SMAPの歌ではない。世界で一番美しい花、それは小説の中にある。夏目漱石「草枕」の中に出てくる山椿のことだ。
その山椿は人が踏み入れることの出来ない深山の中の小さな湖の傍に咲く。
決して人目に触れること無く、静かに蕾を付け、真っ赤な花を咲かして、そのまま、ポトリと水面に落ちるのだ。
俺がこの一節を初めて読んだ時、なんとなく眠たげで灰色な物語の中で、いきなり、椿の花だけ、真っ赤に染まった。
それは、どんなに美しい写真やすばらしい絵画でも比べ物にならない、俺の中での「赤い色」であった。
いや、もしかしたら、実物のその椿が目の前にあったとしても、小説の中のその赤には、勝てなかったかもしれない。
(色というものは目で見るものでは無い・・・)
つくづくそう思った次第であった。
そういえば、月見草という花も不思議な花である。
「富士には月見草が良く似合う」のあの月見草である。太宰治「富嶽百景」の一節だ。
富士を巡るバスの中で富士山が車窓に現れた時、乗客は皆、一斉に富士を見て感嘆する。
それを見た太宰はひとり苦々しく思い、反対側の車窓を見てこの月見草を見つけ、富士と対峙するこの花は何と美しいのか、と書くのだ。
俺は太宰のこの気持がよくわかる。健気に咲く花ほど美しいものは無い、と本当にそう思う。
余談だが、俺はこの小説を読んで、月見草というのは、なんとなく「すすき」のような姿を想像していた。
道路脇にスックと立つ花のイメージである。
そこで、先ほどネットでクグってみたら、何と俺のイメージとは全く違う、小さくて可憐な花が現れた。
イメージとはかけ離れていたが、俺の中では全く変わらず、月見草は、やはり、とても美しい花なのだ。
(追記)
この日記を書いた後で、どうも漱石の草枕に関し、あやふや感が拭えず、今、ちょっと草枕をひもといてみたら、やはり、自分の記憶はええかげんなことが判明しました。人目に触れることの無い深山の湖ではなく、山里の古池でした。ただ、「椿の毒々しいほどの赤の印象、きれいと言うよりむしろ恐ろしい赤」がなぜか俺の中で蒸留し、とてつもなく美しい色に変化してしまったのは事実です。どうもスミマセン。
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