この谷は沢登りの入門と、谷の中盤にイエローロックと呼んでいた岩場があって、ロッククライミングも楽しめます。しかしこの時自分はまったくの未経験、右も左もわからない状況で連れて行かれたのでした。
谷に入ってまもなく廊下状の淵があります。両岸に岩がせり出して、その間は深くゆるやかな流れです。
「ここを行くんや」
ルートは右岸をトラバースしますが、先輩が指差したところは当然道なんぞはなく、岩に張り付いたような形で、一歩一歩進まなくてはなりません。最初は冗談かと思いましたが、先輩が実際にトラバースをしはじめたのを見て、一気に緊張感が高まりました。
「落ちたら水の中にドボン」
というのは、水の流れも深さもたいしたことが無いので、どうってことないのですが、普通の登山道ハイキングくらいしかしたことが無かった当時の自分にとっては、とても考えられない行動でした。
自分の番が来て、いざ取り付いてじわじわとキャラバンシューズ(この頃は、軽登山靴と言えばこれしか無かった)を履いた足を踏みかえながら進みます。水面から50cm〜1m程度の高さをトラバースするので、高度感はありませんが、緊張して心臓がバクバクし、なかなか手に汗握る経験でした。
さていくつか小さな滝を超え、イエローロックに着いてこんどは岩登り開始です。
先輩のリードで、UIAAグレードで二級くらいの易しいルートを二つほど登りました。この乾いた岩を登る感覚、高度感による恐怖心を抑えながら前に進んで行くという、これまで経験したことが無い達成感。ロッククライミングの魅力に夢中になった瞬間でした。
ロッククライミングという行為の魅力には、困難さの克服という点に加えて、高度感による恐怖心をセルフ・コントロールで克服するというのもあると思います。最近はフリークライミング全盛で、前者の魅力だけで入っていく人が多いとは思いますが、後者のゾクゾクする魅力を感じないままというのはもったいないですね。まあ、この頃は「リードで登る=絶対に落ちてはいけない(今とは違い、プロテクションが貧弱だった)」という意味が強かったので、「困難さの克服=自分の限界に挑む」というようなことはなかなか出来なかったのですが。。。
さてこの日以来、自分でもっと岩登りをしたいという気持ちが強くなりました。
部室にあった雑誌「山と渓谷」に連載されていた「日本の岩場・ゲレンデ編」のバックナンバーを探して、近隣の岩場をひそかに物色しました。(クラブ活動では、岩登りばかりというのは問題があって、夏山合宿に向けた重い荷物を担いだ歩荷訓練の方が重視されていました)
「日本の岩場・ゲレンデ編」で見つけたのが、宝塚からさらに奥にある百丈岩という岩場です。ここは中央ドームがメインの岩場で、高さは60mもあり、どちらかと言えば上級者向けの岩場でした。しかしその東稜はグレード二級と、岩登り初心者にとって手ごろです。
山岳部でザイルを借りたら色々干渉を受けそうだったので、近所の荒物屋でなんと物干し用のロープを買い(無謀!)、近所の同級生のハイキング仲間(岩登りの経験まったく無し!これも無謀!!)を誘って登りに出かけました。
初めてのリードでのクライミング、東稜はそこそこ高度感もあり景色も良く、快適に登れました。一方同級生の方は、高度感に不慣れなせいかとてもビビッてしまい、恐怖心のため見ていて気の毒なくらいぎこちない動作で登って来ました。彼はこの後、二度と岩登りには来ませんでした。
この経験以降、ボナッティやメスナーなどの本を読み漁ってクライミングにのめりこみ、高校の勉強がおろそかになって、毎年の様に留年しかけるハメになったのでした。
ネット検索してみると、惣河谷支流の記録がちらほら見られるようです。都市から近く、またコンパクトにまとまった楽しい沢だったので、機会があればまた訪れてみたいと思います。
写真1:76年か77年に撮影 イエローロック全景。岩場全体は2ピッチほどありました。
写真2:これは高校2年か3年の時。岩登りにもある程度なれて、リードで登っている様子。この頃のハーネス(当時はゼルプストと呼んでた)は上下分離式だったんですねぇ・・・皮の登山靴(ノルディカ・コンタミヌ)で登っています。
こんばんは^^
物干しロープに逃げた同級生、Cross-hillさんの落ちには又又笑わせて頂きました
私も惣河谷支流へ行きたくて、達者そうな人達を誘うのですが、皆、場所を聞いてエライ目に遭わされると逃げられるんです
脆いのでソフト女子を連れて行く訳にもいかず、その上、アクセスも不便なんです
今度、行かれる機会合えば、ご一緒させて下さいませ
こんばんは!
あの時は、同級生にはホントに悪かったなぁ・・・と思っています
惣河谷支流、機会が合えば是非にお願いします
昔の印象では、初心者向きの岩場だったんですが・・・
しかし、あの岩場は今はどうなっているんだろうか・・・GoogleEarthでちょっと上から覗いてみると、付近は無残な状況みたいですが。。。
クロスさん、こんばんは。
とても楽しく読ませてもらいました。
百丈岩はハイキングで行ったことがあります。
ゲレンデトップから崖下を覗きこむとなかなかの高度感だった気がします。
にしても、すごい度胸の持ち主ですね。
惚れぼれ。。
naminoriさん、こんばんは!
百丈岩は大阪近郊でも大きな岩場で、高度感がありますよ。
ハイキングで上から覗き込むなんて、naminoriさんこそ度胸ありますね!
昔の自分は若かったので、度胸というより無謀だったんですよ!
よくまぁ、大した怪我もせずにすごせたものです。。。
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