表題にある通り、大正6年生まれの裁判官の自伝と山の紀行文が組み合わせられた一冊である。
自伝の件は海軍経験者ということもあり、裁判官ということもあり非常に自慢話的な雰囲気が鼻についた。謙虚に書こうとしているが背筋は伸びて所々に自分の自慢が垣間見えてしまう。どの自伝もそうなるだろうから仕方が無いか。
登山に関する記述はそこそこ面白かった。しかし日本山岳会会員になる件はやはり自慢話だ。
紀行文は特に単独で荒天の中を登った利尻岳や百名山目の聖岳が秀逸だ。
やや表現が過剰気味であるが、聖岳は確かに当時70代の筆者にはとてつもなく大きく険しい山登りに感じられたことだろうから、首肯できる。
紀行文の前に自伝が、そして紀行文の後に司法関連の雑誌への投稿が載せられているが、これがこの本が鼻についてしまう原因だ。その部分がなければ素敵な一冊なのだが・・・。
純粋に山の紀行文は、時代は違うが同じソロ登山者としてその心情がよく理解できて面白かった。
どの仕事をしていても、していなくても職業に貴賎はなく、純粋に山と向き合う一人の人間に違いは無い。著者の紀行文には裁判官だという自慢の上に立った視点が随所に見え隠れしている。
海軍経験者、そして裁判官という職業の人、そして時代的にも戦後から昭和の時代の登山という背景を理解して読まないと鼻についてしまうのだ。
文章もとても上手なのだが、だから硬いのだ。
私自身が私立大学の法学部出身者、司法試験すら受けなかった男であるが、山と法服の法服に対する著者の矜持が羨ましくもあり妬ましくも感じられた。
ということでこの本は、第二章 山を行く の章のみ読んだ方が気持ちよく読み終えられたかも知れない。
深田久弥にも会って話をしたこともある著者の、まあ一寸毛色の変った山の紀行文だった。
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