![]() |
今朝はついに1℃まで気温が下がり、いよいよ冬到来という感じ。寒がりの自分はモコモコ着込んで出かけるから全然無問題😎
#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルは前野ウルド浩太郎 『バッタを倒しにアフリカへ』の続き。
『ファーブル昆虫記』はいまもムシキングを目指す少年少女のバイブルなんだろうか。ウルド氏が聖地巡礼で南仏プロヴァンス地方の村を訪れ、子どものようにはしゃぐシーンには胸踊る。
「村はファーブル色に染まっていた。ファーブルのトレードマーク(帽子をかぶった横顔)が民家の壁に、村の地図に、交番の壁にもあった。村の大通り沿いに歩くと、ファーブル様の銅像があった。りりしい姿にうっとりしてしまう。台座にはフランス語で「昆虫学者」と刻まれている。虫の研究をして銅像になるのはすごいことだ。ファーブルはすでに亡くなっているが、この像には彼の魂が生きている。
ひとしきり感動した後で、私はリュックからおもむろに原稿用紙の束を取り出し、台座にそっと置いた。実は、フランスに渡ってからも毎日、原稿を執筆し続け、とうとう完成していたのだ。タイトルは、『孤独なバッタが群れるときーーサバクトビバッタの相変異と大発生』だ。バッタの生態はもちろん、自分の研究史を綴っている。『ファーブル昆虫記』に感動した小学生が、大人になって自分の昆虫記を出すのだ。こんな嬉しいことがあるだろうか。これには小学生の自分も大喜びしてくれるだろう。
今回、自分の昆虫記を出すということで、どうしてもファーブルに直接報告し、出版前の原稿を捧げたかったのだ。昆虫記になるのを待ち構えている原稿が、憧れの昆虫学者とともにある。今頃、ファーブルもきっと喜んでくれているはずだ」
しかしポスドクを取り巻く環境は厳しい。無収入に陥り、進路に迷うウルド氏に、ババ所長が贈った言葉に思わずふるえる。
「いいかコータロー。つらいときは自分よりも恵まれている人を見るな。みじめな思いをするだけだ。つらいときこそ自分よりも恵まれていない人を見て、自分がいかに恵まれているかに感謝するんだ。嫉妬は人を狂わす。お前は無収入になっても何も心配する必要はない。研究所は引き続きサポートするし、私は必ずお前が成功すると確信している。ただちょっと時間がかかっているだけだ」
「そうか、無収入なんて悩みのうちに入らない気になってきた。むしろ、私の悲惨な姿をさらけ出し、社会的底辺の男がいることを知ってもらえたら、多くの人が幸せを感じてくれるに違いない。引きこもっている場合ではない。無収入は社会のお荷物どころか、みんなの元気の源になるではないか。むしろ、無収入バンザイだ!」
「皮肉なことに、「もう研究ができなくなる」という研究者にとって死に値する瀬戸際に追い込まれ、ようやく自分自身と真剣に向き合えた。つくづく自分はぬるいやつだ。だが、磨きがいがある。ぶつかる困難が大きければ大きいほど、甘えは削り取られ、内なる光が輝きを放つはずだ」
追い込まれないと底力を発揮できないだらしないところは自分にそっくり。だけど、落ちるところまで落ち、追い込まれたからこそ開き直れるという面は確実にある。やるっきゃない、と覚悟が決まれば、どこまでも駆けてゆける。ウルド氏もこの後、無収入を武器に変え、開き直って世間に自分を売り込む術を見つける。
「そもそも誰かを惹きつけるにはどんな手段があるか。自然界を眺めてみると、昆虫は甘い蜜や樹液に惹きつけられる。人も同じで、甘い話や物に寄ってくる。みんな甘い物好きだ。
そこで、ピンときた。「人の不幸は蜜の味」で、私の不幸の甘さに人々は惹かれていたのではないか。実感として、笑い話より、自虐的な話のほうが笑ってもらえる。本人としては、不幸は避けたいところだが、喜んでもらえるなら不幸に陥るのも悪くない。
この発想に至ってからというもの、不幸が訪れるたびに話のネタができて「オイシイ」と思うようになってきた。考え方一つで、不幸の味わい方がこんなにも変わるものなのか。そして、なにより重要なのは、私を見てくれる人がいることだ。ファンの存在は、異国で独り暮らす人間にとっては心強いものになり、ウェブ上での情報発信は、リアルタイムに反応があるので、精神衛生上、助けられた」
どこかで見てくれている人がいる。人はそれだけで踏ん張れるし、自分の不幸もネタにしてしまえば、相手との距離を縮める武器になる。こっちがおおっぴらに失敗談を語れば、相手も心を開いてくれる。一瞬で壁を壊すには、これ以上の手はないと思う。
京大白眉プロジェクトの最終面接は、松本総長との1対1の英語での面談だった。
「前野さんは、モーリタニアは何年目ですか?」
「今年が3年目です」
それまではメモをとったら、すぐに次の質問に移っていた総長が、はっと顔を上げ、こちらを見つめてきた。
「過酷な環境で生活し、研究するのは本当に困難なことだと思います。私は一人の人間として、あなたに感謝します」
こいつはすげえ。京大総長の人間力。ウルド氏じゃなくても泣きそうになる。見てくれる人、分かってくれる人はきっとこの世のどこかにいる。そう信じられるだけで、生きていける。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する