表題から南極の話だろうとの先入観でずっと積読していた本だ。
読んでみると南極に関する短編だけでなく、面白い題材の短編が幾つもあった。
地震予知の在野篤学者の話、イタイイタイ病の話、霧ヶ峰ビーナスラインの話など予想以上に面白い短編が幾つも集められている本だった。
特に神通川というイタイイタイ病を取り上げた短編には感銘を受けた。
富山県で起きた公害病の話だ。
イタイイタイ病という病名は聞いたことがあったのだがこの短編を読んで色々なことを知ることが出来た。
当時の分析力から水には何の問題が無いとされ、風土病と処理されていた病気が、地元の復員してきた町医者の粉骨砕身の努力で長い年月を掛けてようやく原因が突き止められ、発症阻止に繋がったこと、その間に沢山の住民が適切な治療も受けられずに死んでいったこと、病名にある通り、骨が脆くなり骨折していくのでもの凄い痛みを感じながら死んでいくのでイタイイタイ病と病名がその町医者によって付けられたことなど、知らなかったことばかりだった。
https://www.pref.toyama.jp/1291/kurashi/kenkou/iryou/1291/100025/100026.html
原因物質が水に溶け、魚や植物に入り込み、そしてそれを人間が食べるということで病気が発症するというメカニズムは、現在のマイクロプラスチック問題に繋がる。
人間が便利さを追い求めた結果、ブーメランのように、それも長い年月を掛けて人間自身の苦しみに戻ってくるという神の仕置きのような問題である。
新田次郎がこのような短編を書いていたことにも改めて驚き、その先見性と才能を再認識した一冊だった。
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