下ノ廊下(黒部ダム→欅平)
- GPS
- 25:58
- 距離
- 25.3km
- 登り
- 2,547m
- 下り
- 3,384m
コースタイム
- 山行
- 6:09
- 休憩
- 0:24
- 合計
- 6:33
天候 | 晴れ時々雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
2023/9/16時点で開通済。万事よく整備が行き届いていた。 ルート状況は阿曽原温泉小屋のホームページ等でその年に応じた情報を確認してから入山する事。 |
その他周辺情報 | 【前泊地(松本駅前)】 Hotel M Matsumoto 【下山後】寿司 きときと黒部店 |
写真
装備
個人装備 |
ハーネス<br />PAS(自己確保用)<br />ヘルメット<br />※その他は一般道の縦走装備と変わらず
|
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共同装備 |
テント2-3人用
|
感想
あれはいつの事か、もう5年以上前だと思うが山岳会の仲間と下ノ廊下の計画を立てた事があった。その際の計画は天候で流れ…もはやそう行く機会も無いと思っていた。
下ノ廊下は立山黒部の深部に位置しており、黒部ダムと日本海側の黒部渓谷の入口までを真っすぐ上下に繋ぐルートである。黒部ダム開発の為に旧日電が国策で開拓を進め、発電所の完成までには7年の歳月と延べ1千万人の人手、171名の殉職者が出たという。そんなルート、日本全国見回してもあろうはずがない。吉村昭の「高熱隧道」を読んで以来いつかは行ってみたいと思い続けて幾年月、しかし下ノ廊下が年に通行可能なのは1ヶ月ほどで、年によってはそもそも開通しない事すらある。計画は宿泊前提で立てる必要がある上、南北を縦断する以上公共交通機関でしかアプローチ出来ず、さらにエスケープの無いこのルートは天候不良にも弱い。なんとも制約が多いのも特徴である。
今回、山岳会の元先輩のゆーまさんからどこか歩く山へ行こうとの提案があり、たまたま時期に恵まれ、今回の機会に至った。やりたい事を温め続ける事もまた大切と感じた次第である。
急峻さで日本一と言われるその渓谷の底を進めば、圧倒的な黒部の山々や渓谷美を堪能出来そうなのは行く前から想像に難くない。なんとも魅力的だ。気を付けなければいけないのは、「黒部に怪我無し」の言葉にある通り、極めて事故の多い場所であるという事である。下山した後に調べたところ年間1800人程がこの下ノ廊下を訪れ、年5人程度の死亡事故が発生する(つまり360人に1人亡くなっている、死亡率0.3パーセント!?)という…。互いに所帯を持つ身としては、緊張感を持って黒部渓谷に挑む事となった。
■9/15(金)
新宿バスタから夜半に高速バスに掛け込み、一路松本へ。本当は朝着の扇沢までの直行便を予約したかったのだが、生憎と予約は満席。23時過ぎに松本駅着の便に切り替えて、始発で黒部ダムに乗り継ぐ作戦とする。松本駅ではカプセルホテルに宿泊とし、一風呂浴びて快適に5時間程寝る事が出来た。感想に個人差があると思うが、自分は高速バスの朝着でそのまま歩くより体力的に楽で良かったと思う。立地が最高なので機会があればまた使いたい。
■9/16(土)
松本⇒信濃大町⇒扇沢⇒黒部ダムまで乗継ぎ、黒部ダムの歩き出しは8:00過ぎとなった。直行便よりもどうしてもスタートが遅くなる為、これだと黒部ダムから阿曽原温泉小屋まで休憩無しでコースタイム0.8掛けペースでようやく15:00過ぎ着の計算となる。かなり攻めの計画になるが、我々ならきっとなんとかなる、はずという算段。
時間があれば黒部ダムを上から覗いてみたかったが残念ながら急ぎの道中の為、真っすぐにダム下へ。代わりに黒部ダムの放水の様子を下からよく見る事が出来た。随分遠いにも関わらず、放水の飛沫が登山道まで届きマイナスイオンが感じられる。気持ちがいい歩き出しだった。
やはりこの時期でも立山は涼しい・・・と思っていたらそれはどうやら水飛沫のおかげだったらしく、歩き出して30分もしない内に汗が噴き出して来た。意外にも下ノ廊下の標高は終始1000m前後程度である。下界が30℃強の状況では日差しがあれば暑いのは自明だった。例年であれば多少は登山道にも雪渓が残っているそうだが、結局最後まで登山道で雪に触れる機会は無かった。とにかく今年は暑すぎる。
スタートは下ノ廊下名物のいわゆる水平歩道的な岩を繰り抜いたような巻き道は少ない。単純に美しい渓谷美を眺めながら川底に近い位置を歩いて行った。
大ヘツリに近付いて徐々に様相が変わって来る。いわゆる山の形に合わせた巻道ではなく、最短ルートを水平に削ってガンガン道が拓かれている。果たしてそれが延々と続いているのである。やはり普通の登山道とは一線を画している。山の元の成り立ちなどお構いなしに、とにかく無遠慮にガリガリと道を掘り突き進んでいる。自然景観の維持やアルピニズムを一笑に付しながら、ただただ一直線にダム開発地を目指しているのである。なるほど、これは山ヤの仕事じゃなく、電気ヤの仕事、作業道だと理解出来る。ただし、その仕事量とロケーションが半端ではない。延々と落ちれば奈落の場所に続く岩の道。一体どれだけの・・・当時作業に当たった方の気持ちを思いながら、快適に歩かせていただいた。
付け加えて、毎年の整備が半端じゃない。岩の道の危険箇所について、ほぼ全てにワイヤーや足場が整備されている。またこれが25kmも続くこのコース中全てにしっかり行き届いているのである。ある意味では下手な朽ちた初中級の登山道よりは危険が少ないと思うくらいである。対して、ほぼ全ての場所が「滑落=死亡事故」に直結する為、山に不慣れな人は来るべきでないのはヒシヒシと感じるのである。つくづく特殊な場所だと思う。
そんなこんなで十字峡を越え、仙人ダムへ。前半より後半の方がタイム的にはペースアップしており、我々の中ではようやく山慣れて来て加速して来ている説が浮上する程である。つまりあと3日も続ければコースタイム0.3掛けで歩くのも夢ではないはずだ!
この日の最後のハイライトとしては、関電宿舎の中を通ったところだろう。10分程だが、施設内を歩いて高熱隧道の地熱を体感する事が出来る。冗談じゃなくサウナくらい暑い箇所があり、これもまた、かの本の読者としては興奮するポイントである。さらに作業用の登山鉄道も拝む事が出来る。これにも私はいちいち興奮する。とはいえ地熱体験くらいに留めておいて、実際に冷水を掛けられながらも暴発に怯えつつ発破を掛けたり、ホウ雪崩の恐怖に怯えるのは御免被りたいところだが。
とかなんとか言っている間に14:50頃に小屋に到着。最後の1時間は小雨に降られながらの到着となった。歩き出しから約6時間半。上出来では無いだろうか。
最後に雨の中テントを設営。浸水と戦いながらなんとか上手く調整し、ようやく落ち着く事が出来た。水漏れの犠牲はゆーまさんのシャツ一枚で済んだ(おかげさまです!)。一日の疲れをビールで癒し、さらに温泉に浸かる。素晴らしい。
■9/17(日)
4:30に起床し、5:30に撤収完了。テキパキ撤収したら予定より30分早く出る事が出来た。2日目は初日より歩く距離は短いが、見所はまだまだある。大太鼓の壁に、志合谷トンネルで真っ暗な中で足を濡らしながらの歩き、奥鐘山西壁「黒部の怪人」見学。そして流石に食傷気味だが相変わらず続く水平歩道(飽きるくらい続くのがそもそも凄い・・・)。
なんやかんやと10:20分頃、欅平駅に無事到着。
そこで終わりでないのが下ノ廊下。オープン席のトロッコ列車で宇奈月温泉駅まで1時間20分、今度は車窓から渓谷美を堪能出来るのである。観光でこれだけ目当てにしても面白いくらいだろう。下山後はきときと寿司に直行し、寿司と日本酒で仕上げて新幹線で帰宅で言う事なし!
なんやかんやと満喫の2日間。歳と共に変わる時間の使い方、趣味嗜好、山との向き合い方。色々話した気がするけども、やっぱり山っていいよなぁ。また色々行きたいなぁと思ったり。とりあえずアンチエイジングにもう少し走っとくかな〜。
得難い時間でした、ゆーまさん、ありがとうございました!またお願いします!
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