後で考えるとちょっと背筋の寒くなる出来事が昨日あった。
二上山登山から帰宅し、自宅マンションのエレベータに乗ったときである。エレベータ内に備え付けられた鏡で全身を見ると、なぜか、左足が少しだけ短いのである。
「えっ?」と思った。少なくとも今回の登山で、見て分かるくらいに片足が短くなるような怪我はしなかったはずだ。
「なんや?」そう思ったとたん、エレベータは階上へ動き出し、俺の足裏に昇降重力がかかった。
その瞬間、左足裏にひんやりとした鋼の冷たさを感じて、俺はすべてを察知した。そのままゆっくりと、まるで犬の糞を踏んだ時のように左の足の靴裏を見ると…、案の定、そこには、トレッキングシューズに本来あるはずの黒く分厚いゴム底は無くなっており、まるで足袋の底敷きのようなマヌケな靴裏をさらしていた。磨り減ったなどという生易しいものではない、完全に靴底がスコンときれいに取れていたのである。
「ソールが無い・・・」エレベータの中で空しく呟く。まさに「Nowhere Man」そのものである。
俺の靴底はどこへいったのだ? 頭の中で「I'm Looking Through You(君はいずこへ)」が流れた。少なくとも、全く違和感なく、登山口駐車場まで戻って来られたので、現地で失ったということは考えられない。
(とすると、帰りに寄ったラーメン屋か・・・)それにしてもこんなに違和感があるのに、取れた瞬間に気がつかないものだろうか。
「Drive My Car」俺は自分の車の中を疑った。マンション1階の駐車場に降りて車の中を見てみたのだが、黒く分厚いゴム底は見当たらなかった。
とにかく、俺が愛していたH社製トレッキングシューズの左足の靴底は、俺の目の前から、忽然と姿を消したことだけは、まぎれもない事実であった。「What Goes On(消えた恋)」俺の胸の中で黒く分厚いゴム底の声が空しくコダマした。
しかし、普通、トレッキングシューズのソールって、こんなに簡単に取れるものなのだろうか?
多分、10回も履いていないはずである。ソール以外特に目立つような損傷はない。全くきれいなままなのだ。
ただ、購入してからかなり日は経っていた。7、8年は経っているかもしれない。
今回、剥がれた靴底を見てよく分かったのだが、靴底とソールは単純に糊で接着されているだけであるという事だ。糸などを使って物理的に接合してあれば強度も増すと思うが、接着剤のように化学的に接合したものは、糊の劣化とともにその強度は一気に落ちていくだろう。経年劣化というのであろうか。それにしてもトレッキングシューズのソールが剥がれ落ちるなど、全くのソウテイガイである。
しかし、兎にも角にも、不幸中の幸いだったのは、ソールの剥離が、家に帰ってから、起こったということである。
これが、もし、みぞれ混じりの頂上で飯を食ったあと、さあ、下山するぞ、という時に起こっていたら…。
考えただけで、ちょっとオソロシイ気がするのだ。それでなくても下山道は雄岳を迂回して二上山駅に下りるルート、山と高原地図に載っていないルートを下ったので整備もあまりされておらず、岩が剥き出しのよく滑る道を、片足に全体重をかけて、膝をガクガクと鳴らしながら下ってきたのだ。ソールがなかったら、とてもじゃないが、下山できなかっただろう。山「Girl」などにも全く出会わない「Norwegian Wood」のような森だった。
まあ、しかし、これも登山であり、しいていえば、我が人生でもあるのだ。
「In my life I love you more」
paperbackさん、こんばんは。
靴底の剥がれ、登山中でなく幸いでしたね。
山の中だったらと考えただけでゾッとします。
実は私にも経験があります。
昔、若いとき山中での事です。
老朽靴の縫い糸が風化してアイゼンを外すと一緒に靴底が取れてしまいました。
ソールだけでなく底全部が取れてしまったのです。
それからどうなったか、日記に書いたことがあります。
http://www.yamareco.com/modules/diary/8042-detail-8983
paperbackさん、はじめまして。
ビートルズの曲名がちりばめられた、凝った日記に思わず惹きつけられました。
今度二上山行ったとき、ソールに気をつけて見ておきます
ainakarenさん
コメント頂きまして有難う御座います。
日記拝見させて頂きました。
ナーゲル靴、ビブラム底・・・、恥ずかしながら、初めて聞いたワードです。
それにしても壮絶な体験ですね。
本当に一歩間違えたら死に至るような体験、というのは全く大げさでないと、日記を読ませて頂いてそう感じました。
実は私も高校時代山岳部におりまして、そのころは今のように安価なトレッキングシューズというものは無かったような気がします。(そもそも登山のための靴は山関係の店でしか置いていなかったと思います)
そのころ私の履いていたものも重くて堅い靴でしたが、糸でしっかりと固定されていたと思います。
強固な接着力を持つ新しい接着剤が世の中に出回り、軽くて安い靴が量産できましたが、はたしてそれでいいのだろうか、今回の出来事でより身近に感じた次第です。
LG-2さん
コメント頂きまして有難う御座います。
Beatles のアルバム「Rubber Soul」に無理やりこじつけてしまいました。
(できれば「Michelle」も入れたかったのですが・・・)
二上山はお近くですか?
多分、山中では落としていないと思います・・・(笑)
もし、黒く焼け焦げたトンカツのようなゴム製のソールを見つけられたなら、それこそ「Twist and Shout」もしくは「Magical Mystery Tour」ですね(笑)
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