11歳児とゆく儀式と激登りの七面山【山梨百名山・日本二百名山】


- GPS
- 09:34
- 距離
- 14.3km
- 登り
- 1,756m
- 下り
- 1,759m
コースタイム
- 山行
- 3:28
- 休憩
- 1:12
- 合計
- 4:40
天候 | 1日目:晴れ 2日目:曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
敬慎院まで:敬慎院をはじめ各坊の方々が常にきれいにしている。ヒルが出ないように、とのこと 敬慎院~七面山山頂:二百名山らしいきれいな道 七面山山頂~希望峰:ややトレースが薄いがしっかりとした道 登山道~七面山最高点:バリルートっぽい |
その他周辺情報 | 敬慎院 一泊二食風呂と祈祷つき、これで6500円は破格 ヴィラ雨畑 めちゃくちゃ快適な温泉、日帰りもちろん可 レストラン早川舎 地元の食材を豊富に使った、ひと手間かけたボリュームあるご飯がいただける |
写真
感想
5歳から山登りを始めた息子も、はや小6。
小学生として最高学年ともなると、思ったより忙しい。山登りに充てられる時間はかなり限られてきた。でも、だからこそ、まとまった時間にはチャレンジをしたい。残り8つとなった山梨百名山、ひとつでもクリアしたい。
月曜日が臨時休校となる、ということで、日曜から泊まりがけで七面山に行くことにした。日曜日に本来やるべきだったさまざまなタスクをほったらかして山に行くのは心配でもあったが、この連休をおいて他に泊まりがけができる日は今年はもうほとんどない。下山後早めに帰宅することにして、早川町に向かった。
朝7時半に出発、ナビに赤沢宿経由(山道)で案内されるプチアクシデントもあったけれど10時に登山口到着。
さて、登り始めようか……と思っていたら、響き渡る「南無妙法蓮華経」のマイクを通した大きな声。どうやら信者さんの団体がちょうどおりてきたところらしい。そのお題目があまりにリズミカルなので息子が真似し始める。信徒でもないのにあれだな、と思うけどまあ、なんというか、コスプレ感があってそれはそれでいい。
団体さんを避けて、登山口ではなく駐車スペースのほうから登り始める。すぐに小さな鳥居が登場、んーここは寺だが? その不思議な感じもこの七面山かもしれない。
ほどなく最初の坊、神力坊に到着(やはり「神」……)そして団体さんが休んでいて人であふれている。宗教の方々ゆえとても礼義正しく道をあけてくれたけど、物理的にスペースが足りない。まあまだ序の口、休むのは次の坊にしよう。
登山道は予想したとおり、整備のゆきとどいた昔の峠道のような山道。信者の方々が寄付をして作られたと思われるベンチがいたるところにあり、日蓮上人のお言葉などが書いてある。息子とふむふむ読みながら進む。ご年配の方が登られているのを追い越す。
5月だけれど、というか5月だからか、かなり暑い。息子さんは暑いと動きがかなり鈍るので、暑さ対策をいろいろ持ってきた。ハンディ扇風機、冷感スプレー、冷感汗拭きシート。汗拭きシートのみ干からびていて使用不可だったが、なんとか暑さをやりすごしながら進む。
肝心坊に到着。なかなか立派な坊、こんな山の途中の狭い場所にこれを建てたのはなかなかすごい。ジュースやおだんごなどを売っているようだけど、ここから先にいくつか坊もあるしまだ何か買わなくてもいいな、と思って休憩だけで通過する。さきほど追い越した方が熱心にお経をあげていらっしゃる。あれ?この方、やけに速くないか?
ベンチの語録を読みながらたんたんと登る。「穢土と浄土を分けてるのは他でもない自分の心だよ」って上人の言葉がなかなかいいね、なんて言いながら登っていく。
ちょうど12時ごろ、中適坊に到着。息子にお昼にするかと聞くと「まだいいんじゃない?」 12時だよ、と言うと「あっそれなら食べる」と。売店でだんごなんかが買えるかなと思っていたけれど、「わらび餅」の看板はあるものの何か売る人の姿はなし。
コンビニおにぎりとパン、持ってくる食べ物にできるかぎりなまぐさ物の入らないように徹底的に気をつけた。ここはお寺の領域なのである。
登山道も様子に変化はほとんどない。たんたんと登り続けて、屋根つきベンチに書かれたお言葉を読むなどしながら登る。見晴らしのいいところにベンチがあったので見渡す、富士山の姿はそこにはなかった。ちょっと雲だからね、なんていいながら進む。
晴雲坊に到着。ここには何十年前も前から動いていないと思われる自動販売機があるのみで、人の姿は(外からは)見えない。奥にトイレがあるようだ。少しだけ休む。
道が折り返すところに、ここで掘り出されたのだ、という三十九丁目の石柱。元文三年(1738年)のものだということで、徳川吉宗公が享保の改革やってるときだねえ、と息子と面白がる。江戸は神田三川町の五郎左衛門さんと長右衛門さんが建てたものだそうな。息子としばらく「ちょっと待っておくれよ弥次さんよォ、そんなに速く登られちゃ足が棒になっちまうってんだ」なんて東海道膝栗毛ごっこをしながら進む。
敬神院の荷上げ用ロープウェーを横目に登っていくと、頭上に見事なツツジが。なんだか歓迎されているみたいで気持ちがいい。木の間から富士山の頭が顔をのぞかせている、ということはさっきの展望台から富士山が見えなかったのは雲じゃなく邦楽のせいだったか。
そして突然登場する、荘厳な山門。これだけ山を登ってきて、この山門に出迎えてもらえたことに震えるほどの感動を覚えた。そして続く灯篭と階段、空中のお寺のようだ。息子も相当テンションが上がっている。
階段を抜けると、御手水と鐘。少し下ると平らな場所、ここにいろいろな建物があって奥に本堂と宿泊所があった。よし、一日目はこれにてゴール! ガラガラと引き戸を開けて入る。
受付を済ませて、部屋に案内していただく。かなり広い部屋に、ロール布団が2面敷かれている。まずはお風呂どうぞ、と言っていただいたのでお風呂に入る。なんといってもこの敬慎院、一泊二食でお風呂つきなのだ。これはありがたい。
お風呂に入ると、ご兄弟で登られたおふたりがいらした。名古屋から、家に伝わる天狗像の謎を探りにいらしたのだという。おつかれさまです! 今日はこの方々といっしょのお部屋なのね。
17:00の夕食まで時間があるので、展望台へ。富士山がドーン!! ここには重厚で見事な随身門があり、その門を通して見る富士山がまた素晴らしい。歴史ある宗教の凄みを感じる。と、ここで肝心坊あたりまで何度かお会いした方とまたお会いする。この方もお泊まりになるようだ。
建物のほうに戻り、渡り廊下の下をくぐって池へ。ここには龍神様がお住まいだという。こんな高い山の上に公園のような池があるのがまた趣深い。息子はシカを追いかけている。
部屋に戻ると名古屋のご兄弟、展望台でお会いしたご年配の方と同室であることがわかった。お三方とも日蓮宗の信徒さん、特にご年配の方は信仰心もあって何度もここに登られているのだという。なるほど、速いはずである。
夕食は期待どおりの精進料理。ひとつひとつの味が濃いのでご飯が進む。味噌汁が桶で出てくるのが面白い。息子はお三方に「ねこまんま」を教えてもらい、味噌汁を米にかけて食べながら何度もおかわり。結果おひつをカラにしていた。
何より面白いのは、この夕飯には「御神酒」が出てくること。お寺なのに「神」なこと、そしてそもそもお寺なのにお酒があること。
夕食が済んだら、お待ちかねの「お勤め」……の前に、ご開帳。本堂の一段奥に案内されて、ご本尊のご開帳に立ち会う。お坊様が火打ち石で何度も火花を散らしながら、ご本尊の御簾を上げる。ここ敬慎院のご本尊は、七面大明神さま。ああなるほど、だから御神酒なのね。七面大明神さまに我々宿泊者の名前を伝えて、ご開帳完了。
続いて「お勤め」の本番。とはいえ、基本的にはお坊さんたちがお経をあげるのを聞いているだけ。お経のガイドブックが置いてあり、日本語パート・漢語(を日本語発音する)パート・サンスクリット語パートに分かれていることがよくわかって面白い。リズムを刻む打楽器(?)がかなり心地よい。時折挟まれる「南無妙法蓮華経」は一緒に唱える。なかなかない経験である。
お勤めのあと、敬神院のお宝を見せていただく。なんといっても一番は、「お万の方の手鏡」。徳川家康公の奥様にして、徳川頼宣(紀伊)・徳川頼房(水戸)の母君(つまり吉宗公や光圀公のご先祖様)。生家が日蓮宗だったことから日蓮宗への帰依が深く、女性として初めて七面山に登ったと伝わる。そんな方の手鏡。
そして七面大明神さま、が竜神でいらしたころの爪。なんとなくかわいい。日蓮上人の直弟子にして七面山の開祖・日朗上人が懐に入れていたミニ仏様。仏舎利(仏陀の骨)もあったけれど、これはさすがに案内してくれたお坊さんも「と、伝わってますw」的なノリではあった。どれも、ここに登らなければ拝むことのできないお宝である。
お守りを買い求めたあと、部屋に戻ってみんなで就寝。長いロール布団だが、この日は総勢5名だったのでそれぞれ端っこに寝る感じになった。布団はかなり薄く、床の堅さがそのまま背中に伝わる。それも修行だと思い、目を閉じる。
***
翌朝、4時起床。お坊さんたちが動いている物音でしっかり目が覚める。朝のお勤めは4:20からだが、お勤めは遅れて出席してもいいのでご来光をどうぞ、と言っていただいたので全員で展望台へ。あいにく曇り、かすかに日の出かな?という光を見るにとどまったが、それでもこんな場所でご来光を拝めたのは素敵なことだと思った。
夕方のお勤めよりもいくぶんライトな朝のお勤め、続いて七面大明神さまにお別れ(ご閉帳?)。朝ごはんも味噌汁はやはり桶で登場、塩気のしっかりしたおかずでたらふくごはんをいただく。
さて、出発だ。ご兄弟もご年配の方もこのまま下山するという。我々は荷物を置かせていただいて七面山山頂へ。聞けば、ご年配の方は梅ヶ島温泉から八紘嶺を経由して七面山に登られたことがあるという。倒木が多く歩く人の少ないそのコースを歩かれたということは、相当な手練れの方。お三方にお礼を告げて、山頂を目指す。
展望台から奥に進むと物資用ロープウェーの山頂駅。その奥に登山道が続く。ほとんど斜度のない、本当に気持ちのいい林の中の道。早朝にここを歩く気持ちよさ、これはなかなか得難い。そんな気持ちのいい道を進むと、草原が空にぴょこんと飛び出しているところに来た。近づいてみると、そこはナナイタガレの上に飛び出た天然の展望台だった。
江戸時代から知られる大崩れ、ナナイタガレ。想像以上に壮大である。足を滑らせて吸い込まれたらひとたまりもない感じなので、おそるおそるバックして山頂に進む。
道はここから突然、急になる。なかなかの斜度の坂をジグザグに上がっていく、その横にナナイタガレがある。ジグザグのカーブで足を踏み外すとかなりヤバそう。
急な斜面を登りきると、道はゆるやかに左にカーブ。ここがおそらくは稜線ということになるだろう、相変わらずナナイタガレがガバッと口をあけている。その崩落の際のところまで下草が生えていて、一見すると気持ちよさそうな芝生。でもきっとドカドカ踏みしめるとガサッと崩れるのだろう。普通に怖い。
そのまま林の中を進んでいくと、灌木に囲まれたわずかに小高い場所があった。ここが、七面山山頂。山梨百名山、93座目である。どうやら最高点ではなく三角点だが、標柱があって小さな広場になっていていかにも「ここが山頂」感がある。
せっかくなので、見事な眺望があるという希望峰まで足を延ばしてみる。山頂から少し行くと道しるべのないうっすらした分かれ道、これを右に進むとすぐに七面山最高点。完全に林の中、木に最高点を示す札がかかっているだけ。でもまあ、最高点もクリアっていうことで満足である。登山道に復帰するのに薄いトレースを見失い、倒木をまたいで進むことになった。
希望峰方面、いったんけっこう下げる。気持ちのいい明るい林、だけど登りのときに標高が下がるのは後のことを考えるとあまりよろしくない。
下がり切ったあと、ちょっと急な登りに。このあたりからイワカガミが出てきた。普段ならそうでもないけれど疲れた足にはなかなか効く登り、薄いトレース。なんとかがんばって、希望峰に到着!
眺望はというと、それは見事な、、、雲海! たっぷりの雲! 晴れていたらきっとドーンと全部見えるんだろうけれど、まあそれはそれでいい。この日は笊ヶ岳のおしりみたいなふたコブの頂上付近が雲間からのぞいている感じ。他にも北岳かな?という山頂が少しだけ雲の上に顔を出していた。
そして、足元には一面のイワカガミ! あたり一面にピンクの花が咲き乱れている。秘密の花園に来たみたいで、ちょっとうれしい。
さて、戻ろうか。いったん下って七面山山頂に戻り、ナナイタガレの横を抜けていく。朝よりも雲が少し減って、ナナイタガレの向こう側に富士山が見えた。ギリギリのところに立って記念写真をとる息子さん。
急斜面を下るところ、ここはちょっと慎重に下りないと。つづら折りのカーブを曲がり損ねるとナナイタガレに落下するところがある。ここ怖いね!と言いながらゆっくり下りる。
敬慎院に戻り、デポの荷物を回収してお坊さんたちにお礼をして退去。お坊さんたちがずっと見送ってくれた。
七面山の登山道は、同じくらいの斜度の整備された道がずっと続くスタイル。それゆえに下山はかなりスムーズに進む。晴雲坊まで30分、中適坊まで20分、肝心坊まで20分。坊ごとにちょっとずつ休みながら下りていく。
肝心坊にイスラエルから来た二人組がいた。売店のことを聞かれたので、お金入れてドリンク自分で取るスタイルですよ、と教えてあげたところからしばしお話。今日敬慎院に泊まってお勤めに参加するんだ、と言っていた。こんなわりとガチめのところまでツーリストが来るんだね。
肝心坊から少し下りると、昨晩敬慎院で宝物を案内してくれたお坊さまが道を整備しながら下っていた。山を下りる日なので落ち葉などを掃除しながら下っているのだという。整備しないとヒルが出ますから、と。南部町や身延町の山はヤマビルの多いところ、なののこの七面山はヒルの話はあまり聞かない。それはお坊さんたちがいつも整備しているからなのだ。
一緒に下りながら、日蓮宗のこと、七面山のことを教えてもらう。なぜ神様をご本尊にしているのかというと、日蓮上人が亡くなる少し前に上人の夢に現れた竜神様、これを探して日朗上人がこの山に竜神様のいると思われる池を見つけた。そこで七面大明神としてあがめているとのこと。ちなみに「竜神」は日蓮宗的には「畜生」の扱い、それが日蓮宗と出会って「大明神」になることができた、ということらしい。なんというか、かなり想像を超えた展開である。
お坊様とおわかれしてスピードを上げ、神力坊に到着。登りのときは団体さんがいたのでスルーだったここ、飲み物や食べ物が売られていて(でももうふもとだから下山時にはいらないな、、、)巨大なわらじがおいてある。息子さん、わらじに興味深々。
神力坊からは1分足らずで登山口に到着。おつかれさまでした! 11時の下山、思ったより早く下りてくることができた。これなら東京に帰る前に温泉とお昼ごはんに行くことができる。温泉なら、ここからだとヴィラ雨畑が近そう。
南アルプス街道に出て、雨畑方面に進む。このあたりはなぜか集落が道から標高を上げたところに点在しているようだ。いくつかトンネルを抜けた先、笊ヶ岳の登山口の手前あたりにヴィラ雨畑はあった。
建物正面はちょっと古い施設かな?と思うルックスだが、建物の中と温泉施設「すず里の湯」は近代的でかなりきれい。平日の午前中ゆえお客さんは我々だけで、のびのびと使わせてもらった。温泉は露天風呂こそないものの、大きなガラス戸を開け放ってしまえば風呂全体がほぼ露天風呂になる感じ。ものすごく気持ちがいい。
しかしどうもカメムシさんの強い香りがする。が、カメムシさん自体は見当たらない。が、香りがずっと続いてぜんぜん消えない。そこで息子の推理。「そこのガラス戸にひかれているのでは?」 本来敵を遠ざけるために一瞬出す香り、それが続くということはもうおなくなりだろう。風呂に香るということは外ではない、という。果たして、そのとおり。ガラス戸の下にいらした。お湯で流しておいた。なんという名推理。カメさんの香りがしなくなったらもう最高の温泉なので、のんびり浸かった。
ヴィラ雨畑で何か食べられるかな、と思ったけれど、どうもレストランが動いている様子はないので早川町のほうでごはんを探し求めることにする。ヴィラ雨畑の方が「見神の滝をぜひ見て行って」と言ってくれたが、ちょっと時間がないのでそれはまた次回。ただそんなに薦めてくれる滝なのでぜひ見てみたい。
いろいろ探してみた結果、「レストラン早川舎」が近くてよさそう。何がよさそうって、お精進で食べられなかった肉がどっさり食べられそうなところである。息子は本来肉をこよなく愛しているので、お精進はつらかっただろう。ローストポーク丼、厚切りベーコン定食それに鶏の唐揚げをオーダーする。さっそく食らいつく息子さん。少々頼みすぎたかもしれない、かなりの満腹を抱えて東京へ。
山梨百名山93座目、七面山も素敵な山だった。わずか6500円で一泊二食お風呂とお宝、お勤め体験つきという敬慎院、これは得難い経験だった。七面大明神さまにお会いできた(お札をいただけた)ことも、今後の息子にとって何かご利益があるに違いない。おかげさまで、楽しい一年になりそうだ。
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