かって直進すると、思いがけないサプライズが待っていた。すぐに道の左手に小さな湿原と池塘が現れる。湿原の奥にはもう一つ大きな池塘が見える。傾いてゆく午後の日差しが池塘に黄金色の反射を落としていた。湿原の中に足を踏み入れて池塘の畔に辿り着きたい誘惑としばしの間、葛藤することになったが、四つ足動物の特権を侵すことは断念する。木道でも整備して欲しいところであった。登山道を進むと濃密な笹藪の中には池に向かっていくつかの獣道が伸びている。この知られざる池は動物達のオアシスとなっているのだろう。
聖山平に向かう樹林は先ほどまで見られていた花々は姿を消すが、トドマツやダケカンバの大樹の林相が飽きを感じさせない。澄川の上流を渡渉して、マイヅルソウが群生する尾根をしばらく進むと忽然と道幅の広い未舗装の林道に出る。聖山平と呼ばれる高貴な名称の割には道標も何もない殺風景なところだった。最後は蔵王観光道路の名称を有する林道を歩いて大黒天の駐車場に戻る。駐車場に残っている車は私が借りたレンタカーのみだった。
先ほどまで柔らかい黄金色の淡い日差しを落としていた雲はすっかり暗雲となり、杉ヶ峰を呑み込もうとしていた。白石蔵王の駅に戻り、仙台に向かう新幹線の時間を確認すると、なんと1時間にほぼ一本の割合であり、まもなく仙台行きのやまびこ号が入線するタイミングであった。ホームに上がりギリギリ発車時刻に間に合うことが出来る。おかげで仙台での会食の時間に間に合うことが出来るのだった💦。
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