【滑落事故】乗鞍岳、快晴の登頂から一転……
- GPS
- 10:41
- 距離
- 13.4km
- 登り
- 1,458m
- 下り
- 1,045m
コースタイム
- 山行
- 11:31
- 休憩
- 0:26
- 合計
- 11:57
天候 | 快晴 |
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過去天気図(気象庁) | 2023年12月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
位ヶ原あたりは雪崩そうな感じではなかった。 肩の小屋が見えてくると強風が吹きつけ氷が露出するところも増える。 肩の小屋から先はところところツルッツルの氷斜面で、危ないなとは思っていたがアイゼンは刺さるので油断していた…… スキー場トップまではツボ足、肩の小屋まではスノーシュー、山頂まではアイゼン。 |
写真
感想
快晴を確信したので仕事納め後にどこか少し遠出して雪山に登るかというので選んだのが乗鞍岳。前回の空木岳の反省を生かして?しっかり仮眠もとって午前6時、意気揚々とスキー場を出発。ゲレンデを登りスキー場トップからスノーシューを装着し歩く。速い先行者がおり、ありがたくトレース泥棒させてもらいながら進んでいく。位ヶ原分岐あたりの急登を越えるといよいよ白銀の台地が肩の小屋まで広がっており、乗鞍・高天原・摩利支天などが雲一つない青空に浮かんでいた。
この区間の時点で強風が吹き付けておりところどころ斜面は氷になっていた。しかし肩の小屋まではスノーシューで危なげなく進めた。肩の小屋でスノーシューとストックをアイゼンとピッケルに換装して大休止。
ピークへの道はまずは朝日岳の登りから始まる。とりあえず朝日岳を左手から回り込むように進んでいく。朝日岳をトラバースする形で蚕玉岳の間の鞍部に至る。さすがに風が強いので雪は飛ばされ部分的にツルツルの氷の斜面となっている。蹴り込まないといけないような程度ではなくアイゼンはしっかり刺さるものの、斜面を見下ろしながら「ここの斜面は落ちたら岩が点在しているし痛そうやな、あっちは岩がないから止まらなさそうだな(他人事)」などと考えていたような記憶がある。鞍部まで至るともう乗鞍山頂は手を伸ばせば届きそうな距離、強風に吹かれつつ神社の鳥居をくぐり12時頃、山頂に到達した。山頂からは360度の大展望が広がっており、1年前に焼岳に登ったときにはまるで見えなかった景色を見ることができた。
山頂を出発し大展望を見下ろしながら歩いて行く。サクサクと鞍部まで戻ってきた。
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件のトラバースに入る。むろん慎重に進んでいくが、アイゼンはしっかり刺さるので一定のリズムで足を前に進めていく。下に岩が点在しているエリアのほぼ終盤くらい(つまり、一番危険なトラバース地帯はほぼ終わりの地点)でたしか左足を踏み出そうとしたときにその瞬間は急に訪れた。気づいた時にはすでに自分の体は斜面を滑り始めていた。とっさにピッケルを斜面に突き立てるが、いかんせんツルツルの氷なのであまり刺さらない。それでも少し減速した?ころで露岩に衝突してしまい空中に跳ね上げられ、それ以降は実質有効な手段を講じることができなかった。ピッケルもいつの間にかどこかに吹っ飛ばされてしまっていた。幸運なことに二度目の露岩との衝突後に着地したところがわずかに吹きだまりのようになっており、そこでなんとか止まった。落ちている途中の光景は思ったよりもはっきり見えており、どうにかならないかと結構冷静に分析していたような記憶がある。とはいえ、もう自力で制御できるレベルの滑落でないことははっきりわかっていた。
止まったところでとりあえず状態を確認する。見たところ明らかな外傷とか大出血はしていないようだ。装備はピッケルを喪失したが、アイゼンは右足が外れかかっているものの両側残っていた。「生きてる……」と思わず声に出た。
とりあえずアイゼンをはめ直す。ひとまずは安全圏に脱出しなければならない。立ち上がると左足首の軽い捻挫はありそうだが、歩くことはできそうだ。右の肋骨か六軟骨の痛みがあるのでおそらくその骨折のようなものはあるだろう。上を見ると複数人が心配そうに見下ろしている。とりあえず○サインを作って肩の小屋に向かいますと手でサインを作る。この区間も部分的にツルツルの氷で、一度アイゼンが緩んでしまって非常に肝を冷やしたがなんとか締め直すことに成功し、かろうじて安全圏への脱出に成功した。
肩の小屋にたどり着き、ザックを下ろす。とりあえずデポしていたスノーシューとストックを回収。ザックを下ろすだけで右脇腹にかなりの痛みが走る。あと、打撲だけだろうが右大腿もなかなか痛い。とりあえず靴紐とアイゼンを締め直す。ウェア(パンツ)はズダボロなのだが、脱ぐ余裕もないのでとりあえずそのままで。
ここから先は凍った急斜面はないだろうから、歩き続ける分には降りられることは降りられるだろう。時刻も13時20分ころで、日没は18時頃のはずだから最悪その時間までにスキー場トップまで降りておけばなんとかなるだろうというもくろみで歩き出す。普段の雪山は跳ねるように降りていけるものだが、今日は遅々として進まない。位ヶ原分岐を過ぎたあとのスキー場コースに入るとそれは顕著で、傾斜が急なところは10歩と連続して歩けない。あと万一滑って転ぼうもんならもはや立ち上がる気力さえ湧かないかもしれない。こりゃ一度止まったらもう終わりだなという感じなので、座り休憩も取らずのそのそと歩き続けた。数多のスキーヤー、ボーダー、下山者に追い抜かれるが結局のところ自分の足で降りるしかないと思っていたので一人で歩き続ける(まあ、自分のペースだといつ降りられるかもわからないしな……)。Co2100くらい、スキー場トップ直前の急傾斜地帯が最後の難所だった。元気ならシリセードで降りるくらいのところなのだが、今シリセードするのは自殺行為なので歩いて降りるしかない。脇の灌木につかまりながら、おそらく上りに要した時間の倍くらいかけて降りた。ここでシリセードの誘惑に打ち勝ったあたり最後の理性は残っていたんだな。スキー場に帰ってくるとあとはふかふかの新雪が足を受け止めてくれるので降りるのは大分楽になった。しかしスキー場まで帰ってこれば、と思っていたがよく考えると営業していないスキー場で誰の助けも期待できるもんではなく、おまけにいよいよ夜のとばりが降りてきており、これは一度止まってヘッデンを出さないといけないか……と思っていた。
ここでゲレンデ左手のほうから降りてきていた単独の男性が、この暗さでヘッデンも出さずにゆっくり歩いている自分に気づいて心配して声をかけてくださった。滑落して怪我はしたがなんとか歩けるのでゆっくり降りている、と話すとなんと、そこから駐車場までヘッデンで先を照らしつつ同行してくださった。同じ大阪から来たというその男性に励まされながら、18時、駐車場のもとへ生還した。拷問のような5時間余りだった。その男性に荷物を車に入れたりするのやアイゼンの取り外しまで手伝っていただき、しまいには余っていたというおにぎりまで分けていただいた。もう、本当に適切な感謝の言葉が思いつかない。何もお返しできないのが歯がゆいくらいだった。
車に乗り込むと緊張の糸が切れたのか、いろんなところの痛みがどっと出てきた。途中立ち寄ったSAでは車からトイレまでの移動がかなり苦痛なレベルだった。よくほぼ山頂から歩いて下山できたな……
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翌日、自分の勤務する病院に患者として受診(年末の爆混みの時期にすいません……)。
・頭部CT→右側頭部に裂創と皮下血腫も頭蓋内出血や側頭骨骨折は明らかなものなし
・Xp→肋骨自体の骨折はなし。肋軟骨は評価不能。右第3指DIP関節骨折。
・右膝に真皮に達する裂創→縫合処置
・その他、左足関節、両膝関節、両肘関節、右大腿、右MP関節、鼻骨、骨盤などに打撲や捻挫多数。
といった感じで、まあ要するに軽傷である。70mで滑落が止まったのも奇跡だし、行動不能/致命傷レベルの怪我(大腿骨骨折や足関節骨折、脊椎損傷、腹腔内出血など)をしなかったのも奇跡、アイゼンを喪失しなかったのも奇跡。最初に多少でもピッケルで制動できたのがよかったのだろうか。一つでも欠けていれば自力で帰ることができる状況にはなかったかもしれない。
滑落の原因を考えてみたが、左足を踏み出そうとしたとき(=右足だけで立っているとき)に落ちた、左足のアイゼンはついていたが右足は外れかかっていたことを考えると右足のアイゼンが緩んでいたのだろうか。そこに危険トラバース地帯がじき終わりという気の緩み?早く危険地帯を抜けたいという気持ち?も合わさってこうなったのだろうか。今となっては推測にすぎないが……
日記にも書いたとおり、本当は山行ごとなかったことにしたかったのだが、どうやら翌日にも同じ箇所で200mくらい滑落された方がいたそうで、注意喚起……という偉そうなことを言える立場には全くないが、情報共有としてこの無様な記録を残しておく。万全を期すなら朝日岳はトラバースではなくめんどうだがピークを通った方が安全かもしれん。
本当に油断が命取りになるのは一瞬だった。改めて思い知った……
☆冬の乗鞍岳、天気に恵まれ最高のピークでしたが、最悪の山納めとなってしまいました。ひとまず今シーズンは大人しくしておきます。皆さんもくれぐれも、安全にはお気をつけください(というか、元旦の当直業務、大丈夫かな……)
また、日記に続き、レコでの当日のご説明、ありがとうございました。前日に滑落日記を拝見させていただき、昨日は滑落リスク回避として、尾根沿いに剣ヶ峰へと計画していたところ、同じ箇所での滑落事故を見てしまいました。この箇所は、凍結が顕著な日は特に要注意として周知すべき箇所だと思います。
また、完治して登山をされることをお祈りしております。
明日はご当直のようですが、頑張って下さい。
それでは、良いお年をm(_ _)m。
位ヶ原の雪崩ばかりがピックアップされがちですが、こちらも気を付けないといけないこと、身をもって示してしまいましたね。
遅くなりましたがよいお年をお迎えください。
それでは当直明けなので寝ます。
お互い、命あって何よりでしたね。
私も元医療従事者として
年末年始の多忙時に
多大なご迷惑をかけてしまい
申し訳無さでいっぱいです…
早く治癒されますように
自分自身も願ってます。
ご無事に下山されたようでなによりです。
入院までされたんですか、大変でしたね……
幸いだいぶん動きやすくはなってきましたが、走ったりできるのはまだ先になりそうです。
どうぞご自愛ください。
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