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我が家は少々ありまして、二十年近く父と私との関係がよくありませんでした。それが、私が山登りをするようになったことをきっかけに改善されつつあることは、以前の記事で書かせていただきました。父は学生時代に山岳スキー(のみならず、キスリングを担いで北アルプスの夏季縦走などもしていたようです)をしておりまして、登山のことをよく知っています。それまでは私が登山に無縁でしたので、まれに聞く昔の登山の話などは「そうかい、ふーん」程度にしかわからなかったのですが、一緒に登山をしてみるとやはり昔取ったなんとやら。何かにつけ勉強になることが多いです。近頃は父と登山に行くことが増え、楽しみともなっています。
とはいえ父の登山は学生時代のみなので、現代の登山についてはよく知らないようです。なので現代的な登山の考え方については私があれこれと口を出しています(私も大したことは知らないので、登山ギア・ウェアに関してネットで調べられる程度のことばかりですが…) 先日の茶臼岳では、日ごろ甘いものをほとんど食べない父が、行動食にと用意したカントリーマアムを黙って食べてくれたのは、おそらく登山の光景の中でとても些細なワンシーンでしかなかったと思うのですが、私にとってはとても嬉しい出来事でした。父の時代には行動食という概念はなかったそうです。
最初に父と一緒に山に登ったのは六月の高峰山でした。父の気持ちは恐らくですが、私と登山の話をするうちに何となく昔を思い出し、久しぶりに一度登ってみるかという程度のものだったように思います。それが私がしつこく山の話ばかりすることもあるのでしょうか、近頃は本格的に登山を趣味にしはじめているようです。今度、蓼科山に二人で登ろうという話があるのですが、早くもその次を考えているようで、千畳敷カールから木曽駒ヶ岳のルートが父の次なるターゲットにされてしまいました。年齢を考えてもう少しライトな登山にしてもらえないものだろうか、という私の心配はさておきまして、父は現代登山のギアやウェアに大きく興味を持ち始めています。中でもザックに大きな関心を寄せていました。
実は先日の茶臼岳では、登りの岩場で荷物の重さに振り回されたたらを踏むシーンが幾度か見られました。そこで新しいザックを勧めてみたのです。登山用品店でいくつか試してもらい、父が気に入ったのはドイターのフューチュラ30。本当は、蓼科山の登りはかなり急と聞いていましたので少しでも荷は軽くして欲しく、容量20ℓ程度、ザック重量500g程度の軽量ザックを勧めていたのですが、やはりキスリング時代を生きた人間の背中には物足りなかったようです。「俺のよりでかくて重いの選んでどうすんだ」という心配をよそに今日は早速、高尾山にて新ザックのテストを兼ねた山行にお伴することになりました。
荷の重さに引っ張られて後ろにのけぞるところを支えた私としては、構造的に重心が背中から離れてしまうフューチュラには懸念があり、背面長がぴったり合っていたので大丈夫かもしれない、しかしザック自体の重さもあることだし、と楽観と悲観が半分半分。いざ使ってみれば父曰く、「ちっとも重さを感じん」「俺のときはこんなザックも、ストックっていうのか?そんな道具はなかったな」だそうで、稲荷山コースの露岩や木の根を踏んでも重さにブレるような素振りも皆無。私も口では「そんなデカいザック担いでどこ行くつもりだい」などと言いながらも、二人で選んだザックが父の背にぴったりとフィットしたことを内心で喜んでいたのです。ネットの受け売りでしかない付け焼刃の登山知識だけれども、父の役に立ったぞと。
そういえば父がする山の思い出話の中で、物心つくかつかぬかくらいの頃の私を連れて茶臼岳に登った話がありました。私にも薄っすらと記憶があるようなないような、しかし昔の写真の中に、私をおぶって岩道をゆく父の写真があったことを思い出しました。あれから30年以上たってその茶臼岳に、今度は私が父の背を支えて登ったことにとても深い感慨を覚えます。険悪で疎遠だった父子の20年近いの時間の空白を、30年前の淡い記憶が満たしてくれているかのように。
父さん、登山ができるくらいに元気でいてくれることに感謝。
そして皆様、とりとめのない感傷に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
はじめまして 何気なく日記を読んだのですが感動して泣けてしまいました。
文章長いのに読みやすくて一気読みでしたよ!
いいですね!私もおばあさんになっても登山だけはできる体をキープしたいと思わずにはいられない日記でした。
いいザックに出会えてよかったですね。
きっとそのほかの最新の装備も昔と比べて色々と楽しめるのでは?
はじめまして、拙文を読んでいただいてありがとうございました。男親と息子という関係のせいか互いに思うことを言わない性質なものですから、父が見ていないここならとお目汚しさせていただきました。
tomoeさんの家族登山の記録を拝見させていだきました。我が家も三歳になったばかりの娘がおりまして、2度ばかり低山に連れて行ったことがあります。私一人で行くよりも倍の時間をみればいいかと思っていたところ、やれお菓子食べたい綺麗なお花見つけた、小石を拾って気に入った、疲れたから抱っこetc.etc...結局、4倍の時間がかかったことがあるものですから、小さいお子さん連れでの登山のご苦労、お察しいたします。ですがtomoeさんの奮闘ぶりは一読者に過ぎない私にも十分伝わりましたから、お子さんたちにもきっと伝わっているのではないかと思います。いつまでもご家族で登山にいける、仲良し登山一家でいていただけると嬉しいなと思います。
父の装備ですが、ザックとストックに感じ入っていたようです。他にはウインドブレーカーの薄さと靴下のクッション性を気に入ったようです。曰く、「この靴下はウールなのに暑くない」「歩いても疲れが残らん」だそうです。またザックを随分気に入ったようで、「これなら山小屋一泊くらいはできるな!」とも言い出しているのですが……流石に体力面が心配なものですから、「ちったあトシを考えい!」と言っておきました。が、父は言い出したら聞かないところがあるものですから、そのうちシュラフくらいは買ってしまうかもしれません。いずれこの日記に「父が揃えた山道具」というタイトルを書くことになるのかもしれませんね(笑)
それでは読んでいただいてありがとうございました。
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