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一度、発動してしまった悪意の不在という名の巨悪に対しては、何者も為す術などもたない。
正直、一度は山行記録に、こういった事態ならぬよう事前に注意喚起を促すような記事を書いてはみたものの…事態は、想像をはるかに超える規模で拡大していってしまった。結果がわかっていて、なにもすることができなかった。ジブンは無力だ…いまわかったわけではないが、そのあまりの不甲斐なさに落胆し失意のうちに、既に手遅れとなってしまっていた文章は削除し、見たくない現実から逃避してしまった。
数日が経ち…。ある偉人の言葉ではないが、このまま黙っていていいものかどうか。なにも善人を気取る気などことさらないが、少なくとも問題の提起だけはしておこうと思う。
本題は、この時季大人気の、とある植物のインターネット上での扱いについて。
ヤマレコ上でも開花期はその姿から非常に人気が高く、たいへん可愛らしい植物ではあるが、全国各地でレッドリストに名を連ねる絶滅危惧種であるということはよく知られてはいても、どうやら理解はされていないようだ。
かねてよりこの地でも、その年ごとにみられたりみられなかったり…逆を返せば、開花条件が非常にセンシティブなバランスを保った、絶妙な生息地といえる。そして、開花しても数本…自生地というには痴がましい、そんなささやかな場所だった。近年ある事情により、そこを通る新コースができたときから危惧はしていたのだが、それまでは誰の目にもつくことない文字通り秘密の花園だったわけだが。
そして今年は、幸運にもほんの数株が花をつけ、わずかながらその姿を見ることができた。そして今までのように静かに、あたたかく見守っていけるかと思っていたが…
しかし現在の発達した情報化社会では、そんなほんのわずかな小さな命をも静かに見守ることを許さない。
こうしてウェブ上に一度暴露してしまった情報は、拡散していき、思いもよらぬところまで広がっていく。
ちなみに、ヤマレコという名の情報サイトは、その利用においては山登りをするヤマレコユーザーだけに留まらず、流行のアマチュアカメラマン等、その他の目的でも情報源として多方面に活用されている。見ているのは志を共にできるヤマレコユーザーだけではないのだ。
不特定多数の目に触れていく…当然、植物の生態に無知な人間による無謀な行為や、悪意を持ってこうしたメディアを利用するために見ている人がいないとはかぎらない。
そして、こうしたメディア露出による悪い予感は的中し、いちばん怖れていたことが現実に起きてしまった。
ハイキングコースを外れ、生息地に踏み入り、写真撮影と思われる行為により、無残にもその根元は踏み荒らされ、この希少植物の生息環境がなかば崩壊してしまっていたのだ。もともと数株しかない花に、一度に大勢の人間が押寄せれば、その結果は火を見るよりも明らかだろう。
ひとりひとりは「ちょっとだけなら」というつもりだろうが、それが二人、三人…と続けば、その絶妙な生息環境はいとも簡単に破壊されてしまう。一般から見れば藪の中に少々人の通り道ができてしまっただけのようだが、それはこの非常にデリケートな小さな命にとっては劇的な環境変化なのである。しかもそこが急斜面であったがゆえに、根元から表土が崩れ去ってしまっていることが致命的だった。かなりの面積の表土が剥がされたが、これでこの辺りの地面はあっという間に乾燥がすすんでしまう…
植物にとっては根が張っている土壌と、その周辺環境が非常に大切だ。花や枝葉だけ傷つけなければいい…などというものではない。
弱い植物はこうして簡単に失われる。だからこそ希少であり、絶滅危惧種でもあるのだよ。
しかし、こんな決して有名とはいえないハイキングコースで、突然こんな短期間に、これほど環境が変わってしまうほどに人が一極集中することなど通常ならありえない。インターネットなどメディア露出があったればこその、こんなローカルなコースで、こんな小さな植物に注目が集まってしまった。
ちなみに今回に限っては、そのメディアとはこのヤマレコのことである。
しかも、いくつかの記事の中で、あろうことかヤマレコユーザー自ら、コースを外れの生息地に踏み入っての撮影行為を披露し、あまつさえその行為を推奨誘導するようにもとれる発言すら見受けられることが非常に残念でならない。
ジブンなどのような未熟な新参者からすれば、こうした普段からアルプスを闊歩されてるようなヤマレコユーザーたちのお歴々は、いわば雲の上の存在で。このインターネット全盛期の登山ブームの現在にあっては、昔のように登山教室やキャンプ演習で山を学んできたのとは違い、そんな直接、先達方から学ぶ、教わるといった、そんな機会のない山の初心者たちが手本とさえしている、模範となるべき登山家さんたちのはずだ。
それゆえにその影響力は非常に大きい。
しかし、そういった方々の発する言葉の端々から、そんな彼らがこういった低山里山をないがしろにしてきている様子が散見できるのが悲しい。そして、このあまりに軽率な行動は、その延長にあるとも思えてしまう。ある種の驕りとも感じ取れなくはない…(まさに、かつてのジブンそのもののようだが?! ただジブンはこころの中で思ってはいても、対外的にそれをひけらかすようなことはしなかったが??)。
そのためにヤマレコでは、そんな彼らを手本にし、後進があとに続いていってしまっているという現状も二重の悲劇といえるだろう。
そんな彼らが、わざわざ低山に訪れてまで、焦がれるかのごとく夢中になっている植物のことを、自らの行為によって、その後どのような結果がもたらされてしまったかを、どれだけわかっているのかは甚だ疑問に残るが。これは造花などではなく、ただでさえ絶滅危惧種であり、こうした行為がなかったとしても、危うく、脆弱で、絶妙なバランスの上でやっと成り立っている特殊な環境条件下でしか生きられない、
…儚い命なのだ。
安易にその生息地を踏み荒らす無神経極まりない行為によって、生息環境を破壊するということは、その小さな命を間接的に死に至らしめるとの同義ではないか。そういったことを無知や不案内であることによって、行ってしまってるのだったら悲劇でしかないが。メディアを頼りに、珍しい可愛い花を見て、はしゃぎ、ついでに生息環境を壊しておいたうえで平気で悦んでいられるのならば、これはもう喜劇としかいいようがない。
そういった彼らから、全く悪びた様子が微塵もみえないところが、涙よりシニカルな笑いを誘う…
無知は罪だ…どのような結果にも、「知らなかった」は通用しない。
こうしたことがなきよう、ジブンなどは幼少のころから先生・諸先輩方に山のいろはから叩き込まれてきたが。
そもそも、きっと今の方々は、その一時だけ面白おかしく過ごすことができれば、それによってその後どうなっていようが気にとめることなどなにもないのだろう。例えこの事実を何かで知ったとしても関係ない、彼らにとって取るに足らないどうでもいい低山をこうしてダメにしてしまっても、魅力ある有名山岳は他にいくらでもあるのだ。
悪意の不在という最大悪がそこにみえる…
多くの人をひきつける人気植物の自生地などの情報の公開については、もともとオフィシャルに広報されているようなパブリックな情報であるとか。もしくは保護に対するコンセンサスが醸成されやすい管理地内においてなど、大きな問題に発展することはない場合に限るべきではなかろうか。
一人や二人粗相したところでたいしたダメージのない広大な大自然に包まれた高山や保護管理体制が整った大自生地などと…、わずかに里山に残された限られたちいさな自然とはわけがちがうのだ(それこそ、ほんとうの意味での「自然」といえなくはなかろうか?)。
今回のような、そうした既成のパブリックな情報などのない、一地方のわずかでちいさな生息地に関しては、その安易な情報公開によって、こうした悲劇しか生みださないということを、ジブンのわずかな経験の中でもいくつも目にしてきている。これは意見ではない、いわば経験則といってもいい…
そして、開かれたパンドラの匣は二度と元には戻ることはない。
インターネットでの情報の開示については常に慎重でありたいものだが、こうしたメディアがこのまま野放しである以上、こうした悲劇は終わることはないだろう。そして、歴史は繰り返される…
───── さいごに…─────
こうして同じヤマレコ上において、多くの方が喜び、楽み、たいへん盛り上がっている記事を前にしてこんなことを書くことは、たいへん不躾であり角の立つ物言いであるということは重々承知しているつもりです。そして、それらをここで否定したり批難するものでも、異論や反論などがあるわけでもありません。当然、そこに悪意が存在しないこともわかっています。
ですから、どなたかにどうしてくれであるとか、なんら非を問いたり、責めたりするものでもございません。
そして、このことについてあらためて議論を展開しようという気なども、まったくありません。
また、現状を知らなければヒステリックにすぎるのではという批判もあるでしょう。これが杞憂であり、失礼ながらジブンだけが、ただ大げさに喚き立ててしまっているだけすむならば、それに越したことでもないはずですが現実はきびしいです(今週末には状況確認に向かうつもりですが。現状からすると、おそらく…だめでしょう?!)。
正直、植物などに興味のない方にとっては、たかだか数本の草花が枯れてしまうというだけなので、そこまで熱くなる話でもないのですが。
ただ、それらを踏まえたうえで、このことをただの事実として、黙っておいてはいけないと思い、これを書き記しておきます。
誰でも「自然を大切に」と、さわりのいい言葉を口にするのはたやすい。しかし、それが行動に伴っているかどうかの判断は非常にむつかしい。多くの場合、無自覚な悪意によって実は自然を蹂躙していた…なんてことも?
自然と接し、楽しむのはいい、しかしそれによってもたらされる結果についても、しっかりと見届けていきたいものである。己のあるいてきた足跡が、その後どうなっていくのかを。
しかしナァ〜。こんなこと諸先輩方が黙ってみているわけがないのだが。最大の悲劇は、もう既にはじまってしまっているのかもしれない…
はたして、最後に匣の底に残るものは、絶望か、希望か、
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