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経験者はご存じの通り、一般登山道でも、北穂から奥穂へ向かう稜線や大キレットのように部分的に三点支持を必要とするような岩場のルートもあります。その場合でも岩登りで言う難易度の�教蘢�度でありますので「三点支持の基本」が出来ていれば天気の良い夏山ならそれほど問題なく通過できるかと思います。逆に言えば、基本が出来ていないと一般登山道でも滑落してしまう危険があります。そういう意味でも「三点支持」の知識と基本的な動作の習得は必要です。
[b]【三点支持(さんてんしじ)】 岩登りの基本姿勢。四肢のうち三肢で体を支えること。一肢だけを自由にして次の手がかり・足場へ移動する。三点確保。[/b]
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[b]岩登りの基本はハシゴ登り[/b]
上の左の図のようにハシゴを登る姿勢が基本です。岩からなるべく体を離して、重心のラインが靴のつま先（スタンス）を通るようにしてください。怖がって手でしがみついて体が岩にくっついてしまうと滑落の危険が生じます。ハシゴを登るように、手は基本的にはバランスをとるためのものです。
[b]手（ホールド）の位置は目線[/b]
岩場での手掛かりのことを「ホールド」と言います。正しくはハンドホールドと呼びますが「ホールド」だけで十分です。
ホールドの位置の基本は目線です。目の高さ以下です。
頭の上の方にしっかりとしたホールドがある場合、腕力にまかせてグイっと体を持ち上げることもあるでしょうが、あくまでも「ホールドの基本は目の高さ（以下）」ということをしっかりと覚えておいてください。
なぜホールドを高くしてはいけないかというと、左の図のように、ホールドを高くすると岩の表面に体がくっついてしまって重心線が靴のつま先に通らずに靴が滑ってしまう可能性が高いからです。それに次のスタンスなどがよく見えません。
場所によっては「アンダーホールド」という岩の下を持つホールドの取り方もあります。その場合は腰の高さぐらいのホールドになる場合もあります。
[b]足で登るのが岩登りの基本[/b]
フリークライミングの競技会のように、腕力を使ってグイグイと登っている様子を見ていると、「腕力こそがロッククライミングだ！」などと思いがちですが事実は全く違います。ちなみに、腕力を使って登ることを「腕力登攀」と言いますが、これはあくまでも一時的な体重のかけ方であって、岩登りの基本は「足で登る」ということです。このことは絶対に忘れないで欲しいと思います。
鉄棒にぶら下がることは１分も出来ない人でも二本の足で立つのは１０時間でも平気かと思います。人間の脚力と腕力とはそれくらいの差があるのです。人間は猿ではありません。「腕力をいかに使わないで登るか」ということが大切であり、これが岩登りの基本です。これは競技のフリークライミングでも同様だと思います。
[b]膝を使ってはいけない[/b]
いわゆる自然の岩登りをしない人には分かりにくいことでしょうが、膝を使った登り方は滑落の大きな原因になります。特に、岩場の最上部の最後に膝を使ってヨッコラショと登り上がろうとする人がいますが、これは止めてください。上に人がいるような場所で手を差し出すような場面です。最後まで膝は使ってはいけません。
岩登り講習でも、そういう時に「膝を使うな！」という言葉が出なければ指導者としては嘘になります。岩場の出口はそういう意味では意外と危ないのです。岩を登る場合は、あくまでも靴底の摩擦（フリクション）を利用して最後まで登り切らなければなりません。これは一般ルートでも全く同じことです。なぜ？という疑問よりも、バカの一つ覚えでもいいですので、膝は登山では使わないようにしてください。（追記：これはセオリーです。状況次第では安全のためにセオリーを越える選択もあろうかと思います。日記最下部追記を参照。）
余談ですが、登山で膝を使うのは岩登りではナイフリッジを馬乗りになって登る「カンテの登攀」と、沢登り等での段差のある場所で人間の体をハシゴにして登る「ショルダー」という登り方ぐらいだと思います。非常に重いザックをいったん膝に乗せてから背負う方法もあるにはありますが…。
[b]追記[/b]：登山で膝を使うのは、他にも狭いチムニーを登る場合、首までのラッセルのような時に膝をぶつけて足場を作ったりしますね。他にも考えると色々あるようです。
[b]足をクロスさせてはダメ[/b]
中央の図のように、岩場をトラバースする時など、足をクロスさせてはダメです。これも滑落の大きな原因となります。
足場のことを「スタンス」と呼びますが、スタンスの取り方しだいでは、足をクロスさせてしまう場合も実際には多くあると思います。例えば、左足をスタンスに掛けて、次に右足を置く場所が無い場合、足をクロスさせてしまうような場合です。競技のフリークライミングでは技術の一つなんでしょうが、普通の人がこれをやると最初にも書いたように滑落の大きな原因になります。頭を使ったスタンスの取り方が必要です。前を行く人がいたら、どのように足場を置いているか観察しているといいと思います。
[b]静荷重を意識する[/b]
「【座学】静荷重と動荷重について」でも書かせてもらったように、グイグイと登る方法は自然の岩場では危険です。大きな岩だと思ってグイっと腕力を使ったところ「岩を抱えて岩ごと落ちていった」という話を一度ならず聞いたことがあります。死亡事故の話です。雪が解けて岩が緩んでいる今時分もそういうような大きな石（岩）が動くこともありますので体重を掛ける場合は静荷重の意識が必要です。
静荷重の意識は、木の根などをつかむ場合も必要です。万一、その木の根が抜けたら反動で背中から落下する危険予測がある場合、木の根が抜けてもよいようなスタンス（足場）のとり方や、木の根が抜けないような静荷重を意識した力の入れ加減が大切です。木の根と書きましたが、生きている葉っぱがついている木でも抜ける場合がありますので注意は必要です。大丈夫かどうかは樹種にもよるようです。
余談ですが、このような静荷重の意識が少ない人は、現実的には「落ちグセ」が付いていると思われます。おそらく子供のときからのことだと思います。私の山仲間でも「落ちグセ」が付いている男がいました。切れそうなシュリンゲは彼が体重をかけると切れてしまうのです。そういう人間にはトップを任せる訳にはいきませんでした。
[b]頭を使って登るルートを考える[/b]
ここまで来るとほぼ初心者の岩登り講習ですが、一般ルートでも岩場なら頭を使って登ることは必要だと思います。「右手をあそこに掛けて、その左の階段状になっている所を登っていこう！」というような感じです。言葉で書くと難しいですが、現場では「頭を使う」ことはそれほど難しいことではないと思われます。
[b]ミシンを踏まないようにする[/b]
前にどっかで書きましたが、「ミシンを踏む」というのは、ふくらはぎの筋肉が痙攣してしまうことです。昔のミシンは足でガタガタと踏むような物でした。岩場でミシンを踏むのは主として登山靴の踵（かかと）が上がり過ぎている場合で力が入り過ぎている場合に起こることが多いようです。靴のつま先をスタンスに掛けるのはよいのですが、少しだけ靴の踵を下げ目にするとフリクションがきいて滑りにくくなると同時にミシンを踏まないように楽に足を掛けることができます。
[b]スタンスは岩に垂直[/b]
スタンスの置き方は岩に対して垂直です。右図のように横に置いてはいけません。これも滑落の大きな原因になります。
スタンスの取り方はもっと詳しく書いた方がいいでしょうが、現実的には誤解を発生させてしまう場合があります。良い指導者が指導してくれる場合は問題ないとしても、本やネットでも間違った書き方がされている場合もあります。
雨で濡れている場合、コケがついている場合、バラバラと崩れるような岩の場合、その他様々な場所がありますので、常に同じスタンスの取り方ではありません。そのあたりは単独登山しかしたことのない人は、意識的に岩場のような場所は５分とか１０分でも簡単な足ならしをしてもいいように私は思います。プチ岩登り練習です。三点支持を意識した練習をすることで山をただ登っているよりも何倍も経験がつくと思う訳です。
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以上のように色々と書きましたが、重要なことだけをピックアップしておきます。
・足で登る
・手は目線
・足をクロスさせない
・膝を使わない
・かかとは少し下げ目
・頭をつかう
[b]追記[/b]:どのようなこともそうですが、余りにも杓子定規に考えることは登山の場合、本当に正しいこととは言えません。セオリーはセオリーとして臨機応変に対応するのが本来の登山の安全です。鉄則やセオリーは危険な状況で分かりやすく行動させるためのものです。状況に応じて正しく変化させることも必要なことです。そういうセンスを経験を積みながら養う必要があると思います。
ありがとうございます。昔ですが、岩登りを少しだけしていましたので、三点支持は憶えているつもりでいました。丹沢も鎖場があり、鎖に頼らないで三点支持で登りますが、このように分かりやすくまとめていただくと大変勉強になります。早速お気に入りに登録させていただきました。
ありがたや！
山屋にとっては基本でも初心者にとっては貴重な情報です
いつもいつもありがたく拝見しております。
ベテランさんの山の知識、山への思い、存分に後輩たちに
教えてあげて下さい
ヤマレコはありがたいなぁーと思う今日このごろです
Mikuniさん、こんばんは。
Daveさんたちの日記では面白くコメントを拝見しております。
Mikuniさんのような人がお気に入りだなんて恐縮してしまいます。
一般登山道では鎖場は緊張もしますが楽しい場所でもありますね。下りも三点支持でクライムダウンしてみるのもいいでしょうね。
コメントありがとうございました。
tsukubaneさん、こんばんは。
私もヤマレコは色々な情報が入るのでありがたいと思っています。中にはちょっと嫌な人もいることを感じている今日この頃ですがプラスマイナスから言えばメリットはとても大きいと思っています。
tsukubaneさんも是非とも得意なことを発表してください。私の場合は３０年以上レベルアップしていな状態ですが
こんばんは
いつも参考になる内容をありがとうございます。
今、岩登りにはまっているので今回のも非常に参考になりました。
ひとつ教えてほしいのですが、「膝は使わない」についてです。
私は技術が未熟で身長も低いためか、ここぞ！という場面で五肢目？（膝）を使っていました。
微妙なバランスで上がる時、膝に限らず身体のいろんな部分で登っています。
ただ、何となく膝を使ってもいい！という確信はないのが本音で、痣や傷のある膝を見て「これでいいのだろうか」と感じていました。
書かれている通り、特に最後の上がりきる場面で膝が登場することが多いです。
ここにきて、「膝は使わない」という明確な表記に、私の疑問を解決してもらえるんじゃないかと思った次第です。
『何故膝を使ってはいけないのか』
是非、教えてください。
mantenmomoさん、おはようございます。
本日はメンテのためにコメントが難しい状況ですので、あとでゆっくりコメントしますね。簡単に言えば、「滑る」「足から膝に映る反動、膝から足に移る反動で滑落する」という危険性があるからだと思います。たとえ話ですが氷の最上部を想像してください。それに近い状況かと思います。ただ、杓子定規になってはいけないので本文を追記しておきました。
時間切れです。あとで書きますね。
mantenmomoさんへ
ヤマレコのメンテが終わったようなので付け加えますね。
私も岩登りを最初に教えられた時から「膝は使うな」と理由なしで言われていましたので、先ほど改めて昔の登山入門書を数冊斜め読みしてみました。
すると、２冊の本で「膝は使わない」ということが出ていましたが、なぜ？という理由は書いてありませんでした。ネットでは出ておりませんでした（私の調べ方の問題もあり）。
↓その写真
現実的には、岩場の最後の所は、プッシュホールドにするのはいいとしても、スタンスがない場合が多いですね。それに岩の平らな所にホールドがあるためにスタンスが見えず、とても膝を使いたくなります。実際にルール違反で膝を使って登り上がることもしばしばでした。花崗岩のザラザラした表面なら滑ることもないという考えが優先してしまいますね。
仮にスタンスに乗れたとしても、フラットな所に足をフラットに置けるまでには体が柔軟でない場合は苦しい姿勢になるかと思います。その場合、膝を使った方が安全じゃないかなと思うことはあります。
そういう意味で「ナイショ」で膝を使う場合はあると思いますが、あくまでもセオリーは「膝は滑落しやすいから使わない」ということだろうと思います。さらに膝の保護という観点もあるかと思います。
同じように膝を使いたくなる場合は、チムニーの上にチョックストンが挟まっていたり、渓流で大きな石を乗っ越す場合にもそうですね。
以上の私が言っていることは岩登りをやっていらっしゃるのでお分かりだと思います。
メンテ前のコメントのように、氷の滝の最上部も同じような感じです。氷の場合はアイゼンでスタンスが容易ですしダブルアックスでホールドも十分なので膝を使うことはありません。膝を使えばナイロンのアウターのために滑ることは避けられません。でも、常日頃膝を使うことを慣れているとつい魔が差すこともあろうかと思います。そういうことですので岩でも「滑りやすい」「膝の反動でバランスを崩してしまう」ということはあるかと思います。
ということで、岩登りでは膝は使わないということがセオリーだと思います。
膝を使わなければ登れないような非常に狭いチムニーなら膝に擦り傷が出来るのは仕方ないと思いますが、それ以外の場所で膝に頻繁に傷が出来るというならハッキリしたことは分かりませんが登り方を一度検討されることをお勧めします。
長々と書きましたが参考にしてみてください。
murrenさんこんにちは！
いや〜勉強になります ありがとうございます。
私の周りでは（身内、友達、社内（最近仲間が出来ました）登山する人がいないので登山に関する知識はほとんどヤマレコから得てます。
「基本」を教えてくれる人がいないので今まですべて自己流で登ってきました。
「剱岳」に行くときは基本をしっかり頭に入れて行って来たいと思います。
ryuu48さん、こんにちは。
一般道を歩く限りは本やネットでの独学でもそれほど問題はないと私は思いますよ。少し高度な所に行きたければ、登山経験豊富な店員さんがいる登山具店で上手に技術を学ぶこともできます。私たちは山の先生や先輩たちがいましたが高度な話は２軒の登山具店の人からよく聞いたことがあります。一人はガッシャブルムで亡くなってしまいましたが。あとは、山行記録に疑問点や失敗談を書くとよいかと思います。おっせっかい好きな人から良いアドバイスをもらえるんじゃないでしょうか。
そんなこんなで、天気予報の精度を上げて、よい剱山行にしてくださいね。
コメントありがとうございました。
murrenさん こんばんは
詳細な回答をありがとうございます。
すごい納得できるところが一杯でとても参考になりました。
murrenさんの書かれている通り、私の膝の使い方は危険な感じがします。
頂上へ上がる時に良く使うのと、体が固いため足先が置ければいいのですが、苦しくて膝で楽していることに気付きました。
今なら癖を付けずに修正できそうです。
グッドタイミングの『座学』に感謝です。
今は乾いた岩場に夢中ですが、いつか氷の登攀もやってみたい
ありがとうございました
mantenmomoさん、参考になってプレジャーイズマインです。
無くて七癖と言いますが、クセを減らすのと同時に、自分のクセを理解して、ザイルパートナーのクセも理解する必要があります。そういう気と心が理解できてザイルには熱い血が流れていくのです。
安全に十分に配慮してよりレベルアップをしてくださいね
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