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「八雲ヶ原のキャンプ場」
本文・頁60〜63/「比良の山旅」「主峰・武奈ヶ岳への道」から
【前略】比良索道株式会社というリフトやロッジを作った会社が昭和36年の夏から
ここに山を切り開いてキャンプ場を作った(中略)固定キャンプが十数張あって、
テントの中には電燈もついている(中略)
61頁の写真を見ると、今は静寂境に戻っている八雲ヶ原が、ひょっとすると
六甲の如き山上遊園にもなっていたかも・・という事がよく分かります。
で、このあたりから筆者の舌鋒はさらに鋭くなり・・・最後はまた強烈です。
【前略】ロッジはしかたがない、リフトもしかたがない、とあきらめていたが、
八雲ヶ原がこんな風になるとは思っていなかった。比良ではなつかしい静寂境
だった八雲ヶ原も、今日は拡声器が怒鳴り、ジャズが山彦をふるわせている
(中略)美しい静かな谷あいにはバンガローが林立する計画もあると聞いている。
どんな施設ができるか見当もつかない(中略)ここはいずれ山上の遊園地になり
そうだ。食虫植物のモウセンゴケなどはすぐ消滅するだろう。モリアオガエル
なども早く移住地を探さないとてんぷらにして食べられてしまうかもしれない。
続いて筆者は武奈ヶ岳へ続く道中から山頂の景観(これは今もまったく変わりま
せん)を、引き締まった文体で描写したあと、諦めきったような一節でこの項を
締めくくっています。
【前略】なげきつつ山を登りぬ、なげきつつ樹の間をゆきぬ という心持で八雲
ヶ原をすぎる(中略)さすがに丹波高原の主峰だけあって展望はみごとなもので
ある。頂上には感じのよいケルンを建てた人があったが、しばらくの間にこわさ
れてしまって、今は石塊を積み重ねた上に標柱が立ててある。
「ずいぶんくたびれたでしょう。ゆっくり休みましょう。帰りは同じ道を帰るのだ
から心配はありません。お疲れでしたら比良ロッジでお茶でものんでリフトでお帰
り下さい」(この項おわり)
行き過ぎた開発や環境破壊などなど、元より私はそんな偉そうなことが云えた
身分ではありません。当時楽しんでいた方々もたくさんおられるのですから、
もちろん一方的な物言いも出来ません。ただ、もし開発が筆者のいう
「山上の遊園地」行き着くところまで行っていたら、ゆっくりと自然に戻りつつある
現在の状態でさえ望めなかったのは確かだと思います。
半世紀前のレジャーブームは現在のそれとは全く異質であり、全くすさまじいもの
だった、と今更ながら気づかされる所以です。
それゆえ小生としては「そうならなくて良かった」というあくまで個人的な感慨が
あるだけです。
いま武奈ヶ岳の山頂には、もう跡形もなくなったロープウェイの「最終便時刻」が
書かれた、赤錆びた看板だけが残っています。

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